米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭『SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA』(以下、SSFF & ASIA)で、来年度(2010年6月開催予定)からスタートする「ミュージックShortクリエイティブ部門」。今回はSSFF & ASIA特集第三弾として、元気ロケッツの中心人物として、また世界に名を馳せるゲームプロデューサーとしても活躍する水口哲也氏に、ミュージックビデオの可能性を語ってもらった。あまりの想像力のすごさに脱帽すること必至。映像と音楽の世界は、まだまだ進化する。
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:井手聡太)
海外では「PV」ではなく「ミュージック・ビデオ」。それはもうひとつの作品で、そこからヒットが生まれているくらいの力がある。
─『SSFF & ASIA』の存在はもともとご存じだったんですか?
水口:知ってましたよ。別所哲也さんがやられていたので。なんで別所さんがそんなに真剣にやり続けられるんだろうか、どこにそのエネルギーとモチベーションがあるんだろうか、正直に言うと、昔はそれをちょっと遠巻きに見ていたと思います。
─そこに実際に関わる立場になりました。
水口:去年ですよね、ミュージック・ビデオ部門が新設されて、セレモニーにも出させていただいて。実際、体感して考え方が変わりました。すごく単純なことなんだけど、SSFFとミュージック・ビデオっていうのは、とても相性がいいですよね。まだまだ見たことのないような新しい映像表現が出てくると思うし、他の国ではドラマ仕立てのミュージック・ビデオっていうのも多いし、そう考えると、このような試みがグローバル化していくひとつの流れになるのかなっていう期待感はあります。ここから新しいジャンルが登場して、いろんな才能が出てくるんじゃないかと思います。それこそ僕が最初にゲームを選んだみたいに、ここから映画に行く人もいるだろうし、音楽に行く人もいるかもしれないし、当然ミュージック・ビデオを極めていく人もいるだろうし。いろんな表現に行ける可能性があると思いますね。
─PV=プロモーションするための映像から、ひとつの作品に移っていく?
水口:そうあってほしいですね。PVって言うのは日本くらいですから。ヨーロッパやアメリカではちゃんとミュージック・ビデオって言いますし、それはもうひとつの作品で、そこからヒットが生まれているくらいの力がある。それだけアーティストも入れ込みますしね。いつの間にか日本ではプロモーション・ツールの一環となってしまって、安易に制作されることが多くなってしまいましたね。これだけ映像と音楽の表現手段が定着したわけだし、これだけ音楽と映像を両方楽しめるメディアが普及したわけだから、今の世代にとっては、ただ音楽を聴くばかりでは、物足りなくなってきている人もいるんじゃないかと思うんですよね。だから、ミュージック・ビデオは、表現手段としてもっと変わっていくと思うし、パワフルにもなって欲しいと思います。
“Never Ever”はテクノロジーが発達した社会で、人の気持ちをどのように感じることができるかどうか、ちょっと先の未来をイメージして書いたラブソングです。
─今回使用させていただける楽曲、“Fly!”と“Never Ever”を選んだ理由は?
水口:まずは僕ら自身が映像をつけてない曲だということが大きいです。アルバム『元気ロケッツI-Heavenly Star-』の中からピックアップしたんですけど、他のものはミュージック・ビデオが存在していたりするので。あと“Never Ever”に関しては、元気ロケッツの中で唯一作ったバラードだということもあります。一人の少女が、恋い焦がれながらも、(成層圏をはさんで)実際に触れあうことのできない人のことを思って書いた歌なんですよね。テクノロジーが発達した社会で、人の気持ちをどのように感じることができるかどうか、ちょっと先の未来をイメージして書いたラブソングです。
─確かに、今のインターネット社会の延長にあるのかもしれないですね。
水口:そうですね。だから、作品を応募してくれる方は、そんな設定とかを完全に無視して、人と人との大事なものっていうか、そういう映像をつけてくれて構いません。歌詞を読み解いていただいて、それぞれのインスピレーションで、新しいドラマを見せていただければと思います。時代設定は現代でも、未来でも構いません。
─“Fly!”のほうはいかがですか?
