2010年6月14日。その日は、YUKIが自身初となるクラシックホールでのライブを行った記念すべき日として、長く語り継がれていくことだろう。『YUKI concert New Rhythm Tour 2008』から、はや2年。新作アルバム『うれしくって抱きあうよ』を引っさげ満を持してBunkamuraオーチャードホールに登場したYUKIは、「全肯定」のパワーで観客をヘロヘロになるまで幸せにしてくれた。「哀しみを覚えるたびに、楽しさを表現したくなる」。彼女が「感動した」というダンサー・振付家であるピナ・バウシュの言葉は、まさにYUKIが辿ってきた道筋そのものだ。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2010』への出演、そして2ヶ月以上にわたる全国ツアーを控え気合いの入りまくっているYUKIによる、ステージいっぱいに「生きる歓び」をあふれさせた名ライブをレポートする。
生まれ落ちたばかりの赤子のような、瑞々しい魅力
開演予定時刻から15分押し、観客がジリジリしはじめた頃だった。閉ざされた幕の向こうから楽器の音色が聞こえ始め、登場したのは総勢30余名のオーケストラ。バンドの頭上には、星空をイメージした降り注ぐような電飾の数々が光っている。と、いっせいに注目が集まる舞台上とは逆方向から、突如「キャーーーーッ」という歓声が。見ると、全身をフワフワの黄色い衣装に身を包んだYUKIが、1階客席・通用扉のあたりに姿をあらわしていた。
続いて、ざわめく客席の合い間から透き通るように響いてきたのは、「雲の上で遊ぶ仔熊にも〜♪」というYUKIの声だ。新作アルバムの最終曲”夜が来る”を冒頭にもってくる、意外性のある演出がたまらない。そしてゆったりと、本当にゆったりと、まるで「いまこのとき」(=the “present” time)が過ぎ去ってしまうことを心から惜しむように、お客さんひとりひとりを見つめながらステージへと歩み寄っていったYUKI。その姿は、たったいま生まれ落ちたばかりの赤子のように、瑞々しい可愛らしさにあふれていた。
黒くてピカピカ光る高いヒールを履いたYUKIは、“Home Sweet Home”や“汽車に乗って”など、落ち着いた曲調のナンバーを次々と披露。まるで子守唄のように優しく紡がれるその歌声は、荘重な雰囲気の漂うBunkamuraオーチャードホールの空間や、彼女を暖かく見つめるお客さんの心を徐々に融かしていく。そして“歓びの種”で、衣装に身体を隠してうずくまったのち「発芽」をイメージして手足を伸ばし、「少し照れて 笑う君が 見えるよ〜」のあと縦横無尽にダンスしながら歌った彼女の姿は、観客に対する抱えきれない「感謝」や「愛」の気持ちを、懸命に伝えているように見えた。
「全肯定」の歌、“うれしくって抱きあうよ”
YUKIの曲が人を感動させるのは、そこに本当に多くの感情や経験が詰め込まれていることが、聴き手にヒリヒリと伝わってくるからなのだろう。彼女はこのライブで、新曲“うれしくって抱きあうよ”のことを、生きることを「全肯定する歌です」と説明してくれた(ちなみに全否定の歌は“ふがいないや”だという)。
ただ、その「全肯定」は、かつて“ハローグッバイ”で「私が見てきたすべてのこと/むだじゃないよって君に言ってほしい」と歌っていたように、人生の厚みをたっぷりと詰め込んだものだからこそ、人の心を動かすチカラがある。そしていまのYUKIは、そのすべてを肯定するという選択に、一片の迷いもなく突き進んでいる。そんな姿勢を感じさせた今回のライブは、もう圧倒的としか言いようのないパワーで観客を包み込み、ビリビリと肌を震わせてくれた。
例えようもなく美しい、夜明けのイメージ
“COSMIC BOX”を唄い終えたあとに、マイクを使わずに生声で「ありがとう!」と叫んだYUKIはそのとき、ステージと客席の距離感をもどかしく思っていたのだろう。なぜなら、彼女が望むのはいつでも、そこにいる人たちとより近くで歓びをわかち合い、楽しみ合い、「今日は楽しかったね。明日もまた遊ぼう」と言い合って別れることなのだから。そして、クライマックスの”朝が来る”では、ライブの最初に登場した星々が再び瞬きはじめる。やがてサビの「I・M・A!!!/朝が来る」のタイミングでそれが絶妙に消えていくと、ステージ上には言葉では言い表せないほどに美しい、夜明けの光景が広がった。
「歌ばかりうたっている私に、むかしお母さんが言ったんです。好きなら、とことん歌いなさい。そのかわり、まわりの人への感謝の気持ちを忘れずにね、って」。歌からもらった歓びを、歌によって返すこと。その幸せを心ゆくまで噛み締めているYUKIの笑顔には、いま、一点の曇りもない。宇宙と釣り合うくらいに巨きな存在感をたたえて進んでいく彼女は、小さな子どものようであり、苦労を背負った大人であり、汚れを知らない少女であり、セクシーな妖婦であり、そのすべてが重なった、ひとりの奇跡のような女性だった。
YUKI
『The Present』
2010年6月14日(月)、6月15日(火)
会場:Bunkamuraオーチャードホール
セットリスト
M1: 夜が来る …from 5th Album『うれしくって抱きあうよ』
M2: Home Sweet Home …2004.08.18 7th Single
M3: WAGON …from 3rd Album『joy』
M4: ミス・イエスタデイ …from 5th Album『うれしくって抱きあうよ』
M5: 汽車に乗って …2008.04.16 17th Single
M6: 歓びの種 …2005.09.07 12th Single
M7: うれしくって抱きあうよ …2010.02.17 20th Single
M8: ハミングバード …2003.03.19 6th Single
M9: プリズム …2002.3.06 2nd Single
M10: チャイニーズガール …from 5th Album『うれしくって抱きあうよ』
M11: 66db …2002.6.05 3rd Single
M12: ティンカーベル …from 3rd Album『joy』
M13: ランデヴー …2009.3.04 18th Single
M14: ドラマチック …2005.06.29 11th Single
M15: COSMIC BOX …2009.11.18 19th Single
M16: 朝が来る …from 5th Album『うれしくって抱きあうよ』
---E.C---
EC-1: 恋愛模様 …from 5th Album『うれしくって抱きあうよ』
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