テキスト:柏井万作 場所:ナカノヨウスケ宅
(2010/12/28)
有馬和樹(Vo,G)、風間洋隆(B)、牛尾健太(G)、前越啓輔(Dr)から成る4人組ロックバンド。2000年に結成し、2005年に現在の編成に。同年銀杏BOYZの対バンに抜擢され、2006年にはツアーのフロントアクトを務めて注目を浴びた。2007年9月に1stアルバム『SALE!』を発表。その後も2ndアルバム『理由なき反抗』、3rdアルバム『FAIRYTALE』と3枚のアルバムをUKプロジェクトからリリース。その後、曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSとタッグを組み、メンバー自ら制作を手がけた4thアルバム『HOKORI』を2010年11月に発表。
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ヨウスケと有馬和樹。日本のバンド事情に詳しい人でさえ、一見なんの接点もないように思える二人だが、実のところ有馬は、この連載にとって欠かせないキーマンの一人だ。というのも、ナカノにとって有馬は、自分の悩みを全面的に吐露できるたった一人の音楽仲間と言っても過言ではなく、連載第3話で解散騒動として取り上げた、「バンドをやめたいと思っている」というナカノの発言の背景には、有馬の存在があった。
解散騒動の詳細は第3話でメンバー自身に語ってもらった通りだが、今年の始め、イベンターからバンドを否定されたことで、ナカノは再び心を失した。真冬の寒さが厳しいその日、ライブから帰宅したナカノは絶望の淵にたたずんで、泣きじゃくっていたそうだ。バンドを否定されたのが、悔しかったり悲しかったりしたわけではない。彼が言うところによれば「こんなつらいプロジェクト、もう自分が死なないと終わらないんじゃないかと思って、本当に死にたかった」ということらしいが、かといって、死にたくても死ねないから涙を流しているわけでもないのだ。ナカノはただ、真っ暗闇のなかで探し求める一筋の光、その「救い」が見つからなくて泣いていた。そしてナカノにとって、有馬という存在こそ、その大きな光だった。
有馬:俺、女の人からも泣きながら電話かかってきたことないのに、生まれて初めて泣きながら電話をかけてきた相手が、ナカノくんだった。それですぐに呼び出して、朝まで二人で飲んだんだけど、ナカノくんの話を聞いてたら、「それじゃあもうナカノくん、死ぬしかないじゃん!」って感じで。
ナカノ:自分のなかで、悪いものが恐ろしいくらいため込まれていることに気づいて…。それがもう爆発寸前になってたんです。
有馬:死ぬ前に言えよ! って話だよ、本当に。死ぬやつって、誰にもそういう話ができなくて本当に死んじゃうじゃん。どんどん自分を孤独に追い込んでってさ。それで本当にナカノくんが死んじゃうのは嫌だから、「ナカノくんが10年後、ニコニコして音楽をやっていられるんだったら、今PBLをやめたっていいと思うよ」って話をしたんだよね。
ヨウスケという人間は、心のなかに大きな爆弾をため込み、それから逃れようと一生懸命に救いを求め、さまよう。イベンターに「どんなクソみたいなバンドでも、メンバーの人数以上の客は呼ぶでしょ」と言われた時、その話の正しさを理解しながらも、前を向くのではなく、ネガティブな闇が心を覆った。そうして結局、この一夜の後にナカノはその爆弾を爆発させる。「バンドをやめたいと思っている」、そうメンバーに告げたのだ。
その顛末は前話でメンバーが語り尽くしてくれた通りで、それを読んだナカノがしばらくショック状態に陥るほど、メンバーのナカノに対する発言は辛辣だった。常に「個人」としての思考に心を奪われてしまうナカノが、PaperBagLunchboxというバンドの歩みを妨げてしまうのだから、「個人」よりも「バンド」という組織に献身してきた伊藤や恒松のはらわたが煮えくり返るのも、仕方がないことだった。
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