週末ともなれば江南(カンナム)、梨泰院(イテウォン)、弘大(ホンデ)など、クラブが密集するエリアには、夜通しでパーティーをハシゴする若者たちが溢れるソウルのクラブシーン。もちろんガイドブックに載っているような大きなクラブだけではなく、その形態は様々。そんな中、日韓の歌謡曲を中心にプレイし、現地の音楽通の若者をはじめ、多くの人に一際人気を集めているのが、Tiger Disco(タイガーディスコ)だ。七三分けに大きな銀縁メガネ、まるで80年代のトレンディドラマから飛び出してきたかのような独特の出で立ちで、ソウルのアンダーグラウンドシーンで話題を集めている。2017年には東京で、彼をフィーチャーしたイベント「めちゃくちゃナイト」が開催。DJ TASAKAとのロングセット対決で話題になるなど、日本での活躍も記憶に新しい。そんなTiger Discoに、ソウルのクラブ事情と、彼のオススメのクラブスポットを紹介してもらった。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
自分の好きな音楽が、韓国のクラブでは流れない!?
ーまずは、自己紹介をお願いします。
Tiger Disco:こんにちは。ディスコミュージックをベースにプレイしているTiger Disco(タイガーディスコ)と申します。今日は、お会いできて嬉しいです。
ーディスコミュージック以外ですと、普段のDJではどんな音楽をかけますか?
Tiger Disco:ディスコ以外には、シティ・ポップ、あとはナイジェリアのファンク、60年代から90年代までの韓国の音楽など、様々な音楽をプレイしています。
ーもともとDJを始めたきっかけは?
Tiger Disco:DJをするようになったのは、自分の好きな音楽がクラブではかからないと実感して、だったら自分でやろうと思ったのがきっかけです。それが2010年くらいなので、すでに8年近く活動しています。
ー当時のソウルには、Tiger DiscoさんのようなスタイルのDJがいなかったんですね。最近では、日本のイベントにも出演していらっしゃいますが、日本での反応はいかがでしたか?
Tiger Disco:日本で韓国の音楽をかけると反響がすごくて、非常に気持ち良かったです。80年代に日本で活動していた韓国の歌手、キム・ヨンジャやチョー・ヨンピル、羅勲児(ナフナ)など、近年よく話題になる「ポンチャック(韓国の代表的な大衆音楽のひとつ)」に対する反応は、韓国よりはるかに熱く感じました。一曲一曲終わるたびに、プレイした音楽に興味を示してくれたり、流す曲をお客さんが好んで踊ってくれている姿に感動しましたね。
ー日本と韓国でのクラブシーンの違いを感じる部分はありましたか?
Tiger Disco:ゲスト文化の違いに驚きました。韓国のクラブでは、たくさんのお客さんを呼ぶために、出演者は友人や知人に無料で入場できるゲスト枠や、無料のドリンクチケットをたくさん配る傾向があって。その結果、クラブのハコ側やスタッフ、出演するDJに戻ってくるお金が少ないのが現実なんです。
ーつまり売り上げが立たないと。
Tiger Disco:そうなんです。でも、昨年と今年、東京でイベントに出演した時は、すべての会場で、お客さんは正当な入場料を支払ったうえに、お酒を買って楽しんでいて。その姿を見て、アーティストとクラブに対しての敬意を感じました。これは私にとって非常に嬉しい経験でした。
様々な世代から支持される、ソウルのクラブ文化
ー韓国では音楽が好きな人だけでなく、幅広い人が日常的にクラブに立ち寄っているように感じますが、実際はいかがでしょうか?
