ネットの普及によって、一般消費者が消化しきれないほどの情報を簡単に摂取できるようになって以来、音楽業界やアーティスト活動の在り方も変わってきた。気になるアーティストに出会っても、その音源やライブ映像をネットで視聴し、プロフィールを調べ、ユーザーレビューを読んでしまうともう、充足できてしまう。そんな状況下で、CDを買ってもらったり、ライブに来てもらえるほど強烈に消費者を触発するのは至難の業になってしまった。
だからこそ近年、ネット上で充足されないように情報を伏せ、素顔や正体を隠すことで「謎」を生み出し、人々の興味を触発しようとするアーティストも増えている。さよポニも、そうした定番パターンにのっとったグループなのだろうと、最初は思っていたのだ。でも、ここまでのテキストを読んでくれた人なら、さよポニが「その程度」の目的で正体を隠しているわけではないと、理解してもらえるのではないだろうか。
ちょっと大げさな話をすると、さよポニはこれまでにない音楽や物語の伝達方法を作り出したと言っていいかもしれない。もともとポピュラーミュージックの多くは、プロフェッショナルな職業作家が作詞作曲を手がけていた。しかしその後、アーティスト本人が自分で書いた言葉を歌う時代がやってくる。職業作家の洗練された歌詞よりも、アーティストの人生や人間性から発露された歌に、より強く共感し、励まされたのだ。
さよポニは、そうした「人生=物語」や「人間性」自体を自ら創造した上で、その想いを音楽に乗せることができる。プライバシーを有する現実世界の人間には暴露できないような、音楽に秘められた想いの原点や出来事を、物語として創作し、ダイレクトに伝えられるのだ。そもそも映画や小説、演劇といった音楽以外のジャンルでは、作り手が自分の表現したいテーマやメッセージのために物語を生み出すのが当たり前だ。ところが音楽の場合、作り手自身がステージに立ち、嘘のない歌を歌うことを美徳とする風潮が一般化したことで、矢面に立つことが不得意な作り手には生きづらい世界になっている。さよポニは、そんな作り手たちにとって、ひとつの可能性を提示したと言えるかもしれない。
とはいえ、イラストや漫画、MV、音楽、それら全てを自分たちで作り上げてしまうさよポニの企画力と創造力、そして制作能力と表現力は、誰もマネができないほど突出しているのも事実。この途轍もない才能が、これからどんな新しい物語と音楽を生み出してくれるのか、どんな発想や企画でそれを表現するのか、大きな楽しみがひとつ増えた。
1stアルバム(メジャーデビュー作品)
『魔法のメロディ』
2011年10月12日発売(EPICレコードジャパン)
1. あの頃
2. 自転車えくすぷれす
3. 無気力スイッチ
4. 放課後黄昏交差点
5. ナタリー
6. それを愛と…
7. きみに、逢いたい
8. まったりしてしまったり
9. きみはともだち
10. 甘い感傷
11. ふぁんファ~れ
12. 魔法のメロディ
※初回生産限定盤は、“無気力スイッチ”の3人それぞれのソロバージョンを収録した特典CD、3人の「さよポニ学園」学生証、ステッカー、ミニ漫画、ぬりえ、きせかえ、メンバー直筆のクリスマスカードがもらえる応募ハガキなどの特典が詰まったボックス仕様
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