USインディ〜オルタナからの影響を感じさせるサウンドと、3ピースならではの巧みなアンサンブルで高い評価を獲得しているperfect piano lesson(以下、ppl)が、新作『Wanderlust』を発表した。メンバー自身が言うとおり「開かれた」作風になった本作は、これまで以上に幅広いリスナーへと届く可能性を秘めた会心作に仕上がっている。リリース後は、8月にスプリットも発表している盟友の3ndや、先日インタビューを掲載したハイスイノナサらと共演するツアーが始まり、12月にはバンドにとって初となるワンマンを開催。作品からも、そしてアーティスト写真からもはっきりと伝わってくる勢いに乗って、pplの快進撃が今始まる。
(インタビュー・テキスト:金子厚武)
より「開けた」作品に仕上がった新作『Wanderlust』
―まずは先月の残響祭の感想から聞かせてください。
白根(Gt & Vo):面白かった、楽しかったっていうのと、疲れたっていう(笑)。自分たちで車で移動だったんで、初日で結構出鼻をくじかれた感があって。すごい渋滞で、あんなになると思ってなかったから、(大阪まで行くのに)12時間ぐらいかかって。
大屋(Ba):ちょっとは寝れるかと思ってたんですけど、結局ほとんど寝れず…初日のライブはマジできつかったですよ(笑)。ウォーミング・アップできなかったですもん、しんど過ぎて。徹夜状態でライブやったの初めてですからね(笑)。
―(笑)。まあでも祭自体はすごく盛り上がりましたよね。
白根:そうですね。人もすごくいっぱい来てたし。僕たち残響祭は最初の年からずっと出てて、どんどん規模が大きくなってることを体感できてるんで。
―1回目ってO-NESTですもんね。それが今やその反対側のでかいところで…
白根:すごいですよね。それだけ人気が出てきてるんだなって。
―レーベルの他のバンドがまとまって見れるのも刺激になりますよね。今回見て印象深かったバンドというと?
白根:ピープル(People In The Box)とムーディ(mudy on the 昨晩)はすごいよかったな。僕は特にムーディが、どんどんライブがかっこよくなってる。ああいうすごく複雑な音楽性のバンドがあれだけ人気出てるってすごいと思いますね。一般的な音楽って感じじゃないじゃないですか? なんですけど、あれだけ人気が出てるっていうのは、ライブがいいからかなって。
―それに対してお客さんものってますもんね。「何だろう?」って見てるわけじゃなくて、それをちゃんと楽しめてる状態っていうのはすごいですよね。それこそ、それが残響recordが果たしてきたことなのかなって。
白根:そうですよね。
―では新作『Wanderlust』ですが、すごくストレートで勢いがあって、なおかつポップな作品だと思いました。ボーナス・トラック含めて13曲とボリュームもあって、ご自身の満足度も高いのでは? と思うのですが、実際どうでしょう?
白根:満足度は高いですね。当然今までやってきたようなアンサンブルが大前提にあるんですけど、メロディと勢いが今までよりも前に出て、開けた感じの作品になったかなって思いますね。
―そういった作風にバンドが向かったのはなぜなんでしょう?
大屋:あんまり考えてはいなくて、できた曲がそうだったっていう話で。たまたまできた曲が、白根も言ったとおり、開かれてるっていうか、もうちょっといろんな人に聴いてもらえるような作風になったのかなって。特に意図的って感じではないんですよね。
彼は片道分の燃料を積んだ潜水艦で、日記とラジオだけ持って潜っていくんです。
―今年の1月にO-WEST、4月にUNITでイベントを開催してるじゃないですか? だから意識的にギアを入れたって部分があるのかな? とも思ってたんですね。それでその勢いがアルバムの内容にも反映されたのかなって。
大屋:確かに、それはおっしゃるとおりですね。半年ぐらいで3回企画やったんですよ。11月にO-NESTでやって、1月・4月で徐々に規模を上げていこうって話をして。
白根:ちょっと背伸びをした感じのというか(笑)。
大屋:大分背伸びしたよね(笑)。
―でもそれをやったことが本作に繋がるいい流れになったんじゃないですか?
