沖縄在住の編集者セソコマサユキさんは、数々のガイドブックを著書にもつ、旅のスペシャリスト。おいしい食事や美しい風景……、旅をするときの目的はいろいろあるけれど、セソコさんの旅はいつだって“人”に会いに行くこと。前編に引き続き、今回会いに行ったのは、その島で活き活きと暮らし、ゆるやかにお店を営む愛すべき人たち。島のゆったりとした時間に身を任せ、ちょっぴり寄り道しながら、1泊2日の旅をどうぞ。
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※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
やちむん館 工房
翌朝目指した場所は、市街地から車で30分ほどの空港にも近い白保エリア。道路からサトウキビ畑のでこぼことした小道を抜けると、『やちむん館 工房』にたどり着きます。入り口では、樹齢300年という大きなガジュマルがお出迎え。
「ここへ来るといつも不思議な“エネルギー”を感じるんです。特別な場所なんだという気がしてくる」と神妙な面持ちで話すセソコさん。
『やちむん館 工房』は、やちむん(焼き物)を扱う本館(市街地に位置する)の別館。民具の販売や製作、ワークショップが行われている工房です。ここの館長の池原美智子(いけはらみちこ)さんが、9000坪もあるというこの敷地を、家族や仲間と一緒に守っています。
ここはもともと竹富島から移住者が開拓した盛山村という集落の跡地。マラリアや疫病などで人口が減少し、1917年には廃村。そこから美智子さんの一族が開墾、整備し、この場所を作り上げましたが、いまもなお、この土地の下には当時の村民が眠っていると、美智子さんは話します。セソコさんが感じた不思議な“エネルギー”の正体はこれかもしれません。
でも不思議といっても、変なものではもちろんなくて、活力が湧いてくるような、そんなプラスのエネルギー。それは、美智子さんからも感じられるものだと、セソコさんは話します。
工房へ到着するなり、「セソコさんみてみてー!」と美智子さんが見せてくれたのは沖縄でお馴染みの植物・月桃(げっとう)の葉で編んだおおきな円座。4ヶ月前から1日3時間くらい、少しずつ編んできたそう。直径2メートル近いサイズですが、今後もっと大きくする予定なんだとか。
「これは母と姉と私で考えたもの。この上に寝ると元気になるんだよ。3日間不眠の人もいびきをかいて寝ちゃうくらい。夏は涼しいし、冬は自分の体温でゴザが温かくなるんですよ」と美智子さんも得意げ。
美智子さんたちがつくっている民具はすべて、人の手で使うことで艶が出るし、丈夫になるもの。だから押入れなんかにしまいこんだらダメ。お姉さんの円座は、25年間つかってもまだまだ丈夫なんだそうです。
「県内の人は素材が身近にあるから、ぜひつくってほしい。私たちも売るためにつくったわけではなくて、伝承だと思っている。技術やものを残していくためにも、ここにいる人たちにはぜひ自分の手で民具をつくってほしい。」
そんな美智子さんの想いがつまった円座で横になるセソコさん。頭の下にある枕は、美智子さんのお母さんとお姉さん、美智子さん3名のアイディアから生まれた月桃の枕。使う人の頭の形にフィットしてくるというその枕の中には、月桃の葉が入っていて、枕元から自然と心が落ちつくような、爽やかな香りがしてきます。
「月と桃って書いて月桃。名前がかわいいでしょう? 月桃の香りはストレスや緊張を和らげてくれるし、葉っぱは虫除けにもなるからお弁当箱として、おにぎりを包んだりすることもできる。月桃さまさまだよ~」と、美智子さん。
その月桃の葉をとりに行きましょう、と、広い敷地を美智子さんが案内してくれました。
広大なお庭では、月桃をはじめ、シークァサー、バナナ、ハーブなどいろんな植物や野菜を育てています。
県外の花屋さんでもよく見かけるポトスなどの観葉植物、ここでは一回り大きな葉っぱで青々と生い茂り、岩にまとわりつくものも。生命力あふれる植物たちからも力強いエネルギーを感じます。
「セソコさん、手貸して」と美智子さんが手首に巻きつけてくれたのは、よく虫除けなどのスプレーに入っている成分、シトロネラの葉っぱ。これをつけることで、虫が寄り付かなくなるのだとか。顔に近づけると、柑橘系のフレッシュな香りがしてきます。
「お土産に持って帰るといいよ」と渡してくれたのは、たわわに実った真っ赤な月桃の実。食べることはできないけれど、ドライフラワーとして飾ったりして楽しめるそうです。
これだけ大きな敷地に、いまはひとりで住んでいるという美智子さん。昔は石垣島が嫌で、県外や海外への家出を繰り返していたと言います。
「こんなちっちゃな石垣にはもう帰ってこない! って何度も家を出るんだけど、戻ってきてはやっぱりここがいいなあと思うの。自分の向かう先は、最終的に生まれ育ったこの家なんだよね。」
「石垣島に来たら、美智子さんに会うこともそうだけど、ここに来るとパワーをもらえるんですよね」とセソコさん。
生命力あふれる自然と人とが調和する場所。ここには、素朴だけれど、慎ましやかで丁寧な人の営みや暮らしがありました。セソコさんをはじめ、たくさんの人がこの場所に惹かれ、今日も美智子さんを訪ねてやってくるのです。
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やちむん館 工房
住所:沖縄県石垣市白保1960-15
