太くて鋭い音というか、重厚感のある音を出したい
―THE NOVEMBERS(以下、ノーベンバーズ)はCINRAに初登場なので、軽く自己紹介をお願いします。
小林:ギターボーカルの小林です。
ケンゴマツモト:ギターのケンゴマツモトです。
高松:ベースの高松です。
吉木:ドラムの吉木です。
―ノーベンバーズは最初の自主音源の頃から一貫してギターバンド的というか、オルタナティブな音楽性ですよね。小林さんと高松さんが組んだという前身バンドの頃からそういった音楽性だったんでしょうか?
小林:前身バンドは今とはちょっと違う音楽をやっていたんですけど、ノーベンバーズを初めてからはオルタナ寄りって感じですね。
―オルタナと言っても、ノーベンバーズはUKとUSのオルタナが絶妙に混ざっているのが面白いと思うんです。
小林:自分だとわからないんですけどねぇ。
―歌のメロディだったり、小林さんのアルペジオはそれこそライドだとかスミスだとかUK的なんですけど、そこに入るマツモトさんのギターがモロにダイナソーJr.っていう感じで。そういうハイブリッドなバンドって、そう言えば日本にあまりいなかった気もします。
小林:大きく出たなぁ(笑)。
―単純にUKっぽい、USっぽいバンドならいっぱいいると思うんですけどね。そんなノーベンバーズが最近聴いている・影響されたバンドっていうのはありますか?
小林:影響というよりも好きで聴くバンドの方が多いですね。昔からスミスとかキュアーとかはずっと聴き続けています。それこそベルベット・アンダーグラウンドとかピクシーズとか、ずっと聴きはするんですけど、バンドの絶対数はそこまで多くないと思います。最近新しく好きになったのはバトルズとかアリエルっていうバンドだとか。ティーンエイジャーズっていうのも格好良かったですけどね。
―好きな音楽もオルタナティブなものが多いですね。ではこれからもオルタナティブな音楽性を追求していくということでしょうか?
小林:今後はどうなるかわからないですけど、今はそうですね。でもオルタナなのかなぁ。そもそも選択したっていう意識はあんまりないですね。
ケンゴマツモト:結果的だよね。
小林:うん。聴く音楽も作る音楽も、計画的にどういうというよりも、なるべくしてなったというか。
―それでは新作『picnic』についてお聞きしたいと思います。これは全国流通2作目ですが、作風やバンドの空気など、変わったところはありましたか?
吉木:1stミニ(2007年に発表した『THE NOVEMBERS』)は、それはそれで全力でやっていたんですが、今回はちゃんと腰を落ち着けてじっくりやれた気がします。
―それは良い意味でレコーディングに慣れたということですよね?
ケンゴマツモト:前回はレコーディングすることに精一杯というか、集中していたんですが、今回は音を出すというか演奏する前にしなきゃいけない事を意識して作品を作れた気がします。
小林:実感的には今回の方がモノを作っている意識があって、作ってる音に対してメンバーそれぞれが追求していけたと思います。でも、レコーディングするのに精一杯だった前作が悪いというわけではなくて、それはそれでCDに入ってる唯一無二なものじゃないですか。あの瞬間にしか出せなかった音が詰め込まれてる、一回しか出せないデビュー作っていうすごく尊いもので。「それがダメで今回はもっとすごいぜ!」っていうわけではないです。
―1stミニはライブと比べてかなり丁寧に演奏されていると思ったんですが、今回はそれに加えて更に感情のこもった歌や演奏が入っている印象でしたね。特に“chernobyl(チェルノブイリ)”とか。
高松:今回はベースをアンプで出せたり、それぞれブースがちゃんと分かれてたり環境がすごく良かったので、全体的にやりやすかったっていうのはありますね。
―プレスリリースの資料に「サウンドのテーマは『鉄』で、耳がおかしくなる程の大音量で録音した」とありましたが、具体的にどういう事でしょうか?
