NAOITOインタビュー

「東京生まれの純日本人」だというその歌い手の歌声が醸す強烈な異国情緒に驚かされた。19歳で渡米して以降、ジャマイカ、ネパール、ブラジルなど世界各国を旅し、各地の音楽ヴァイヴスを吸収し、オリジナルのサウンドに消化しているミュージシャン、NAOITO(ナオイート)。ギター、ヴォーカル、コンガを手がける彼は、家内制手工業式ジプシーキャラバンとして全国各地で活動しているという。エキゾ、チル・アウト、サーフ・ロックそして民族音楽とポップミュージック。さまざまな音楽ジャンルを自在に横断する現代のボヘミアン、NAOITOに話を聞いた。

(インタビュー・テキスト:小宮川りょう 撮影:柏井万作)

町で浮浪者を見て「俺もああなりたい!」って言ったら親に引っぱたかれた(笑)

―19歳で渡米されたそうですね。きっかけは?

NAOITO:高校生のとき、グランドキャニオンを見に行く機会があったんです。地球がむき出しになっている様子を見て、そのデカさにやられちゃって。旅の面白さを感じましたね。それで、アメリカに行こうという気持ちになって渡米しました。最初はカリフォルニアのロサンジェルス、そこからジャマイカに行きました。

―東京を出たいと思ったのは、なぜです?

NAOITOインタビュー

NAOITO:何かがおかしいなと思う部分があったんでしょうね。「本当の自分でいれていない感覚」というか。自分のアクを抑えながら生きているという意識がありました。お受験世代だったので、自分の意思とは無関係に親に中学受験をさせられたわけですよ。当時、町で浮浪者を見て「俺もああなりたい!」って言って憧れてみせたら、親に引っぱたかれたんですけど、結局は見事にドロップアウトしましたね(笑)。

―実際に東京の外に出てみていかがでしたか?

NAOITO:自分があまりに東京以外の世界のことを見知らないという現実に衝撃を受けましたね。ボブ・マーリーが好きで、ジャマイカに渡ったんですが、音楽と信仰と暮らしが一緒になっている様子を見て感銘を受けました。東京では漂白されてしまっている部分ですよね。日本だと宗教はオカルトになってしまうんだけど、ジャマイカでは宗教と暮らしが自然な形で密接にかかわりあっているんですね。知らなかった世界に触れて、ショックを受けました。

―ジャマイカで一番影響を受けたものは?

NAOITO:ナイヤビンギ(ラスタファリアンの宗教的な集会、またはその集会で演奏される音楽のこと)ですね。ダンスホールレゲエのショウ的な派手な部分より、やはり、宗教儀礼的なものに惹かれました。ラスタファリズムという信仰があって、人々が自分の信じているスピリッツに向かってまっすぐに集まっているんです。それまで宗教にネガティヴなイメージしかなかったから、そういう音楽があるということ自体が衝撃でした。崇高で綺麗なだけじゃない、おどろおどろしいドロドロした土着的なもの……都市生活者は持っていないものですね。僕はその時に嗅いだフルーツと生モノの腐敗臭と、排気ガスと潮風がミックスした匂いは常に鼻の奥にあるんですよ。それを感じると色んなシーンがフラッシュバックします。今も空港に行くと、そういう匂いを感じて落ち着くんですよね。あれは暮らしの匂いなんでしょうかね。僕はそういう肉感的で立体的な匂いに興奮します。そういうものって汚いもの臭いものって分類されるのかもしれないけど、そこに人が生きているっていう力を感じるものだったら、俺にとってはキレイなものになるんです。

いかに自分が平和ボケしていたのか思い知りました。

―世界中の都市にネットで簡単にアクセス出来るようになったけど、匂いは実際足を運ばないと感じることはできないですよね。

NAOITO:YOUTUBEじゃ「現実」まで感じることはできないはずです。日本に住んでいれば色んなワールドミュージックを聴くことができるけど、それを聴いて知っていたとしても、それだけじゃ何か足りない。実際にその土地に行って、はじめて全てがリアリティになるような気がします。ネットでは絶対わからないものの一つに「時代性」というのもありますよね。自分の住んでいる街で政治的な理由で殺し合いがあったとか、そういうことって僕たちにはないじゃないですか? 

