「サステナブル」「エシカル」といった言葉が日常的に使われるようになった近年。普段の暮らしのなかで「エコ」を意識する人が増えています。しかし「エコ」と一言にいっても、その取り組みは一人ひとりのライフスタイルや、国、文化によってさまざま。そこで今回は、アジア有数のエコ大国と噂の台湾の人気メディアでエディターを務めるEvaさん、PAOさん、Wenさんに「わたしの国のエコ事情」について語っていただきます。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
台湾はアジア有数のエコ大国?
―台湾はアジアのなかでもエコ意識が高いと聞きます。実際に台湾に住んでいるみなさんはどう感じていますか?
Eva:私は日本文化を台湾に発信するメディア『秋刀魚』で編集長をしているのですが、海外出張に行くとあらためて台湾のエコ意識の高さに気づかされます。
例えば、日本のスーパーやコンビニのレジでは、包装用に惜しみなくビニール袋をくれるのですが、そういった光景は台湾ではもう見かけません。
台湾では2002年以降、無料レジ袋の使用禁止範囲を段階的に拡大していて、いまでは買い物に使用するビニール袋は1台湾ドル(約3〜4円)で売られています。この政策のおかげで、ビニール袋をもらうことも、もらってすぐ捨てることも減りました。
PAO:私が通っていた台北の小学校では、授業でもゴミの分別について教わりました。テストにもちゃんと出てきましたよ。
私は台湾のライフスタイルウェブメディア『Shopping Design』で副編集長をしていたのですが、仕事をとおしてもっと能動的に環境問題について考えるようになりました。
台湾のエコ意識の高いお店に取材する機会があったのですが、なかでも『zero zero』というショップに行ったときは驚きました。資源ゴミをもっていくと景品に換えられることができたり、店内ではゴミ分別のお役立ち情報を提示してくれたり、更には独自に開発したアプリで近くのリサイクルスポットを教えてくれたりするんです。残念ながら実店舗は閉店してしまいましたが、エコ意識を広めてくれたユニークなお店でしたね。
Wen:私が副編集長を務めていたウェブメディア『BIOS Monthly』では台湾のアーティストにインタビューする機会が多いのですが、彼らの話を聞いていると近年では音楽フェスにもエコの波がきていると感じますね。
Wen:例えば、2015 年に行なわれた音楽フェス『Witch Festival女巫祭』では、飲食を提供する屋台で使い捨て食器を一切提供しないことが話題になりました。
Wen:自然に囲まれた屋外で開催する音楽フェスだからこそ、自然を大事にしてゴミ問題も解決していきたいと運営サイドが考えていたそうです。参加者たちもその考えを理解して、マイ食器を持参したり、会場のエコ食器レンタルコーナーを利用したりしていました。
音楽フェスというメディアを通して、人々に対して問題を投げかけたという面で良い事例だったと思います。
Eva:最近は、世界的に環境問題を発信する人が増えたので、エコはブームのように語られることもありますが、台湾で暮らす私たちにとっては昔からとても身近な存在だったと思います。
台湾のエコを先導するのは、台湾の若者
ー台湾で暮らす方々はどうしてエコ意識が高いのでしょうか?
Wen:環境問題に限らず、台湾の人々は政治や経済などさまざまな社会問題に対して積極的です。それにはやはり「戒厳令」(台湾では、国民党政権による戒厳令が1987年まで38年間にわたり続いていた)の解除が大きく影響していると思います。
「戒厳令」の解除により言論の自由が尊重されるようになり、政治や経済活動が活発になりました。社会問題に対する国民の意見が国の政策にも反映される。こうしたダイナミックな社会気風のなかでいまの30代前後の人々は育ちました。
Wen:台湾の若者が起こした運動のなかでも特にインパクトが大きかったのは「ヒマワリ学生運動」ですね。
2014年に台北の立法院(国会に相当)が、台湾の社会経済に大きな衝撃を与えうる「サービス貿易協定」を強行採決しようとしました。このことに学生の一団が猛反発し、立法院に突入したのです。
それ以降、台湾では国民が主張できる風潮が高まり、発言するための体制も整いました。若い世代が社会問題に対して自然と関心を向けるきっかけとなったできごとだったと思います。
Eva:何年か前にウミガメの鼻にストローが刺さっている映像が台湾国内で話題になったこともありましたが、このとき声を発したのも台湾の若者でしたね。
「海水汚染問題をどうにかして防ぐことができないか?」とネット上で大議論が巻き起こったんです。その結果、マイストローブームという社会現象が起き、お店で提供されるプラスチックストローを使わないようにストローを持参する人が増えました。
Eva:苦しんでいる他人を見捨てない、他者に強く共感する、というのは台湾人特有の気質だと思うのですが、もしかしたらこの気質ってブームを引き起こしやすいのかも。
絵を描く・歌を唄うなど、まずは自分ができる行動からはじめることで、周囲がそれに共感して問題意識が社会に浸透していく、というサイクルは台湾らしくて良いなと思いますね。
―台湾の人々には、一人ひとりの行動が社会的なインパクトにつながっているという実感があるのですね。エディターとして活躍されるみなさんは情報を発信するうえで大切にしていることはありますか?
