5年という余りにも長い沈黙に終止符を打ち、遂に新作『I'm not fine,thank you.And you?』をリリースする54-71。ギターリスト脱退劇の後、約3年間ボーカルレスのインストバンドとして活動し、最終的には新しいギターリストを迎え元の編成での新作レコーディング。ちょっとした回り道にも思えるこの5年について、シリアスな話しになるかと思いきや、リーダーこと川口賢太郎氏の口からは意外な発言が! 個人経営の名レコードショップ「some of us」を閉店後、54-71と共に音楽レーベルcontrarede(コントラリード)を設立した小林英樹氏にも加わって頂き、54-71とcontraredeの展望を伺った。
「神様」っていうのが、人間の一番の発明でも
突き詰めて考えてみたら、笑えたんです
―5年ぶりとなる待望の新作『I'm not fine,thank you.And you?』、随分と不機嫌そうなタイトルですよね。やはり鬱憤が溜まっていたのでしょうか?
リーダー:いや、全然不機嫌じゃなかったですよ。むしろこんな健全な時期は他にないくらいでした。「I'm not fine」にしたのは完全にユーモアですよ。海外ツアーに行ったり向こうのバンドを呼んだりした時に外人と挨拶するじゃないですか、「how are you?」って。おれは本当に天邪鬼だから、「I'm not fine」って言っちゃうんです。でもそうすると、みんな笑ってくれるんですよ。
―じゃあこの5年間は特にキツい時期ではなかったと?
リーダー:決められて何かをやる必要もなかったし、全然苦しい時期ではなかったですね。美談にすることもできる期間だけど、実際楽しかったから。
小林:自転車ばかり乗ってたもんね。
―そうなんですか?
リーダー:「カルマ落し」って呼んでたんですけど、ふと遠くに行きたくなるとそのまま自転車で行ってみたり。特に意味なんてなくて、完全にウケ狙いのネタみたいなもんですよ。遠くまで行って誰かに電話して、「今●●にいるんだよね~」っていうとウケるじゃないですか。
―めちゃくちゃ自由人ですね(笑)。この5年間、宗教の経典を読み漁っていたという噂も耳にしましたが…?
リーダー:音楽のことを知りたいと思っていたんですけど、そもそも人間について知らないと音楽なんて分かるわけ無いと思って、世界中の宗教の経典を読み出したんです。それから、人間のことが余計に分からなくなりました。でもまあ、経典は面白かったですけどね。音楽よりクリエイティブでした。
―クリエイティブ、ですか?
リーダー:クリエイティブですよ。キリスト教とかイスラム教では、右の頬をはたかれたら左の頬を出しなさいと教えられているわけだけど、普通は出したくないじゃないですか?
―痛いのは嫌ですね。
リーダー:ところがよくよく聖書を読んでみると、頬を出しなさいと言ったキリスト自身が別のところでは大暴れしてるんですよ。でも、キリストのそういう矛盾は誰も指摘しないで、ピースフルな部分だけを取り上げている。それって何かおかしいじゃないですか。そう思って経典を読んでたら、だんだん宗教のあら探しになってしまって。結局は宗教も人間が作ったものだということがよく分りましたね。
―なるほど。確かに宗教だって誰かしらが作ったものですもんね。
リーダー:そうそう。だからなぜ宗教に走ったかというか、いや、宗教の調査に走ったかというと、「神様」っていうのが人間の一番の発明だと思ったんですよね。まあ音楽も人間の発明ですけど、突き詰めて考えてみたら、最終的にどっちも笑えたんですよ。神様も音楽も。
―なんで笑えたんですか?
リーダー:神様って何をやっても許されるじゃないですか。特に旧約聖書の神様なんてジャイアンみたいなもんですから(笑)。でも音楽も似たようなもので、よく「音楽の神様」がいてどうのこうのみたいな話にもなる。それがすごく不思議で、何も無いのに何でそこまで真剣になれるんだ?って考えたら、ものすごく笑えたんですよ。
たとえば音楽関係の方と話していると、みんな知識もあるからまことしやかに音楽論を語るわけですけど、とにかく面白い話をする人がいない。考えてみると結局、音楽も人間が作っているわけだから、作っている人間を無視して音楽の話だけしても面白いはずがないんですよ。それはただの絵空事を話してるわけだから。音楽が勝手にできるわけじゃなくて、人間が音楽をやろうと思って初めて音楽ができる。だから「人間」の方が重要だし、「所詮は音楽」とも思えるようになりましたね。
もともと自由だったはずなのに、
いつの間にか自分で枠を作ってしまっていた
―じゃあこの5年間で、音楽の価値がいい意味でフラットになりました?
