コーヒースタンド×ギャラリー、美容室×アパレルショップ、カレー店×古本屋、植物×カフェ、写真館×カフェ……。福岡には1つの専門性に留まらず2つの要素が合わさり、相乗効果を発揮している“クロスカルチャー”な店がちらほらあり、それらはどこもとても良い空気感が漂っています。
2つの文化が“クロスオーバー”することによって生まれる相乗効果、意外なメリット、そこに行き着いた背景などを、深く掘り下げていこうと思います。はじめに紹介するのは、春吉のコーヒースタンド『TAGSTÅ』です。
福岡で個性を放つ、クロスカルチャーな人気店 その2.ECRU.
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
「それって、嘘がないでしょ?」オーナーの橋口さんがつくるコーヒーと空間
目をつぶってでも大丈夫というような、いかにも慣れた所作で、流れるようにコーヒーを淹れてくれる。目の前にいるスラッと背の高い男前の人物は橋口靖弘さん。この『TAGSTÅ』のオーナーだ。 「はい!」と渡してもらった一杯のコーヒーは、カフェラテのようだが、実は違う。「フラット・ホワイト」といって、最近、橋口さんがとても気に入っているという飲み方だという。
エスプレッソに口溶けのいいきめ細かなスチームミルク(泡と液体がよく混ざりあった状態のミルク)を注ぐ。その比率は「1:1くらいかな」と橋口さんが言うように、いわゆるカフェラテやカプチーノよりもずっとエスプレッソの量が多く、ミルクは少ない。エスプレッソの苦味、ミルクのまろやかさが一度に楽しめる一杯だ。
「このコーヒー、実はロンドンを旅していた時に飲んだんだよ。聞けば、これってニュージーランド生まれのコーヒーなんだって」という橋口さん。歴史を遡ると、ニュージーランドはイギリスの植民地だった時代がある。そんな歴史を、ロンドンで橋口さんがフラット・ホワイトに出会った事実に当てはめるのはドラマティック過ぎるかもしれないが、本人は「ニュージーランドの現地じゃなくって、ロンドンという異国で、さらに異国のコーヒー文化が親しまれているのに触れられたのが最高に面白いと思えたんだ」と声を弾ませた。
橋口さんにとって、自ら足を運び、見聞きしたことこそが“リアル”であり、それを自由に表現することが“リアル”。だから、春吉というこの場所で、フラット・ホワイトを出す。
「それって、嘘がないでしょ?」
ニカっと笑う橋口さんの淹れてくれたコーヒーを口に含むと、エスプレッソとミルクが混じり合いながらも、やっぱりそれぞれが引き立っていて、2つの個性が埋没していない。なんだかロンドンとニュージーランドの文化がそのまま、このカップの中に入っているようだ。
偶然の誘いから生まれた、コーヒースタンド×ギャラリーというスタイル
『TAGSTÅ』は、ギャラリー兼コーヒースタンド。元々、橋口さんは福岡で『ダーラヘストカフェ』という人気カフェを営んでいて、カフェの経験は十二分にあった。そこで、以前から興味があったコーヒースタンドというスタイルで形にしようと思ったのだという。さらにここには、ギャラリーが併設されている。
きっかけは、出会った「空間」にあったという。元々、この店のコーヒースタンドだけのスペースを借りようとしていたが、壁を取り払ったその奥の空間まで借りてくれないかという提案を受けたのだとか。コーヒースタンドだけでは広すぎる。ただ、断る理由もない。
「前々から海外には、○○とギャラリーというスタイルがあるなと思っていて。ダーラヘストの時も少なからず、そういう部分を意識していたから、いっそのこと、ギャラリーをやるなら本気でやろうと思えたんだよね」
とはいえ、ギャラリー運営の経験はゼロだ。そこでギャラリーのディレクターとして画家の藪直樹氏を迎え、空間づくりに着手した。
“自然なカタチで、コーヒーとアートを調和させたかった”
ギャラリーは、文字通り“開かれて”いる。コーヒースタンドの空間からギャラリースペースの間に壁はない。それはつまり、ギャラリーの中で、コーヒーを飲んでも良いということを意味する。これまでいくつもの美術館を巡ってきたが、飲食OKなギャラリーって、なかなかレアだ。
「これが僕なりに考えたギャラリーのカタチだった」
ふらりとコーヒーを飲みに来た人が、そのまま展示中の絵を見る。その逆も然り、お目当ての作家の作品を鑑賞するために訪れ、思いがけずコーヒーの魅力に触れる。付け加えると、入場料も不要で、作品の写真撮影もほぼOKだ。ここまでくると、じゃあ、何がダメなんだと聞きたくなる。
「自然なカタチで、コーヒーとアートを調和させたかった。決して切り離してはいけないと思って。入場料はとらないけど、展示する作家陣のハードルはかなり上げていて、誰でも展示できるわけじゃない」
橋口さんは、素晴らしい作品に負けないよう、「コーヒーも日々、美味しく淹れないと」と思うそうだ。
どこにでもありそうで、どこにもない、唯一無二の空間
『TAGSTÅ』で生まれて初めて絵を買った人も多いという。そんなエピソードを聞くと、この街に『TAGSTÅ』がもたらした功績はとても大きいように思う。
「これだけオープンなギャラリーだと、お客さんの反応もダイレクト。構えて観ない分、とても自由な捉え方をしてもらっていると思う。だから絵が売れるというのも、一つのサインだよね」
最近では、ギャラリースペースがライブ会場になることも珍しくない。またデッサン会が実施されることもあれば、カルチャー色強めなトークイベントが企画されることもある。いろんなことが、この場所を経由して世に発表されているが、橋口さんというフィルターを通ることで、そこには全くブレを感じない。そしていつでも変わらず、心地よい空間が存在する。
最後に付け加えると、『TAGSTÅ』にはBGMがない。コーヒーを淹れる音、ドアが開く音、カツカツと響く足音、そしてその場に居る人たちの会話が、静かな空間に添えられる。「BGMも考えようによっては押し付けだと思って」と橋口さんは教えてくれた。
『TAGSTÅ』には凪のような空気が流れ、いつでも、誰に対しても、両手を広げている。どこにでもありそうで、どこにもない、コーヒースタンドとギャラリーが共存する、唯一無二の空間なのだ。
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TAGSTÅ
住所 : 福岡県福岡市中央区春吉1-7-11 スペースキューブ1F
営業時間 : 7:00~20:00
定休日 : 不定休
電話番号 : 092-724-7721
最寄り駅 : 渡辺通駅
Instagram : https://www.instagram.com/tagsta01/
Facebook : https://www.facebook.com/TAGSTAxx/
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