ヒップホップのアートフォームの一つ「ヒューマン・ビートボックス」を駆使し、マイク一本で驚異的なパフォーマンスを披露するアーティスト、AFRA。2004年、FUJI XEROXのテレビCMで一躍お茶の間の話題をさらって以降、日本のヒューマン・ビートボックス・シーンを牽引する存在になった彼は、啓、K-MOONとのヒューマン・ビートボックス・バンド、AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND名義でワールドワイドな活動を続けている。そんな彼がソロとしては三枚目となるアルバム『Heart Beat』をリリースする。AFRAにとってのヒューマン・ビートボックス、ヒップホップ、そして音楽とは?
(インタビュー・テキスト:小宮川りょう<NIKO¥ON PRO.> 写真:柏井万作)
ビートボックスは好きなものを表現できるツール。あらゆる所につながっていて、色んな所に連れて行ってくれるスゴいツールだと思う。
―FUJI XEROXのテレビCMに始まり、最近ではadidas の世界コマーシャルに登場するなど大きなメディアに登場していますね。
AFRA:はい、ランDMCのDMC と共演させてもらって、名曲“My adidas”を一緒に演らせてもらいました。光栄ですね。
―「AFRA=ヒューマン・ビートボックス」のイメージが世間に定着してると思うんですが、そもそもDJやブレイクダンスなど数あるヒップホップの要素の中から、ビートボックスというアートフォームを選んだ理由、ヒューマン・ビートボックスに惹かれたポイントは?
AFRA:ヒューマン・ビートボックスを最初に観たのはニューヨーク。ザ・ルーツのビートボクサー、ラゼルのショーケース。あんなスゴイものを目の前で見せられた日には、そりゃもうねぇ(とめっちゃ笑顔)。
―今回のアルバム『Heart Beat』に収録されている楽曲“真夏のサンダー”のリリックにヒューマン・ビートボックスとの出会いが綴られていますよね?
AFRA:そうですね。普段語る機会もないので曲にしちゃいました。96年にニューヨークに行った時、好きだったア・トライブ・コールド・クエストを観にフリーコンサートに行ったんです。ところが行ってみたら出演がキャンセルになってて、代わりに出たのがザ・ルーツ。生音でジャジーなヒップホップを演奏するグループで、ジャズラップが流行ってた当時、僕も「ヒップホップはバンドでやらないと嘘やろ?」って思ってて。ところが、バンドの後に登場したラゼルのヒューマン・ビートボックスのショウケースで自分の考えが覆されましたね。バンドじゃなくてヒューマン・ビートボックスでしょって。お客さんの盛り上がってる姿、その場の光景が目の前にまだ残ってます。目が点になりましたね。それがヒューマン・ビートボックスとの出会い。
―ヒューマン・ビートボックス見てると老若男女問わず、誰でもみんな自然と笑顔になりますよね。
AFRA:わかる! ニコニコというかニヤニヤですよね(笑)。なんなんでしょうね、あの楽しさは(笑)? ザ・ルーツのライブ最後に見たのはオーストラリアだったかな? ラゼルと別のザ・ルーツのビートボクサーを最後に見たのはオーストラリアだったかな? 名前はスクラッチ。ライブしてるの観てたんですけど、マニアックやねんけど、この曲ヤバいなぁとか思いながら、もう30分くらいはずっとニヤニヤしてましたね(笑)。
―ベースとキックとスネアと、メロディと……あらゆるものが一人の人間の口で奏でられているっていうのが、まず面白いですよね。
AFRA:それとビートボックスを通して「あ、こういう音楽聴いてんねんな」とか「こんなジャンル好きなんや」とか、その人の音楽的な嗜好が分かるのが面白い。例えば今回のアルバムでレゲエDeeJeyのRUDEBWOY FACEくんと一緒にやってるんですけど、その曲で僕がダンスホールとかレゲエ全般が好きだってことがわかってもらえると思うし。
―確かに。その人の脳みそを覗いてる気になりますよね。
AFRA:脳内iTunesみたいなね。「Beat iTunes」とか名乗ったらかっこええなぁ(笑)。何を聴いてきたかアーカイブがわかるっていうのはすごくあると思う。ビートボックスは自分が今まで聴いてきたものや好きなものを表現できるツールですね。ビートボックスそれ自体はヒップホップから出てきたものだけど、それを通して、様々なジャンルの色んな世界を覗くことができる。あらゆる所につながっていて、色んな所に連れて行ってくれるスゴいツールだと思う。
ジャンルって音楽の進化だと思います。それを辿っていくのが楽しいです。
―ここ数年は啓&K-MOONと一緒にヒューマン・ビートボックスバンド「AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND」として活動してきたと思うんですが?