水口:“Fly!”は、今の世でいえば「Google Earth」みたいな歌なんです。重力から解放されて、地上からどんどん宇宙に向かって飛んでいく。水色の青空が少しずつ暗くなっていって、星が見えてきて、宇宙ステーションがある高度まで行くという、とてもリニアな移動ですよね。もちろん現実にはだんだん空気が薄くなっていったり、だんだん寒くなっていったりするのかもしれないけど、実際に肉体は移動してないんだけど意識が移動しているかのような体験。その高揚感みたいなものを歌にしてみたんですよね。これはドラマティックというよりも、何か新しい表現でやってくれる人がいれば、ぜひ見てみたいなと。
─“Fly!”はまさにいま説明いただいた通りの映像が浮かびましたね。思いっきりジャンプしたらそのまま宇宙まで行っちゃったみたいな。
水口:それも全然別な比喩に置き換えてくれてもいいんですよね。例えば、学校帰りに、口ずさみながら自転車に乗っていたら、どんどん気分が明るくなって、気付いたら川沿いの土手を猛スピードで走ってるみたいな。全然宇宙とか関係なくていいと思うんですよ。曲のインスピレーション自体はそうなんだけど、今の時代とか、今の自分たちの生活に落としたときに、どういう物語が見えてくるのか。それを見てみたいですよね。
日本だけではなくて、地球全体として考えたときに、どれだけの人をポジティブな気持ちにできるか。
─改めてお伺いさせていただきたいのですが、もともとの元気ロケッツの成り立ちを教えていただけますでしょうか?
水口:以前僕が製作した『ルミネス』という音楽パズルゲームがありまして。そのゲームには、国内外からいろんなミュージシャンの方に参加していただいたんですよね。日本だとMondo GrossoとかDef Tech、海外だとBeckやニュー・オーダー、ケミカル・ブラザーズとか、ファットボーイ・スリムとか。曲をお預かりして、その音楽に合わせて遊べるようなゲームをプロデュースしたんです。そのときに、提供していただいた曲以外に、とにかくポジティブでハッピーな楽曲と映像というのを探してたんですけど、なかなか見つからなくて。だったら「自分たちで作っちゃえ」と。そのときに相談したのが、その後、一緒に元気ロケッツを続けることになった玉井健二さんだったんです。
─玉井さんとはどんなお話を?
水口:音楽と映像にメッセージをのせて、世界に発信していく可能性を話し合っているうちに話がどんどん盛り上がってきた。日本だけではなくて、地球全体として考えたときに、どれだけの人をポジティブな気持ちにできるか。そのときに作ったのが“Heavenly Star”という楽曲なんですけど、ミュージック・ビデオも思いっきり遊んでみて。『ルミネス』自体もそうなんですけど、もともと映像と音のシンクロ性が高い作品を目指していたので、そういう雰囲気でやってみようよと、ほんと軽い気持ちでスタートしたのが元気ロケッツだったんですよね。元気ロケッツって名前からしてね、ゆるーい感じが(笑)。
─いやいやいや(笑)。
水口:世界中に元気を打ち上げていくぞ、みたいな。実は「Genki」という言葉は、意外と外国の人から評判がよかったりするんですよね。
─それは言葉の意味ですか?
水口:意味がわからなくても響きがいいって言うんですよね。それで意味を伝えるとみんな好きになるので。じゃあ「ハロー」とか、そういう感じで「Genki」を地球語にしちゃえ、くらいの勢いでスタートしたのが元気ロケッツなんです。
日本発。世界中の人をつなげた「ゲーム」。
─元気ロケッツの映像は、未来的というか宇宙的というか、そういう部分がすごく強いと思うんですけど、そこにはどういう経緯で至ったんですか?
