米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭『SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA』(以下、SSFF & ASIA)で、来年度(2010年6月開催予定)からスタートする「ミュージックShortクリエイティブ部門」。SSFF & ASIA特集第4弾の今回は、ピチカート・ファイブのボーカリストとして国内外から絶大な評価を受け、現在はソロとして音楽やファッションなど多彩な活躍を続ける野宮真貴さんが登場! 数々の著名人がマニアを公言した抜群の「おしゃれ」感覚は、ちょっとしたアイディアと手間を惜しまない姿勢から生まれていた。クリエイティブなヒントが満載のインタビューをどうぞ!
(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)
曲のイメージにあんまり引っ張られないで、自由な発想で組み合わせるのもおもしろいなと思います。
─野宮さんは2006年のSSFF & ASIAで審査員もやられましたよね。
野宮:やりましたね〜。50本くらい見たと思います。短いとはいえけっこう大変で(笑)。それまではショートフィルムを見る機会があまりなかったので新鮮でした。アニメーションの作品もあれば、ワンカットだけで見せるものまで、それぞれの手法で、いろんな作品があって、すごくおもしろかったです。
─野宮さんといえば「おしゃれ」というイメージがあるんですけど、ピチカート・ファイブ時代からビジュアル面にはすごくこだわられてますよね。
野宮:そうですね。ビジュアル担当でしたから(笑)。ピチカート・ファイヴのほぼ全ての作品は、小西(康陽)さんが監督をやっていました。私は演じる側に徹していましたね。
─いまはソロでもやられるようになって、より制作者的な視点も?
野宮:今でも私は演じるほうに集中する感じかな。衣装やメイクのアイディアは出しますが、基本は監督にお任せしてますね。
─野宮さん個人としては、どういうプロモーション・ビデオがお好きですか?
野宮:すごく簡単な、ちょっとしたアイディアでインパクトがあるものには、驚かされるというか、印象に残りますね。
─実際、ちょっとしたアイディアで驚いたものは?
野宮:自分の作品になっちゃうんですけど、“モナムール東京”(ピチカート・ファイブの1997年発表シングル)という曲があって。歌詞の内容は、プレイボーイな恋人と好きなのに別れるという、ちょっと演歌チックなものだけど、プロモーション・ビデオでは近未来的の世界感で、そのミスマッチにインパクトがありますね。ヘアウィッグや衣装も60sのピエール・カルダンみたいだし。それで、夜の東京湾をネオンチューブを手にしながら、ボートに乗って歌うという。近未来的な夜景が水面に揺れていて、ネオンチューブの灯りで不思議に浮かび上がる私の姿。曲のイメージにあんまり引っ張られないで、自由な発想で組み合わせるのもおもしろいなと思います。
おしゃれ=エレガンス。「品がある」ということは心がけてますね。
─今回は“森の恋人たち”、“上海的旋律”、”Never on Sunday”の3曲を提供いただきました。なぜこの3曲を?
野宮:どちらかというとバラード系で、しっとりとした曲を選びました。そのうち2曲は私が作詞をしています。作詞をしているときって、自分の頭のなかでは映像が見えてるんですよね。はっきりと、具体的に。この3曲はプロモーション・ビデオは作ってないんですけど、私の頭の中には自分だけのプロモーション・ビデオのようなものがあって。
─それを映像化してほしい?
野宮:逆ですね。自分のプロモーション・ビデオって、曲のイメージやアーティスト自身のイメージを監督さんにお伝えして、それを映像化してもらうことになると思うんです。だから監督のほうにも縛りがあるというか。だけどこの企画は、そういうものが一切ないでしょ。クリエイターの人たちは、自由な発想で、また違った解釈で捉えてくれると思うので、私が想像もしていないものを見せてもらえるかなって。どんなものができてくるのか、本当に楽しみなんですよね。
─いい映像を作るために大切なものは、なんだと思いますか?
