建築、インテリア、ファッションから都市計画に至るまでジャンルの垣根を越えてシンガポールのあらゆる「デザイン」が集結するイベント『SingaPlural 2017』が3月7日~12日に開催される。6回目の開催となる今回は、シンガポール建国50周年の公式ロゴをデザインするなど大活躍中のJackson Tan(ジャクソン・タン)をイベントのキュレーターとして招聘し、規模もさらに拡大。シンガポール国内外の企業やデザイナーとの大型コラボレーションなど、これまで以上に期待が高まっている。 そんな注目イベントの開催に先立ってキュレーターのJacksonと、『SingaPlural 2017』に出展するシンガポールの気鋭インテリア・ブランドSCENE SHANG(シーン・シャン)のPamelaとJessicaに、シンガポールのデザイン事情や、『SingaPlural 2017』の見所について伺った。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
シンガポールはナショナルになる前にインターナショナルになった
―まずは自己紹介も含めて、デザインの仕事を志したきっかけを教えて下さい。
Jessica:以前からデザインが人々の行動に与える影響に興味があり、大学で建築を学び、卒業後は上海でグラフィック・デザインのインターンをしていました。最終的にはその中間に落ち着いたというか、暮らしのデザインに心惹かれて、インテリア・デザインに辿り着きました。
―SCENE SHANGは、1930年代の上海アールデコ(アンティーク家具)にインスパイアされているんですよね?
Jessica:ブランド立ち上げの構想を考え始めたのは、上海に滞在していた2007年頃かな。当時シンガポールのデザイン・シーンは現在ほど活発ではなかったと思います。どちらかというと西洋志向のデザインがマーケットを占めていた。そうした中で、上海に住む目線を活かして、東洋的な美しさをデザインに落とし込みたいなと考えるようになったのがSCENE SHANG設立のきっかけです。
―Jacksonは、なぜデザインの仕事に?
Jackson:子供の頃からアメコミや映画が大好きで、スーパーマンやヒーロー物のシンボルマークを書いて遊んでいて。今振り返ってみると、その時からずっとシンボルやストーリーに魅了されてきたんだなと思います。現在はデザインだけでなくブランディングやキュレーション等さまざまな活動を行っているけど、シンボルマークを通じてストーリーを伝える、というのが僕のデザインの原点。SCENE SHANGのシンボルマークはどういう意味を込めているの?
Jessica:中国の庭をイメージしています。縁起の良い梅の花を中国の伝統的な庭で使われている六角形の飾り窓の中にあしらって、庭の窓から梅の花を覗いているイメージです。
Jackson:なるほどなるほど。いいデザインだね。
—Jessicaがアジアをルーツにデザインのインスピレーションを得て、Jacksonはアメリカのポップカルチャーから影響を受けて育った、と。欧米とアジアが交じり合うシンガポールらしさが垣間見えます。そんな二人にとってデザインにおけるシンガポールらしさって何でしょうか?
Jessica:さっきJacksonが子供時代のアメコミの影響について話していたのを聞いて思い出したんですが、私の場合、祖母の家にあった明朝家具(シンプルで調和のとれたラインが特徴の中国家具)の美しさに子供の頃から魅了されていました。シンガポールは多くの民族が暮らす国だから、シンガポールらしさというのは四角い箱の中にぴったりと納まるようなものではなくて、それぞれの育った環境によってもだいぶ違うとは思う。
—シンガポールにも色々な側面があると。
Jessica:そうですね。でも一方で、シンガポールは小さな国で空間が限られているから、部屋に置くものに関しては、美しさだけでなく機能性がより強く求められます。SCENE SHANGの代表作であるSHANG SYSTEM(シャン・システム)という棚が積み重ね可能な仕様になっているのも、こうしたシンガポールの住宅事情を意識したデザインです。
—Jacksonは2015年にシンガポール建国50周年のロゴもデザインしていますよね。シンガポールのアイデンティティとデザインの関係について考える機会も多かったと思うのですが、それはどうでしたか?
Jackson:シンガポールはまだ生まれて50年ほどの若い国ですが、近年になって多くのシンガポール人デザイナーがシンガポールのアイデンティティを模索し始めているように感じます。シンガポールの消費者の側からも、シンガポール的なデザインに対するニーズが芽生えていて、そのニーズがデザインに反映されているという側面もあります。
—ニーズが反映されているというと?
Jackson:もともとシンガポールは移民国家。数世代前まで遡れば、シンガポール人はみな移民です。その意味で、海外の文化に対してオープンな感覚を持っています。さらに、物理的に面積が小さく、資源も限られた国なので、建国当初から成長を求めてインターナショナルな国を目指してきた。「シンガポールはナショナルになる前に、インターナショナルになった」といった言い回しがあるくらいです。それが、ここ数年になって、ようやくシンガポール人がシンガポール人であることに自信を持てるようになり、シンガポールらしさについてのニーズが追いついてきた。そうした変化がデザインにも反映されていると感じています。
無意識の中で生まれたシンガポールのデザインが面白い!