Tiger Disco:クラブというのは、音楽がすごく好きで、音楽についてよく知ろうとしている人だけのための場所ではありません。一週間の疲れやストレスを解消するために来ることもあるでしょうし、楽しい週末を過ごすために来ることもある。それぞれの人がクラブに通う理由について、正しい・間違っていると判断することはできないですし、むしろ、より多くの人がクラブ文化に触れる機会が増えて、楽しんでくだされば、私のようなDJとしてはうれしい限りです。
ーそれくらい、ソウルにはクラブ文化が浸透しているとも言えますよね。
Tiger Disco:でも、単にクラブでの写真をSNSにあげることで自己顕示欲を満たしたり、異性に対して過度にスキンシップをとろうとする人、そして、DJが音楽をかける時にリクエスト曲を渡してDJのブースに入ってきて機器やレコードを触ったりする人などなどもいて。そういう、マナーの概念がない人には、私は否定的な立場をとっています。
ーちなみにTiger Discoさんは、泰葉の“金曜日チャイナタウン”など、DJの時に多くの日本の歌謡曲も使用していますが、こういった日本の歌謡曲はどのように知ったのですか?
Tiger Disco:1990年代のはじめ頃に、私の叔父が日本留学から帰国して。その時に多くの日本の音楽のアルバムを持って帰ってきたんです。その中にあった山下達郎の“クリスマスイブ”が、おそらく私が生まれて初めて聴いた日本の音楽だったと思います。90年代後半から韓国で日本文化の規制が解かれはじめたのですが、その頃から、ガイナックスやスタジオジブリのアニメーションに魅了され、X-Japan、Dir en greyのようなヴィジュアル系バンドの音楽もたくさん聴くようになったんです。
ー韓国内で日本文化の情報規制がなくなって、徐々に日本のカルチャーについて知っていったんですね。
Tiger Disco:そうですね。それから、軍隊に行っていた頃は、渋谷系のアーティストがお気に入りで、よく聴いていましたよ。DJを本格的に始める前は、いわゆる今のシティ・ポップ(当時は単純に「日本歌謡」と呼ばれていた)と呼ばれるアーティストたちの音楽に魅了されていました。個人的には、秋元薫さんがとても好きです。
ー逆にTiger Discoさんがオススメしたい、韓国の音楽があれば教えてください。
Tiger Disco:個人的にオススメする韓国のアーティストであれば、姉さんの理髪店(언니네 이발관)、光と塩(빛과 소금)、Goonamgua yeoriding Stellar(구남과여라이딩스텔라)などを聴いてみてほしいです。
ーでは、Tiger Disco流、ソウルの夜の遊び方を教えてください。
Tiger Disco:鍾路3街(チョンノサムガ)駅あたりにあるタプコル公園や、鍾路エリアに広がる屋台で焼酎を飲んで、酔いがまわってきたと感じたら、乙支路(ウルチロ)や延南洞(ヨンナムドン)にあるクラブをハシゴするのが個人的にオススメの遊び方です。周りの人やアーティストに迷惑をかけない程度に、適度に酔っぱらって、そしてビートやメロディーに身を任せれば、幸せな夜を過ごせると思います。
Tiger Discoがオススメする、ソウルのローカルクラブ
今回、Tiger Discoが普段よく行くというオススメのクラブを紹介。推薦してくれた場所は、いわゆるクラブ街にある大型クラブではなく、雑居ビルの一室で展開されているようなディープなスポット。是非、ソウルに行った際には、足を運んでみてください。
1.Channel 1969
Channel 1969は週末のDJイベントだけでなく、ミュージシャンたちによるライブのほか、スタンドアップ・即興コメディ、詩の朗読、ミュージカルショーなどが開催される、形式にこだわらないカルチャースペース。撮影当日も、Tiger Disco出演のDJイベントが開かれており、怪しげなピンクのライトに照らされて日本や韓国の歌謡曲を楽しむ人で溢れていました。
また、踊るのに疲れたら、フロアと壁一枚隔てたところに設置されている懐かしのレトロゲームを楽しんだり、ゴザに座ってくつろげるスペースがあるなど、自由な雰囲気が漂うのもここの魅力。Channel 1969の周辺は、弘大入口駅から少し歩いたところにある延南洞(ヨンナムドン)と呼ばれる人気のグルメエリアなので、周辺で腹ごしらえしてから、気軽に音楽を楽しみに行けるのも魅力です。
Tiger Discoによるレコメンド
DJイベントだけでなく、バンドなど様々なジャンルの素晴らしいアーティストの公演が毎週あるハコ。ディスコミュージックやアジアの歌謡曲などのイベントのほか、弘大のインディーシーンを肌で感じられる場所でもある。その一点だけでも、ここに行く価値がありますよ。
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Channel1969