野宮:10月に年に一度のリサイタルがあって、その演出のひとつでムービーを撮ったんです。監督は演出家の林巻子さん、カメラは半沢健君にお願いしました。彼はスチールが中心だけれど、最近はCMやプロモーション・ビデオでムービーのカメラマンとしても活躍しています。ヘアメイクやスタイリストも気心の知れた方と一緒だったので、スタッフみんなが信頼関係で結ばれていて、多くを語らなくてもセンスが近いので、思った通り、思った以上の美しい映像を撮ることができました。すごくクオリティの高い、美しいものができたのは、スタッフそれぞれの役割に全力をつくし、楽しみながらつくりあげていけたからかな。信頼関係とセンスが近いというのは大切だと思います。
─例えば映像のなかでも、「おしゃれ」という要素は入れられてると思うんですけど、その「おしゃれ」の定義みたいなものってあるんですか?
野宮:おしゃれ=エレガンス。「品がある」ということは心がけてますね。例えば、ウィッグひとつでも、そのままかぶっただけだと安っぽくなっちゃう。同じウィッグでも、ちょっと手をかけてスタイリングを変えると、見違えるようになりますよ。細かい部分まで丁寧に手をかけることで品格が出て、おしゃれに見えます。
─最近は買えばなんでも揃う風潮がありますけど、ひと手間かけることは大切ですよね。
野宮:そうですね。ただ、いかに手間をかけた衣装でも、着せられてる感じがしてしまうと魅力が半減してしまうので、着る人のリアリティを盛り込むことも大事ですね。事前に会話の中でリサーチしたりして、好みを知っておく。そういうものをちょっとでも入れてあげると、その人らしさが出て、着せられた感とか、作られすぎてる感じがなくなると思います。
─なるほど。そういうちょっとしたことが大切なんでしょうね。
野宮:そういえば、まだピチカート・ファイヴに入る前に、ポータブル・ロックというバンドをやっていて、そのときに予算30万円でビデオクリップを作ったことがありましたね。スタジオを借りて、アイディアを出しあって。予算がないので、役者さんも友達に出演してもらったり、小道具もすべて私物を持ち寄って。クオリティはともかく、エネルギーのある、おもしろいものが出来上がりましたね。それが原点かな。
─お金がないからこそ考えられるアイディアってありますよね。
野宮:そういうことは絶対にあると思いますよ。想像力が働くから。
私はイメージとして美しいもので、見る人のそれぞれの想像力に訴えるような作品に惹かれますね。
─野宮さんは海外でも活動されてますけど、例えばピチカートで海外に行ったときに、映像やビジュアルに対する向こうでの評価って、日本とは違うリアクションだったんですか?
野宮:そうでもないですよ。「ピチカート好きな人」っていうジャンルがあるというか(笑)。それは日本でも世界でも、だいたい似たような感じで。ファッション関係の人だったり、マニアックな音楽好きだったり。
─どこの国でも評価されるグローバルさがあったんでしょうね。
野宮:ピチカート・ファイヴの映像やジャケット写真は、小西さんとアートディレクターの信藤三雄さんが中心になって作っていたんですけど、たとえばイギリスやフランスの60年代の映画や音楽のイメージを今の感覚とミックスした作品だったりすると、海外のファンには新鮮に映ったみたいですね。日本人が自分の国の古い映画や音楽をファッショナブルに現代に蘇らせるということがね。それから、言葉に関しては特に問題はなかったですよ。海外でも日本語で歌ってましたけど、逆にエキゾチックでチャーミングと言われてました。
─海外の人にとっては、自分の国の文化を再確認するみたいなところもあったんでしょうね。極端に言ったら、英語の演歌を聴いているような。
野宮:そうなのかもしれないですね。日本の若い人たちは、ゴダールの映画が好きだったり、ボサノバをおしゃれな音楽として聴いたりしますけど、フランスの多くの若者はゴダールの映画に興味はないみたいだし、ブラジルの若者はボサノバを古くさい音楽だと思っているから。
─例えば、ストーリーが優れたものと、映像の美しさで見せるものと、どちらかひとつを選ぶとしたら、どっちを取りますか?
野宮:私は映像の美しさかな。やっぱり短い時間で、なんらかの印象を残すっていうことが重要だと思うから。ストーリーがおもしろく展開していくものもいいけれど、私はイメージとして美しいもので、見る人のそれぞれの想像力に訴えるような作品に惹かれますね。
─過去にすごいと思った映像はありますか?
