2016年より台湾を代表する3つのクリエイティブユニット『草字頭』『SUPER ADD』『空場』が中心となって開催する『Taipei Art Book Fair(以下、TABF)』。2回目である2017年のテーマは「アート」に「ハーブ」というコンセプトが加えられ、10月13日から3日間、『松山文創園区』にて開催されました。会場では、アートブックやリトルプレスの販売だけではなく、コーヒー、ファッショングッズや雑貨の販売など、様々な分野のアーティストやクリエイターが集結。そんな個性あふれるブースの中で、編集部が特に気に入った5つの作品を紹介します。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
Coconut Dream / 紅林
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最初に私が訪れたのは台北市でセレクトショップとギャラリーを運営する『diida ART BOX』のブース。このブースでは台湾のアーティストが制作したリトルプレスと雑貨が販売されています。そこで見つけたのが台湾のイラストレーター紅林さんが作ったイラスト集『Coconut Dream』。
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紅林さんによると、昔台湾にはヤシの木が1本もなかったそう。しかし日本統治時代に、日本の役人が台湾にもっと南国の雰囲気を加えたいということで、フィリピンからヤシの木を輸送し、植えたのがはじまり。紅林さんにとって、日本人が夢見る南国の世界観がとても斬新でちぐはぐで面白く、ここからどんどんイラストと詩の世界が広がっていったそうです。
本作品は文庫本サイズで全ページに渡って、コミカルでやさしいヤシの木の夢が描かれています。ページを一枚一枚めくるたびに、なんだか懐かしい気持ちになる、そんな一冊でした。
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Coconut Dream
URL:http://www.horibgoode.com/
星期天 / 12名のイラストレーターによるコラボレーション作品
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普段は別々に活動をしているクリエイターのコラボレーション作品を見られるのも、アートブックフェアの醍醐味のひとつ。今回のTABFでも数多くのコラボレート作品を目にすることができました。その中でも特に気になった一冊が『星期天』。この『星期天』とは中国語で日曜日のことです。
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普段はバラバラに活動をして、イラストのスタイルも趣味もまったく違う12人が同じ『日曜日』というテーマで、それぞれが自由に自分自身の日曜日のイメージを表現。このZineに参加しているイラストレーターの1人、アンバーさんは「今の等身大の自分達を表現できる場がないので、それなら自分たちで作ってみようと思った」と話してくれました。
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そんなアンバーさんの言葉通り、山登りに出かけたり、お家でゆっくり過ごしたり、台湾の街を散歩したり。台湾人クリエイターたちの飾らない休日の過ごし方を、覗き見できるような1冊でした。
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#6 about: 關於地方_南方澳誌 / THE NEW DAYS
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実はこの取材当日、台北は大雨の真っ只中。会場が一時停電する場面もあった中で、やさしい自然光を浴びた海の写真が私の目に飛び込んできました。この海は、台湾の宜蘭県の南端にある古い漁港・南方澳。その漁港に『The New Days』というシンプルなホテルがあります。
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『The New Days』はテレビも朝食もない、ただ旅人に古い漁村を味わって欲しいというコンセプトで作られたホテル。ここでは3ヶ月毎に、アーティストを招いて展示会やホテルでのアーティストインレジデンス形式が行われているのだそう。そして、アーティスト達が漁村で過ごした経験と作品をもとに、ホテル「The New Days」の運営者がつくったのが、このZine『about: 關於地方_南方澳誌』です。
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第6号では詩人・書家の今晚我是手さんが、南方澳の海から得たインスピレーションを言葉に変換し、海の写真の上に書き記していくページが印象的。大自然の包容力と、その前にたたずむ人間の孤独をこの作品から感じずにはいられませんでした。また各号からも、南方澳の海を元に表現される作品が多々あり、このZineを通じて、『The New Days』というホテルの存在もますます気になりました。
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關於地方工作室
URL:https://www.facebook.com/aboutzine.tw/
草根寫字 / 雑草稍慢
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飲むことで完結する新しい出版の形を提案しているのは、台湾各地の雑草を採取し、茶と書と絵の組み合わせ、人間と大自然を融合させるという活動をしている『雑草稍慢(ザーツァオサオマン)』の林さん。
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台湾の全土を巡り各地の特色ある雑草を採取している林さんによると、地域によって雑草茶の味わいは全く違うようで、自由に生息している雑草からはその土地のパワーをもらうことができるのだとか。
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今回、台湾南部の都市・高雄の雑草から作られた打狗夏茶というお茶を飲み、『草根寫字』という作品を鑑賞。雑草茶というと渋みがあるものと思い口にしましたが、予想外の甘さに少し驚きました。そしてお茶を飲みながら林さんが力強く描いた、絵と書に目を向けます。普段は忘れがちな大地の力強さを、体全身で感じることができたひとときと共に、お茶を飲むという体験を踏まえて初めて完結する、この出版のスタイルに斬新さを感じました。
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雜草稍慢 weed day
URL:https://www.facebook.com/weedroot/
踹共 / Mummum Zine
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様々なクリエイターが自分の感じたことや世界観を紙の上で表現している中で、ひときわ私の目をひきつけたのが、Mummum Zineの『踹共』。「生活の中でバラバラに分かれているものの共通点を探りたい」という目的で、2016年に刊行されたZineです。
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『踹共』は現代台湾に生きる若者たちが、見過ごすべきではない社会問題をメインに取り扱っています。Mummum Zineの編集者達は都市間と農村部の格差、原住民たちの文化などに焦点をあて、今まで見過ごされがちだった台湾における問題を次々とこの1冊の中で浮かび上がらせます。
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普段大きなメディアでは報じられることのない、繊細な問題をも自分たちの意思で大胆に取り上げることができるのもZineの特徴。発起人の嵐澄さんが話してくれた「苦しい環境や、困難の中にあっても、一生懸命にもがいている人をこれからも紹介し続けたい」というコメントがとても印象に残っています。
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踹共 / Mummum Zine
取材当日、実は館内は記録的な大雨により停電で灯りがない環境で、多くの人がスマホの灯りで本を照らしている姿が。台湾はもともとリトルプレスの出版がとても盛んな国で、今回も様々な特色を持ったクリエイターたちが紙の上で伸び伸びと表現をしている姿がとても印象的でした。ここではとにかく「自分の考えを表現すること」がもっとも大事なこと。『Taipei Art Book Fair』、来年も注目です。
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