—インターナショナルな国を目指してきたシンガポールが、今は自分らしさを模索し始めた段階ということですね。そういう視点で改めて振り返ってみると、シンガポールにも意外と面白いデザインってあるじゃん! みたいな再発見があったりしますか?
Jessica:HDB(公営団地)建築の、特に初期の作品には、当時のコミュニティ感覚が強く反映されていて面白いです。ボイド・デッキ(Void Deck)や共用通路のデザインが、住民たちのコミュニケーションを促していると思います。それでいて一戸一戸はスタッキング可能なユニットで効率性も確保されています。いわゆる団地って、閉ざされた空間であまり快適な住空間とはみなされないけど、シンガポールの団地は限られた空間の中で一定の戸数を確保するという目的を達成しながら、オープンで快適住空間を実現しているグッドデザインだと思う。
Jackson:それは僕も賛成。HDB建築は、シンガポールの非常に重要なデザインだと思います。付け加えるとすれば、それが意識して作られた訳ではないデザインというのも面白い。シンガポールのライフスタイルの結果として意識せずにそうなったというデザイン。例えば、シンガポールではドリンクをビニールバッグに入れて持ち歩いたりするでしょう? 効率重視でとてもシンガポール的ですよね(笑)。シングリッシュ(シンガポールで話されている訛のある英語)も無意識のデザインとも言える。最近では多くのデザイナーがシングリッシュを素材にしたデザインを試みています。ビニールバッグもシングリッシュも誰かがデザインした訳ではないけど、人々の生活の中で自然と生まれたもの。こういう特徴的でシンガポールらしいものは、今見てみると逆に面白いですよね。
『SingaPlural 2017』のキーワードは、コラボレーション
—では、3月から開催される『SingaPlural 2017』について教えてください。Jacksonは今年からキュレーションに加わったんですよね。
Jackson:過去に『SingaPlural』のブランディングを担当して、シンボルをデザインしたことがありました。それで去年『SingaPlural』の実行チームから、イベントを長期的な視野で大きくしていきたい、と改めて連絡があって、今回キュレーターとして招聘されたんです。
—Jacksonが加わったことで今年の『SingaPlural 2017』は、どういう風に変わっていくのでしょう?
Jackson:もともとこの数年間、『SingaPlural』は他分野のデザインを繋ぐデザイン・イベントとして生まれ変わろうとする過渡期。建築は建築、グラフィックはグラフィックという風にそれぞれの分野が別々の展示をしていたのを、『SingaPlural』がデザインという視点で結ぼうという方向性で動いていました。
そのような経緯を踏まえて、シンガポールのデザインをより多くの人たちに向けて見せることを考えたときに、コラボレーションという手段が有効だと考えました。国内外でのコラボを実現することで、より多くのコミュニティにリーチすることが出来る。今回コラボ相手として参加してくれた人たちが、次回以降は友人として訪ねてくれる。そんな風にして『SingaPlural』のコミュニティを世界中に拡大していきたい。
—SCENE SHANGも、シンガポール国内のアーティストやアパレルブランドとのコラボをされますよね。
Jessica:『SingaPlural』には、2年前から作品単位では参加をしてきましたが、ブランドの名前が前面に打ち出されるようなスケールで参加するのは今回が初めてです。シンガポールを代表するタトゥースタジオ、ファッションブランド、そして伝統的なプロダクトデザイナーとのコラボ作品を制作中です。いずれも実験的な試みですが、コラボを通じて表現の幅が広がる分、ブランドのエッセンスを伝え易くなると思います。今は、最終段階なので無事イベントに間に合うかちょっとドキドキしていますが(笑)。
—タトゥースタジオとのコラボというのも意外性を感じました。
Pamela:革製品の企画を考えていた時に、タトゥーもレザーもスキン(革/皮)だよね、というアイデアが浮かんで。考えてみればタトゥーはアジア文化の中でも常に重要な要素を占めているし、これは面白いアイデアが浮かんだぞと盛り上がって。これは後で分かったことですが、タトゥーアーティストである彼の父は、木彫り職人で伝統的な龍を掘ったりする職人だったんです。その点でもお互いにシンパシーを感じるコラボレーションになりました。
—そのコラボも楽しみです。では、最後に『SingaPlural』の来場者に向けてメッセージはありますか?
Jackson:こちらから1つのメッセージを与えるというよりは、とにかく遊びに来てもらってシンガポールのデザイナー達の作品を楽しんでもらいたい。ポップアップ・ストアのコーナーでは、SCENE SHANG含めてシンガポールの人気ブランドとデザイナーやアーティストのコラボ商品をお店に並ぶ前に購入することが出来るので、ショッピング感覚で遊びに来ても楽しめると思うよ。
Jessica:そうですね。好きか嫌いかで作品を判断するだけでなく、一歩踏み込んでデザインに込められた意味を想像しながら回ると、さらにこのイベントがさらに楽しめると思いますよ。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-