あの人の音楽が生まれる部屋

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.12 Neat's

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あの人の音楽が生まれる部屋 vol.12:Neat's

メジャーデビュー後に膨らんだNeat'sの
葛藤

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その後、RYTHEMとしてファーストシングル『ハルモニア』(2003年発売、作詞・作曲RYTHEM)をリリースした高校生のNeat's。最初は部活の延長のような感覚でいた「ミュージシャン」としての活動にも、徐々にプロ意識が芽生えていったそうです。

Neat's:他の子たちとは時間の使い方は違ってくるし、みんなと同じように遊びに行ったりはできなくなるし。でも、それは全然嫌なことではなかった。ただ、アルバムを2枚、3枚と出していく中で、ちょっとずつ違和感を感じ始めてしまったんですよね。メジャーの活動ってすごくサイクルが速いんですよ。自分の中でしっかり答えを出せないまま次の作品作りに入って……っていうことを何度も繰り返していくうちに、それがジレンマとなっていったのかなって、今は思います。

2006年のセカンドアルバム『夢現ファクトリー』では、主にYUI(Neat'sの当時の名義)単独で作詞もしくは作曲を手がける楽曲が増え、サードアルバム『23』(2008年)では、1曲を除くと全ての楽曲がそれぞれの単独名義になりました。そこにはやはり、クリエイターとしての心境の変化が反映されていたのでしょうか。

Neat's:やっぱり、RYTHEMの中で自分がやるべきことっていうのは、曲を作ることだったんですよ。それに尽きると言うか。歌やパフォーマンスに自信があるわけじゃなかったし、とにかく「もの作り」というのが自分の武器だと思っていたから、そこに集中していく気持ちが表れたのかもしれないですね。恋愛や失恋をテーマにした歌詞が増えたのは、「もうちょっと恋愛の曲を書いたら?」っていうリクエストがあったからなんですけど、やっぱり20歳を超えると、同世代の女の子の共感を得るような曲が求められるんですね。でも、あんまり経験もないし興味もわかなかったから、すごく困りました。得意の妄想力も、ファンタジックな方面だったらいくらでも発揮できるんですけど、リアルな恋愛だとどうも上手くいかなくて……もう、職人になったつもりでやっていましたね(笑)。スタバに行って、女の子たちがどんな会話をしてるのか盗み聞きしたりもしました。

華やかなメジャーの世界に幕を閉じ、
DIY型のアーティスト活動をスタート

Neat'sの機材

このまま職人のように曲を作り続けていたら、自分自身が本来やりたかった「もの作り」の環境から、どんどんかけ離れていってしまうのではないか。音楽をきちんと系統立てて勉強してきたわけではない自分が、ここで勝負したって勝てるわけがない。そんな自信のなさがどんどん出てきてしまったというNeat's。自分自身をもう一度取り戻すために、これまでの活動に幕を閉じる決心をします。2011年、Zepp TokyoのワンマンライブをもってRYTHEMを解散した彼女は、すぐに「Neat's」名義でソロ活動を開始しました。

Neat's:リクエストされるがまま、器用に曲を作っていることが窮屈に思えてしまって、こんなジレンマを抱えたまま活動しているのは、ファンに対しても申し訳ないっていう気持ちになってしまったんですよね。真面目すぎるんですよ、私! RYTHEM解散直後は、やっぱり喪失感がありました。「1年くらい休んでみようかな」と思ったこともあったんですが、ちょうど同時期に震災があって、気付いたら絵も描いていたしベッドの中で曲作りも始めてました。「やめなかった」というより、「やめられなかった」という感じでしたね。

ちょうどこの頃から、海外のインディーシーンが俄然気になりだしたというNeat's。アルバムを丸ごと無料ダウンロードさせたり、プロモーションビデオをYouTubeにどんどんアップしたり、そんな自由な活動をしているアーティストたちへの共感も強く持つようになりました。

Neat's:当時はTeam MeとかSt.Vincentなどが好きで聴いていたんですけど、特に大きな刺激を受けたのがGrimesですね。GarageBand(簡易な音楽制作ソフト)とシンセ1台で作った彼女のアルバムを聴いて、「私は職人にはなれない、プロには敵わない」みたいなコンプレックスが全部吹き飛びました。「なんだ、職人にできないことをやるから面白いんじゃん」って。そこからは、開き直って活動ができるようになりました。

3枚目のソロアルバムにしてやっと見つけた、
自分を素直に表現する方法

Neat's

アートワーク全般から映像の編集、CDのプロモーションから販売に至るまで、全てを自ら行う、新たなDIY型の女性アーティストの誕生です。「映画を作りたい」という子どもの頃の情熱が、ここにきて全てつながり活きてくることに。

Neat's:とにかく、いろんなことに慣れたくない。衝撃とか感動とか、そういうことを頭で考えずに感じたい。「このイントロ、なんだかワクワクする!」とか、そういうフラットな心のバランスを大事にしていきたいですね。そうやって考えながら作り上げたのが、今度のアルバム『MOA』なんです。まず曲を作るときに、鍵盤の電源を全部切りました(笑)。鍵盤を弾いちゃうと、手グセがあるから音に連れていかれちゃって、曲はできても「ふーん」みたいな、そこそこの満足で終わっちゃうことが多いんですよね。だから、実際に音を出す前に、頭の中でメロディーからアレンジまで全部構築していきました。「ここはワクワクできる」「ここはできない」っていうふうに、まずは頭の中でシミュレートして。手っ取り早く形にすることで、「なんとなくよく聴こえる」みたいになってしまうのを極力避けたかったんですよね。

最新作『MOA』を作り上げて、ようやく自分の中に確たる軸ができたというNeat's。今後の活動についても、持ち前の妄想力(!)で壮大な展望を描いています。

Neat's:今は、本を作ったり映像を作ったり、そういうことを夢中でやっていた小学生とか中学生の頃の自分に戻っているような感覚でいます。曲を作るときにはいつも頭の中に音と同時に映像が浮かんでいるんですけど、それを、ちゃんとみんなに見せられるようにしたい。Neat'sとしての活動は音楽が中心なんですけど、その周りにはいろんな世界があるんです。絵本や映像を提示したり、ライブの世界観をファンタジックに作り込んだり、そういうところまでひっくるめての表現をこれからもしていきたいって思いますね。

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