水口:グローバルに音楽やビジュアルを届けていくためには、国とか地域とか人種みたいなものは飛び越えてしまおうと。そんな話をしているときに思いついた設定が、人類史上初めて地球の外で誕生した女の子。その女の子がちょっと先の未来から2019年9月11日に生まれた子が17歳になった時に書きあげた歌が “Heavenly Star”です。突飛に思うかもしれないけど、もう既に、宇宙ステーションには人が住んでいますからね。
─その女の子が元気ロケッツのフロントアクト、Lumiですよね。
水口:はい。そこからいろいろなバックストーリーが浮かんできた。彼女は地球の外で初めて生まれたんだけど、ある事情があって、しばらく地上に降りることができない。毎日美しい地球を外側から眺めながら、地上からの報道やハイビジョンの風景を見ながら育っていく。青空を見上げて、雲が流れて行って、雨粒が頬に当たったりとか、風が自分の髪を通り抜けていったりとか、彼女にはそういう体験がない。映像では見てるんですけどね。僕らにとって当たり前だと思うようなことが、彼女にとっては大きな憧れでありつづける。一方で、この一つの星の中に人間のすべてが存在するのに、世界には戦争が終わらない。地上に降りたい思いと、不安が交錯する。そういう彼女のフレッシュネスというか、新鮮な想いや憧れを、全部歌詞にぶつけてみよう。そういうコンセプトでできた曲が“Heavenly Star”なんです。
─すごい! 完全にキャラクターができあがっているというか、育ってますよね。
水口:その勢いでアルバムを作ってしまって(笑)。以後、元気ロケッツの活動は、ちょっと先の未来からの視点で音楽が作られ、映像が作られ、表現されています。ライブもそうです。
─もともと何もないところから一人の女の子を設定して、その子がどんどん成長していって…、その想像力って、どこで培われたものなんですか? 例えば小さい頃に『ドラえもん』を見ていたとか、そういう原点みたいなものはありますか?
水口:『ドラえもん』は見ていましたけど…(笑)。基本的にそういうことばっかり考えてますね。まぁ、それが仕事でもあるので。だからそんなに特別なことではないんですよね。
─ゲームの世界に入るきっかけはなんだったんですか?
水口:映像と音楽とか、そういう表現創作をやっていく上で、世界中の人に向けて発信するということがキーワードだったんですよね。僕が仕事をしようと思った頃、テレビはドメスティックだったし、映画も日本映画だったし、日本の音楽も世界には全然出ていってなかった。で、ふとみたらマリオとかソニックとか、ゲームが世界中の人をつなげていた。でもその解像度とか表現力って、全然大したことなくて、もう2Dのドット絵ですよね。音もビープ・サウンドというか。でも将来、これが高解像度になって、世界はネットワークでつながっていって、オーケストラのような音楽まで表現できるようになっていくんだろうなっていう確信だけはあったんです。その時点では、それが10年先なのか、20年先なのか、もっと先なのか。そこまではわからなかったんですけど、とりあえずその方向に進んでみようと思って入ったのが最初ですね。
─そして実際にそうなった。
水口:なりましたね。ちょっと僕の予想よりも早かった。
─映像と音楽を世界に出すことを考えて、まずゲームの世界に入って作っているうちに、元気ロケッツの活動につながったんですね。
水口:自分が「ゲームを作っている」という感覚は、他のクリエイターに比べてあまりないと思います。ゲームっていうと普通ね、FFとか、ドラクエとかにいきますよね。そういうRPGのようなタイプは作ったことがないので。自分でもあんまり遊ばないですし。ゲームが持ってる可能性の、ちょっと違う側面を捉えてるんだと思います。
4/4ページ:ミュージック・ビデオは、4〜5分の短い時間の中で、どういうドラマを感じ取るか。そこに凝縮された感動がなきゃいけないと思う。
ミュージック・ビデオは、4〜5分の短い時間の中で、どういうドラマを感じ取るか。そこに凝縮された感動がなきゃいけないと思う。
─映像と音楽の融合という部分で、理想的な形はなんだと思いますか?
