INAPSQUARE(イナピスクエア)は、オンラインで衣料品や雑貨にドローイングをプリントしたアイテムやドローイングブックなどを販売しているブランド。イラストレーターのINA(イナ)さんと、グラフィックデザイナーのP(ピ)さん(=INA+P)によって制作されており、ソウルの若者を中心に人気を博しています。今回は、HereNow Seoulのキュレーターとしても参加しているINAさんに、INAPSQUAREことをはじめ、今のソウルについてお伺いしました。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
もともとは、彼氏との簡単なプロジェクトみたいなものだった
ーまずは、簡単に自己紹介をお願いします。
INA : INAPSQUAREで絵を描いているINAです。2015年くらいから、ドローイングを様々なアイテムにプリントしたり、販売したりする活動を始めました。
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ー活動を始めたきっかけは?
INA :私はもともと趣味で絵を描いていたのですが、今の彼氏(Pさん)に出会って、彼もグラフィックデザインをしていて、私の絵を見て気に入ってくれて一緒にこんなことをやってみようと提案してくれたんです。なので、INAPSQUAREは簡単なプロジェクトのような感覚で始めてみたのですが、いつの間にかここまで活動するようになりました。
ーINAさんの絵は、黒い線で描かれたドローイング作品が多いですが、どのようにして今のスタイルになりましたか?
INA :元々ペンや筆など色々な道具で絵を描いていたんですが、彼に出会ってから絵のスタイルも大きく変わって、鉛筆で描くようになって。それが私のスタイルにもよく合って、感覚的にも良かったんです。今でもキャンバスに絵を描くことも多いですが、それはほとんどアイテム用ではなく作品としてですね。
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INAPSQUAREは、旅行や普段の生活からの生まれるもの
ー今INAPSQUAREで展開しているアイテムの中に「PEOPLEシリーズ」があります。ピカソやヒッチコック、太宰治など、誰もが知っている人物を描いていますが、このシリーズはどのように生まれたんでしょうか?
INA :最初は単純に私達が好きな人物を描き始めたのが、「PEOPLEシリーズ」です。なので、私の好きな画家であったり、作家だったり、映画監督などを描き始めました。単純に好きな人でありながら、鉛筆で絵を描いたときに全体的なシェイプや形がカッコよくて映えそうかの2点をクリアしていることが肝です。
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ー他にも商品の中に「TRAVELシリーズ」もありますよね、本やカレンダーなど色々なアイテムを作られていますが、これはどんなシリーズですか?
INA :「TRAVELシリーズ」は、私たちが旅行に行った場所に関する思い出をアイテムとして展開していて。通常の旅行ガイドって、すごく有名な観光地だったりの情報が多いけど、これはそうじゃなくて。例えば、旅先の通りがかりで見つけた看板だとか表示板みたいなものは韓国の日常とは違うので、それが可愛く感じられて、そういったものを描き始めました。中に描かれているのは、ランドマークではなく、とても些細な物(笑)。例えば、東京に行けば東京タワーを描かなくちゃ! という感じではなくて、本当に通りすがりで見た看板や人、建物や食べたものと言ったものがほとんどですね。
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ー制作において旅行から得るものは、大きいですか?
INA :旅行に行けば、確実に沢山絵を描くようになりますね。他の作家の方は想像から描いている人もいると思うのですが、私の場合は自分の目で見たものに影響を受けるので、少し変わったものや、見慣れない物を見た時に大きなインスピレーションを受けるかもしれません。
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ーでは、普段のソウルでインスピレーションを得たい時はどうしていますか?
INA : HereNowでも色々とスポットを紹介したのですが、安国にある『Hyundai Card Travel Library』にはよく行きますね。本がものすごくたくさんあって、そこで本からアイデアが得られたり、多くの絵に影響を受けたりします。それから、景福宮(けいふくきゅう)、西村(ソチョン)のエリアがとても好き。古宮も多く、道そのものもすごく綺麗なのでそのあたりの街がすごく好きですね。
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INAが感じる、ソウルの街とショップ事情
ー普段、友達と遊ぶ時はソウルのどんなところに行くんですか?
INA :他の国の人たちがソウルに来て、カフェや美味しいお店に行くように、私たちもカフェに行って美味しいものを食べてって、そんな風に過ごしています。私たちが好きなのは人が多くないところなので、ソウルの場合だと漢江(ハンガン)によく行きますね。今みたいに少し暖かくなってきた時期には、特に漢江に行けば良い。逆に、江南(カンナム)の方には私はあまり行かないです。
ーそれはなんでですか?
INA :まず、遠い(笑)。あと、人が多いですね。私とはスタイルが合わない感じ。さっき話したような景福宮(けいふくきゅう)や光化門(こうかもん)のようなソウルの北側の方が好きなので、そっちの方によく行来ますね。それこそ光化門にある大型の本屋『教保文庫』とか。
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ーINAPSQUAREのアトリエのある、この乙支路(ウルチロ)も面白いエリアですよね。アトリエが世運商店街(セウンサンガ)という変わった複合施設の中にあって、下の階には印刷業者や照明や電気の専門店が並んでいて、この場所にアトリエがあるのがすごく独特で不思議な感じがしました。
INA :ここをアトリエに選んだのは、ここは本当に昼と夜で全然雰囲気が違うから。昼間は、業者の人たちが活発に働いていますが、18時を過ぎると人がいなくなって静かになる。そんな街の営みの中にいると、生きている感じがするんです。一般的にソウルといえば、流行が早いという印象があるかもしれませんが、このエリアを歩いていると、昔からあるリアルなソウルも感じられる。でも、いわゆるホットなカフェにも行ってる方だと思いますよ(笑)。
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ーソウルといえば、本当にカフェが多いですよね。いつからこんなに沢山のカフェが生まれたのでしょう?