PAO:『Shopping Design』はその名のとおり「買い物とデザイン」をテーマにしたライフスタイルメディア。
商品が溢れる時代だからこそ、購買する前に少し立ち止まって考えることの大切さを伝えたいと思っています。
PAO:その商品にはどういう原料が使われているのか? 工場で大量生産された商品なのか? 『Shopping Design』ではこうした疑問と向き合っていきたいです。
一見すると「商品を購入する」行為と環境問題は相反するように思われがちですが、消費者が商品のルーツを考えてから購入するようになったら、環境保護にもつながるのではないかと思っています。
Wen:『BIOS Monthly』は台湾のアーティストやクリエイターのインタビュー記事を多く扱うウェブメディアです。
最近の台湾のアーティストやクリエイターたちは、環境問題をはじめさまざまな社会問題に関心をもっています。そしてそれを公言することを躊躇しません。手掛けた作品に自分の価値観や自分の関心事がどう反映されているかなど作品の制作秘話を生き生きと語ってくれます。
Wen:『BIOS Monthly』はアーティストやクリエイターにとってはなんでも包み隠せずに語れる場であり、読者にとってはまだ意識していなかった問題と出会うことができる場でありたいと思っています。
Eva:『秋刀魚』は台日カルチャー誌。日本でいま起きている現象を台湾の読者向けに発信しています。
これは取材するなかでわかったことなのですが、最近は日本人も台湾のトレンドやできごとに関心を持っているようなんです。台湾の若者のエコ意識から登場したエコグッズなどについては特に関心が高いですね。
Eva:台湾の若者は社会問題を解決するために具体的な行動を起こすのが得意。若者のエネルギッシュな行動によって社会的ブームが起きるのは日本人からすると珍しいみたいです。台湾では日常茶飯事なんですけどね。
「台湾はこんなにパワフルな国で、こんなにエネルギッシュな人たちがいるんだ」と、日本をはじめ海外の方にもっと伝えていきたいですし、台湾の読者にも「もっと自分たちの行動を肯定的に評価してもいいんだ」と自信を持ってもらえるようなコンテンツをつくっていきたいです。
ライフスタイルに合わせたエコな取り組み
―お仕事柄、あらゆる情報に精通していそうなみなさんですが、日頃から実践しているエコな取り組みを教えてください。
PAO:私は水筒、マイストロー、買い物用のエコバッグと食品を直接入れるフードバッグの2種類を常備しています。外食はよくするけどテイクアウトはあまりしないので、マイ箸は持ち歩いていないですね。
Wen:バッグの二個持ちは私も実践していますよ。あと私はテイクアウト派なので、マイ箸とマイスプーンのセットも欠かさず持ち歩いています。
Wen:でも一番重宝しているのは、水筒ですかね。
Wen:水用、お茶用、コーヒー用、タピオカミルクティー用。計4種類の水筒を使い分けています。
ちょっと多いですか?(笑) 水筒に飲み物の匂いが残るのが嫌なのでドリンク別に水筒を変えています。
Eva:私のライフスタイルに欠かせないのは、水筒、マイストロー、エコバッグ、あとテイクアウトフード用のお弁当箱です。
でもごめんなさい、ひとつ自白したいことが。
Eva:じつはこのお弁当は週末限定。平日の昼はテイクアウトして会社で食べているのですが、そのときはついつい店の使い捨て容器を使ってしまいます。
PAO:私も慌ただしい平日はついつい魔が差して、使い捨て容器を使ってしまうことはあります。すべてリサイクル不可だと知ったときは衝撃でした。
Eva:エコの最大の敵は、私たちの「ま、いっか」という気持ちだと思います。自分のライフスタイルに合わせて、それぞれが実践できることから少しずつ取り組んでいくこで、サステナブルなエコ社会をつくっていきたいですね。
- プロフィール
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- Eva Chen(陳頤華)
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台湾人独自の視点で日本文化を紹介する台日カルチャー雑誌『秋刀魚』の編集長。2017年には「第41回金鼎獎(Golden Tripod Awards)」の編集長賞を受賞。台湾の若者のエネルギーを活かして世界にメッセージを発信することに関心がある。
- Mariann PAO(包叔平)
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台湾のライフスタイルウェブメディア『Shopping Design』の元副編集長。本を読むことも文章を書くことも苦手な幼少期を経て、いつの間にか雑誌編集者に。物忘れ、無駄遣い、大雑把な性格を直すことが生涯の目標。
- Jo Han Wen(溫若涵)
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出版社、メディア、翻訳などさまざまな職業を経験し、現在はウェブメディア『BIOS Monthly』の編集長を務める。面白い、新しい、読み応えのある文章が大好き。締切に追われる日々からなかなか脱却できないのが悩み。
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