福岡県のうどん文化はじつに多様だ。最近ではいろいろなメディアでその魅力が紹介されている。もちろん、ここ北九州市にも個性溢れるうどん文化が存在していて、一日一麺をモットーにヌードルライターとして活動するぼく自身でも、知れば知るほどその魅力にどんどん引き込まれている。今回は、唯一無比の北九州のうどんの深みを共有したい。ヌードルライター山田の北九州うどん、略して“北九うどん”プレゼン、まずはこの4店舗を召し上がれ。
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
北九州、陸の玄関口で味わうソウルフード『ぷらっとぴっと』
北九州のうどん(以下、北九うどん)を紹介するにあたり、最初の一軒をどこにすべきか大いに悩んだ。
普通なら、北九うどんの王者『資さんうどん(北九州に本社を置く、大型うどんチェーン店)』にするべきなのだが、「資さん」はこの期に及んでぼくが熱弁を振るわなくても、十二分にその存在は知られている。
そこで、トップバッターはあの立ち食いうどんの店に決めた。そう、小倉駅構内、駅のホームにある『ぷらっとぴっと』だ。
JR小倉駅の立ち食いうどんは美味い——これは小倉っ子の間ではすっかり有名な話で、ぼくもそんな噂を聞いて訪問した。
『ぷらっとぴっと』があるのは、JR小倉駅の在来線、1、2番ホーム、7、8番ホームの2か所。駅に接続する複合施設『アミュプラザ』などでも同じうどんが食べられるが、やっぱり最初はホームの立ち食いで楽しむのがオススメ。それは、うどんに旅情感という格別な調味料が加わるからだ。
ちなみにぼくは7、8番ホームを贔屓にしている。これも小倉っ子の間では、1、2番派、7、8番派に分かれるようで、そういうちょっとした対立が生まれているあたりも愛してやまない点だ。
ここで紹介するのが、博多の「ごぼう天うどん」にあたるような、北九うどんの象徴的な一杯「かしわうどん」。
念のため、「かしわ」とは鶏肉のことで、東日本では馴染みがないかもしれないが、ここ福岡をはじめ西日本では広く親しまれる呼び名だ。かしわうどんとは、甘辛く味付けされたかしわがトッピングされているうどんのこと。
じつはこの『ぷらっとぴっと』では、そんなかしわ入りのうどんが基本になっていて、いわゆる、具なしの「かけうどん」に位置付けされる一杯が存在しない。
出汁は昆布やカツオのほか、鶏モモ肉も加えているそう。かしわをトッピングすることを前提にしたつゆの製法なのだ。かしわの旨みたっぷりなエキスが溶け込んだつゆは、一度食べると忘れられなくなること請け合い。
スピード命のホーム内の立ち食いうどん店だから、麺は軽く湯通しするだけで仕上がる茹で置き。そのため、麺の食感はふんわりとやわらかい。この麺が、つゆと絶妙にマッチする。140円の入場券を購入してわざわざ食べに来るファンもいるという一杯。未体験ならば、ぜひ一度食べてみてほしい。
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ぷらっとぴっと
住所:福岡県北九州市小倉北区浅野1
電話番号:093-533-0111
営業時間:7:00~21:50(オーダーストップ) ※1、2番ホームは20:50(オーダーストップ)
定休日:不定
愛情の塊のような路地裏の名店『錦うどん 中井本店』
北九州のうどんを紹介する際に、個人的に絶対外せないのが、この『錦うどん 中井本店』だ。この店の話になると、ぼくの目尻は知らず知らずのうちに下がってしまう。自分の周りからもこの店に対する愛情しか聞かない。この愛され方は北九州イチではないだろうかと思っている。
店があるのは、小倉北区と戸畑区の間を渡る大通りから一歩入った場所で、初めて訪れる際には少しだけわかりにくいかもしれない。それでも終日客足が絶えないのは、この店の“うどん力”のなせる技だ。
出汁、うどんの麺ともに無添加を信条とする。良質の昆布のほか、サバ、ウルメ、カツオといった節類でとった出汁は旨みたっぷりで、とてもやさしい味わいなのに記憶に鮮明に残るのだ。
店主の伊熊幸惠さんは「うちの出汁は小さな赤ちゃんもごくごく飲んでくれるのよ」と嬉しそうに教えてくれた。
麺づくりは伊熊さんの娘さんが担当。毎日、粉にまみれながら、打ちたて、切りたて、茹でたての自家製麺をこしらえる。ほどよくコシがあり、それでいてやわらかさもあり、じつに良い塩梅だ。
創業から半世紀以上が経つが、伊熊さんはいつも創業当時の気持ちで接しているという。以前に話を伺った際、「(お店が)奥に入った場所にあるでしょ。だからわざわざ来てくださった方々に対してお礼の意味を込めておまけをするようになったのよ」と教えてくれた。
そのおまけが、気まぐれでうどんに乗っけてくれるトッピング。ゴボウ天なども気前よく乗せてくれることがあるため、カウンターに積み上がった揚げ物が、みるみるうちに減っていく。そんな光景を見ていると、自然と「また来よう」と思うのだ。
ただでさえ美味しいうどんに、気まぐれのおまけが加われば嬉しさ100倍。気がつくと最後に訪れてから少しばかり間があいてしまった。また北九州の母に、会いに行かねば。
