自然とともに生きることを実感している人たちが多い沖縄では、ヴィーガンフード、ローフードへの需要・関心がここ数年高まっており、食の選択のひとつとして、それらを楽しむ人たちも増えている。 そんな中、まだ日本では数少ないグルメローフードシェフという資格を持ち、ローフードインストラクターとして活躍する斉田実美さんが、2016年にオープンさせたお店が『plant-HOLIC(プラント ホリック)』。カフェとしてはもちろん、イベントやワークショップ、ローフードに関するスクール教室を開くなど、様々な発信を行う注目のスポットとなっている。「植物中毒」という名の店名『plant-HOLIC』が、植物を通していったい何ができるのか、その可能性を日々追求する斉田さんに話を伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
食べた時に「WAO!」と言いたいし、食べてくれた人にそう言わせたい
—ローフードのインストラクターとして活動をする中、カフェをはじめたのは、どんな思いがあったのですか?
斉田:もともとカフェをやりたいというより、「発信の拠点」をつくりたいなと思っていたんです。ヴィーガン、ローフード、グルテンフリーという言葉は、以前に比べてずいぶん浸透してきてはいますが、それでもまだまだ狭い世界のものと思われています。それをどんなに最初に言葉で伝えたとしても、なかなか伝わらなかったりイメージができなかったりする。でもここに入った瞬間、メニューを見て、イメージができて、実際に味わってもらえる。「こんなに美味しいんだ!」と実感してもらえることはとても大事だと思うんですよね。
—『plant-HOLIC』では、メニューを見て選ぶ楽しさもあり、実際に出てきたヴィーガンランチやロースイーツは見た目にも美しくて、口に入れた時の驚きと喜びがありますね。
斉田:私はその驚きを「WAO!効果」と言っているんですが、食べた時に私自身「WAO!」と言いたいし、食べてくれた人にそう言わせたいなという気持ちがすごくあるんです。それをヴィーガン、ローフードというジャンルでどう出していけるかというのはいつも考えています。
—斉田さんはアメリカのカリフォルニアでローフードの勉強をされていたそうですが、アメリカにはそういう「WAO!」と思えるレベルの高いローフードがたくさんあったのですか?
斉田:ところがそうでもなかったんですよ(笑)。というのは、やっぱりアメリカ人の舌に合うようにつくっているので、とても甘かったりする。それをいかに日本人が美味しいと思うものにローカライズしていくか。だから、日本人の舌に合うよう、より繊細な味わいにしていったり、ここ数年、そのことに時間をかけてやってきました。
1~2年の研究の末に生まれた、日本初のヴィーガンマカロン
—カリフォルニアの大学でのローフードの勉強は、具体的にどのようなものだったのですか?
斉田:私が通った学校は、ローフードの学校としては世界で一番古くて、ローフードの先駆者的な人を多く排出している学校だったのですが、そこではグルメローフードシェフという称号をいただけるくらいの勉強をするんです。そこでの勉強はまさに驚きの連続でした。動物性のものをまったく使わない、火を使わないで、これだけのものをつくるのか、と。いままでの概念をまったく覆すような料理の仕方ばかりで、毎回毎回衝撃的で。
—火を使うことで進化してきたのが料理だから、それを覆すわけですよね。
斉田:保存食でもそうですが、私たちの生命を維持するために火は使われて来たので、火はすごく大切なものなんです。でもそれを使わない。だけど48度以下で乾燥させるという新しいテクニックを使って、火は入れないけれど、水分を蒸発させたり、そこにいれる素材によってはパリッと揚げるような感じにできたり。そういう様々なメソッドを学ぶんです。
—まるで研究のようですね。
斉田:まさしく理系の世界なんですよ。フレーバーバランスも学んでいるので、ここにこれを足していくとかいうメソッドで数学的に考えると、すごく美味しいものはできなかったとしても、まずいものはできない、というところには持っていけるんです。
—では、それを斉田さんが言う「WAO!」というところまで持っていくには?
斉田 やっぱりセンスによるのかなと思いますね。そこができるときともう一歩できない時があって、いまでも一喜一憂したり(笑)。
—斉田さんがつくるヴォーガンのマカロンを食べた時はまさしくその「WAO!」でした。
斉田:このヴィーガンのマカロンは、日本では初めてなんですよ。いまやっと海外ではカナダとかアメリカで3~4店舗くらい出てきていますけれど、日本では店舗としてはうちだけのはずです。というのは、ヴィーガンの中では新しいメソッドなんですね。2~3年前から草の根で研究がなされていて、卵白をヴィーガンでつくるというグループに私も参加して、みんなの研究を見て、自分でもここ1~2年、ずっとトライしていたんです。
—このマカロンでは、卵白の代わりにひよこ豆の煮汁を使っているそうですが、その発想にも驚きました。
斉田:豆の煮汁、サポニンという成分は泡が立つんですよ。研究している人の中でそこに着目した人がいたんですね。素晴らしいですよね。その方法で私自身、何度も何度もトライして、意地で「絶対つくる!」っていう気持ちでようやくできたのがこのヴィーガンマカロンなんです。
2冊の本との出会いが、ヴィーガンの道へと導いた
—もともと、斉田さんは普通に肉食だったんですよね。
斉田:そう、ある日突然お肉を食べることをやめました。2007年ですね。その時の私は、東京で外資系のITでシニアマネージャーをやっていて、週に3回くらい焼肉を食べに行くくらいお肉が大好きだったんです(笑)。
—一冊の本に出会ったことがきっかけだったそうですが、それはどんな本だったのですか?