AFRA:INCREDIBLE BEATBOX BANDでの活動をふまえて、ソロをやりたいと常々思ってました。タイミングがバチコーン!と合ったので、久々にソロでアルバムを制作することになったんです。三人のときは楽器も入れてたんですけど、今回はヒューマン・ビートボックスと歌、完全肉声にこだわって作ったアルバムです。ボーナストラックの楽曲でハナレグミの永積さんのアコースティック・ギターが入ってるけど、それ以外は全て声だけで構成されています。
―言われてみると改めてスゴイ! 確かに楽器なしですね。アンプラグド・アルバムってやつですか?
AFRA:コンデンサーやマイクには電気を使ってるし、厳密には違うけど(笑)。アンプラグドって言ったらまぁ、アンプラグド。最悪マイクがなくてもどこでもできるものだし。
―国内外から豪華なゲストもたくさん参加していますね。
AFRA:音源で競演した人やライブでつながった人、音楽的に尊敬できる人をゲストに呼びました。憧れの先輩系では、ライムスターのMUMMY-Dさん、それからスチャダラパーのBOSEさん&ハナレグミの永積タカシさん。同世代ではCOMA-CHIやサイプレス上野、GEBO。スキットでは海外からヒップホップのめっちゃ先輩、クール・キース、それから意外なところでエレクトロ・ロック界からピーチーズにラップのシャウトアウトをもらいました。
―ロック、ポップス、レゲエ、ヒップホップ。様々なジャンルの音楽が一枚のアルバムに詰まってますね。
AFRA:これじゃなければダメ! というジャンルへのこだわりを、僕は持ってないんです。むしろ、色々なジャンルがあればあるほど楽しい。例えば、アメリカに行くと米は全部「ライス」なんだけど、同じ米でも白米があったり、玄米があったりするじゃないですか。同じように北極の人は雲の形によって、色々な呼び方をするらしいんです。その土地の文化に根ざして、ジャンルって細分化されていくものだなぁと。それって深いし、面白いですよね。音楽でも同じだと思います。一口に「レゲエ」と言ってもスカがあったり、ダブがあったり、ロックステディがあったりするように、UKのダンスミュージックシーンではグライムやダブステップといったジャンルが一般化している。ジャンルが確立されると、そのエッセンスを吸収してまた新しいジャンルが生まれていく。それってすごいですよね。ジャンルって音楽の進化だと思います。それを辿っていくのが楽しいです。
―振り返るとさまざまなジャンルがありますよね。
AFRA:ドラムンベースからジャングル、2ステップといった新しいジャンルが生まれたように、ジャンルってその時代のフィーリングを映し出しているような気がします。ファッションとかほかのカルチャーと同じで、トレンドがある。僕はもともとゆる〜い人間なんで音楽のトレンドを追うことにそこまでパッションを持ってないけど、クラブでほかの人がかける曲でそういう空気を吸収していると思いますね。
―ヒップホップにもジャンルがありますよね。初めてヒップホップを聴く人たちはざっくり「ヒップホップ」と思って聴いているかもしれないけど。
AFRA:確かに。ヒップホップも多様化してますよね。
―そういう意味ではAIと一緒にやっているマイケル・ジャクソンのカヴァー“BEAT IT”は、AFRAのヒューマン・ビートボックスを入り口にリスナーがヒップホップという多様化したジャンルの音楽に踏み込むきっかけになるのでは?
AFRA:そうですね、AIちゃんは人気があるからファンの中には普段ヒップホップを聴かないJ-POPリスナーも多いと思うけど、僕のヒューマン・ビートボックスを聴いて「ヒップホップ、ヤバイな!」ってなったら、めちゃくちゃ嬉しいですね。
「これもいいけど、そっちもいい、色んなものが面白い!!」っていう部分を大事にしていきたい
―ご自身の活動が、ヒューマン・ビートボックスがメインストリーム(J-POP)になだれ込む、突破口になればというような自覚がある?
AFRA:「こうしたら、きっとこうなるだろう」というような計算はしてないし、自覚的ではないです。でも自分の活動を通して、いろんな人にヒューマン・ビートボックスを聴いてもらえたら嬉しいし、そういう存在になれたらいいなと思いますね。「TVになんか出たくない」とも思わないけど、「紅白に出てもっと有名になりたい」みたいなのもない。自分の伝えたいことはどんなメディアに出ても変わらないし、フジロック・フェスティバルの大きなステージでもオーディエンスが10人の小さいクラブでも、モチベーションは一緒です。根本は「僕対目の前のお客さん」。緊張とかコンディションとか、そういうものは変わるけど、「ヒューマン・ビートボックスでロックする」という目的は一つですね。
―最新作『Heart Beat』を通して伝えたいこと、テーマって?
AFRA:ヒューマン・ビートボックスや歌、メロディ、リリック、人間の声だけで、言葉や音の持つ空気感、楽しさを聴く人のハートに届けたい……それがこのアルバムのテーマです。ライブと同じく、リスナーのハートに響くビートボックスを届けたいなぁと。
―だから『Heart Beat』ってタイトル?
AFRA:そう。ヒップホップっていうとスキルばかりが重視されがち。そこが目玉ではあるんだけど、もう少しハートに届くビートでありたいなと思ったんです。
―スキルよりハート?
