写真家・常盤響に聞く、移住者が相次ぐ、福岡・糸島の魅力

フォトグラファー、デザイナー、DJと様々な分野で異彩を放つ常盤響さん。デザイナーとしてはもちろん、写真家、DJとして輝かしい経歴を持ちながら、「僕のDJは草野球だから」と爽快に言い放つ。そんな常盤さんは、数年前に東京から福岡に移住。現在は、全国的にも移住者が増えて話題となっている福岡市の隣り、糸島市に居を構えている。そんな常盤さんに糸島を案内してもらいつつ、糸島の魅力について伺った。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

日本各地をはじめ、海外からの移住者が集まる場所・糸島

誰もいない、姉子の浜辺。白い砂浜が広がっている。そもそもなんで、常盤さんは福岡に引っ越して来たのか? なぜ、糸島に移住したのだろうか?

常盤:もともと東京以外のところに住んでみたくて、仙台、金沢、札幌、福岡とみて回っていて、福岡に来た時に行ったBar『petrol blue(ぺトロールブルー) 』で友達ができて、だったら、福岡かなと思って引っ越してきたのがきっかけかな。

偶然とは言え、今や全国でも「移住者」が多い人気スポット、糸島。そこにあっさり辿りついた常盤さんがどんな糸島を紹介してくれるのでしょうか。

SALT(ソルト)

常盤さんが最初に紹介してくれたのは、糸島半島の陸路の入り口、今宿にある海辺のシェアオフィス『SALT』。『SALT』はIターン移住者(出身地とは別の地方に移り住むこと)をサポートする「福岡移住計画」の主宰で、株式会社スマートデザインアソシエーション代表の須賀大介さんが運営するシェアオフィス。これから糸島を面白くするのは須賀さんたちのチームじゃないか? ということで、常盤さんは最初にここを選びました。

常盤:『SALT』を立ち上げてからどれくらいになりますか?

須賀:1年10ヶ月くらいになりますね。

常盤:まだ、2年は経ってないんですね。イメージ的には福岡に根付いた感じがするんですけど。シェアオフィスを作ったのは福岡に来てからですか?

須賀:もともと東京・下北沢のオフィスを持っていて、そこでは35人くらい社員が居て、福岡に移住するって言った時に社員が半分くらい辞めちゃったんですよ。

常盤:会社まるまる動かすから、来る人は福岡に行こうという感じだったんですか?

須賀:いえ、代表の僕だけ移住するという感じだったんですね。だから、それ自体がありえないって人は抜けちゃって……。移住してくる時に下北のオフィスがシェアオフィス化して、空いたところをクリエーターに貸すというところから始まったんです。

常盤:この海の見える場所にシェアオフィス『SALT』を作ろうと思ったのはなぜでしょう?

須賀:福岡R不動産でたまたま『SALT』の隣の家を借りたんですよ。一生に一回、海の目の前に住みたいなって思って。正直、家賃は福岡の相場からしたらちょっと高いんですけど、嫁と相談して2年くらいいっか! って感じで。その時にこのビルが3フロアくらい空いて、2年くらい借り手のいない状態だったんです。東京の時は渋谷にも事務所があって、窓開けたら、高速道路が見えて、排気ガスが入ってくるみたいなところで働いていて、そんなところで働いていた人間からしたら、こんなところにオフィスを作ったら天国じゃん! って(笑)。

常盤:こちらのオフィスを使用されている方は元々、福岡の方が多いんですか? それとも県外からの移住者が多い?

須賀:7割くらいの方は都会から移り住んで来た人で、3割くらいの方は福岡市内とか、他の地元からきた方ですね。最近、福岡市内から糸島にプチ移住でみたいな人も増えてて、事務所として使いたいというニーズが増えてきています。

ーなぜ、福岡市内から、糸島にプチ移住してくるような人が増えていると思いますか?

常盤:僕は、糸島の魅力は圧倒的に距離だと思う。外部から来た人、特に東京から来た人は、そう考えると思う。例えば、渋谷とか、新宿にオフィスがあって、逗子に住んだら、結構大変ですよ。逗子っていっても、逗子らしいところに住みたいっていったら、逗子駅までが遠い場所だったりするじゃないですか。うちは水道などのインフラも来てなくて(水は井戸から)、電気しか来てないですけど。だけど、都市高速を使っちゃえば、30分かからずに天神に行けるわけですよ。そこから30分かからずで水道のない場所に行けるなんて、とてもありえない。どんなハイブリット感なんだって(笑)。世界的にありえないんじゃないかと思っているんですよ。その落差というか。

