街の規模は小さいにもかかわらず、東京や大阪と比べるとレコード屋の数が異常なほど多い京都は、これまでも多くの時代を先導するミュージシャンを輩出してきた。そんな京都の地で、約10年近く続き、熱い支持を得ているイベントが「night cruising(ナイトクルージング)」だ。既存のハコだけでなく、お寺やギャラリーなど、様々な空間に音響機材を持ち込み、独自のスタイルで繰り広げられている。京都エレクトロニカシーンの「今」を更新し続ける「night cruising」の主宰・島田達也さんに話しを伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「night cruising」ってなんだ?
―まずは「night cruising」について、お伺いさせてください。
島田:「night cruising」は、京都を拠点として展開しているイベントであり、レーベルです。電子音楽系を中心に国内外アーティストを招いては、クラブ、カフェ、寺院、ホールなど様々な会場でイベントをしています。
―寺院でも……。活動はいつからスタートしたんですか?
島田: 2006年、僕が大学三回生(三年生)の時に、三条にあるアンデパンダンというカフェでバイトを始めたんです。そのカフェはオーナーが知り合いで、ホールスタッフ兼ライブやクラブイベントを企画する要員として働き始めて。
―それがイベントオーガナイズをはじめたきっかけだったと。
島田: そうですね。オーナーの許可をもらって入場無料のイベントを企画させてもらえるようになって、DJをやっている友人や音楽をやっている先輩たちにも参加してもらったりして。「night cruising」も、その頃に仲が良かった先輩と一緒にこの場所で始めました。イベント名もその先輩がつけたので自分がつけた訳じゃないけど、今は基本的には僕ひとりでやっていて、イベントに合わせてDJだったりアーティストだったりをセレクトして参加してもらうスタイルで続けています。
―もともとカフェでやっていたイベントから、今みたいな様々な場所でやるかたちになったきっかけはあったんですか?
島田:イベントを始めて二年後くらいに、クラブ・メトロ(注:京都にある老舗の人気のクラブ)で開催したのが初めてでした。そのときは今でも仲の良いエレクトロニカアーティストのAmetsub(アメツブ)さんにゲストで出てもらったんです。その後、ヴィラ九条山っていうフランス人アーティストの滞在施設に機材を持ち込んで開催したりと、徐々に色んな場所で開催するようになったんです。それまではカフェでチャージフリーの開催だったのですが、他ではちゃんとお金を取ろうと。もちろん、お客さんが来てくれるかな? って不安はありましたけど、実際は予想していたより沢山来てくれて、手応えを感じたんです。
法然院でやると、電子音楽が絶対に良く響くと思った
―今までも様々な場所で開催されてますよね。
島田:「night cruising」がより多くの人に認知されたターニングポイントとしては、2011年に法然院というお寺でやったときですね。そのときは、ドイツのエレクトロニカ・ミュージシャンJan Jelinekとヴィヴラフォン奏者Masayoshi Fujitaさんのユニットに出演してもらって。
—そもそも、なぜお寺を選んだんですか
島田:お寺でやると、音がよく響くと思ったんです。ヴィヴラフォンの生音と電子音の組み合わせが、法然院には絶対合うなって。あとは、普段クラブなどには行かない人でも、お寺だったら行ってみようって思う人もいるだろう、と思ったんです。それで、たまたま知り合いだった法然院の住職さんにイベントをさせてほしいとお願いをしたら、こころよく快諾いただいたんです。
―たまたま住職さんと知り合うというところが京都らしいですね。
島田:そうですね。京都は街自体が狭いし、人の繋がりが強い。そういう意味では、チャンスは他の街に比べて沢山ある気がします。カフェ時代に機材も少しずつ揃えていったし、技術も現場で積んでいって。それでいろいろな施設にスピーカーごと音響機材一式持ち込んで自分でやれるようになって、イベントの自由度が広がっていきました。結果、法然院でのイベントには遠方からきたお客さんもいて、大盛況だったんですよ。
9年間、すべてDIYで作りあげてきた「night cruising」
―今、京都では「『night cruising』の名がはいったイベントは間違いない」とも言われるほどの信頼を集めているそうですが、イベントをオーガナイズする上で心掛けていることはありますか?
島田:やっぱりライブ体験っていうのは、日常の延長ではない、非日常的な特別な空間だと思うんですね。だから出来る限り、お客さんにはこの贅沢な時間を楽しんでもらえるような場づくりを心掛けますね。
―「night cruising」は規模感も大きすぎなくて、ちょうど良く、アーティストとお客の距離も近いですよね。
島田:僕自身、ひとりでオーガナイズするなら1000人規模のイベントは向いてないと思っていて。やっぱり自分の目が行き届く範囲でやりたい。だから200人くらいが適度なのかなって。会場だけでなく、フライヤーのデザインも自分でディレクションしているし、それを自分で色んな場所に配布したりしていますし。
―京都を訪れたミュージシャンの人たちの反応はどうですか?
