『音楽を、やめた人と続けた人』

『音楽を、やめた人と続けた人』〜PaperBagLunchbox 空白の5年とその後〜 第3話:もがき苦しみ罵り合い、それでもやめないバンドマンの覚悟

音楽を、やめた人と続けた人

それでも続いているバンドと、解散したバンド それでも続いているバンドと、解散したバンド

―なるほど。ここまで深く「バンド解散」のリアルな話を聞いたのは初めてだけど、本当にメンドクサイバンドだなって思いますね、これは。ただ、メンドクサイけど本気でメンバーがやり合ってる感じはすごく羨ましくて。ぼくがやってたメカネロは、そういう言い合いとかほとんどなかった。仲はすごくいいけど、だからこそ衝突しないよう事なかれ主義になってた部分もあったと思うんです。でも結局、メカネロはデビューから8ヶ月でセカンド・アルバムも出しはしたけど、その3ヶ月後にボーカルとギターが音楽をやめてしまった。2人とも大学卒業のタイミングだったから、全うな社会人としての道を歩み始めて。
PBLの話を聞いてて改めて思ったけど、バンドでお金を稼ぐっていうのはもう「仕事」なわけで、仲良しグループである必要は当然ないわけですよね。仲良くやっていくことよりも、自分たちがやるって決めたことついて話し合ったり、課題を見つけて乗り越えていくことの方がよほど大切だと思う。ナカノくんにしても3人にしても、時間はかかったけどそれをやってきたから、今こうして流れに乗れているんだと思います。

柏井万作

倉地:万作くんがメカネロをやめた理由はなんだったんですか? そこってあまり語られてないよね。

―自分はメカネロとCINRAを両立できるって思ってたけど、物理的にも精神的にも敵わなかったんですよ。寝る間を惜しんで働いても全然追いつかない。どちらもまだまだ駆け出しで未完成なのに、レコーディングやツアーで会社を休んだり、仕事でバンドの練習に遅れたり、どちらにもすごく失礼な関わり方になっちゃって。メカネロのメンバーが音楽を仕事にしようとしている以上、自分がそこにいるのは最終的には足手まといになると思ったんですよね。
そもそもぼくは、音楽を作ることは楽しかったし必死だったけど、バンドという組織の運営に関しては、「無理はしない・踏み込まない」ようにしてしまっていた。本気なんだったらケンカして当たり前なのに、それをやらなかったからみんな別々の方角を向いてしまったんだと思います。バンドも会社もある意味では同じで、どんなにいいモノを作れても、組織として歯車が噛み合わなければ機能しないし、前に進んでいかないんだなってよく分かった。PBLは、それをやってきた4人が揃っているから今があるんですよね、間違いなく。

恒松:確かに俺でさえ、自分が思ってる以上に「この4人」であることを意識してるんだなって思う。

伊藤:うん。クラッチをやめさせて新星PBLにするかどうか考えたけど、やっぱりこの4人じゃないとダメだって思ったもん。どんだけ「もうやだ…」って思っても、誰か抜けたらこのバンドが終わるのは分かっていて、だからこそ「絶対やめない!」って思うし、絶対誰1人抜けさせない。

倉地:さっき話した解散危機のとき、ナカノくんが「俺に付いてくるのは〜」みたいなことを言ったんだけど、絶対に彼に付いてきたつもりはなくて。これだけは言い切れる。この4人でしか出来ないものがあるからバンドをやってて、あとはワンダーグラウンド(所属事務所兼レーベル)と出会ったから続けてるってことだと思います。

伊藤:そう、あんまりナカノさんは関係無いっていう。

倉地:関係無い(きっぱり)。

この4人でしか出来ないものがあるから、バンドを続けてる。

―「4人だったら絶対にすごいモノが作れる」と思える、その信頼関係は強いですよね。

倉地:やっぱりあの人の歌はスゴイと思うし、セッションしてる時に思いつきで出してくるものはスゴイ良かったりもして。

恒松:パッって出した音が一番いいタイプだよね。セッションの爆発力はスゴイなって思うよ本当に。

―そこは人間的に好き嫌いっていうのとは別の話だもんね。

恒松:人間的には、嫌いかな。これって究極な話だけど(笑)。でも、そういう前提にしておいた方が好きになれるし、その人のいい所も見えるようになるっていう。

―なるほど(笑)。でもぼくは、結構好きなんですけど、ナカノくんのこと。過剰なまでの寂しがり屋だからこそ生まれてくる表現でもあるし。でもまあ今日聞いた話からすると、日々対話していくのは大変そうですね(笑)。

恒松:ナカノくんって、話してる内容にはそもそも本質がなくて、あるとすれば彼自身が本質なんですよ。だから会話は成立しないことが多いけど、彼自身から滲み出る歌詞とか歌だけは信頼できるんです。

伊藤:そだね。人間性とかは置いといて、歌はね、いいですよね。大学の時にようちゃんと2人でナカノさんの弾語りライブを観に行って、ナカノさんが“スライド”を歌っているのを観た時、涙が出てきた。泣いちゃったんですよ。そしたら隣で、ようちゃんも泣いてた。この時「絶対にこのバンドを成就させる」って、心から思ったもん。どんなに大嫌いになっても、ナカノさんの歌だけはどうしても切れない。性格ひん曲がってるし、情けないし、女々しいし、何回も手出しながら殴りあったりしたけど。なんかこう、う〜ん。

恒松:運命なんだよね。

伊藤:ナカノさんも運命だって言ってた。それはもう軽く否定しておいたけど(笑)。でもとにかく、これまで何があっても歌って来てるから。「なんかもう曲作れなくなった」とか言ってた時はどうしてやろうかと思ったけど、結局曲も出て来るし。なんだかんだ、音楽を一緒にやる人としては信頼できてる。

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