「型にははまりたくない」彼女のこだわりの手法とは?
「ロトスコープ」とは、実際に撮影した映像を画像に変換し、それをなぞるかたちで絵を描きアニメーションを作る手法です。広告のプロモーション映像を作る際は、モデルさんを撮影してアニメーションを作ることもありますが、作品の場合は、自分自身を撮影することが多いししさん。卒展で披露した新作映像を例に、実際の作業工程をチェックしていきましょう。
イメージ作り
まずは、撮影の前にどのような映像を撮るか決めるイメージ作り。使用する音楽を聴き、撮影する場所を想像しながら頭の中で構想を練っていきます。
しし:私の作品は、音楽からインスピレーションを得ることが多いので、事前に音を聴き込んでイメージを膨らませる作業はとても重要。それからイメージ画を作ってアニメーションで使う映像の場面を具体的にしていきます。さらに最近の作品では、あらかじめある程度、タイムラインを作り込むこともあるんですが、台本に縛られるのは嫌なので、あくまで現場の感覚を大切にしています。作り方に関しては、まだまだ模索中なのですが、より良い作品ができるように、これからも探求していきたいと思っています。
撮影・仮編集
イメージができ上がったら、いよいよ撮影。『YA-NE-SEN a Go Go』のように具体的な街を想定してロケハンすることもあれば、自宅内でアニメーションの要素に必要な動きを撮影することもあるそう。ちなみに、撮影にはデジタルカメラの動画モードを利用するとのことです。
しし:ここで、どれだけ良い映像が撮れるかが、「ロトスコープ」の正念場。私はけっこう動ける質なのですが、モデルさんを撮影する際は固くなってしまってなかなか思うような動きをしてもらえないことがあるので、どうすればうまくいくか、もっと手法を研究したいところです。撮影した映像はPCに取込み、音と合わせながらアニメーションの原型となる動画を「Adobe After Effects」で仮編集。そこで使えそうな画を選び、最後に画像として書き出していきます。
トレース・色入れ
続いては、書き出した画像を印刷し、イラストに起こしていく作業。刷りだした画像をライトボックスの上に乗せ、トレース用紙を引いて線でなぞっていきます。
しし:1秒10枚のイラストが必要な場合だと、1分で600枚、2分なら1,000枚を超す作業です。ロトスコープの画像は上からなぞって描くので、そこまでの労力はかかりませんが、一から自分で描かなければいけないアニメーションは、とても時間がかかります。ここで(ヒミツ道具で紹介した)iPhoneでの映像のプレビューも使うんです。それから色入れする際は、丁寧にベタ塗りするのではなく、あえて絵の具のムラを残すようにしています。それが、アニメーションの味になるんですね。
動画編集
最後は、手描きのイラストをスキャナーでPCに取込んで、再び「Adobe After Effects」上で編集する作業。仕上げの作業がアニメーションのクオリティーを左右するだけに、細心の注意が必要な工程でもあります。
しし:「ヒミツ道具」の部分でもお話ししましたが、スキャナーで取込むと、どうしてもホコリが入ったり、影がついたりしてしまいますので、まずはそれを取り除く作業をしなければなりません。範囲を選択して消すという方法もありますが、やはり細かい影などは取れないので、ペンタブレットを使ってひとつひとつ消去していくのが確実です。さらに、実際に動かして不要なコマを抜くなど、最終的にアニメーションのモーションを決定すれば、完成になります。
作品にこだわるのはもちろんのこと、制作工程にも並々ならぬこだわりを持っている、ししさん。「今の作品ではまだ誰かが作品を見たときに、どうやって作ったかすぐわかってしまうし、真似ようと思えば誰でも真似できる手法。いつか『これ、どうやって作ったんだ!?』と驚かれるような、私にしかできない方法を考えだし、作品も高めていきたい」と語ります。常に作品を向上させ、制作工程ですら型にはまることを良しとしないししさんだけに、この若き才能の行く末が楽しみでなりませんね。
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