感覚を大事に「煩わしさ」や「ミス」すら活かしてしまう作品作り
ひと口に作品作りの作業工程と言っても、デジタルカメラで撮った場合と、フィルムカメラで撮った場合とでは、そのやり方も大きく異なります。現在青山さんは、過去に撮影したフィルム写真を使用したエッセイ集の出版を準備中とのことで、今回はフィルムで撮影された場合の作品作りについて、お話を伺いました。紙焼きした写真をデジタル処理する行程を中心に紹介していきましょう。
撮影
今回はフィルムカメラでの工程の説明ですが、シチュエーションによってフィルム、デジタルを問わずカメラを使い分けるという青山さん。
青山:普通は1つのメーカーで揃える人が多いと思いますが、僕はそういうこだわりはなく、撮影の内容によって適したカメラを使用しています。例えば、思春期の視点で撮った『スクールガール・コンプレックス』では、もどかしかった思いを表現するためにあえて処理速度が遅いカメラを使いましたし、浮気の密会現場という設定のフォトブック『吉高由里子 UWAKI』を撮影した際には、リアリティーを出すために素人用のコンパクトカメラを使いました。だって、浮気現場に一眼レフなんて使わないですもんね(笑)。
機材ひとつでもこんなに奥深い話が出てくるとは、驚きですね。
スキャン
次にプリントした写真をスキャンする工程。ここでホコリやゴミが付いてしまうため、「作業工程4」で出てくるホコリを除去する作業が必要になってしまうのですが……。
青山:ペンタブみたいにスキャナーの性能が上がれば解決するとは思うものの、やっぱり手間があるからこそ制作をしている実感もわくんですよね。PCは何台も買い替えてるのに、スキャナーは全然そのまま。先ほどの手作業の話じゃないですが、多少色味が変わっても、ゴミがついてても、曲がっても、それが味になるんですよね。
普通なら「手間」や「煩わしさ」に感じることですら、作品作りに変えてしまう青山さんの一貫した姿勢が伝わってくるお話です。
色調整
先述の通り、スキャナーで取り込む際に生じる大きなトラブルの1つは、苦労してプリントした写真の色味を再現できない、ということ。そのため必要となるのがPhotoshop Lightroomでの色調整です。
青山:このソフトを使えば撮り込んだ写真を一定の色のトーンで、しかも一括して調整することもできますが、僕の場合はひとつひとつの撮影データを確認しながら、トーンカーブなどを使い数値ではなく感覚で調整していきます。やや面倒な手法ですが、やはりここでも手作業の感覚を大事にして。感覚を当てにして作品ごとに「ズレ」が出たほうが人間味のある作品になると思っています。
色補正のように元の写真の色味に近しく調整するのではなく、「あくまでパソコンの画面を見ている『今』の感覚を信じて調整する」ことに、こだわりを持っているのだそうです。
スポッティング作業
「ヒミツ道具」の部分でも触れたホコリの除去などを行うスポッティング作業。デジタルの場合もやらなくてはならない作業なのですが、とくに作品展に展示するような大型の写真を紙からデジタルに変換する際には、少しでもホコリやゴミが付いていると目立ってしまうため、1枚の作業に数時間くらいかかってしまうこともあるそうです。細かい作業のため、作品作りでもっとも神経を使う工程でもあります。
青山:大変な作業ではあるものの、たとえばマウスなどでスポッティングするよりも、ペンタブレットで作業した方が断然楽です。手作業の感覚があるため、仮に少しズレてしまっても味として許せる気がしますしね(笑)。もちろんプロなので「ミス」は許されないんですけど、「ミス」も楽しむくらいの気持ちが大切だと思います。
と、ここでも青山さんらしい作品作りのメソッドを語ってくれました。
派手な印象のある写真家ですが、地味に思える作業がたくさんあることに驚いた方も多いでしょう。また、ときには「カッコわるい」自分を見つめ直してまでモチーフを探したり。イメージよりずっとストイックで煩わしい部分もたくさんある仕事だということが、お話からうかがえたのではないでしょうか。でもある意味、その煩雑さすら楽しんで作品に活かしてしまうのが、青山流と言えるのかもしれませんね。
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