INA :前はそんなことなかったんですけど、最近はカフェもすごく多くて、そのカフェも全部インスタグラムの影響を受けた、インスタグラムに載せるのに良いカフェ(笑)。なので、そこに若者がよく行くようになったんだと思います。
ー確かに、ソウルはフォトジェニックな場所が多いですよね。
INA :そうですね(笑)。そういう新しいところがそんなに好きではないんですが、私は少し穏やかで長く続いている古いカフェが好きです。そこには歴史があるから。でもカフェだけでなく、ソウルでは、独立系の書店も沢山できて、沢山なくなりました。もちろん長く続いている独立系書店もありますが、最初は「こんなことをすればうまくいきそうだ!」とやってみて、ワーッと人が集まりますが、だんだん来なくなって、そしてすぐになくなって。私はソウルのこういう点が、すごく残念だと思う。簡単に始めて、簡単に終わらせてしまう事。簡単に始めてみても、少しづつ育てていけばいいんですが、すぐに作って、すぐになくなるところがあまりに多くて。もちろん新しくできるのは、面白くもあるけど、やるせないというか。
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好きなことをして生きていく。そうやって老いていきたい
ー話が代わりますが、INAさんはタトゥーを幾つか入れてますよね。韓国では周りの人たちもタトゥーを入れていることは多いですか?
INA :韓国はすごく多いでしょう。タトゥーをしてくれる人も多いし、タトゥーを入れようとする人も最近はすごく多いです。例えば、日本はまだタトゥーについて少し拒否感がありますよね? 私たちの国も少し前まではそうだったんですけど、最近の若者たちは小さなタトゥーを入れている人たちも多いし、タトゥーも一つのファッションとして地位を築いている。ただ、もちろん若い人たちの中にも嫌がる人たちもいます。
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—嫌がるというのは?
INA :「自分はタトゥー入れて大丈夫だけど、あなたはしないで」とか、「俺の彼女はタトゥーを入れて欲しくない」とか、そのような人もすごく多いですね。だから私が夏に薄着で外出するとタトゥーを物珍しく見る人たちもいます。でも私はタトゥーが好きだし、ただ好きだから彫りたいなと思うだけで。
ーファッションの一部のような感覚で、タトゥーの理解が進んでいるのは面白いです。
INA :見せようとしたりだとか、人に違和感を与えるためのタトゥーよりも、最近はキャラクターのようなかわいいタトゥーをよくする。だから、今のように多くの人に受け入れられるようになったんだと思います。昔は、ヤクザがするような刺青は韓国でもすごく多かったんですよ。若い男性が人に見せようとする目的で。私の周りにもそういう刺青をした人はいたんですが、今ではとても後悔している人もいる。だからタトゥーも慎重に自分が本当に好きなものを入れなくてはならないはずですが、そうではなくて見せようという目的で入れれば、時代や変化とともに後悔する人たちが多いのも事実です。
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ー日本ではタトゥーをしていると受け入れられない場面も多いですが、韓国でも会社に通っていたりするとやっぱりタトゥーを入れるのは難しいですよね?
INA :見えるところはダメですよね。でも見えないところにしている人たちはいっぱいいると思います。会社に通っているのに足にこんなに大きく入れたりとかはできないでしょう。なんとなく韓国では保守的な会社が多いですから髪を染めたりとかに対しても制約があったりします。一般の会社はそうですよね、私も働いたことがないので「わ、そんなところがあるの?」っていう感じですけど(笑)。
ーチムジルバン(韓国式のスーパー銭湯)は、タトゥーをしてても入れるんですか?
INA :関係ないです。チムジルバン、水泳場(プール)、こういったところは関係なく入れます。韓国はタトゥーに対する制裁はない方なので。そういう部分では自由ですね。この間ベルリンに行ってきたんですけど、ベルリンにはタトゥーをしてる人たちが本当に多かったですよ。
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ーINAさんの腕に入っている、魚のタトゥーも印象的です。
INA :これは、ただ魚がやりたくて(笑)。魚の形が腕の形ともよく合うし可愛いいからやりました。他の人もこのタトゥーをすごく好みますね、魚のタトゥーは珍しいからか(笑)。
ー最後に、今後の計画や抱負があれば教えてください。
INA :私たちは今みたいに好きな事をずっとやりたいし、おじいさんやおばあさんになってもずっとこうやって生きていたいと思っています。ずっと絵を描いて、ずっと作業して、二人一緒に面白く生きていければいい。私たちはたくさんの人に知られて沢山何かを達成すればいいな、というよりは、着実に長く活動していくのが目標です。好きなことをして食べて生きていく。そうやって老いていきたいですね。
- プロフィール
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- INA
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ドローイングをベースに、多様なプロジェクトを企画する、INAPSQUAREのイラストレーター兼共同代表。日常生活の中で、様々な素材をオリジナルのスタイルで再解釈し、モノを作り出す。なかでも旅先でのひとときの瞬間を収めた記録集に「TOKYO」「jeju」「A PLATE」などがあり、継続的に旅行関連の出版物も制作している。
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