ピアノ、ベース、ドラムというスタンダードなジャズトリオの編成でありながら、ポストロックの構造やダンスミュージックのグルーヴ、邦楽ロックのメロディーセンスなど異質な要素を迷いなくぶち込んで、新しいジャズを生み出したfox capture plan(以下、fcp)。今年中に3枚のアルバムをリリースするという怒涛のプランを発表しシーンを驚かせた彼らが、今度はなんと『アナ雪』の“レット・イット・ゴー ~ありのままで~”のカバーにも挑戦したとのこと。あのモンスター級の大ヒット曲を、一体どのようにカバーしているのでしょうか。『アナ雪』からRadioheadまで取り込むバンドの司令塔、岸本亮さんにとって「オリジナリティー」とは? リハーサルスタジオにお邪魔し、話を聞きました。
テキスト:黒田隆憲 撮影:豊島望
fox capture plan
(ふぉっくす きゃぷちゃー ぷらん)
「現代版ジャズロック」をコンセプトとした情熱的かつクールで新感覚なピアノトリオサウンドを目指し、JABBERLOOPの岸本亮(Pf)、Immigrant’s Bossa Bandのカワイヒデヒロ(Ba)、nhhmbaseの井上司(Dr)の三人が集まり2011年に結成。2012年8月にタワーレコード新宿店限定で発売したシングルCDR『Sampleboard』が、フロアデイリーチャート1位を記録。2013年5月にデビュー作『trinity』をリリース。同年12月には『BRIDGE』をリリースし、「第6回CDショップ大賞2014」ジャズ部門賞を受賞。翌14年には『WALL』をリリース、タワーレコードジャズ年間セールスチャートの2位に輝く。
親の一言がきっかけで
のめり込んでいったジャズの世界
京都で生まれた岸本さんは、母親がピアノの教師だったこともあり、幼少の頃からピアノを始めました。しばらくは母親に習っていましたが、小学生の途中から別の先生の教室へ行くように。同時にラグビーもやり始め、中学の引退まで続けたそうです。
岸本:ラグビーは兄貴と一緒に習い始めました。それは嫌じゃなかったんですが、ピアノは決して好きで始めたわけじゃないんです。無理矢理練習させられるのが楽しくなかったんですよね。でも、中学生くらいになって、坂本龍一さんの“戦場のメリークリスマス”を初めて聴いたときに、「この曲を弾けるようになりたい」と思いました。ロックを聴くようになったのもその頃ですね。最初は日本のバンドが好きで、SOPHIAとかGLAYとかを聴いてました。キーボーディストの都啓一さんにすごく憧れてましたね。自分がバンドをやるきっかけになった人です。
都啓一は、SOPHIAのメンバーとして1995年にメジャーデビューし、以降は様々なアーティストのサポートやプロデュース、楽曲提供などをおこなってきたキーボーディスト。クラシックのメソッドを通ったキーボードプレイが定評で、とりわけSOPHIAでのオルガンプレイや、1曲の中で様々な音色を使いこなす多彩なアレンジ能力は、岸本さんに大きな影響を与えました。
岸本:本格的にジャズを聴くようになったのは、高校でバンドを始めてから。「バンドでロックやポップスなどいろいろやりたいんだったら、ジャズをやっておけば応用が利くよ」と親に言われたんです。父親も母親もジャズが好きだったので、いつも家では流れてたんですが、自分で意識して聴くようになったのはその頃からですね。最初は正統派のアコースティックジャズよりも、フュージョン時代のChick Corea(1960年代から活躍するピアニスト)とかが好きでした。大学でジャズを専攻してからは浴びるように聴きました。MDウォークマンにジャズの曲を詰め込んで、通学中にずっと聴いていましたね。
現在もミュージシャンとして
坂本龍一から受けている影響とは?
フュージョンジャズからアコースティックなジャズまで、夢中になって聴いて自分の血肉としていた岸本さん。二年制の大学を卒業すると、すぐに大阪大学の名門ビックバンドに誘われます。
岸本:阪大のビッグバンドを引退すると、今度は京都のクラブとかで活動していたラテンとソウルを足したようなバンドに誘われて。そこで高校生以来、再び電子楽器を弾くようになって、ブラックミュージックやクラブミュージックが好きになりました。僕の場合、1人のアーティストを「これしかない!」と聴くより、いろんなスタイルの音楽を幅広く聴く方が合っている気がします。プレイヤーでも、ポップスからロック、ジャズ、どんな音楽スタイルでもこなしてしまう人がかっこいいと思う。そう、ポップスが好きなんですよ。親がサザンオールスターズとかもすごく好きだったので、エンターテイメント色の強いポップスは今でも聴きます。坂本龍一さんは、アートな側面もありつつ、多くの人の耳に残る曲を作ってきたじゃないですか。そういうところをリスペクトしています。
流行りの音楽にオリジナリティーを加えて
時代の一歩先を進む
そんな岸本さんが、初めて曲を作ったのは18歳の頃。「当時作った曲は、ほとんど聴かせられないです(笑)」と言いつつも、20歳のときに作った曲を最近のソロライブで披露したそうです。
岸本:曲を作り始めた頃は、自分の中にある知識だけを使って、感覚的に作ればいいと思ってました。でも最近は、世の中のリスナーがそのときに聴いている音楽の要素を、あえて意識して出すようにしています。今だったらダンスミュージックとかボーカロイドとか、あるいはロキノン系のバンドとか、若い子たちがどういう音楽を求めているのかをちゃんと把握していたい。そうじゃないと、どんどん孤立した音楽になってしまうんじゃないかって懸念があって。でも、それができるのは、自分のメロディーセンスがあればどんな曲調になってもオリジナリティーを失わずにいられる自信があるからだとも言えます。
どんな音楽スタイルを取り入れようが、絶対に揺るがない自信があるという岸本さんが考える自分の「オリジナリティー」とは?
岸本:メロディーラインとコードボイシング(和音の並べ方)の組み合わせですかね。「このメロディーに、このハーモナイズ」みたいな。そこに自分の味があれば、どんなアレンジを施しても自分の曲になると思います。例えばfcpは、ピアノ、ベース、ドラムという非常にオーソドックスなジャズトリオの形態なんですけど、やってることはジャズの歴史とは全く違う角度からのアプローチです。僕らのファーストアルバムに収録されている“衝動の粒子”は、それが初めてカタチになった曲。ピアノがひたすらループしていく中で、ハーモニーやリズムが変わっていくという、ポストロックの手法とジャズの手法を融合させて作りました。ポストロックとの出会いは大きかったですね。「こういうアプローチもあるのか」と思って、それまでやっていたジャズとは全く違うことをイチからやってみたかったんです。
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