―まずないですね。

NAOITO:ある国に行ったときのこと。着いて少し休もうと軽く睡眠をとって目が覚めたら「爆撃があった。これから戦争が起こるかもしれない」と言われました。そんなこといきなり言われたら、自分のような若造は、まぁパニックに陥りますよね。それで、いかに自分が平和ボケしていたのか思い知りました。東京での生活とのギャップが大きすぎて、それまでの何かが揺らぎましたね。そういう時代的な背景は、音楽が生まれたバックグラウンドでもあるんですが、自分が19歳の時にはそれをリアリティとして理解できなかった。その異物感だけを持って帰って来ちゃいました。

NAOITOインタビュー

―なるほど。貴重な体験ですね。

NAOITO:アメリカで住んでいたのもヒスパニックのエリアで、映画の中でしか観ないような世界が広がっていました。チカーノギャングみたいな人たちがデカイ音でラテン音楽をかけて、昼からビール飲んでたむろしているんです。当時学校に通っていたんですが、近くで抗争もあって、「学校の近くの十字路のマーケットからは帰らないように」と言われたこともありました。一方でチカーノたちの人情にも触れましたよ。人の暮らしはすごくカラフルで、面白いと感じましたね。

人間は自然に対して自惚れているところがあると思う。

―日本を離れてみて改めてわかったことって?

NAOITO:「海外の人たちが見ている日本」を自分が知らないと、何で日本のことを自分はこんなに知らないんだ? って思います。東京以外の日本に興味を持ちましたね。一時、国内を旅をするのにはまってました。日本のネイティヴな人に会いたくて、アイヌ文化を継承するトンコリ奏者のOKIさんのもとへ行って、バンドでパーカッションをやらせてもらったり、奄美大島と屋久島に行ったり…。東京以外の日本に、海外と同じかそれ以上の、カルチャーショックを体験したんです。そこで感じたのは、緑の豊かさですね。あるとき、奄美で子供が波にさらわれてしまう不幸な事故があったんですが、お年寄りはそれを「海に連れて行かれた」という受け止め方をするんですね。その土地の生活宗教的な捉え方では、人間より自然が強いのが当たり前なんでしょう。都市部では信仰に関する文化がタブー化されてます。そういう都市の生活や価値観を感じるたびに思うのは、人間は自然に対して自惚れているところがあると思う。土臭い部分を隠して、臭いものにフタをしているような。日本は狭い国だけど、本当はいろんな文化や風景が広がっているのにね。

―アルバム『雑食familia』には、ラテンやジャズ、MPB、レゲエなどあらゆる民族音楽のエッセンスが詰め込まれていますね。やはり、旅先で耳にした音楽の影響を受けてるんでしょうか?

NAOITO:まさにそうです。旅の途中で聴いたあらゆる音に影響を受けています。ただ僕はジャンルで音楽を聴くということはしないんです。究極、コーランも音楽だと思ってます。旅にでる前、レッド・ホッド・チリ・ペッパーズを脱退したジョン・フルシアンテが、アバンギャンルドなソロ作を出していて、それと民族音楽のコーランが自分の中ではシンクロしていて、2つを交互に聴いていたことがありました。日本の音楽ファンがやるような「自分はこのジャンルしか聴かない」っていう聴き方に対しては、「カッコわりいなぁ」っていう拒絶感がありますね。

「Every mistake is a new style」=数学で言うところの「解なし」

―なるほど。アルバム『雑食familia』のリリース資料には「主食はお茶の間の歌謡曲。おかずは旅先の民族音楽」とありますが、歌謡曲にも影響をうけているんですか?

NAOITO:自分の音楽のルーツは「食卓」にしかないんです。民族音楽のフォーマットを借りてきて何かをやるとき、大事なのはその根っこの部分だと思います。僕の場合、その根っこの部分が食卓で流れていた歌謡曲。最近思うのは、人間のベーシックって育った環境、食卓にあるということ。食事のマナーに限らず、音楽や笑いのセンス……あらゆるものにエッセンスが詰まってると思うんです。TVで見ていた『8時だよ全員集合!』や『ベストテン』とか……昭和歌謡曲には好きな曲が山ほどありますね。

―どんなところが好きなんですか?

NAOITO:サビのパンチに弱いんです。昭和の歌手には、歌唱力のある人が多かったですよね。歌手が本当の意味で歌手だった時代だと思います。僕の中には民族音楽として歌謡曲を見ている部分もありますね。

―もともとパーカッショニストだったNAOITOさんが歌い始めたきっかけは?

