日本の最西端に位置する沖縄県・与那国島から台湾本島までは、直線距離にすると約111キロ。晴れた日は、与那国島から台湾の姿を肉眼ではっきりと捉えることができるほどの距離。こんなにも近い2つの島ですが、この近さのせいか、多くの台湾人は沖縄への興味はそれほどなかったようです。 しかし近年、台湾の旅好きの間で「沖縄」の人気が急上昇しているのだそう。いったい台湾人は今、沖縄の何に魅力を感じているのでしょうか。今回、HereNow Taipeiのキュレーターで、イラストレーターやモデルとしても活躍する飛飛飛(フェイフェイフェイ)さんと一緒に10月14日・15日に台北で行われた『沖繩祭 遇見沖繩』、通称『沖縄祭』を巡り、台湾人から見た沖縄の魅力について探ってみました。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
2日間で12,000人を動員。台北で行われた『沖縄祭』
10月14日・15日に台北市のカルチャー発信スポット『華山1914文創園区』にて、今年で2回となる『沖縄祭』が行われました。屋外スペースとレンガ造りのレトロな会場という2つのエリアに沖縄と台湾全土から25店が出店。雨天にも関わらず、2日間で12,000を超える人が「沖縄」を楽しむために来場しました。
来場客は30歳前後がメインで、すでに沖縄に旅行をした経験があるという人が多い印象。黒糖や泡盛の展示を見て、旅の思い出がよみがえるという感想を漏らす人が多くいました。
会場では飲食店を中心にハンドメイドアイテムの販売、ファッションブランドや印刷工房のワークショップなど沖縄と台湾全土から参加した様々なお店が出店。今回の『沖縄祭』の大きな特徴は、台湾の出店者も含め全てのお店が、沖縄の素材を使って限定商品を作るということ。
まずは、沖縄名物の「タコライス」で腹ごしらえ
ちょうどお昼時にイベント会場で飛飛飛さん(以下、フェイさん)と待ち合わせた取材班。最初に向かったのは台北の人気クラフトビール店『61 note』のブース。フェイさんは、特製のタコライスをオーダー。
フェイさん:いただきます! さっき店長さんに聞いたけど、タコライスって沖縄ではソウルフード的な食べ物なんだね。台湾でいう魯肉飯(ルーローファン)と同じだね。僕は旅行の時は、なるべく現地の名物や特産品を食べるようにしてる。やっぱりその土地の文化を理解するなら「食べ物」から試すのが一番だから。
日本人である『61 note』の店長さんとタコライスを食べながら、タコライスの歴史についてもレクチャーを受けるフェイさん。タコライスは沖縄でもともと米軍向けに、アメリカ人が好きで安くてお腹がいっぱいになる食べ物としてメキシコのタコスをもとに開発されたといいます。
店長さんのこだわりは台湾で採れた野菜をいっぱいのせることだそう。蒸し暑い台湾でもスッキリとお腹に入る工夫とのことです。
香りが魅力の花茶と、沖縄の黒糖から生まれた「沖縄黒糖花茶」
少しお腹を満たしたところで、何か飲み物が欲しいとあたりを探し始めたフェイさん。近くにある「沖縄黒糖花茶」が気になると、台北で無添加ハーブティーやドライフルーツを販売している『小草作』のブースにやってきました。店員さんによるとこの「沖縄黒糖花茶」はこの『沖縄祭』のために沖縄から黒糖を取り寄せ、メニューを開発したそう。
フェイさん:わぁ、これは黒糖の優しい甘さ。タコライスが少しスパイシーだったのでちょうどいいですね。
美味しそうに黒糖花茶を飲むフェイさんに、こちらもいかがですかと勧めたのが、ハーブ入りの赤ワイン。手持ちのワインに『小草作』特製のパウダーを入れれば、あっという間にハーブワインが飲める便利な逸品。フェイさんもかなり気に入った様子。
フェイ:フルーティな赤ワインがさらにエレガントな味わいになってる!(ごくごくと飲み干し、空を見上げ)台北ではビルの屋上でガーデニングをしているところが多いんです。このハーブワインを飲むと、緑が溢れている屋上の情景が頭に浮かんできちゃうなあ。(編集部注:台湾には古くから屋上を有効に活用しようとする文化があり、多くのビルの屋上に庭園を見つけることができます)
台湾でも健康志向が高まっていることから、無添加で体に優しいハーブティーがとても人気。『小草作』では手軽に、そして美しくハーブティーを楽しめる商品がたくさん。当日も多くの女性客で賑わっていました。
台湾では今、活版印刷がブーム。名物店主に習う印刷の極意とは?
続いて建物内のエリアを回ることにした私たち。そこで一人のおじいさんに「活字印刷をやってみないか?」と呼び止められました。ここは伝統的な活字印刷を体験できる『無事生活』ブース。フェイさんは興味津々の様子で、店主・呉さんの話に耳を傾けます。
「こうやって、見ててごらん」と話す呉さんは、まず活字を組み合わせていきます。この時に使用する素材・道具の一部は日本から取り寄せているそう。そして呉さんとフェイさんは一緒に沖縄と台湾の文字を組み合わせていきます。
フェイさん:僕たちはネット世代でしょ。だからこういう伝統的でアナログな印刷技術を後世に残していくことって今、すごく求められているんだと思う。どんなに便利な世の中になっても「活字」の重みは残っていくと思うし。
『無事生活』の店主呉さんは今年77歳。台湾で活字の伝統を守るために、今でも現場で働かれているのだそう。今回、『沖縄祭』に参加した理由を伺うと「とにかく、沖縄が好き。何か台湾と沖縄を結びつけるものを作りたかったから」とおっしゃってました。
沖縄の海塩で肌がみるみるツルツルに!?