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錦うどん 中井本店
住所:福岡県北九州市小倉北区中井3丁目1-16
電話番号:093-571-4367
営業時間:10:30頃~18:00頃
定休日:日曜
気前の良さ全開! 至福の極太ごぼ天『うどん家 米』
小倉に「更新(さらしん)」あり――そう地元っ子に言わしめる名店『更新うどん」。ここから独立したご主人が営んでいるのが『うどん家 米(よね)』だ。
この店も先に紹介した『錦うどん』同様、ご主人がとても気さくで、店を訪れると、実家に帰ったかのようなホッとする感覚をおぼえる。
まずは、名物のごぼ天うどん(730円)を食べてほしい。「あれ、うどんはどこ?」と思わず口にしてしまいそうなほど、ごぼう天のインパクトがすごい。一本一本のごぼう天はまるで丸太のようなのだ。
かぶりつけば、ホックホクで食べごたえ満点。そのうえご覧の通り、盛りが良い。初めてオーダーした人はきっと「注文したのは普通サイズで、大盛りじゃないんですが……」と思うかもしれないが、これが「米」の基本なのだ。
もちろん大盛りだけが売りにあらず。旨みたっぷりなつゆはしみじみと沁みるし、自家製麺のむっちりとグラマラスな食感も痛快だ。一度、ここのごぼう天にハマってしまうと、他では満足できない体になってしまうかもしれない。
じつはもう一つオススメがある。それが「からあげうどん」。唐揚げは下味しっかりで、男性客からの圧倒的な支持を得ている。唐揚げのジューシーな肉汁が加わったつゆは、肉うどんのつゆとも一味違う美味。このうどんは、ぜひご飯ものと一緒に楽しみたい。
なお、うどんはどれもミニサイズが用意されている。ごぼ天うどんの場合には、極太ごぼう天が2本に。食が細い人、小さな子どもも気軽に親しめる心遣いもまた嬉しい。ちなみにうどんは、かけうどんの480円から揃い、お得なうどん定食も790円で用意してある。
ちなみにいなりもやや? いや、かなり大きめだ。ご主人曰く、「せっかくだから、お腹いっぱいになってほしいんです」とのこと。そう話す店主はとても幸せそうだった。
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うどん家 米
住所:福岡県北九州市戸畑区中原東1-22-17
電話番号:093-882-7979
営業時間:11:00~22:00(火曜、金曜は17:00まで)
定休日:なし
24時間、いつでも満足できる小倉南区のうどん店『かかしうどん 本店』
初めて小倉南区にある『かかしうどん 本店』に訪れたのは朝だった。知人から「ここの朝定食がとにかくすごい」と聞いたので、それならばと足を運んだ。
店に着いたのは午前9時くらい。なかに入ると、目の前に大量の小鉢が並んでいるではないか。これこそが、朝セット用の料理たち。
例えば「うどんセット」ならうどんとご飯、「豚汁セット」ならご飯と豚汁という組み合わせが基本となり、さらに目の前に並ぶ小鉢をどれでも好きなものを3つ選んで驚愕の450円。
一口に小鉢といってもじつに内容は多彩で、煮物から揚げ物、炒め物、お浸しといったように圧巻の充実ぶりで、ぼくは衝撃の余り言葉を失った。
しかもわずか50円を足せば、漫画のような山盛りのご飯に! わざわざ足を伸ばして朝からここの定食を食べに行く人々の気持ちが心の底から理解できた。
今回はうどんがテーマ。もちろんうどんも最高だ。もともとは料亭で修業をしていたという店主のうどんは、うま味調味料の類を一切使わない出汁が命。羅臼昆布を主体とした引いた出汁は老若男女に親しまれるやさしい味わいで、朝にすすれば活力がみなぎり、夜にすすればその日の疲れが癒される。
うどんは自家製で、店舗裏の工場で絶え間なくつくられたもの。その最大の魅力は、もっちりとしたコシ。この心地よい弾力は絶妙な熟成と、製麺の工程に足踏みを取り入れることで生まれる。歯にクイっと食い込む感触が痛快だ。
最初に食べるべきうどんは「ごぼううどん」。「ゴボウ天は太いほうが美味しい」と店主が言うように、先に紹介した「米」に匹敵する極太仕様だ。
「これだけ太いと、ごぼうそのものの味がはっきり分かる。だから質の悪いものは使えない」という店主の言葉に妥協の二文字は皆無。ちなみにこの店では、そんな「ごぼううどん」に、甘辛く炊いた肉を足すのがオススメ。
かかかしの看板が目印の『かかしうどん』は、は正月の三が日を除いて年中無休、週末は24時間営業。無くなっては困る小倉の良心だった。
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かかしうどん 本店
住所:北九州市小倉南区高津尾130
電話番号:093-452-1905
営業時間:7:00~21:30、金曜7:00~日曜21:30は通し営業
定休日:なし
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