誰にも頼まれていないのに、ついモノを作ってしまう。そんな「モノ作りしたい」という衝動を抑え切れないのがクリエイターだとしたら、映像・CG・音楽・インターフェースデザイン・Webをはじめ、総合的なクリエイティブの場面で活躍するTYMOTE(ティモテ)は、まさにネイティブ・クリエイター揃いの集団です。クラムボンのミトによる初のソロアルバム『DAWNS』のジャケットおよびPV制作、パナソニックの一眼カメラ「G3」の特設サイト用楽曲制作、ブランドショップ「VIA BUS STOP」店内用のデジタルサイネージなど、最近の活動だけ見ても、仕事の幅広さには圧倒されます。彼らは何を考え、どんな道具でものづくりを行っているのか。その実態を探ってきました。
テキスト・松本香織
撮影:CINRA編集部
- TYMOTE(ティモテ)
- 1980年代半ば生まれの若手クリエイターによって結成されたクリエイティブチーム。グラフィック、映像、音楽、プログラミングなど、それぞれの得意分野を活かし、多岐にわたるクリエイティブを展開している。飯高健人、石井伶、井口皓太、森田仁志、村井智という5人の常駐メンバーに加え、加藤晃央、山口崇洋、浅葉球の3人も外部メンバーとして活動。2008年10月に株式会社化。
メンバーは8人、制作のパターンはそれ以上
「『決まった作風がない』と言われるのは嬉しいです。作風とか決めてるわけではないし。自分たちが作りたいものを作るというよりは、クライアントからのお題に対してどう答えるか。こういう話があったから、このメンバーでこれを作りました、そういった作業の連続です」
映像制作からグラフィック、インスタレーション、サウンドデザインに至るまで、各自の強みを活かして制作を行うクリエイティブチーム「TYMOTE(ティモテ)」。1980年代半ば生まれの若手クリエイター8人によるチームです。常駐メンバーは立ち上げ当初からTYMOTEに参加している飯高健人さん、石井伶さん、井口皓太さん、村井智さん、森田仁志さんの5人。そこに、他の場所でも活躍している山口崇洋さん、加藤晃央さん、浅葉球さんの3人が案件ごとに加わって仕事をしています。TYMOTEとして活動する以外、メディアアーティストとして作品を発表したり、CDをリリースしたりと作家活動を行うメンバーも。
「ちょうど、大喜利みたいな感じですね。メンバーはそれぞれ独自のテイストを持っているけれど、それが組み合わさると全然違うものが出てくる。8人=8パターンというわけじゃないのが、TYMOTEの面白いところだと思います」
会社でありながら、非常に流動的な活動スタイルを取るTYMOTEは、もともとは学生集団として誕生しました。
井口「ムサビの基礎デザイン学科出身で、大学ではデザイン学を専攻していたんですね。でも、違う方向にも色々チャレンジしたいと思って、飯高と一緒に1年生の時から活動を始めました。映像も作るしインスタレーションもやる、興味のあることは何でもやりましたね」
武蔵野美術大学にいた井口さんと飯高さん、多摩美術大学にいた村井さんと森田さん、そして中学校時代から井口さんと親しくしていた石井さん、石井さんと桑沢デザイン研究所の同期である浅葉さん、井口さん石井さんと予備校の同期である山口さんは徐々に繋がり、一緒に活動するようになります。彼らが初めて「TYMOTE」として作品を発表したのは大学3年時、メンバーの一人である加藤さんが企画した横浜赤煉瓦倉庫の展示「The SIX」でのこと。
「その時に集まった皆でひとつの作品を作りたいね、という話をしていて、みんなの作品を集めてDVDにしたんです。そのパッケージ名が『TYMOTE』でした。ちなみに名前は、あのシャンプーのCMから来ています」
こうしてクラブイベントの映像制作などを一緒に行うようになった彼らは、就職活動によってそれまでの制作の流れが断ち切られることを危惧し、4年生になった時にTYMOTEを会社にします。今やトレードマークとなっている馬のマスクをかぶったポートレイトも、その時に某子供写真城で撮られたものだそうです。
転機となった伊勢丹のプロジェクト
会社組織として活動を始めたTYMOTE。けれど、その道のりは順調だったわけではありません。
「学生の頃からのクライアントワークがそのまま伸びていった、という話ではなかったですよね。何もないところから始めたから、最初の頃はWebサイトにみんなの卒業制作を載せたりしました。当時はお金も全くなかったのに、ちょっと豪華な会社案内を作っていろんなところに送ったりもして…。まずは、知り合いづてに頂いた仕事を必死でやって、実績をちょっとずつ作っていく…という段階を踏んでます。当時は、他にサッカーくらいしかやることなかったから、どんな仕事でもやらないとね、って」
この頃に関わったプロジェクトで印象に残っているものを尋ねると、まず名前が挙がったのが、ENVELOP#4の街頭CF映像。このプロジェクトでは最初にDMを制作し、そのグラフィックを使ってオープニング映像を制作。グラフィック、映像、音楽の連携を行いました。
もうひとつは、伊勢丹の「秋の彩り祭」。伊勢丹新宿店の床と壁面を、3メートル×50メートルのグラフィックで飾るというプロジェクトです。コンセプトは「秋」。落葉のようにわかりやすいモチーフを入れてほしい、後は自由に、というオーダーでした。
「膨大な量のグラフィックを作らなきゃいけなかったので、メンバー全員でパーツを持ち寄りました。手描きも、写真も、ただの幾何形態みたいなのも、何でも入れましたね。それぞれのテイストをミックスさせたひとつの絵を作るというスタイルが、このプロジェクトを通して確立されたと思ってます」
この仕事が評価され、翌年も同じ装飾を任されるなど、TYMOTEの実力が広く認知されるきっかけにもなったプロジェクトでした。
渾然一体のクリエイティブ
TYMOTEには、それぞれ専門分野を持つメンバーが揃っていますが、CG、アニメーション、グラフィックといった役割分担は決まっているのでしょうか?
「一応決まってはいるけど、みんな横断的に動いているんですよ。プロジェクトごとに組む相手が変わるように、変動的にチーム編成しています」
では、そんなTYMOTEに世間の人は何を求めて仕事を頼むのでしょう?
「クライアントさんによって違いますね。技術的な部分もあるし、グラフィックに期待してというのもありますし。あとは『TYMOTEさんならではの面白いものを出してみてください』とか。映像、グラフィック、音楽、プログラム…それぞれのアイデアのぶつかり合いを見てみたいということで話を持ってこられることも多いです。あと、パッケージを作るのが楽だから、というのもありますね。映像やグラフィック、サウンドを全部合わせて出せるというのは、話すほうとしては楽かもしれません」
グラフィックや映像の個別発注で始まったプロジェクトでも、「ついでにお願いしていいですか」という感じで案件が膨らんでいくことも多いとか。
そんな彼らが最近関わったのは、代官山にあるブランドショップ「VIA BUS STOP」。店内で流れるデジタルサイネージ用の映像を制作しました。 6分30秒の尺があるサウンドつきの絵が交互に流れるという作品です。
「動く絵画というテーマで制作を始めて、まず一つの絵を完成させたんです。そこからその絵を元に映像を動かしていって、こういう音があったらいいよねという話をして。ストリングスの音は上から降ってくるアミのモチーフに合わせて入れたいね、という調整をしたり…」
グラフィックと映像、そして音楽が、まるでひとつの生き物であるかのように混然一体となったクリエイティブ。それは互いのフィーリングを大事にし、決して役割を固定しない、彼らの柔らかなものづくりの姿勢を映しているのでしょう。
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