大屋:まあ、これから次第ですね。ツアー、ワンマンと上手くいけば、やってよかったねっていう風になると思うし。
―じゃあ改めて、アルバムを作るにあたって、特に意図的な方向性があったわけではないと。
白根:基本的にはなかったですね。
―1曲1曲作っていって…
白根:そうですね。そのときある曲をそのまま入れるって感じなんで。毎回そういう話って全くしないんですよ。「今回はこういう作品にしよう」っていうのは。
大屋:ゴールデン・ウィークに合宿をして曲を作って、その後に河野さん(残響recordの社長)と打ち合わせをして、プリプロをしていく中で、タイトルを勝谷が考えて『Wanderlust』にして、それで段々統一感が出てきたって感じですね。
―合宿って曲作りのための合宿なんですか?
大屋:そうですね。普通にいつもやってるスタジオだったんですけど(笑)。午前・午後、3時間・4時間を4日間ぐらいやったのかな。
―合宿ってよくやるんですか?
白根:ここ3、4年は毎年だよね? 場所は結構色々で、僕の実家でやったりとか。
大屋:音源を出すときは絶対やってますね。
白根:結構いつも合宿がキーになってるんですよ。
大屋:大体、初日・2日目はグダグダなんです(笑)。合宿なんてしないで、どっかに遊びに行けばよかったなって思うんですけど(笑)、後半にまとまってくるというか、ちょっとしたバンド・マジックでポンポンと曲ができたりするんですよね。
―なるほどねえ。タイトルの「Wanderlust」は、「放浪癖」って意味なんですよね?
勝谷(Dr):1曲1曲が物語調で、悪く言えば内容的にバラバラなんで、それを上手くまとめられる言葉かなと思って。
白根:イメージ的には、聴いてくださる方が『Wanderlust』の世界の中を放浪しながら、いろんな曲の住人とかを見ていくって感じですね。
―例えば資料によると“1,000 miles above”は、「正しい事をしてきたつもりが、いつの間にか1人ぼっちになってしまった神様について」とありますが、もうちょっと詳しく教えてもらっていいですか?
白根:結構その言葉どおりなんですけど(笑)。神様が主人公で、何でもできちゃいますよと。その辺にいるようなバカたれを世界の王様にもできるし、愛し合う恋人を引き裂いたりとか、何でもできちゃうんですけど、そういうことをしてたら1人ぼっちになっちゃったっていう話です。でも悲しいイメージではあんまりなくて…
―曲調はすごくポップですもんね。
白根:イメージ的にはかわいらしい感じ、1人ですねてる神様みたいな。決して絶望してる感じじゃなくて。
―悲しい曲というと“Submarine”とかの方が…
白根:“Submarine”はホント、どん底な(笑)。現実の世界が嫌になっちゃった主人公がいて、彼は片道分の燃料を積んだ潜水艦で、日記とラジオだけ持って潜っていくんです。最初は嫌だった現実世界のことを忘れて、居心地がいいなってどんどん潜っていくんですけど、最終的に現実世界の思い出を色々思い出しちゃって、ちょっと後悔する、みたいな感じなのかな。
歌詞やジャケット、そしてバンドアンサンブルの背景にあるもの
―歌詞の世界観ってどんな影響源があるんですか?
白根:完全に曲、音ですね。“Submarine”は、「なんかこれ海の中っぽいね」って話が、最初のリフを作り出した段階であったりとか。「この曲ってこういう感じだよね」ってフレーズはメンバーからも出てきたりするんで、そのとき鳴らしてる音のイメージで歌詞につなげていくことが多いですね。
―音楽以外のインスピレーション源ってありますか?
白根:僕漫画がめちゃめちゃ好きなんです。黒田硫黄とか大友克洋とか。大友克洋は特に昔の短編集の扉絵とか、パッと見わけわかんないけど、すごくインパクトの強いのが多くて、それがすごい好きなんですよね。
―直接音楽に反映はされていなくても、イメージとか感覚としては反映されてるんでしょうね。
白根:ジャケットの絵なんかはそうですね(*pplのジャケットの絵は白根が手がけている)。インパクトのある絵にしたいと思って描いています。
勝谷:全部ペンで書いてるんだっけ?