住所:ソウル特別市麻浦区延禧路35
営業時間:火・水・木曜 20:00-2:00金・土曜 20:00-4:00日曜 19:00-1:00
定休日:月曜
URL:https://www.instagram.com/channel1969.seoul/
https://www.facebook.com/channel.1969.seoul
2.감각의제국(感覚の帝国)
次にオススメしてくれたのは、自身もよくDJをするという、印刷所が集まる工業街・乙支路(ウルチロ)の雑居ビルの一室にある、감각의제국(感覚の帝国)というミュージックバー。個性的なカクテルを提供しているバーでもあり、開かれたカルチャーホールとしてジャンル問わずイベントを毎週開催しています。2017年末にオープンするや否や、そのツッコミどころ満載とも言える怪しげな空間に一気に注目が集まりしました。
ジャンルや国籍問わず、世界中のエキサイティングな音楽を披露するイベント「グクポンの夜」(グク=様々な国の、ポン=ポンチャックという意味)や、インターネットでエキサイティングな音楽をディグっては披露する「安全第一電子音楽団」など、ほかのクラブでは体験できないような個性的なイベントがラインナップ。お客さんもただ踊るだけではなく、汽車のように連なって一体となったり、お店に設置されている木魚や鐘を打ち鳴らすなど、ほかでは体験できないエキセントリックな遊び方が可能。韓国での一味違う夜を体験したい人にオススメのスポットです。
Tiger Discoによるレコメンド
週末になるとよくDJとして出演している場所。ピカチューの形をしたトンカツや、韓国のレトロなグラスに入ったお酒など、一風変わったフードメニューがあるのもほかとは違うポイント。とにかくソウルのクレイジーな人がたくさん集まる場所です。それを見に行くだけでも十分に楽しめます!
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감각의제국(感覚の帝国)
住所:ソウル特別市中区忠武路7道19 4階
電話番号:01091425240
営業時間:月~木曜 18:00−24:00金・土曜 18:00-2:00
定休日:日曜
最寄駅:乙支路3街駅
URL:https://www.instagram.com/gamgook/
3.漫評 Vinyl music
最後に紹介してくれたのは、クラブに行くよりちょっと落ち着いて音楽を楽しみたいという人にオススメな、合井エリアにあるレコードバー・漫評(マンピョン)Vinyl music。レコードバーの名に相応しく、扉を開ければ所狭しと収められたレコードが目に入ります。ミラーボールや間接照明がキラキラ光るムーディーな空間は、DJの選曲したグッドミュージックでいつも満たされています。
韓国のインディーミュージック、ジャズ、ファンクなど様々なDJのプレイが楽しめるイベントが開催されており、ソウルの音楽通が毎週末集まるとも言われているバー。撮影当日は、韓国の70~80年代の歌謡曲が流れており、週によっては日本のシティ・ポップを流すイベントも開催されているそう。美味しいお酒を飲みながら、韓国の知られざる名曲に出会ってみたい人にはオススメのレコードバーです。
Tiger Discoによるレコメンド
日本のシティ・ポップや、韓国の歌謡曲をフィーチャーしたイベントが定期的に開催されているので、ムード歌謡に興味があるなら、ぜひここへ。ゆったりとした空間で音楽を楽しめますし、ここのオーナーが作るお酒はとても美味しくて美しいですよ。
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漫評(マンピョン)Vinyl music
住所:ソウル特別市麻浦区土亭路27 2階
電話番号:010-4755-9997
営業時間:19:00~02:00
定休日:月曜
最寄駅:合井駅
URL:http://www.facebook.com/manpyong/
https://www.instagram.com/manpyong/
- プロフィール
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- Tiger Disco
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ディスコミュージックをベースとしたDJクルー”East Disco wav.”所属のDJ。 ディスコを始め、シティ・ポップ、韓国の歌謡など、古き良き音楽の美しさを伝える。 2017年より、新宿のBe-Waveで開催された『めちゃくちゃナイト』をはじめ、幾度か東京のイベントへも出演する。
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