小林:鉄っぽくしたいっていうのを僕が最初に言って、各々が解釈して出てきたものが格好良かったのでそれをレコーディングしたっていう感じですね。個人的な鉄のイメージっていうのは、具体的に言うとソニック・ユースの『Sonic Nurse』っていうアルバムとか、dipとか。シェラックはまたちょっと違うんですけどね。細くて鋭い音っていうよりも太くて鋭い音というか、重厚感のある音を出したいと思ったんです。
―歌詞についても伺いたいんですが、小林さんの歌詞は「あなたを汚した夏と罪」(『THE NOVEMBERS』収録の“最近あなたの暮らしはどう”より)のように、普通のポップソングとはまた違う、自分の経験した強烈な一瞬を描写することが多いですよね。
小林:半ば自分のトラウマというか、自分の女性観が歌詞に出てると思うんですけど、僕の経験うんぬんじゃなくて、女性に対する縛られがちな思い込みなんかを書いたりしてますね。当時はリハビリ的に出してる感じだったんじゃないですかね?
―もう少しだけ詳しく聞いてもいいですか?
小林:自分の価値観を揺るがす存在っていうのが僕の場合は女性だったんです。まぁ逆恨みみたいなものも沢山あったんですけど(笑)。でもその一方的さっていうか、若い時の純粋さっていうか、相手の都合とか状況とかを考えない感じですよね。それが美しいっていうわけではないですけど、当時思った事を引きずっているというか。
伝えたいっていうよりも、ただ「言いたい」だけなんですよね。
―今回のアルバムでは、例えば“こわれる”の「感性が剝がれてく/生活だけが残る」という歌詞に代表されるように、社会に対して何かを言っているな、という印象を受けました。1stミニの「きみとぼくの世界」から少し外に出たというか。
小林:外の事は確かに意識していますね。さっき言われた自分と相手がいた狭い価値観っていうのがあって、昔はその2つだけだったんですけど、それ以外にも外の世界があるっていうことに気がついたんです。別に社会に怒ってるわけじゃないですけど。
―「社会への怒り」というか、「生きていくこと」について歌っていますよね。恋愛もそれ以外のことも含めて。自分自身10代の頃に『ライ麦畑でつかまえて』なんかを読んで「これは俺か」って感動していたんですが、最近だんだんとそういうのがしんどくなってきたり「大人にならなきゃな」って思うようになったんです。そういう感性を嫌いになったわけではないんですが、ちょうど“こわれる”の歌詞を読んで改めてその狭間でもやもやしているというか。それこそ「青い気持ちが無くなってきているなぁ」と思ったり。
小林:でも、それを美しいって信じきってすがることだけが正しいとは限らないんですよ。きっと。過去が一番良い・正しいってなると、未来はどんどん悪いものになっていくだけですよね。それは「生きる」っていうことを圧倒的に否定しているようにしか思えなくて。「昔は良かった」って思うのは、実は良い・悪いではなくて、ただ単に自分がその頃とは違う環境に来たということですよね。だから、「昔が偉い」っていうのはダメなんですよ。
―プレスリリース資料にあった小林さんの全曲解説メモを読ませていただいたんですが、例えば“アマレット”の項目では「理由のない『僕のものが奪われた感』がある」と書かれていました。これも今までの話と関連するように思うんですが、具体的にどういった事なんでしょうか?
小林:ある程度なら(笑)、具体的な出来事はあるにはあるんですけど、それを言って自分だとか周りが何となくシラケる空気になるのがあんまり好きじゃないんです。だから歌詞も、具体的な話というよりは、事実だけというか、感情のゆらぎだとかを書くようにしてるんですよね。
―具体的に「○○さんと何かあった」という一連の流れを書くのではなくて、「何かがあった」という事だけを書くことによって、リスナーに想像する余地を与えようとしてるんですか?
小林:意識的に想像して欲しいとはあんまり思わないですけど、リスナーが自分の好きなように想像するのはいいと思いますよ。確かに、絵とか音楽とか文字とかに触れて想像力が働くのは良いことだと思いますしね。
―小林さんがブログで、「言いたいことも伝えたいことも無い、でも言うことや伝えることはある」と書いていたのがすこく印象的でした。ノーベンバーズの世界観を表しているフレーズだと思ったんですが、その意図を100%そのまま相手に「伝える」のは本当に難しいことですよね。
小林:例えば「夢を持っている」・「やりたい事がある」人が偉いって思われるのもそうですけど、何か言いたい事があったり、社会に対して伝えたいことがあるアーティストの方が偉い・正しいというのは間違いだと思うんです。だから僕は、自分の音楽を聴いてくれたリスナーが「こうなって欲しい」っていうは、そこまで望んではいないんですよね。
―それはつまり、「伝わる」というのはあまり重要ではないということでしょうか?