営業時間:10:00~17:00
定休日:現在改装のため、休業中
電話番号:0980-86-8960
Webサイト:http://www.yachimunkan.co.jp
6.イチグスクモード
『やちむん館 工房』から、また市街地の方へ戻るように車を走らせること約30分。この旅の最後の目的地『イチグスクモード』へとたどり着きました。
「お久しぶりです〜。弟がいつもお世話になってます」と笑顔で迎えてくれたのは、オーナーの池城安武(いけしろ やすたけ)さん。セソコさんが家族ぐるみのお付き合いをしている那覇の人気食堂『ピパーチキッチン』の店主・池城安信さんのお兄さんでもあります。安武さんはもともと実家だったこの場所をアトリエ兼ショップにして、オリジナルのTシャツや雑貨などを製作、販売しています。
何度か会ったことはあるけれど、お店に来るのは初めてというセソコさん。店内に飾られた斬新なアートや作品に目を奪われます。
「これ面白いね!」とセソコさんが目をつけたのが、石垣島の方言をシルクスクリーンでプリントしたTシャツ。上記の「コンマーハイッター」の「コンマー」は、腕や太もものツボのようなところ。つまり、「コンマーハイッター」とは、痛いところやツボにくらった(入った)として、石垣島の大人や子どもが使う言葉なのだそう。
他にも、地震の時に無事を願うおまじないの言葉「チョーチカ チョーチカ」や、ヤギの意味をもつ「ピピジャー」、「ほら見たことか」「ざまあみろ」の意味で使われる「シッタイヒャー」など、たくさんの言葉がプリントされています。
安武さんが着ている「ニオープトゥキ マカープトゥキ」は、石垣島にある桃林寺の赤い仁王像のことで、プトゥキは仏の意味。昔の島の人たちは、その言葉を呼びかけて、戦争から無事に帰ってくることを願っていたそうです。
「僕たちの世代では使わなくなってしまったけど、何かしら目に見える形で、沖縄の言葉を次の世代に残したいなと思って。おじぃ、おばぁも懐かしいって笑ってくれたら嬉しいし、これを見てボケが直ったりして(笑)」と安武さん。
ここのアイテムや作品はすべて2階のアトリエでつくっています。テーブルとして使っているのは、卓球部だった学生時代に愛用していた卓球台。安武さんが島を離れたあとも、両親が大事にとってくれていたものです。
高校を卒業してから、沖縄本島の大学に進学し、卒業後は広告代理店で営業をしていた安武さん。その頃、旅行で海外の魅力に惹かれ、各地を旅してまわり、最終的に憧れのロンドンへ留学。当時は絵描きになりたくて、たくさんのギャラリーを見てまわったそう。
10年以上、島に戻らなかった安武さんが帰ってきたきっかけは、この家でした。沖縄本島出身の母親が実家へ帰ることになり、それにあわせて父親も家を離れることに。「誰もいなくなったこの家のことを思うと急に寂しくなって」と言います。
家族が、この家が大好きな安武さん。弟がお世話になっているからと、今回セソコさんへTシャツをプレゼントしてくれることに。セソコさんが選んだ言葉は「ねむそうな人」の意味をもつ「ニーブヤー」。着たときに一番かわいいイメージになるものを選んだそう。Tシャツの色、文字の色を選んだら、力強く版を押していきます。
わずか5分ほどで「ニーブヤー」Tシャツの完成! 手づくりということもあって、その仕上がりにセソコさんも満足気です。最後はお店の前に並んで記念撮影。
この島に残る文化と、生まれ育ったこの家が好きだから、これから先も守り続けたいという、安武さん。素敵なお土産を手に、私たちはお店をあとにしました。
7.石垣島サンセットビーチ
空港へ戻る前に、ビーチへちょっと寄り道。ちょうど夕暮れどきのタイミングだったので、サンセットの名所『石垣島サンセットビーチ』へ。ビーチには夕日を待つたくさんの人がいました。
おだやかな時の流れに身を委ね、キラキラと輝く太陽がゆっくりと水平線に沈んでいくのを見つめる時間。“夕日を待つ”という行為は、忙しい毎日を送っていると特別なことかもしれないけれど、この島では日常なのです。
綺麗な夕日を、音を立てることなく、誰もが静かに見つめています。聞こえるのは穏やかな潮騒だけ。
「旅先での夕日が美しいと思えるのは、その旅が豊かだったから」とセソコさん。それは各地を旅し、様々な場所で夕日を見てきたセソコさんだからこそ、確信をもっていえることなのかもしれません。
今回会いに行った人たちは、生きることに一生懸命で、まっすぐ。そして、生きる上で「これがあったら幸せ」というものをわかっている。だからこそ、いまの暮らしを選択できる勇気があるし、楽しもうとする前向きさと、なんとかなるだろうという未来への希望がある。
「そんな良いエネルギーをもった人たちに出会うと、生きることへの勇気、前向きさ、そして希望をもらえるような気がする。」だから旅はやめられないと話すセソコさん。
セソコさんは、それぞれの地で暮らす人々の物語を求めて、これからも旅を続けていきます。
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石垣島サンセットビーチ
住所:沖縄県石垣市平久保234
遊泳時間:9:30〜18:00 (最終受付 17:00)
定休日:なし
電話番号:0980-89-2234
URL:https://www.i-sb.jp
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