白根:最終的には全部ボールペン。
―ボールペンですか! それって珍しいですよね。じゃあサウンド面の話で、pplの特徴といえばアンサンブルの面白さっていうのがあるじゃないですか? そこでご自身たちにとって理想的と言えるアンサンブルを鳴らすバンドなり、作品を教えてもらいたいんですけど。
勝谷:個人的にはザ・バンドが好きなんですよね。ギター、ベース、キーボード、ピアノ、ドラムっていう風に楽器の数が多いんですけど、優しく調和してる感じがすごく好きです。
大屋:僕はディスメンバメント・プランの『CHANGE』ってアルバムが思い浮かびましたね。あれはすごい好きです。僕らはああいう感じじゃない…もうちょっと泥臭いと思うけど(笑)。
白根:僕の場合は、今まで聴いてきた音楽に影響されてるっていうのはあんまりなくて、どちらかというとこのバンドを始めてから、アンサンブルの面白さに気づいたっていうか。
―3人の中で起こるケミストリーというか…
白根:わりと自分が聴いてきた音楽って、リズムが複雑でとかグルーヴがあってとか、そういう音楽じゃなくて。もっとシンプルな、グランジ〜オルタナとか、ああいうのが多かったんですよね。このバンドをやり始めてから、段々ベクトルがアンサンブルの方に向いていって、こういう音楽面白いなって、やりながら気づいた感じですね。
―バンドを始めた当初はもっとストレートだった?
白根:そうですね。今に比べれば全然ストレートでしたね。
―そこからやっていくうちに自然と変わっていったと。
大屋:一番最初4人だったんですけど、半年ぐらいで抜けちゃって、3人になったときに…8年前ぐらいの話なんで、自分たちができることも限られてたし、色んな引き出しがあったわけじゃないんで、すごくストレートでしたね。でも、3人だから普通にやっちゃうとホント普通の音楽になっちゃうから、なるべくアンサンブルを面白くして、その上に歌を乗っけてっていうイメージ。その基本線は変わってないんですけど、使える語彙が増えたって感じですね。
あんまりこねくり回さなくなりましたね。
―でもpplの曲って、複雑なアンサンブルがあった上で、シンプルにも聴こえるというか、さらっとも聴けるのが面白いなって思うんですね。そういうのって意識してますか?
白根:複雑なだけだと曲として成立しないというか、やっぱりポップな部分っていうのは絶対欲しいんですね。歌なり、リフなりで、ちゃんと残るメロディがあるっていうのは曲を作る上で大事にしてるんで、そういう部分はどの曲にも入ってると思いますね。
大屋:あんまりこねくり回さなくなりましたね。一番最初がストレートで、その後に、学生の頃って時間があるからかわかんないですけど、色々がんばってやっちゃって。2枚目のCD-Rのデモを作ったぐらいの頃が色々こねくり回してたよね?
勝谷:プログレなのかってぐらい。
大屋:それぐらいの勢いで(笑)。それが逆に今はそうしなくてもいいようになりましたね。
―あとpplの音楽にはブラック・ミュージックのテイスト、ファンクだったりソウルだったりっていうのも含まれてるように思うんですけど、実際どうですか?
勝谷:僕は好きですね。元々ミーターズが好きで、そこから徐々に色々、民俗音楽聴いたりとか。
大屋:僕はUAとか好きなんで、UAのライブ盤の『la』とか一時期はまってて…外山明と鈴木正人のリズム隊すごいなと思って。
―“Sugarcubes on the rainy avenue”とか、思いっきりソウルって感じですよね。
大屋:ああいうベースラインは…ジャック・ジョンソンの先輩みたいのって何だっけ(笑)。
白根:ベン・ハーパー?
大屋:そう、ベン・ハーパー!
―それで通じるってすごい(笑)。
大屋:(笑)。あのイントロはベン・ハーパーっぽいかもしれないですね。それでサビがジャック・ジョンソンっぽい。
―ボーカルのファルセットっぽい感じとかってソウル・シンガーからの影響ってわけではない?
白根:全くないですね。黒い感じの音楽ってほとんど聴かないんで…ブラック・ミュージックのノリに憧れて白人の人がやってる、トーキング・ヘッズとか、あとはじゃがたらとか、ああいうのはすごく好きなんですけどね。
―ああ、なるほど。じゃあソウルうんぬんは抜きにして、ボーカル・スタイルの影響源というと?
白根:線が細くて透き通ってる感じのボーカリストが好きで、マイブラのケヴィン・シールズとか、感情的ではなくて記号的な感じのボーカリストがすごい好きなんで、それの影響はあるかもしれないですね。個々の楽器の主張が強いので、さらにボーカルもってなると、それぞれが主張し過ぎちゃうかなっていうのもあって。
大屋:でも、めちゃめちゃ記号的ってわけでもないよね?