島田:ライブでの演出はもちろんですが、京都滞在全体を含めて楽しんでもらえるようにしています。町家の一棟貸しの宿に宿泊してもらったり、打ち上げやオフの日には京都を感じられるようなお店に案内したり。鴨川の川沿いを歩くだけでも風情があって喜んでもらえるし、京都ってお金をかけなくても楽しめることは多いですからね。
―それはミュージシャンも嬉しいですね。今はどれくらいのスパンでイベントを企画しているんですか?
島田:月に1〜2回ですかね。2012年からはレーベルもはじめたことで、京都で活躍するミュージシャンを外に紹介するチャンスも増えました。先日もomni sightというユニットのアルバムをリリースして、11月から全国を廻るツアーをやっています。あとは海外アーティストのジャパンツアーをやったり、Vashti Bunyanなど日本でもファンを持つアーティストの京都公演をサポートすることになったり。
―幅広いですね。これまで、レーベルやイベントを継続していくのに苦労を感じたことはありますか?
島田:それはもちろんありますよ。ミュージシャンもそうですけど、オーガナイザーだって、現実問題それでご飯を食べていくのは大変じゃないですか。
―そこは簡単じゃないですよね。
島田:でも、レーベルに所属してくれているミュージシャンや、イベントに出演してくれるDJや周りの友人たちの存在はかなり支えになっています。昔から一緒にやっていた他のイベントオーガナイザーやDJ、ミュージシャンも、辞めていった人も多くいるので。なので、今一緒にやっている仲間はすごく貴重だなと。基本的には「night cruising」は僕ひとりですけど、デザインとかDJとかその役割ごとに共鳴してくれる人がいて、彼らに支えてもらいながらイベントを続けています。
「自分にはやっぱり京都しかないなって思っています」
―島田さん自身は京都生まれ京都育ちとのことですが、京都でやり続けていることにこだわりはありますか?
島田:どうなんだろう。大学三回生の時にさっき話したアルバイトを始めてからは、大学にもほとんど行ってなかったんです。これからも、今までやってきたことを続けるためにはどうすればいいか考えていて。とりあえず仲間もいるし、やれる場所もあるから、このままこの場所で続けていこうってなって。だから東京で活動しようと考えたことはないです。というか、京都で何もできていないのに、そんなこと考える機会もなかった。迷う要素がなかったんですよね。
―京都にいることを選んだというよりは、ごく自然にこの場所で活動を続けていると。
島田:そうですね。それでイベントを継続していたら、ウェブとかSNSを見て全然知らない海外アーティストとかからも連絡がくるようになって。自分のイベントがそういった面白いアーティストたちの受け皿になれたら嬉しいです。せっかくこの京都という街でイベントをやるようになって、お客さんもついてきたし、自分にはやっぱり京都しかないなって思っています。
―京都という街についてはどう思いますか?
島田:生まれ育った場所なので、特に考えることはないんですけど、京都独特の時間の流れがあって、このゆっくりした時間が流れている感じはいいですよね。京都意識みたいなものは無いけど、自分たちのイベントも京都でやっているから、外からみると、結果それが“京都”になっちゃうんでしょうし。
―ご自分が京都のシーンを盛り上げているという感覚はありますか?
島田:それは全然ないです(笑)。京都の音楽シーンを盛り上げてるって考えたことなんてなくて、むしろそんな風に考えるなんて厚かましいじゃないですか。「night cruising」としての活動は9年になるのですが、やっとラジオに出させてもらえたり、新聞や雑誌で取り上げてもらえたり、地道に続けてきたものが形になってきただけなんで。
―謙虚ですね。では、「night cruising」の今後については?
島田:オーガナイザーとしては、いつでもお客さん目線でいたいですね。どうすればもっと心地よい空間になるのか、それをお客さん目線で考えることをこれからも大切にしていきたいです。冗談半分ですが、いつか「night cruising」で、リアルに船で夜の海をクルーズするイベントをしたいなって思ってます(笑)。
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night cruising
京都を拠点とするイベント&レーベル。2006年より国内外アーティストを招き、クラブ、カフェ、寺院、ホールなど様々な会場でイベントをオーガナイズし、海外アーティストのジャパン・ツアーも含む主宰イベントは、地元京都だけでなく全国各地でも開催。
2012年から、イベントと同名のレーベルも始動。コンピレーション・アルバム『tone』を皮切りに、京都の気鋭のアーティスト達や、欧州のアーティストの作品などのリリースを続け、イベントとレーベルを両軸に活動を展開中。
また、イベント主催・制作の経験を生かし、会場でのイベント音響(ライブPA、エンジニア・機材手配)も手掛けている。
http://nightcruising.jp/
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