野宮:すごいベタな手法だけど、『華麗なるギャッツビー』という映画は、最初から最後まで画面にずーっと紗がかかってるんですよ。20年代という時代設定や、独特なファッションが本当に夢の中の出来事みたいに美しくて。
─映画から受ける影響も多いですか?
野宮:そうですね。いま、年に1回リサイタルをやっているんですけど、歌だけではなくて、シアトリカルな舞台になっていて、その演出として映像もよく使っています。今年で3年目だったんですけど、今回は『Beautiful People』というタイトルで、20世紀の様々なファッションアイコンを演じ、歌いました。例えばオードリー・ヘプバーン、グレース・ケリー、ブリジット・バルドー、『ブレードランナー』のレイチェル(ショーン・ヤング)とか。そういう女優さんをテーマにしていたから、いろいろ資料を見たり、映画を見たりしましたね。
その作品から世の中にエネルギーを与えてくれると信じてます。
─これはみなさんに訊いてるんですが、クリエイターとして行き詰まるときが絶対にあると思うんですけど、そういうときはどうやって乗り越えますか?
野宮:仕事と関係のない大好きな友人たちと思い切り遊ぶ!先日、ボウリング、ダーツ、ビリヤード、ゲームセンター、カラオケ、卓球、全部入ってるビルで一通りやってみました。発散しましたねー。スッキリ!
─うわっ、超意外です! 学生みたい。
野宮:ウフフフ(笑)。体を動かして、たわいない話をして、笑って。そういう気心の知れた友人と、仕事を離れて遊ぶと元気になりますね。それから、すごく心がピュアな友人や、同じクリエイターで、お互いに刺激し合える友人とは、話しをしているとアイディアがどんどん浮かんできます。そういう大切な友人といると、乗り越えられるというか。
─自分とはものの見方とか考え方が違う人としゃべると、新しいアイディアも出てきますよね。最後に、これから映像を作ろうとしている方々に一言いただけると。
野宮:まず、こういう発表の場があるということが素晴らしいことですよね。みなさんエネルギーを持って取り組まれていると思うので、その作品が世の中にエネルギーを与えてくれると信じてます。今回は音楽に映像をつけるということで、その音楽を作ったミュージシャン自身を驚かせてくれるような作品を期待してます。
- イベント情報
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- ブリリアショートショートシアター 特別イベントに出演
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野宮真貴×南美布が「音楽と恋とショートフィルム」をテーマに語る、大人のラブジュアリークリスマス。ゴスペル隊のクリスマスソングやシャンパンも!!
- リリース情報
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- 野宮真貴
『Dress Code』 -
2004年7月7日発売
価格:2,100円(税込)
RSCM-1002 / GEMMATIKA Records1. Mのブルース(メドレー)
2. 手のひらの東京タワー
3. Elegance Under War
4. 歌う「おしゃれ手帖」
5. Entre Act
6. Cosmic Night Run〜Night At Nomiya Maki Show〜
7. 森の恋人たち
8. Bridges
9. Mais Do Que Valsa
- 野宮真貴
- リリース情報
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- 野宮真貴
『Lady Miss Warp』 -
2002年11月7日発売
価格:2,100円(税込)
RSCM-1001 / GEMMATIKA Records1. INTRO「空港にて」
2. さよなら小さな街
3. Never on Sunday
4. Paraiso
5. INTERLUDO #1「港にて」
6. 上海的旋律
7. 気分を出してもう一度
8. ワイキキ66
9. INTERLUDO #2「高速道路にて」
10. YOU ARE MY STAR
11. 塀までひとっとび
12. INTERLUDO #3「宇宙ステーションにて」
13. luna cruise
- 野宮真貴
- プロフィール
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- 野宮真貴
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90年代ピチカート・ファイヴのヴォーカリストとして国内外で活躍。現在はソロシンガーとして、音楽、ファッション、エッセイなど幅広く活動。第3回となるリサイタルを2009年9月22日に恵比寿ザ・ガーデンホールにて敢行。10月20日にはフェルナンダ・タカイとのコラボミニCD「Maki-Takai NO JETLAG」をリリースした。公式HPでは動画やブログもあり、新しい情報も随時更新している。
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