リーダー:ああ、そうですね。完璧に。でも、だからといって自分たちの音楽性に何か反映されたわけではないです。ただ、音楽に接するのが楽になりましたね。
―それまでは苦しかったんですか?
リーダー:なんだかわからないけど、追い詰められている感じはありましたね。54-71を始めて軌道にも乗ったから、まじめにやんなきゃいけないと思ってストイックぶっていたんだけど、そうじゃねえなって思ったんですよ。
―それは54-71にとって随分大きな変化ではないですか? 54-71といえばまさに「ストイック命」だと思っていましたし、あのタイトなリズムなんてストイックの真骨頂ですよね。
リーダー:ああ、もうダメっすね。疲れちゃった。メンバー自身がそういう頭になってるから、曲を作ってても「いやうちのバンドとしてはさ~」なんて話になるんですけど、「なんだよそれ?」って思うようになりましたね。
―いい意味でこだわりがなくなった?
リーダー:そうですね。もともと自由だったはずなのに、いつの間にか自分で枠を作ってしまっていた。「所詮は音楽」と思えたことで、その辺は本当に自由になりました。
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音楽の作り方を茶化した歌詞を書いた理由とは?
せっかく言葉を発するなら、
社会との関わりが明確になるような活動をしたい
―アルバム1曲目“ugly pray”の歌詞を読んで大爆笑しました。この歌詞は、たとえばAメロがあってBメロがあってサビがくるという予定調和な今の音楽の作られ方を茶化してますよね。
“ugly pray”
let's start a farce, a.k.a groove
茶番を始めるぜ、グルーブっていう茶番をな
begin with the second verse,
二番から始める?
Ah sorry first verse,
あー、一番からだった
“ugly pray”対訳の続きを読む
リーダー:完璧に茶化してますね。常識通りの、いわゆるロック好きが喜ぶような音楽なんて簡単に作れちゃう。それをやってみせたのが“ugly pray”という曲で、こういうのって変な宗教と変わらないと思ったんですよ。
―それっていうのは、今の日本のバンドを見てて違和感があったんですか?
リーダー:そうですね。僕らより上の世代は常識に対してアンチな姿勢を貫いてる人が多いけど、下の世代は音楽をパソコンで編集して作っちゃいますよね。それがなんか嫌なんですよ。血の気の無い感じが。ミュージシャンがちょっと捻くれた音楽を作って、お客さんもお客さんで「ああ俺分かってるぜ」ってしたり顔をする。その馴れ合いみたいのが、なんか嘘くさくて気持ち悪いんです。
―確かに今、好みごとに小さなコミュニティーにどんどん細分化されて、傍目から見ると馴れ合いに見える盛り上がり方も多いかもしれませんね。
リーダー:まあ別にアンチを訴える必要も特にないんですけど。ただ、あの手のスタイルには疑問を感じていたから、自分の中でも整理しておこうと思ってやってみた。そしたらやっぱり嘘くさく感じて、歌詞でバランスを取った感じですね。
―歌詞を読まなければ「普通にカッコいいロック」ですよね。
リーダー:下手すりゃ原点回帰とか言われちゃいそうなね(笑)。
―54-71は問題提起をしていく姿勢を持っていますが、その点で歌詞の担う役割大きいですか?
リーダー:この5年間で、歌詞というものが音楽を音楽で終わらせないすごくいい道具だと思えるようになったんですよ。だから、読んだ人がちょっと考えるような歌詞にしたいと思いました。曲だけじゃなくて54-71の活動自体も、音楽というジャンルの中で終わらせたくなかったんです。それは馴れ合いへの第一歩じゃないですか。せっかく言葉を発するなら、社会との関わりが明確になるような活動をしたいなと。
―閉じこもって馴れ合うのではなくて、積極的に社会と関わろうとする。自己満足では済まされない分すごく勇気のいることだと思いますが、社会を刺激したり影響力を持つ表現活動というのが一番カッコいいと思うんです。だから是非こういう歌詞を、日本語で歌って欲しいと思ったりするんですが(笑)。
リーダー:何で日本語でやらないかというと、コロンビア大学を卒業して東大の大学院で何かを研究してるというエリートにですね、「日本人が外国で意見を言うのはものすごく危険だし、相手にされない」って熱弁されたんですよ。だったらなおさらそこに切り込んでいく必要があると思ったし、そんなエリートがそれをやらないんだったら、俺らがやろうかなって思いましたね。
昔はバンドがアルビニのカラーに染まってしまう恐れがあった
でも今の54-71ならその心配もないと思って
―今作は一発録りでレコーディングされていますが、どんな理由があったのでしょうか?
