ここ数年、民泊の浸透も後押ししつつ、新たなゲストハウス、民宿、ホテルが開業ラッシュにある京都。猛烈な勢いで宿が増える中、ホテルオーナーや建築家は、オリジナリティを追求し「京都」という要素をいかに宿に落としこむか、趣向を凝らした個性派宿が続々とオープンしています。不動産屋が作ったおもしろ物件ベースのホテルから、現代の町家暮らしの理想形を提示する一棟貸切宿、思い出を現像する写真館を備えたゲストハウスまで。新しくオープンした宿泊施設の中から、今までにない魅力や特殊なコンセプトを備えた京都のいまオススメの宿を紹介します。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
RC HOTEL 京都八坂
京情緒あふれる東山区の石畳の八坂通沿いに2017年11月にオープンした『RC HOTEL 京都八坂』は、古いマンションをリノベーションした新感覚のホテル。目覚めとともに東山のシンボル『八坂の塔』を拝むことができる、絶好のロケーションにあります。
観光客向けのショップや、歴史的建造物が立ち並ぶ中で異彩を放つこの物件の魅力に目をつけたのは、不動産やリノベーションを手がける3つの会社、『51Action』『CONTEMPORARY COCOON ROOM 702』『KOUEI』のメンバー。
「景観条例の中でもっとも厳しい伝統的建造物群保存地区の中に、取り残されたように築50年のこの建物に出会いました。その佇まいというか存在自体が、伝統と革新が混在した京都の街そのものを表現しているように感じました」と話すのは、『51Action』代表の水口さん。
部屋の内装を見ていくと、職人の軌跡を感じる壁面に包まれたベッドルームや、建具に鏡がはめ込まれていたりと、至る所にこだわりが感じられます。
宿のロゴになっている「RC4F」という文字のデザインは、錆びた扉に残されていたタギングをモチーフにしています。
また『RC HOTEL 京都八坂』では、アートファンに嬉しい一面も。301号室と302号室の内装は東京・中目黒のギャラリー『POETIC SCAPE』がコーディネートし、絵画や写真作品等を部屋の中で楽しむことができるようになっています。取材時には、写真家・野村浩の「EYES」シリーズの展示をしていました。
さらに、地下のランドリーフロアでは、アーティストLyの壁画を発見。廃墟のような建物の雰囲気とストリート感のある作品がうまくマッチしており、思わず写真に収めたくなるでしょう。
蔦が絡まる外観と、エンターテイメント性に溢れた内観のギャップが面白い『RC HOTEL 京都八坂』。夜17時以降は水銀灯をモチーフにしたテープライトが建物を浮かび上がらせ、また違った雰囲気になったりします。今後は、イベント展開も予定しているとのことです。
TSUKIHI HOUSE KYOTO 京都 つきひの家
移住したいくらい京都が好きで、住人になりきって京都に浸りたい。そんな人におすすめなのは、町家の一棟貸切。宿の開業ラッシュに伴い町家の宿もかなり増えましたが、中でも洗練されているのは、京都駅からもほど近い西本願寺エリアに2017年8月にオープンした『TSUKIHI HOUSE KYOTO 京都 つきひの家』。
宿名は松尾芭蕉の『奥の細道』の有名な冒頭文、「月日は百代の過客にして 行きかふ年もまた旅人なり」から名付けられたと言います。「日常と旅との間に流れる時間を愛しみ、丁寧にときを重ねる家」というコンセプトを掲げたこの宿は、まさに旅先で理想の京都暮らしを体験したいという人にぴったり。
植物と石を配した坪庭、その庭に面した露天風呂は、いかにも京都らしい趣がありつつ、ナチュラルなフローリングや北欧ヴィンテージの家具をミックスする事によって、町家独特の暗さや湿っぽさからは無縁の軽やかさを実現しています。
「つきひの家において、私たちが大切にしたのは、昔からの暮らしをそのまま再現することではなく、今の感性で、先人から受け継いだ町家で暮らすとしたらどんな空間が良いかということでした」とプロデューサーの杉井さんは言います。
この宿を運営するのは、祇園の朝食専門店『朝食 喜心』も手がける『Viajes(株)』。30代女性社長を中心としたViajes(株)の瑞々しいセンスが、宿の空間作りにも存分に発揮されています。
建築設計は、魚谷繁礼建築研究所によるもの。地下から地上2階までが一つの空間としてつながる多重構造や、防空壕を生かした地下スペース、グレーの畳と黒大津磨きの壁でできた真っ暗なメディテーションルームなど、他の町家宿には見られない、建築的な面白さも味わえる一棟貸切の宿です。
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TSUKIHI HOUSE KYOTO 京都 つきひの家
住所:京都府京都市下京区諏訪開町22-1
電話番号:非公開
料金:2名利用1棟料金 27,800円~(季節変動あり)
A day in Khaki
建築が面白い町家宿として話題になっているのが、2017年9月にオープンの『A day in Khaki(ア・デイ・イン・カーキ)』。こちらは、ゲストハウス『しづやKYOTO』で、京都建築賞奨励賞を受賞した建築事務所『多田正治アトリエ』と、デザイン事務所『ENDO SHOJIRO DESIGN』が内装を手がけた新しい宿です。