斉田:文化人類学者の辻信一さんが監修している『ハチドリのひとしずく~いま私にできること~』という、南米のアンデス地方に伝わる神話が描かれている本です。ある山が森火事になって、鳥や動物たちは一斉に逃げていくのですが、ハチドリのクリキンディだけが一滴ずつくちばしに水を含んで火の上に落としていくんです。そんなクリキンディに対して森から逃げた動物たちは「そんなことして何になるのだ」と笑います。だけどクリキンディは言うんです。「私は、私にできることをしているだけ」、と。
—でもそれが「肉を食べないこと」に結びついたのはなぜなのでしょう?
斉田:その本ともう一冊、一緒に買っていた本があって、それは世界の畜産の問題についての本でした。世界の穀物の総生産残高は世界の人口を養える量なのに、なぜ貧困や飢えで苦しんでいる人がいるのかということ。それは先進国が消費する肉を用意するのに、牛や豚などの家畜の飼料としてたくさんの穀物や水が必要であること。その家畜を育てるために森林伐採が行われていること。それらが地球温暖化にどう影響しているのか。そのことが具体的な数字や図解を用いて描かれている本だったんです。その2冊が結びついて、自分の中にスッと入り込んできて。
—それから一切食べていないということは、よほどの衝撃だったということですね。
斉田:そうですね。あらためてそれらの本を読んで、自分がクリキンディにならなくては、と思ったんです。まるで何か啓示を受けたような感じでしたね。たとえ1滴ずつだったとしても私にできることは何だろう、と真剣に考えましたからね。それが肉を食べないという選択でした。
ローフードを通じて、世界の豊かさを伝える
—そこから斉田さんのヴィーガン、ローフードへの道がはじまっているということは、そういう地球の未来へのメッセージが込められているわけですね。
斉田:それは、『plant-HOLIC』で発信していきたいことのひとつでもありますね。ただ、そういうことを伝えるにも、どういうアプローチがいいのかということは日々考えています。ここ1年ほどで沖縄にもヴィーガン、ローフードのカフェが増えていきていますが、その中でも想いが一緒の人たちと毎週集まってヴィーガンサミットというのをやっているんです。ブレインストーミングから、どのようなアプローチが一番で楽しいのかという話をしたり。
—これまで学んできたことを、どう伝えていくか。斉田さんがこれから担う役割は大きいですね。
斉田:伝えるというよりシェアしていく、という感じですね。身体のこと、食のこと、食から繋がっている世界のこと、私自身、そんなことを学ぶのが好きなので、日々学んだことを、「みんな聞いて!聞いて!」と知識や技術、思いをシェアしていく、そういうことを続けていきたいと思うんです。
—『plant-HOLIC』では、ローフードを学びたい方に向けたスクール教室も行っていますよね。
斉田:ローフードナレッジアドバイザーという資格をとれる教室を展開させてもらっているのですが、生活の中にローフードを取り入れられるくらいのボリュームを教えています。座学的な知識と、ローフードが現代において非常に優れている食事のスタイルなのかということ、そして、ロージャパニーズとか、ローイタリアンとかいろいろな料理を実践するんです。それを組み合わせていくといろんな展開ができるようになる。6日間の集中のクラスだと、つくった料理を夜一緒に食べるんですが、そうすると6日間でも身体がスッキリするんです。体重が変わるというよりは、マインドがクリアになっていくのを体感するんですよ。
—「体験する」ことはなによりも大切なのだと思います。『plant-HOLIC』を通してローフードの良さを知り、何を選ぶかによって、それが世界のどんなことに繋がっているかを知ることができる。
斉田:本当に「豊かになる」ということなんですよ。そういうアプローチでいきたいんです。そのためには、メッセージだけを強く言い過ぎたりしてもダメだし、私が身体が弱くていつも調子悪そうだったらダメだし。だから、「美味しい!」と思ってもらったり、「WAO!」と思ってもらえる、そういう喜びや驚きは絶対必要なんです。そこからローフードに興味を持ってもらって、食のこと、身体のこと、動物の尊厳のこと、地球の未来を意識できる人がだんだん増えていくといいなと思いますね。
- プロフィール
-
- 斉田実美
-
東京で外資系の企業で働いた後、2010年、カリフォルニアの『リビング・ライト・カリナリー・アート・インスティチュート』で学び、グルメローフードシェフ、上級栄養学インストラクター、ローフードインストラクターの資格を取得。のち、ローフードインストラクターとして東京にて活動を行う。2015年沖縄移住し、2017年6月に『plant-HOLIC』を宜野湾にオープン。イベント、ワークショップ、クラスなどを行い、ヴィーガン、ローフードの可能性を様々に伝えている。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-