小林:自分自身で口に出すまで言いたい事はあるんですけど、それは誰かに伝えたいっていうよりも、ただ「言いたい」だけなんですよね。本当の意味で。だからそれを勘違いしないで欲しいっていうのがそのブログ記事を書いた意図であって、社会に不満があったとしてもそれをただ言いたいだけなんです。
―ロックって何かに「反抗する」ことがアイデンティティーだとされてきて、政治や大人、教師などが「敵」として扱われてきたわけですけど、最近だと「最終的には自分が悪い」みたいな自己責任論と共に、不満の矛先が自分に向かってきている気がします。そんな中で、さきほど小林さんが「間違ってる」と言った「意識の高い人が偉い」という風潮は確かに支配的だと思うんですよ。だから、そこに異を唱えられる小林さんの歌詞って、とても新鮮に響くんですよね。
小林:そうなのかなぁ。あんまりわかんないですね(苦笑)。でも、言う相手だとか、敵がいてナンボのロックだって思っちゃうのはサムいんですよ。もしその敵がいなくなっちゃったらその後どうしますか? って思いますし。
ケンゴマツモト:考えるとね。
小林:自分が正しいって思ってるならいいけど、みんなが正しいって言ってるからってそれをやったらサムいぜって話ですよ。
―バンドの音楽全体にある種の説得力があるのは、そういった「人に流れさないもの」を持っているからだとも言えますよね。さて、この夏は『ROCK IN JAPAN FES.』への出演が決定していますが、最後に今後の抱負というか野望のようなものがあればコメントをお願いします。
小林:より格好良い曲を作って、自分達が格好良いと思い、それでどんどんお客さんが増えていって欲しいですね。唯一他の人にして欲しいのは、聴いて欲しい・観てもらいたいっていうことだけです。どう取るかっていうことは好きにしてくれていいと思いますし。
ケンゴマツモト:格好良い音源を作って良いライブをしていくっていうことですね。
小林:新鮮な驚きと喜びを持って、ね。
高松:僕も自分を磨きたいかな、と。
吉木:うん、自分を磨くことですね。目標としているところはあるので、そこに少しでも早く行くればと。
小林:デイブ・グロールが舎弟になるぐらいの場所ですよ(笑)。
吉木:デイブとか、ボンゾぐらい叩きたいですね。目標なので。
- イベント情報
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- 『picnic』 release tour 『kowarenai』
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2008年6月11日(水)
会場:広島 Cave-Be2008年6月12日(木)
会場:山口 LIVE rise2008年6月14日(土)
会場:福岡 VIVRE HALL2008年6月15日(日)
会場:熊本 Django2008年6月20日(金)
会場:仙台 MACANA2008年6月25日(水)
会場:水戸 LIGHT HOUSE2008年6月27日(金)
会場:新潟 JUNK BOX mini2008年6月28日(土)
会場:宇都宮 Hello Dolly2008年7月2日(水)
会場:京都MOJO2008年7月3日(木)
会場:金沢vanvan V42008年7月4日(金)
会場:長野 live house J2008年7月6日(日)
会場:代官山 UNIT2008年7月28日(月)
会場:名古屋アポロシアター2008年7月29日(火)
会場:大阪・十三FANDANGO2008年7月31日(木)
会場:下北沢 SHELTER(ワンマン) - 『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008』
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2008年8月3日(月)
会場:国営ひたち海浜公園
- リリース情報
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- THE NOVEMBERS
『picnic』 -
2008年6月4日(水)発売
価格:2,310円(税込)
DAIZAWA RECORDS / UK PROJECT inc.1. こわれる
2. Arlequin
3. chernobyl
4. アマレット
5. ewe
6. 僕らの悲鳴
7. ガムシロップ
8. アイラブユー
9. 白痴
10. picnic
- THE NOVEMBERS
- プロフィール
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- THE NOVEMBERS
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2005年、THE NOVEMBERSとしての活動が始まる。夏にメンバー脱退。 サポートドラマーとして吉木諒祐を迎えそのまま正式加入。秋にはケンゴマツモトが加入し現メンバーが揃う。 2006年、デモCDを2作発表。それぞれがCDショップの委託チャートを賑わす。
11月7日、1st mini album『THE NOVEMBERS』をリリース。 12月、THE NOVEMBERS release tour『picnic』を大阪・名古屋・宇都宮で開催。 12月17日下北沢garageでのワンマン(ツアーファイナル)はチケットソールドアウト。 6月4日、1st full album『picnic』をリリース。 6月、tacica / People In The Boxとのツアーを行う。
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