「泊まれるアート」をコンセプトに、高円寺や秋葉原にアートホテルを展開してきたクリエイティブ集団「BnA」が、3軒目となるホテル『BnA Alter Museum』を、2019年5月17日、京都にオープンした。 10階建の新築ビルを丸ごと使った過去最大規模となる今回のプロジェクトでは、ライゾマティクスの真鍋大度や、パラモデルの中野裕介、梅田哲也、EY∃など、16人のアーティストが31室の客室を手がけた。 日本の庶民の生活を風刺するような畳部屋から、メディアアーティストによる壮大な映像作品を体感する部屋まで、部屋ごとにそれぞれまったく様子が異なる「客室=作品」は、どのような想いでつくられたのか。参加アーティストと主催者に話を伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
アートと部屋が完全に溶け合った、新しいかたちのホテルが京都に誕生
『BnA Alter Museum』が位置するのは、四条河原町や木屋町、先斗町、祇園など、メインの繁華街からほど近い河原町高辻の交差点のそば。
いわゆる「鰻の寝床」的な間口が狭くて奥行きが広い10階建ての新築ビルで、1階と2階に宿泊者以外も利用可能なバー、カフェ・ラウンジ、イベントスペースがあり、3〜10階が客室となっている。
徒歩圏内には、バー『NOKISHITA711』や『レボリューションブックス』、カフェ『もしも屋』などがあり、夜にふらりと出かけるのにも申し分ない立地だ。
近年アートを取り入れたホテルは増えているが、なかでも『BnA Alter Museum』は特別。
ただ決められた場所にアート作品を「飾る」のではなく、客室1部屋を1人のアーティストが丸ごと担当し、部屋のコンセプトやデザインなど、客室自体を「作品化」している。
今回関わったのは8人のアートディレクターと16人のアーティスト。
アートディレクターには、クリエイティブスタジオ「アシタノシカク」代表の大垣ガクさんや、現代美術家の椿昇さんのほか、研究者やギャラリスト、セレクトショップオーナーなどが名を連ね、アーティストの選定、各部屋の制作マネジメントを行なった。
アーティストにはロックバンド「BOREDOMS」のEY∃や、メディアアートで知られる「Rhizomatiks」の真鍋大度さん、京都在住の陶芸家・河原尚子さんなどが選ばれ、それぞれ1〜2部屋を制作した。
今回は取材時に部屋を手がけたアーティスト(ミズグチハッチさん、菅本智さん)に本人同席で部屋を見せてもらうことに。他の部屋もいくつかピックアップして紹介する。
狭いなかで工夫して暮らす日本の部屋を表現 / 801号室 ミズグチグッチ『ガラパゴス団地』
まずは801号室。ここはバンド「赤犬」「みにまむす」での音楽活動のほか、CDジャケットやチラシ、ポスターのアートワークなども手がけるアーティスト、ミズグチグッチが手がけた部屋。
高度経済成長期の日本にたくさん建てられた「団地」をテーマにした部屋で、部屋の中心には飾り棚と折りたたみテーブルと折りたたみベッドがセットになった「団地BOX」なるものが据えられている。
ミズグチグッチ:狭い部屋を有効活用する、団地暮らしのスタイルをコンセプトに部屋をつくってみました。ここにあるものは全部手づくり。レーザーカッターなどを駆使すれば、誰でも真似していただけます。暮らしの知恵が満載です。
ときおり緑色のレーザービームが発射される「レーザークロック」、夜になると部屋をムーディーに彩る「かぼちゃランプ」など、細部も凝っていて遊び心に溢れている。和室、民藝、オタク文化など、リアルな日本文化が凝縮された一室だ。
ベッドで寝ている2人の夢がつながる? / 602号室 菅本智『Double Dreams』
2つのベッドの上に、巨大な雲のような造形物が浮かぶ602号室。こちらは紐を人の思考回路に見立てて立体作品を制作するアーティスト菅本智(すがもとさと)さんの作品。
ラプンツェルのように見目麗しい菅本智さん。
菅本:夢の表と裏を表現しました。夢というのは、本人も気づかないような本心が、姿を変えて立ち現れてくるところに面白さがあります。
紐でできた作品は、表と裏で表情が変わります。離れたところからは巨大な雲のように見えましたが、ベッドに横たわりながら作品の内側を眺めれば、違った印象を抱いていることでしょう。
ベッドに横たわって見上げると、作品のなかに吸い込まれるような迫力。別々のベッドで眠るふたりの夢が、つながるような体験ができるかもしれない。
ほかにも、京都在住のアーティストSaiによる陰影の美しい部屋や、旅をしながら壁画を制作するようになった1987年生まれの若手アーティスト河野ルルによる深海を表現したキュートな部屋など、31部屋どれも個性豊かだ。
31部屋すべてが異なるアートホテルの誕生秘話
コンセプトからデザインまで、客室の設計を丸ごとアーティストに委ねて作品化した『BnA Alter Museum』。
展示替えする2部屋を除く、すべての部屋が「恒久作品」で、宿泊料の一部は、アーティストに還元される仕組みになっている。
31部屋の客室すべてが異なるホテルというのもなかなかなく、運営者の気概を感じる。なぜこのようなホテルをつくることができたのか? 「BnA」の取締役・前田悠図氏にプロジェクトにかける想いを聞いた。
前田:ぼくらがアートホテルをやっている理由は、アーティストと一緒に成長したいという想いから。
アーティストと一緒にホテルをつくって、売上の一部をアーティストに還元することで、アートのコミュニティー全体が盛り上がるのではと考えたんです。一般の人にもアーティストのパトロンになってもらえるいい機会になると思います。
また、どうせやるならアーティストの「面白さ」をホテルに生かしたい。そんな思いもあって、ぼくらは設計の段階からアーティストに関わってもらい、コラボレーションして部屋をつくっていくことを決めたんです。
前田:たとえば、アーティストの梅田哲也さんが手がけた部屋には「水」をつかっていますが、ホテルの客室に水を持ち込むのは業界の常識的にタブーです。
でも、ぼくらが大事にしたいのは、ホテルの部屋であることよりもアート作品であること。だから、アーティストの表現を優先させました。
建物の前面には『Stair Case Gallery(ステアケースギャラリー)』も併設。階段をのぼりながら高さ6メートルを超える展示室をのぞき込むことができる。
前田:コピペできる流行のデザインなんかじゃなく、BnAにあるものは、唯一無二のアート作品。消費されない、表現の力強さを楽しんでいただければ嬉しいです。
チェックインからチェックアウトまでの時間、じっくりアートに浸る濃密な鑑賞を体験してみてはいかがだろうか。
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BnA Alter Museum
住所:京都府京都市下京区天満町267-1
電話番号:075-748-1278
営業時間:フロント 24時間
ステアケースギャラリー 11:00〜18:00(7:30〜11:00 は宿泊者限定)
カフェ 12:00〜18:00
バー「Untitled」18:00〜26:00
最寄駅:河原町駅
URL:http://bnaaltermuseum.com
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