水口:まだ理想の形を見たことがないんですよね。それが最大の動機というか、自分の創作のモチベーションになっているのは間違いないんですが…。ただ、影響を受けてきた「発想」は、いっぱいあります。例えば、よく「シナスタジア(synaesthesia)」という言葉で語られたりするんですけど。100年くらい前のアーティスト達、例えばカンディンスキーとか、そういう画家たちがよく使っていたんですけど、そのシナスタジアの感覚を常に大事にしているというか。古いものでいうと『ファンタジア』(1940年に公開されたディズニー製作のアニメーション映画)にもその感覚があります。映像と音が絡み合ったような、新しい表現のことですね。
─影響を受けたミュージックビデオはありますか?
水口:初期の頃(1980年代)のミュージック・ビデオですね。僕が高校生の頃、ちょうど日本でもMTVが始まって、映画でもない、音楽でもない、音楽と映像がセットになった新しい表現が、次々とテレビの向こうからやってきた。そのときに影響を受けたものは数知れずあります。ピーター・ガブリエルの“スレッジハンマー”とか、ニュー・オーダーみたいなアーティストは、そういうところから(世の中に)出てきたような感じもするし。
─ミュージック・ビデオって、ストーリーがついたものと、ストーリーはないけど映像の美しさやインパクトで表現するものと、二通りあると思うんです。水口さんが理想とするものは?
水口:両方が融合しているのが理想です。ただ、どちらかと言われると、ストーリーはとても重要だと思う。詩的な表現も含めて、やっぱり人間が生きていく上で必要なのは、ストーリーだと思うので。ストーリーの無いミュージック・ビデオっていうのは、クラブでVJがやっているような試みに近いかもしれないですよね。みんなが踊っているフロアでは、物語を求めるというよりも、踊るという行為の中で音と映像と戯れる。ミュージック・ビデオは、4〜5分の短い時間の中で、どういうドラマを感じ取るか。そこに凝縮された感動がなきゃいけないと思うし。そう考えれば考えるほど、ミュージック・ビデオというのは難易度は高いけど、おもしろい。表現のバリエーションはたくさんあるし…、こういう話をしていると自分で応募したくなってしまいますね。
─じゃあぜひ応募を(笑)。
水口:それは他の方に任せます(笑)。SSFFに参加する方々の自由な表現に期待しています。
─元気ロケッツの映像は色使いが印象的ですよね。そういう部分は宇宙的な部分をイメージした結果ですか?
水口:もちろんそういうこともありますが、僕らの中でいつもテーマとしてあるのは、音楽と映像の融合(フュージョン)による新表現を模索する、ということです。音にも色や動きやカタチがあるというような、感覚と感覚が交差する感じというか。単純に現実を切り取るだけじゃなくて、そこに対してどういうファンタジーをトッピングしていくか。
─現実離れしすぎてもよくない。
水口:そうそう。そこに何か音楽と絡みあって動いて見えるようなビジュアルというか。そういうところに新しいファンタジーがあるんじゃないかと思います。
- リリース情報
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- 元気ロケッツ
『元気ロケッツI-Heavenly Star-』 -
2008年7月2日発売
価格:3,059円(税込)
エイベックス・エンタテインメント AVCD-234481. Prologus –Earth Rise-
2. Breeze
3. Smile
4. Star Line
5. Heavenly Star
6. Intermediate –Orbit Swimming-
7. I will
8. Star Surfer
9. Never Ever
10. Fly!
11. Star Line(Japanese Ver.)
12. Breeze:Summer Afternoon Mix
13. Breeze:Star Breeze Mix
- 元気ロケッツ
- プロフィール
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日本発、世界に向けたコラボレーション・プロジェクト、Genki Rockets。同時多発テロから5 年後の2006年9月11日、ネット上に「Heavenly Star」の映像が初めて配信されると瞬く間に全世界に広がり、YoutubeやMyspaceで話題をさらう。(Youtubeでは100万を超えるアクセスを更新中。)2008年7月、デビューアルバム『元気ロケッツ I-Heavenly Star-』を発表。
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