NAOITO:押さえきれない衝動が出てきてしまったと言うより他はないです(笑)。楽器がなくてもできる一人でやれる音楽をやりたいと思ったんですよね。歌って、何もなくてもできる「音楽」ですから。自分の中で影響を受けたものにパーカッションの師匠であるAja Addyの「Every mistake is a new style」って言葉があります。座右の銘みたいなもんですね。数学で言うところの「解なし」。数式には必ず答えがあるはずなのに、ある時いきなり答えがなくなってしまう。正解/不正解で成り立っていたものが、答えがないっていうのが答えになってしまう……これは、すごいことですよ。今回のアルバムには街の断片やそれぞれの土地で耳にした音楽など色々なことが複雑に絡まりあってる、「解なし」であって、自分なりの一つの答えだと思いますよ。

―なるほど。

NAOITO:実際「Every mistake is a new style」という言葉があったから、ギターを弾くようになったんですよ。コードとかよくわからないまま、ギターを触りながら「自分の好きな音はここだ」っていうのを探っていったんです。ある意味、女の人の体を触るような感じですね(笑)。僕は実は楽譜が読めないんです。世界中に楽譜読めなくて音楽をやってる人がたくさんいると思いつつ、楽譜が読めないことにコンプレックスを感じていました。でも今回のアルバムは譜面を読むやり方だとできなかった。それが正しいかどうかはわからないけど、僕が見つけたひとつのやり方ですね。

―歌詞には擬音が多いですよね。意味を成す前の言葉を使っているような……どこか神話的ですが、そういうものにシンクロニシティを感じる?

NAOITO:祝詞(のりと)や日本語のルーツ「カタカムナ」には興味がありますが、僕の歌とシンクロしているかどうかはわかりません(笑)。でも日々の生活の中にあるシンクロニシティは大好きです。何かに意識を向けていると意外なことが起こったり、結構驚くことあります。僕は紙器業者の息子で父は町工場をやってるんですが、今回のCDのジャケットを作るにあたって印刷会社を探しているときに、すごく対応の良い人がいて、聞いてみたら僕と同い年で同じく町工場経営者の息子だったんです。偶然ですませてしまうこともできますけど、理屈ではどうにも説明できないような、まさに「解なし」につながる体験だと思います。僕はそういう何気ないシンクロニシティが好きだし、そういうのを手繰って生きていくのも好きです。

―ご自身の音楽やライフスタイルがジプシー/ボヘミアンだと形容されますが?

NAOITO:僕は別にジプシーのファッションやジプシーの音楽を取り入れているわけじゃないんです。美化されても困るんで、全部さらけ出したいですね。人間の汚い部分、生活を包み隠さず生きていくのがジプシー的だと思います。僕たちのバンドは、メンバーに子供が生まれたり、はっきり言ってぐちゃぐちゃなんだけど「一丸になっていこう!」っていう姿勢は、ボヘミアンなのかと思います。

―今後の予定、野望・展望は?

NAOITO:何から言えばいいのかな? …結構野心家なんです(笑)。興行の形としての「家内制手工業」をやりたいですね。実際に顔を見て触れあった人たちの中で起きるビジネスは、すごくポジティブだと思うんです。10円で買ったものを自分のファミリーに20円で売ろうとはしないでしょ? そういうファミリービジネス的なスタイルが自分の理想です。ライブを見て、買ってもらうっていう手売り興行は、自分の理想に近いんです。ゆくゆくは、ミュージックストアと手売りのセールスを競いたいですね。まずはライブを見に来て下さい。

リリース情報
『雑食familia』

2010年3月3日発売
価格:2,500円(税込)
PCD-18616 / felicity cap-98

1. INTRO あらんらんDUB
2. HAZE BLUE
3. ミコラソン
4. ぱ〜らっぽん
5. あらんらん
6. WHISPERS IN THE WIND
7. Zinboo Zin

プロフィール
NAOITO

HIFANA や鎮座ドープネスの総合プロデュース・チーム (音楽、映像、グラフィック)、GROUNDRIDDIM とFelicity がタッグを組み、送り出したシンガーソングライター。19歳で渡米し、ジャマイカ、ネパール、ブラジルを旅する“生涯旅人”。ガーナのマスタードラマーAja Addyに手ほどきを受けパーカッションプレイヤーとして活動。2006年に結成したアフロビートバンド、KINGDOM☆AFROCKSのVo & Perとしても話題を集める。独学のギターで作曲をはじめ、ソロ弾き語り活動を開始し、現在に至る。



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