須賀:そうですね。僕は、糸島の天神からの距離感とか、「糸島芸農(糸島国際芸術祭)」とか文化的な行事もあって、ただの田舎じゃないところに惹かれましたね。東京に住んでた時は、お金と生活のバランスとか全然考えなくて、割とものを買うための金を稼ぐみたいな生活で。だけど糸島に来ている人って、もうそうじゃない価値観をさぐりたいって欲求がある人が多いと思う。物理的な資産じゃない、目に見えない価値みたいなものを求めているというか。

常盤:僕、東京生まれだし、ずっと東京で暮らしてきたけど、東京の生活の大半がお金をいかに稼ぐかだったような気がする。でも糸島だったら、自分が趣味としてやっているような仕事でも暮らせるかもって思っているのが、今の暮らしなんですよ。お金はやらないよって言われてもついやっちゃうかもなってレベルの仕事でも、糸島だったら暮らしていけるんじゃないかと思っている。まだ、100%できているわけじゃないけど。

—須賀さんが今取り組んでいるのはどんな事なんですか?

須賀:天神と今宿(糸島)にシェアオフィスがあって、今、能古島(博多湾に浮かぶ島)にもオフィスを作ろうとしてます。どんどん、そういう場所を繋いで、行ったり来たりするような働き方を提案してようとしてるんです。ここにはまだまだ空き家があったり、あまり知らていない地域資源があって、食べ物だったり伝統工芸とか、お宝が凄い埋もれているんですね。だからそういうものが、どんどん磨かれて、発信されるみたいな動きを作っていけたらいいなあって思って。そのためには1か所に居て、働くよりはどんどん移動して仕事をする。今宿の人が能古島に行って新しい発見をしたり、出会いがあったり、そして、天神に行って、天神の人に伝えるというのが面白いと思っていて。

常盤:糸島はどんどん面白くなりつつあるというか、しばらくは変わっていくと思うんですよね。

須賀:そうですね。常盤さんとか、僕らが来た時って、「移住してきたの? マジ?」みたいなに言ってくれたけど、今はもう当たり前みたいになっている。

常盤:今後、糸島の進化には須賀さんとかが深くかかわって行くんでしょうけど、糸島エリアがどんな風になっていくか楽しみですね。

SALT(ソルト)
住所:福岡市西区今宿駅前1-15-18 マリブ今宿シーサイドテラス3F
URL:https://salt.today/

MANI CAFE(マニ カフェ)

続いては糸島半島の西の突端、玄海灘に面した芥屋の『RIZE UP KEYA』の中に新しくオープンした『MANI CAFE』。移住者と地元の人々が混じり合ったり、移住者が小商いの実践場としたり、地方のあたらしい可能性を実験する未来の公民館とも言える場所です。イベントスペースやコワーキングスペースとしても機能していて、『MANI CAFE』は『RIZE UP KEYA』の店長でもある古橋 尚(ふるはしなお)さんが運営してます。

常盤:まだここはできたばかりだよね。

古橋:オープンしたばかりで、まだ、内装を作りながらお店を開いてます。

—『MANI CAFE』って、どんなお店なんですか?

古橋:そこの黒板にも書いているんだけど、「You are what you eat」=「あなたはあなたが食べた物でできている」というのがコンセプトのお店です。私は食べ物と飲み物は身体のバランスを整えていてくれるというのを体感していて、身体と心のバランスを整える飲み物とか食べ物をお出し出来たらいいなあって思ってます。使うお水も山の湧水を汲んできて、水道水は使ってないんです。もともと私、東京から移住してきたんですけど、糸島の海もすごく好きで、水がすべてだなあって思います。

常盤:僕、水の味がわかるって人は「それ、雰囲気だろ!」って思ってたんですよ(笑)。でもねえ、最近、ペットボトルの水を飲むとやっぱりペットボトルの臭いがするんですよ。ファンタだったら、ファンタの味なんで気にならないんですけど、水はペットボトルの味だってなっちゃって。ペットボトルの水をたくさん飲めなくなっちゃった。

常盤:ここのオススメのメニューは?

古橋:乳酸菌抹茶オレ(400円)とか、りんごと巨峰レーズンのパウンドケーキ(200円)、オーガニックコーヒー(400円)ですね。パウンドケーキは毎朝、手作りしてます。乳酸菌抹茶オレは鹿児島の無農薬の抹茶を粉にしたものを使用していて、そのお茶の葉は乳酸菌を土に直接注いで栽培している。だから、抹茶と豆乳を混ぜておくとヨーグルトになるくらい乳酸菌が活きてるんです。そこに無農薬のココナッツシュガーを花の蜜で固めたお砂糖を使っているので、身体に負担のない甘みがとれると思います。

常盤:これは美味しい。

他にもオーガニックコーヒー(400円)、カフェオレ(400円)、豆乳甘酒+シナモンジンジャー(400円)、オーガニックココア(500円)など、古橋さんのこだわりの詰まったメニューばかり。

常盤:古橋さんは、糸島のどこに魅力を感じて人が集うと思う?

