アナログとデジタルを、絶妙なバランスで使い分けること
作家さんによって、制作工程は本当にさまざま。デジタル技術を取り入れることにも積極的で「アナログならでは、デジタルならではの表現を見極めて、使い分けるのが大事」と語るマキさんですが、漫画作品の場合アシスタントさんの協力を得ながら、トーン貼りなどの仕上げで導入しているそう。今回は、マキさん自らデジタル表現を用いることの多い、雑誌広告や本の表紙などに使われるイラストレーションを描き上げるまでの流れをご紹介いただきました!
資料収集
新しいイラストを生み出す第一歩は、資料の収集から。まずは自由にイメージを膨らませるため、お気に入りの書店に足を向けます。インターネットで検索すると欲しいイメージが念頭にあるので新しいものに出会えないのですが、書店だと意外な収穫があり発想がふくらむのだとか。
好きなのは、海外のファッション誌に登場する女の子を描くこと。イラストにはドリーミーな雰囲気を取り入れたいと思っているマキさんにとって、名前も知らないような海外モデルを題材にすることの距離感がちょうどいいのです。ちなみに小物を描くことも大好きで、『SPUR』や『GINZA』といったオシャレな雑誌で紹介されている小物を、購入することを妄想しながら描いている瞬間が、一番モチベーションが上がるとのことでした。
下絵描き
描きたいイラストのイメージがある程度決まったら、続いて下絵に入ります。その際の必需品は、太さの違うステッドラー製の製図用シャープペンシル、ピンポイントに消せる精密極細消しゴム「MONO zero」、そして角型のMONO消しゴムの4つ。用途に応じて使い分けつつ、暖かみのあるイラストを目指して制作します。
ちなみに、以前CDジャケットを制作した際など、下絵の段階からデジタルで行う場合もあるそう。
マキ:デジタルでもアナログでも、私は私の作業でしか表現できないところは、自分でやります。本当に時間がないとか、この表現は私じゃないほうがいいっていうところしか、人には任せていません。今まさに、(現在アナログでやっている作業をデジタルに移行した際)絵がどれくらい変わってしまうのか、研究中ですね。
トレース作業
下絵を描き終えスキャナーで絵を取り込んだら、トレース(ペン入れ)作業です。作業には多くのイラストレーターや漫画家が使用するPhotoshopではなく、ArtRageというペイントツールを使うそう。まるで筆やクレヨンで描いているかのようなアナログでの制作に通じる、かわいらしい質感を表現できる点が気に入っています。またArtRageは、ペンタブレットで使用しやすいインターフェースが整えられ、相性抜群なのもポイントなようです。
マキ:ArtRageは、ペンタブレットを使えば、線の強弱をつけるなど、手描き感を味わうことができます。ほかにもパレットに絵の具を出すように最初に色を出して、それを延ばし使ったり、実際に絵を描いているように使えるんです。私は水彩画っぽい質感が好きですが、油絵っぽくやりたい人は、わざとモコッと色を出して凹凸をつくったりもできますよ。
着色
トレースを終えたら、ArtRageでイラストに色をつけていきます。マキさんがもっともこだわっている工程は、この「色選び」の作業。オシャレな色使いに見せるためには、多くの色を使うのではなく、潔く絞り込んで使うのがコツだそう。
そのこだわりを実現させるために気をつけているのは、1色ごとにレイヤーをひとつ作ること。そうすればある色を塗ってしっくりこなかった場合に、そのレイヤーごと削除し、新規でレイヤーを作ってべつの色を塗ってみるという、トライアンドエラーの作業が容易になります。効率的に作業を進めながら、イラストとしての魅力を少しでも高めていくための、マキさんならではの工夫が感じられますね。
女性なら誰しも感じたことがあるだろうリアルな悩みを、緻密な取材や作画へのこだわりなど、丁寧に漫画化しているマキヒロチさん。イラスト制作でも同様に、世界観をもっとも効果的に伝えるために何が必要かを考え、アナログとデジタルそれぞれの特性を把握し、使い分けている姿勢が印象的でした。
今世間が漫画に求めているものはなにか。そして、私はどんなものを描いていくのか。そんな終わりのない葛藤を抱えながら、それでも軽やかさを忘れずに突き進んでいく、マキさんの今後に注目したいですね。
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