AFRA:スキル&ハートかな。ボディ&ソウル、フィジカルとメンタルみたいに切り離せないものかも。一方に偏らないよう、バランスを意識しました。
―AFRAくんは興味のベクトルが常に外へ外へと向かっていくタイプのアーティストだと思うんですが?
AFRA:確かにそうですね。他人とコネクトするのが好きです。そのためには自分の内面を出さなきゃいけないんで、今回NYの思い出をリリックに書きました。自分の個人的体験をみんなでシェアしたい気持ちもあったし。
―曲中の「Can i come inside? yes,yes,yes!」なんて何げないラップからも、音楽の楽しみをシェアしたいという気持ちはビシビシ伝わってきますよね。
AFRA:フロアで何人か踊ってて、後ろに躊躇してる人たちがいて……って光景をイメージして歌ってます。フロアが空いてるからこっちおいでよって。実際そういう光景を何度も見ていて、自分がフロアでラップしてたらそういうことを言うだろうなって思ったことを書いてますね。楽しさもシェアしたい。そうすれば、もっと楽しくなる。間違いないです。
―パーティ、イベントの楽しさってその場にいないと体験できないものですよね。YOUTUBEに特設された「AFRA TUBE」では、誰もがそういう空気を感じることができる。あれはすごく良いツールですよね。
AFRA:YOUTUBE、いつも見ちゃうんですよね。曲を作ってるときも「あの曲は何のサンプリングだったっけ?」って調べるためにYOUTUBEを見ることが多いです。CDやレコードで聴くだけより、映像で観たほうが時代感がつかめる。ファッションとかね。すごいですよね。どっかにつながる窓みたい。
―一曲見て、また別の曲クリックしちゃって・・・
AFRA:そうそう、最終的に自分は何しようとしてたんだっけ?ってなる(笑)。それがネットの怖いところでもあるけど、果たして有効やったんか?って。そういう危険性も孕んでる。ちょっとだけtwitterやろうと思ったら延々見ちゃうし(笑)。便利になるのは果たしていいことなのかな?って思うこともありますね。人間が衰退していくような気がする。考えなくなるというか。
―でも例えばTVは一方的に情報を受けとることしかできないけど、WEBってユーザがもう少し能動的じゃないですか?
AFRA:関わってく感じね。実はCDも制作してしまえば、それでおしまいっていう気持ちが強いんです。だから、もっと能動的にアーティストとしての自分を発信していきたいなぁという気持ちがあって、今、「OUTTANET」ってネットラジオ番組をやっています。そこで、ラッパーのZEN-LA-ROCK、ウェアブランドのARTICALIZM、DJのSKYFISH、DONSTA、イヌミカク、Spexsaversたちと一緒に、メディアで紹介されていない、埋もれているもの、僕らの価値観でいいと思った音楽を紹介しています。それぞれ参加している人たちのキャラも違うし、かけるジャンルも色々なんだけど、「これ(だけ)がいい」というより、「これもいいけど、そっちもいい、色んなものが面白い!!」っていう部分を大事にしていきたいと思ってます。
- リリース情報
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- AFRA
『Heart Beat』 -
2009年10月28日発売
価格:3,059円(税込)
rhythm zone RZCD-463501. Intro
2. The Voice, The Noise feat. Mummy-D
3. グッデイバッデイ feat. COMA-CHI
4. どんな時も
5. Breath Control feat. GEBO
6. Coockin' feat. DJKENTARO
7. Wild Bounce feat. サイプレス上野
8. Peaches Side Killers
9. My Adidas10. Interlude
11. Beat It feat. AI
12. 木漏れ日の中の21世紀 feat. BOSE & ハナレグミ(Album Ver.)
13. Sound Soldier 〜真夏のサンダー〜
14. Smiley Face feat. RUDEBWOY FACE
15. Brings You 16. Good Rhymes feat. Kool Keith & GEBO ~www.youtube.com/afratubetube~ 17. Mic Mic Mic 18. Outro 19. Bonus Track. 木漏れ日の中の21世紀 feat. BOSE & ハナレグミ(Original Ver.)
- AFRA
- プロフィール
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- AFRA
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ヒューマン・ビートボクサー。1996 年にニューヨークのセントラルパークで見たThe RootsのビートボクサーRahzel(ラゼル)のパフォーマンスに衝撃を受け、独学でビートボックスを始める。高校卒業後NYへ単身渡米。映画「Scratch」出演や、唯一の日本人として出演したビートボックス・ドキュメンタリーフィルム「Breath Control」などを通して日本のコアなファンにも強烈に存在をアピール。2003年に日本人初のヒューマン・ビートボックスアルバムとなる1stアルバム『Always Fresh Rhythm Attack』を、2004年にはプロデューサーにPrefuse 73を迎えた2ndアルバム『Digital Breath』をリリース。2005 年以降、啓、K-MOONとのビートボックス・バンド、AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BANDとして活動。2枚のアルバムと1枚のDVDをリリースしている。
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