春の東京アートシーンの風物詩になりつつある「六本木アートナイト」。2009年から毎年開催されているこのイベントでは、桜の季節、夜の街にアートが飛び出し、人々は街の各所や美術館、ギャラリーなどで意外な出会いを楽しめます。このたび、六本木アートナイトの実行委員長を務める、森美術館館長の南條史生さんに六本木アートナイトの見どころを伺いました。
(インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:大槻正敏)
六本木をアートで楽しむ一夜限りのフェスティバル
―まずはズバリ、六本木アートナイトの魅力とはなんでしょうか? 美術館で行われる展覧会とは、またひと味違う挑戦ですよね。
南條:いろいろありますが、最初に挙げたいのはやはり、屋外ならでのスケールによるアート群ですね。第1回では、ヤノベケンジの作品で、高さ7.2mの巨大ロボ『ジャイアント・トらやん』が六本木ヒルズアリーナに出現しました。トらやんが口から炎を吹く大迫力のシーンはすごかったですよ。また、第2回では椿昇による幻想的なインスタレーション『ビフォア・フラワー』が印象的でした。そして今年は、国際的にもよく知られている前衛芸術家・草間彌生の新作が登場予定です。
南條史生(六本木アートナイト実行委員長)
―街なかを歩き回りながらのアート体験で、「ここがポイント」という部分は?
南條:各展示場所の個性とアート作品の相互作用も、楽しんでもらえるポイントです。我々も、例えばそこにガラスのウィンドーがあれば映像を投影してみようとか、色々工夫して設置していますから。さらに、夜通し行われる多彩なイベントとの遭遇があります。だいたい日没から日の出までの時間帯に、多くのアートイベントやパフォーマンスがあちこちで繰り広げられるんです。中には参加型のものなどもあって、予想外の驚きに出会える一夜になると思いますよ。
六本木アートナイト2010 《ビフォア・フラワー》椿昇 ©Roppongi Art Night Committee
裏方のキュレーターもまた「表現者」?
―ところで、南條さんのふだんのお仕事は、「森美術館館長」ですよね。
南條:そうです。しかしもともとは、「キュレーター」と呼ばれる専門家で、展覧会を作ってきました。私はキュレーターも表現者のひとりだと考えているんですね。個々のアート作品同様、美術展やアートイベントには「伝えたいこと」があります。自分が伝えたいものと、客観的に見てそれがどう伝わるということの、その両方を見極めることが、人々に感動を伝える秘訣だとも思います。
―そんな南條さんにとって、この六本木アートナイトで伝えたいこととは?
南條:まさに都市の只中に現代アートが登場し、身近に見ることができる、それが独特の魅力ですね。たまたまその夜の六本木にいて、ビックリする人もいるかもしれません。でもそこで「面白かったね」となれば、また来年、友達も誘って来てくれる。そういう魅力を伝えられたらと思います。
―国際的なアートシーンでご活躍中ですが、ご自身がアートと関わるようになった経緯も教えてもらえますか?
南條:うーん、それを話すと相当長くなりますが(笑)。短く言うと、もともと美術は好きでしたが、最初の就職先には銀行を選びました。でもやがて「これからは経済より文化の時代だ」と考え直して退社したんです。そこから美術を学び直し、編集者やカメラマンのようなこともしたし、本当に色々やりましたね。国際交流基金というところで働き始めたあたりから今の仕事に近づいていったけれど、それらすべてが今の仕事に活きている実感もあります。
―よく「現代アートは難しそう」とか言われることもありますが…。
南條:私は、それは逆だと思いますよ。同じ時代や社会に生きるアーティストがつくるものなのだから、私たちが何かを感じ取れる入口は、古典などに比べてずっと多いはずなんです。だから「わからないしつまらない」ではなく、「わからないけどおもしろい」「楽しいけれど考えさせられる」と言ってもらえるイベントをつくりたいですね。
合言葉は「東京の春といえばアート!」
―いよいよ第3回目の六本木アートナイト2011まで秒読みですね。今後も続いていく中でこうしていきたい、というアイディアはありますか?
南條:前回はのべ約70万人に鑑賞してもらえたのですが、実は春の東京には、ほかにもアートフェアなど美術イベントが盛んです。これらが一緒に大きなイベントに育つ試みも、実現したらすごく面白いでしょうね。「東京の春はアートウィーク」というメッセージを国内外に発信することができるといいですね。秋にはデザインウィークがあるから、季節のメリハリもついて東京の強い発信力になれると思います。
六本木アートナイト2010 《六本木あちこちプロジェクト》
藤浩志《おもちゃのストリート・ガーデニング》©Roppongi Art Night Committee
―最後に、六本木アートナイトの今後の展望を伺えますか?
南條:東京文化発信プロジェクトの企画中でも、アートナイトは都からの予算に加えそれ以上の額を民間からも得られている点が特徴です。これは官民が協働するマッチング・ファンド(※)形式の貴重な成功例として大切に育てていくべきでしょうね。今後は東京という街の顔にしていくことができればと思います。東京という街には、アピールする魅力は十分あるので、それをいかに伝えるか。暮らす人、訪れる人それぞれの目線で、それに取り組んでいけたらよいと思います。
※マッチング・ファンド:シーディングの資金に対して、他の組織が同額に近い資金援助を行って、より大きな企画として実現する方法。
その他、東京にはたくさんの文化プログラムがあります!
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