白根:うん、曲によって、この曲はグッと力を入れて歌おうとか、徐々にそういうスタイルになってきてはいますね。
―1曲目の“(leaving this planet on the)Sunday Night”とか、かなりボーカルが出てますもんね。
白根:そうですね。あれはすごい出して、かけ合わせて、面白くするって感じにしたかったんで。個人的な意見なんですけど、プリプロを一回やって、曲もそれなりにあって、アルバム作ろうかって話が出たときに、もう1パンチ、核になる曲が欲しいなって思ってて、あの曲がゴールデン・ウィークの合宿でできたんですね。あれができたことで、これでアルバムができるかも、いけるかもって思わせてくれた曲なんで、一番思い入れのある曲かもしれないですね。
―では最後に、これから始まるツアー、そして初のワンマンに向けての意気込みを聞かせてください。
白根:今回すごく自分たちとしても納得の行く作品を作ることができて、今までの作品よりも多くの人に聴いてもらえるんじゃないかって気がしてるんです。それで初めて聴いてくれた人が、たくさんライブに来てくれたらいいなって単純に思います。ワンマンはホントに、大分長いことバンドやってるんですけど、初めてなんで、ものすごく期待と不安が入り混じるというか(笑)。今回のアルバムの曲だけじゃなく、新旧織り交ぜて、普段やらないような曲もやれたらと思うので、すごく楽しみですね。
- リリース情報
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- perfect piano lesson
『Wanderlust』 -
2009年10月21日発売
価格:2,300円(税込)
残響record ZNR-0721. (leaving this planet on the) Sunday Night
2. 1,000 miles above
3. Avatar
4. Parallels
5. Submarine
6. 〜a day from Wanderlust〜
7. Superstar
8. Night is calling
9. Sugarcubes on the rainy avenue
10. Daydream undertaker
11. Last song
12. Endroll
13. heart & heart (Bonus Track) feat. texas pandaa
- perfect piano lesson
- イベント情報
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- LIVE SCHEDULE
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2009年10月24日(土)
会場:横浜club Lizard
共演:3nd、ルルル、OVUM、umi2009年10月31日(土)
会場:仙台PARK SQUARE
共演:3nd、ハイスイノナサ、viridian、under the yaku cedar2009年11月7日(土)
会場:大阪ファンダンゴ
共演:3nd、ハイスイノナサ、viridian、and more2009年11月8日(日)
会場:名古屋ROCK'N'ROLL
共演:3nd、ハイスイノナサ、viridian、明日、照らす2009年11月14日(土)
会場:札幌mole
共演:3nd、mothercoat、naked、smarttail2009年11月21日(土)
会場:金沢VANVAN V4
共演:People In The Box、sleepy.ab、and more2009年11月28日(土)
会場:福岡四次元
共演:3nd、and more2009年12月5日(土)
会場:京都MOJO
共演:People In The Box、Luminous Orange2009年12月6日(日)
会場:神戸STARCLUB
共演:People In The Box、Luminous Orange2009年12月19日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:渋谷O-nest(ワンマン)
料金:前売2,500円 当日3,000円(+1ドリンク)
チケット一般発売:発売中
チケット取り扱い:
ローソンチケット(Lコード:74828)
e+
O-nest店頭
問い合わせ:O-nest 03-3462-4420perfect piano lesson ホームページからチケットのご予約を承っております。
詳しくはperfect piano lesson オフィシャルホームページをご覧ください。
- プロフィール
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- perfect piano lesson
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2001年1月結成。白根佑一Gt&Vo、大屋卓朗(Ba)、勝谷晋三(Dr)による3ピースバンド。うねり、這う、感情豊かなベース、鋭く切り込むギター、荒々しく響くドラム、そして楽器の音を御し、乗りこなす、メロディーに満ちた透明感あふれるボーカル。それらが見事に交じり合い、激しくも爽やかな独自の音世界を作り出す。穏やかで繊細な美しいメロディが印象的な楽曲を取り入れるなど、新たな境地を拡げておりシーンをリードする新世代アーティストとして急成長を遂げている。またCDのイラストは全てVo.白根が担当している。
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