続いてフェイさんが立ち寄ったのが、沖縄の海塩を使ったボディスクラブのワークショップスペース。イラストを描く以外に、モデル活動もしているフェイさん。お肌のお手入れが気になるのでしょうか。
フェイさん:(ボディスクラブでひじをマッサージしながら)自然にあるものだけで、十分体をメンテナンスすることができるよね。これもラベンダーの精油と海塩だけでしょ? 大自然のパワーを吸収できる気がするし、天然のものの方が絶対体にいいと思う。
琉球藍で染め上げられた、インディゴブルーにひとめぼれ
次にフェイさんが訪れたのは、沖縄から新しいリゾートウェアを提案する『LEQUIO(レキオ)』のブース。琉球藍染を主軸に「世代を越え、受け継がれるモノ作り」をモットーに展開するブランドです。ここではデザイナーの嘉数義成(カカズ ヨシナリ)さんが、沖縄にしかない琉球藍を使って染め上げたインディゴ製品や、米軍の古着をリメイクしたアイテムが販売されていました。
嘉数さん:この藍色は琉球藍でしか出せない色。自分がこの色を守らなくちゃという思いから作った服が、海を超えて台湾にも届けられることが嬉しいです。
フェイさん:深みがあるのに軽やかな藍色ですね。自然の素材を使って染め、編まれた服を見ていると、「服」とは自分の身なりを飾るだけのものではなく、人間と大自然をつなげる美しい結晶のようなものだって思うんです。
そんなお互いの会話を通して、すっかり意気投合したお二人。フェイさんは、「LEQUIO」のシャツを着て、嘉数さんと記念撮影。そして、ブースを後にしました。
「海と空と美ら海水族館」ではない沖縄を伝えたい
台湾のクリエイターや人気ショップが、沖縄の素材や文化からインスピレーションを得たアイテムを販売した『沖縄祭』。しかし、今まで台湾での沖縄イベントと言えば「沖縄の海と空と美ら海水族館」のPRが中心だったと言われます。そんな中、台北で沖縄のトレンドやカルチャーを紹介するイベントが増えたのは、ある一人の女性の想いから始まりました。
この『沖縄祭』の仕掛け人である沖縄観光コンベンションビューローの林秀佳さんは「今まで台湾での沖縄イベントは、台湾の旅行会社や航空会社の社長と、沖縄県知事が会食をするという形式でした。でも、実際に沖縄に来てくださっている台湾人観光客の方に、私たちがお礼をする場を作らなくちゃいけない。というポイントから本イベントの企画が始まりました」と言います。
また林さんによると、実際台湾人が沖縄で期待をしていることは、今まで沖縄県が宣伝してきた『国際通り』や『美ら海水族館』だけではなく、オシャレなスポットや沖縄でしか経験できないカルチャーだそう。台湾で地道な調査を続け、そのことを知った林さんは台湾のクリエイターやメディアに、沖縄のおしゃれなスポットやカルチャーを発信。その過程で多くの人が沖縄の新しい魅力を知り、台湾人目線の沖縄イベントをやろうと、台湾でクリエイターやメディアに影響力を持つFujin Tree Groupといっしょに作り上げるようになったと言います。
「沖縄の人たちが台湾人と同じ目線で、楽しみながらPRをすることでしか、台湾人の心を動かすことはできない」といった林さんの言葉通り、本イベントでは、どの出店者も来場者も、台湾と沖縄を同じ目線で楽しんでいることが印象的でした。
似ているようで違う沖縄と台湾。そんな似ている部分と似ていない部分を林さんとフェイさんに聞いてみました。
林さん:似ているのは、やっぱり人柄です。オープンで細かいことは気にしない。後は友だちと待ち合わせする時に遅刻しがちなところとか(笑)。違うところはなんだろう、思いつかないくらい、本当に私たちは似ていると思います。
フェイさん:僕も沖縄を旅行している時に、あぁ、すごく似ているなって思いました。少しのお金であとは楽しく暮らせればいいじゃないっていう気質とか。
飛飛飛が感じた、沖縄の本当の魅力とは?
『沖縄祭』を通して、沖縄の魅力は青い海や空の中だけではなく、人が営む生活の中にも確かにあると感じた本イベント。そして多くの台湾の若者が、沖縄の人が生み出すコト・モノを広めようと奮起していました。最後にフェイさんに沖縄の魅力を伺ったところこんな返答がきました。
フェイ:以前一人で沖縄に行き、カウチサーフィンを使って、色んな人の家を泊まり歩きました。沖縄の人は僕たち台湾人をとても歓迎してくれた。結果、たった8日間の滞在で、僕は一冊のスケッチブックを全て描き終えてしまうほど、沖縄の人の生活と大自然に影響を受けました。今日『沖縄祭』に来て、台湾のクリエイターたちが異国の地の素材を用い、新しいものを生み出している姿を見て、刺激をもらえた。自分も台湾だけではない、色んな場所の色んなことを自分の創作活動の中にどんどん溶け込ませていきたいですね。
言葉と国籍は違うけれど、あっという間に仲良くなって新しいものを一緒に作り上げていく沖縄と台湾のクリエイターたち。次回は海を越えてどんなコラボレーションが生まれるのか、今から楽しみに待っています。
- プロフィール
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- 飛飛飛 (フェイフェイフェイ)
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音楽と旅行とスケッチを愛するイラストレーター。台湾・シンガポール・東京等の展覧会で数々の作品を発表しつつ、デザイナー、俳優、モデル等でも活躍する。飛飛飛は、手の中の筆を用いて、この世界を少しだけ温める。
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