古橋:やっぱり水だと思います。私、ずっと旅をしてきて、震災以降6年間、水を探して、色んなところで色んな暮らしをしたし、それこそ、広島でオフグリットの暮らしを2年間くらいしてたんです。それで色んな所に行かせてもらったけど、糸島に戻ってくると、空気の色がキラキラ見えた。それに糸島は植物がイキイキしている。

常盤:確かに。うちの庭の雑草が元気で元気で、これは木かなって思うくらいになるわけですよ(笑)。

—このカフェをどんな場所にしたいですか?

古橋:私、ここは集って繋がる場所だと思うので、別々でお店に来たけど、ここで人と人が繋がるような。なんか、枠がないというか、枠を外せる空間になったらいいなあと思う。お茶を飲むというより、一服しませんか? みたいな、ゆっくり繋がる空間にしたいなあ。まだ、試行錯誤ですけどね。

MANI CAFE(マニカフェ)
住所:福岡県糸島市志摩芥屋1037-1 RIZE UP KEYA内
営業時間:11:00~17:00(※カフェオーダーは15時まで)
定休日:水曜日
URL:http://itoshima-lifedesign.com/

姉子の浜

続いて、訪れたのが、糸島の海岸線沿いを唐津方面に行ったところにある、九州でも珍しい鳴き砂で有名な『姉子の浜』。白い砂浜が1キロほど続き、浜辺を散策すると砂がキュッキュッと音を立てる砂浜。常盤さんが夏に『姉子の浜』の海で撮影された作品でも知られる場所です。

—『姉子の浜』には海水シーズンじゃなくても、よく来るんですか?

常盤:ここはよく来てますね。生き物が少ないから、砂がべたべたしない。だから、鳴き砂になると思うんだよね。駐車場があるんで、俺みたいなずぼらな人間でもシーズン問わず来やすい。ここは海藻が少ないから磯臭くないのもいいね。

—糸島は場所によって、海の色が違うと言われてましたよね。『姉子の浜』は白色、糸島半島北西部の『芥屋の大戸』は黒色、糸島半島の西側の浜は赤色と。

常盤:牡蠣の養殖をやっているところはミネラル分が多いから牡蠣の養殖をやるんですよね。そうじゃないところもあるし、岩場もあるし、磯もある。『姉子の浜』は階段の裏とかにもフナ虫がおらんのよ。それが一番、気に入っているところかな(笑)。

—ここでは作品の撮影もされてますが、この場所は、創作に関するインスピレーションも湧くんでしょうか?

常盤:インスピレーションというよりは切り替えかな。家で色々物事を考えていて、ご飯を食べ終わって、コーヒー飲みに行こうって。丁度、姉子の浜までの近場のドライブ。缶コーヒーでもコンビニのドリップコーヒーでもいいんですけど。

—自宅からは距離はどのくらいでしょうか?

常盤:車で10分くらいかな。あとは、唐津の唐津バーガーまで行って、コーヒーを買って戻って来るパターン。朝でも夜でもいいし、夜まっくらなのもいいんですよね。仕事でちょっと煮詰まった時に、カフェでぼんやりするよりは実際に景色が動いているのをみて、寄れる場所があると一番いいじゃないですか。そういった意味で『姉子の浜』は、僕にとってむちゃいい距離感の場所です。

姉子の浜
住所:福岡県糸島市二丈鹿家
交通アクセス:JR筑肥線鹿家駅から徒歩で20分
プロフィール
常盤響 (ときわひびき)

1966年東京生まれ。2011年から福岡、2014年に糸島移住。 80年代半ばからバンド活動の傍ら雑誌を中心にライター、イラストレーターとして活動を開始。90年代に入りヤン富田氏の依頼でASTRO AGE STEEL ORCHESTRA『ハッピー・リビング』のデザインを手がけたことによりCDジャケットを中心にデザインを始める。1997年旧知の作家、阿部和重氏の依頼で『インディビジュアル・プロジェクション』を装丁。この装丁のためカメラを購入し初めて写真を撮った事がきっかけでフォトグラファーとしての活動を始め、既存の概念にとらわれない作風で人気を得る。



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