―確かにぼくも、ナカノくんの歌い手としての業はすごいなって思わされました。隣の部屋にお姉さんの遺体がある状況で曲を作るなんて、普通の神経ではまずできないと思いますし。人間的に屈折しているから人から敬遠されるし、すごく生きづらいんだろうなって思うけど、そういう生きづらさとかやるせなさって本当は誰しもが感じているから、ナカノくんのような人の歌に共感するんでしょうね。
恒松:そうなんでしょうね。でも彼は、人には好かれるタイプなんですよ。友達想いだしね。想いすぎて気持ち悪いけど(笑)。
―それは「純粋」ということにしておきましょう(笑)。
またナカノくんにはツライ記事になってしまいそうだけど、リアルな話だった分、今日の話はすごく面白かった。 誤解を恐れずに言うと、会社で仕事をするようになってから改めて「バンドマン」のことを見つめ直した時に、「バンドマンって甘い」と思ったんです。仕事をしているOL・サラリーマンのほうが、「仕事がなくなったらヤバい」という緊張感もあって、時間的にも精神的にもギリギリなところで戦ってると思うことがよくあって。一方で、音楽を仕事にしようとしているバンドマンなんて本当はそれ以上に頑張らなきゃいけないのに、そこまで必死にやってる人と出会うことってほとんどない。自分のことを振り返っても、もっとやれることとか、真剣に考えてチャレンジするべきことがあったなって思いますしね。それができなかったのは、ただただ覚悟が足りてなかったと言わざるを得ないんですが。
伊藤:まあ私たちは苦しいことだらけのような気もするけどね(笑)。よく「好きなことやってていいね」って言われたりするけど、こちらにも苦しいことが沢山あるって分かってるのかな? って思っちゃう時もある。生きてかないといけないから、もちろんバイトだってやってるし。
倉地:でも俺は、そういう苦しみみたいなことを理解してもらう必要はないと思うけど。だってみんな、本気で「いいな」って思ってくれてると思うよ。きっとそういう選択肢がなかったんだろうし、「何やっちゃってんの? てかスゴくない!?」って。
伊藤:まあそうかもしれないけど。それでも私は、年下の子に「影響されます」とか言われたら、「やるのはいいけど、ちゃんと考えてからにしなね」って言っちゃうな。いいことだけじゃないもん。
―それはそうですよね。だから、やるのもやめるのも続けるのも、ちゃんと覚悟は必要な気がします。そこが曖昧な感じがするから、「バンドマンは甘い」とか「何故音楽をやりつづけるのか?」って意地悪なことを考えちゃうんだと思うんですけど。
なんか「人は夢とかやりたいことを持っていた方がカッコいい」みたいな価値観があると思うんですけど、「夢」とか「自己実現」なんてなくても人は十分幸せに生きられるし、それを実践しているひとをカッコいいと思うんですよ、ぼくは。定時で終わる仕事をして、朝から釣りしたり、夜はクラブで踊ったり、友達と酒飲んだり。そういう生き方って本当に豊かだと思います。幸せや喜びに量の差なんてないと思うから、同じ幸せを求めるなら、「自己実現」なんて難しい道を選ぶのはただのストイシズムかもしれない。だから、ナカノくんが前に進もうとせずに引きこもるのだってよくわかる話ですし。
だけどPBLの4人は、この5年間で、そういういばらの道を突き進む覚悟をしてきたんだなって分かった。ぼくの意地悪な設問に見事に答えてくれた。そして、ぼくが音楽をやめて、PBLが音楽を続けている理由の1つが、そこにあるような気がしました。
伊藤:なんだろうね。そういう覚悟みたいなことって、4人で東京に出てきた頃からもちろん考えていたことではあったけど、なんかぼんやりはしてた。もっと早く気づいて手を打ってれば、こんな不安定な時期を過ごさずにすんだかもしれないって思うこともあるし。
―ぼくの場合は、音楽をやめるまでそれには気づかなかった。それで、いろんな業界の人たちと仕事をするうちに、自分のなかで切り捨てなきゃいけないものと、決して切り捨てちゃいけないものの区別がついてきたりして、自分が本当に大切にしたいものは何なのかちゃんと考えるようになったんです。切り捨てて本当に悔しい思いをして、ようやく覚悟もできた。
PBLも、やるって決めた以上は更なる覚悟が求められるし、トラブルもまだまだたくさん起きますよね、きっと(笑)。でもだからこそ、このドキュメンタリーを書いていく価値も感じてます。できることなら、PBLが成功の階段を駆け上がって、ぼくにも読者にも想像できないような高みにある極限の選択を見てみたいって思いました。
恒松:そうなりたいって本気で思ってるけど、今のご時世、武道館でライブをやってるようなアーティストでも、地元の友達たちは名前も知らないんだよね。だから相当頑張らないと(笑)。
―はい、期待してます(笑)。
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