『しづやKYOTO』では、1室分のスペースを上下で2室に分けた狭いけど心地よい斬新な構造の客室が話題となっていましたが、ここでも、襖を開けるとにじり口のような小さな入り口が出てきたり、2階に吊橋のような細い通路があったりと、まるで忍者屋敷のようなユニークな構造となっています。
壁材には美術館のような白い板が使われていて、お風呂場はモルタル仕上げ。従来の町家にはない異素材の組み合わせも面白く、中庭にはロッキングチェアが置いてあり、ここで読書や日向ぼっこをすると、とても気持ちが良さそうです。
そして忘れてはならない特徴は、間取り。1棟貸しの宿の中に、2名用の個室が3部屋あり、それぞれの個室に鍵が付いているという、まるでダブルデートやトリプルデート旅行のために作られたような間取りとなっています。1階の共有スペースにはキッチンがあり、ミニパーティーも行えるなど、旅先でシェアハウス生活を楽しめるのも、今っぽい作りとなっています。
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A day in Khaki
住所:京都府京都市中京区二条通堀川東入矢幡町310番地
電話番号:非公開
料金:1~4名利用1棟料金45,000円(税込み)
アクセス:地下鉄二条城駅から徒歩6分
URL:https://www.adayinkhaki.com
talbot
旅先での出会いや交流を楽しみたいというゲストハウス派の方にオススメしたいのが、2016年に閉店した人気ゲストハウス『パンとサーカス』を運営していたオーナーが2017年7月に新しく立ち上げた『talbot』。
三条会商店街の中に作られたこの宿には、いたるところに写真家・細江英公やラリー・クラーク、画家・五木田智央などの貴重な作品が飾られていて、チェックインカウンターは宿泊客以外も利用可能なバーになっており、美術愛好家たちの交流の場になっています。これまで、写真家・川内倫子さんのブックサイン会や武田陽介さんのフィルムカメラのモノクロプリントのワークショップなどのイベントも開催されてきました。
この宿のユニークなポイントは、「泊まれる写真ラボ」というコンセプト。1階に暗室を備え、写真現像のワークショップや、写真家のサイン会など様々なイベントを開催。古くて貴重なカメラやレンズの貸し出しも行っています。
写真やアートが好きという方は、共通の趣味を持った仲間たちと、濃密な思い出を作ることができそうな泊まれる写真館。まずは、宿泊の前にバーとして寄ってみてはいかがでしょうか。
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talbot
住所:京都府京都市中京区西ノ京池ノ内町1
電話番号:080-7085-0102
料金:1泊3000円~
青春画廊 西陣
最後に紹介するのは、2017年12月16日に公開されたばかりの宿『青春画廊 西陣』。
アートユニット・パラモデルとしての活動で知られる美術家のハヤシヤスヒコが、「京都に居ながら世界の人々に京都の文化芸術を発信すること、住職一体の京町家の機能を復活させること、若手作家の副業を生み出すこと」をコンセプトに掲げて運営している1号店『青春画廊』は、アーティストを志す芸大生たちが運営し、宿内で展示する若手作家の作品を購入することもできるのが特徴です。
その2号店となる『青春画廊 西陣』は、築100年の織屋建京町家の、元西陣織の織屋部分を美術家ハヤシヤスヒコのスタジオ兼オープンスペースに、二階建ての元住居部分を宿泊施設として建築ユニットstudio rakkoraと共にリノベーションしました。ダブルベッド1つとシングルベッドが2つあり、最大4名まで宿泊が可能。木のぬくもりが感じられる空間に仕上がっています。
「芸大がたくさんあり、若手のアーティストが多いというのが京都の特徴。宿泊施設の隣の織屋だったスペースでは、僕が作品を作っているのを見学いただいたり、扉のガラス越しにインスタレーションを見ていただけるような展覧会を行う予定。宿の運営スタッフも主に芸大の学生や若手作家となるので、京都のアートシーンを身近に感じていただけるでしょう」と話すのはハヤシさん。
なお、宿泊が可能になるのは2018年1月末からの予定。作品が鑑賞できるということのみならず、居心地の良さでも評判のいい『青春画廊』の新しい宿に、いちはやく泊まってみてはいかがでしょうか。
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青春画廊 西陣
住所:京都府京都市北区紫野下柏野町7番地27
電話番号:非公開
料金:2名利用1室料金 15,000円(税込み)~
アクセス:京福電鉄北野白梅町駅から徒歩15分
URL:http://haps-kyoto.com/gallerytheyouth_nishijin
※宿泊は2018年1月末からスタート。
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