リーダー:余計なことを考えられない状況で録った方がいいと思ったんですよ。そうしないと、あーでもないこーでもないって試行錯誤してしまうから、今回はただシカゴに行って、今の54-71を記録して来ようと考えたんですよね。
―それで遂に、エンジニアに巨匠スティーヴ・アルビニを起用したんですね。
リーダー:まあぶっちゃけちゃうと、アルビニにしたのは売名目的もあったんですけどね。海外でもリリースするし、アルビニというだけで話題になりますからね。自分たちのレーベルだし、レコーディングから効果的なプロセス踏んでおいた方がいいかなって。でももちろん、生音をただ単に記録するだけなら、あんなすごい人は他にいないと思いますよ。
―アルビニは話題になるだけの仕事をしますよね。それも確かに、バンドの一発録りで威力を発揮する人ですもんね。
リーダー:そうそう。これまでもボブ・ウェストン(アルビニと同じバンドSHELLACのメンバー)に録ってもらってたんですけど、なんでアルビニにしなかったかと言うと、昔はバンドがアルビニのカラーに染まってしまう恐れがあったんですよね。ただ単にアルビニの録った作品になっちゃうというか。でも今の54-71ならその心配もないと思って。
―実際アルビニとやってみていかがでした? かなり生々しい音であり作品だと思うんですけど、録り音に色づけすらしないんですか?
リーダー:あの人、音はいじれないんですよ。本当に録ったまんまの音で、マイクを立てる職人ですね。一応色づけしようとアイディアは出してくれるんですけど、それはあんまりよくないんですよね(笑)。
―そうなんですか(笑)。
小林:でも仕事は早くて、すぐに終わっちゃいました。予定より一日早く終わっちゃったから、その分のお金返してくれて(笑)。
リーダー:いいやつでしたよ。
小林:そうそう、すげえいいやつなんですよ。空いた一日も、お前らせっかくだからメジャーリーグの試合観た方がいいよってチケットを取ってくれて。シカゴカブスの試合で、福留を観てきました (笑)。
―観光までサポートしてくれるんですか! 知られざるアルビニの裏話が聞けて嬉しいです(笑)。
リーダー:まあこんなのがアルビニファンの目に触れた日には怒られるかもしれないけど(笑)。でも事実なんで。
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contraredeとは、如何なるレーベルか?
常識に乗るなら乗るで、ヒルズに住めるくらい金稼がなきゃ面白くないそうはなれないから、まあケツをむけて、笑えることをしようと
―小林さんは名店として知られたレコードショップ「some of us」を閉めて、54-71と一緒にcontraredeというレーベルを始めたんですよね。
小林:そうですね。お店を閉めてからレーベルを始動するまで1年くらい、リーダーと一緒に色んなところにcontraredeのプレゼンをして、商品価値の一つとして54-71のやってきたことも出させてもらったんです。
リーダー:俺にもその辺の事情は分るから、contraredeから54-71のアルバムを出すよ、出させてくれっていう話になったんです。だから小林さんのお陰で、常識に捕われたレーベルではできないことが沢山できるんですよね。
―このレーベル名「contrarede」(反対にリードする)からしても、やはり「常識外のことをやっていこう」というのがモチベーションになっているんですか?
リーダー:その方がやってて楽しいですからね。音楽業界を外から見てると、ルールが多すぎると思うんですよ。CDジャケットにしても、営業の方法にしても、とにかくフォーマット通りで。そんなことやりたくないし、オリジナルな活動した方が面白いじゃないですか。せっかくインディーっていう足回りの軽いところにいるんだから、自分たちが食える範囲で好きにやればいいと思うんですよ。
小林:それで、僕たちが作ったCDパッケージがコレです。
―おおおお! これは、すごい!!! まさしく常識外ですね。見たことないですもん。これ、いくらで売るんでしたっけ?
小林:2800円です。
リーダー:飛び降りましたよね。完全に。
―うわあ。それは安い…。
リーダー:これも今回だけで終わったら面白くないから、うちのレーベルからアーティスト契約して出すタイトルは全部これでやるつもりなんですよ。
―ただただ驚愕です(笑)。
リーダー:常識に乗るなら乗るで、ヒルズに住めるくらい金稼がなきゃ面白くないじゃないですか。そうはなれないから、まあケツをむけて、笑えることをしようと。
小林:そして一応、広告も作ったんですよ(含み笑い)。
―なんでもう笑ってるんですか?
小林:これです。
―はははは! めちゃくちゃパンチありますね(笑)。
リーダー:それしか求めてない。これじゃ54-71の広告なのか分らないって言われますけど、いいんだよそんなこと。お前これ見てどんだけ笑ったと思ってんだよって。
小林:他にもまだ色々あるんですけど…
リーダー:さっきのもこれも全部、デザイナーが喜んで自分の顔を合成してるんですよ。みんなが笑ってくれればそれでいいんです。
―いやあ、素晴らしいです。とにかくみんなを楽しませたい?
リーダー:もちろんそれもあるけど、自分が楽しみたいんです。だってこれを広告にするってことは、もう仕事場で笑ってていいわけですよ。
―そうやって生きてた方が幸せかもしれませんね。
リーダー:色々な経験を経て、「まじめにやろう」じゃなく、「どうでもいい」になっちゃったんですよね、川の向こう側が。
世の中って絶対に楽しんで乗り切る方法がある
―それでは最後に、今後についてのお話を伺いたいと思います。myspaceで54-71の新曲デモ音源を聴いたんですが、これまでとは随分変わりそうですよね。新作のレコーディングなども考えているんですか?
リーダー:そうですね。次の作品では、54-71というスタイルにこだわりすぎて封印してたものを全部解き放とうと思っています。12月に新作をレコーディング予定です。
―おお~、それは楽しみです。積極的ですね。
リーダー:自分たちのレーベルだし、色んなアイディアが出てきて面白いからね。こういうポスターで宣伝できるところなんて他に無いし、だったら活動しといた方が楽しいかなって。
―一人の受け手として、常識外のアイディアが社会に飛び出してくるはとても楽しみです。
リーダー:このポスターを見て嫌だと思う人も絶対にいるはずだから、みんな楽しんでくださいとは言わないですけど、笑っちゃう人は笑って欲しい。笑っていいバンドだから。
―これは笑うと思いますけどね(笑)。
小林:CDを売ろうと考えたら、どうしても音楽ファンを狙ったプロモーションになりがちですけど、このポスターとかCDパッケージとか、音楽を聴かない人でも何これ? って思いますよね。今までまったく関係なかった人達にも引っかかるかもしれないし、そのきっかけが笑いだったら、やっぱりいいじゃないですか。
―これがCDショップで目に入ったら、54-71を知っているかどうかなんて関係なく気になりますね。
小林:そうなんです。CDショップに宣伝用のPOPがディスプレイされるじゃないですか? POPってレーベル側が用意するように言われるんですけど、ぼくは自分でお店をやってた人間だから、POPは店側が作るべきだという持論があって、冗談じゃないと言ってたんですよ。でもこの広告ができた瞬間に、POP作ろうと(笑)。
―持論を覆してでもやる価値があると。
リーダー:だから、世の中って絶対に楽しんで乗り切る方法があるんです。今の小林さんの話も、最初は自分の経験で固めて断っていたわけだけど、逆に面白おかしく乗っかる方法があったわけですよ。そういうのをちゃんと探していきたいですよね、レーベルとしては。
- リリース情報
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- 54-71
『I'm not fine,thank you.And you?』 -
2008年9月19日発売
価格:2,800円(税込)
CTRD-003X contrarede1.ugly pray
2.idiot (awakening of the Noex)
3.cosmetic overkiller
4.cracked
5.ceiling (detuned)
6.that's the way
7.bloomin' idigott
8.life is octopus
- 54-71
- プロフィール
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- 54-71
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1995年結成。独自のパンク・ロックを構築し、battlesや向井秀徳(NUMBERGIRL活動当時)を含む国内外の音楽人を魅了。J-POPとはかけ離れたサウンドながらメジャーレーベルと契約するなど、孤高の存在へと昇りつめる。2004年にギターリストが脱退した後、3人編成のインストバンドとして活動。2007年に高田拓哉がギターリストとして加入してすぐ、シカゴへと飛び巨匠スティーヴ・アルビニのもとで新作『I'm not fine,thank you.And you?』をレコーディング。自身を中心とするレーベル「contrarede」を設立し今作のリリースに至る。
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