フラワーカンパニーズ×榊英雄監督 対談

「フラカン入門」の最終回となる第三弾は、ニュー・シングル『元少年の歌』が主題歌となっている映画『誘拐ラプソディー』の監督・榊英雄との対談をお届け。楽曲と映画を介して初めて知り合った関係ではあるものの、それぞれが音楽・映画にも興味を持ち、年齢も1コ違い、そして何より、自分の身の回りをストレートに、強い信念を持って描くという表現に対する姿勢を共有する両者の対談は、榊監督のエネルギッシュなキャラクターもあって、かなりの盛り上がりを見せたのでした。この曲とこの映画で20周年を走り抜け、21年目のフラワーカンパニーズがいよいよ幕を開ける!

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

大人だって泣いたり、はしゃいだりするんだぜって。

 

―まずは“元少年の歌”が『誘拐ラプソディー』の主題歌として起用されることになった経緯から教えてください。

鈴木:普通に新曲を作ってて、デモを録った曲を何曲かレーベル(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)に渡してあって、それが榊さんの耳に入ったのかな。

フラワーカンパニーズ×榊英雄監督 対談
榊英雄監督

:そうです。主題歌を決めるためにいろいろなアーティストの曲を聴かせてもらってて、その中に “元少年の歌”のデモがあったんですけど、すぐに「これじゃん!」って思いました。「これじゃないとやらない、じゃなけりゃ俺が歌う」と(笑)。それで実際に決まったわけです。

―楽曲のどの部分が一番ピンと来たんですか?

:原作の内容にイメージが合うということですね。大人だって泣いたり、はしゃいだりするんだぜっていうところが合うなと。それでデモの他の曲を聴くと今度は“40”(『元少年の歌』のカップリング)があって、聴くともう「俺やんか」って思って。フラカン先輩は一つ上の先輩方で、僕ももうすぐ40歳なんですけど、なんか「俺のこと?」って思える曲が多くて、余計に思い入れが強くなって。“元少年の歌”は、こんなにタイミングが良くていいものかと思うぐらいハマりましたね。

―<大人だって子供だったんだぜ>っていう歌詞のモチーフはどのように浮かんできたんですか?

鈴木:この間のアルバムぐらいからずっとそういうテーマがあったんですよ。40歳に近くなってから、小学校2・3年生ぐらいのころを良く思い出すようになって、その辺の自分と今の自分とを比べてるんです。たぶん自分の中で今がそういう時期なんですね。

―“40”にしてもそうですもんね。それがたまたま映画の内容に合致したと。

:大人と子供、誘拐犯と誘拐された人なんだけど、時には子供同士のようであり、時には大人同士にも見える。この楽曲にも、結果的にそういう切り口が見えましたよね。無意識なんですけど、僕の深層心理みたいのがズバリ<大人だって泣くぜ 大人だって恐いぜ>っていうところだったんですね。

 

黙って目の前にあるものを愛おしく表現できればそれが一番かっこいい。

 

―映画と楽曲の相互作用っていうのは絶対あるでしょうね。

:20代だったらもっとエッジの効いた、「売れるなんて…」って思いながら撮ってることもあったと思うけど、今はそういう欲もかっこつけも必要なくなって、黙って目の前にあるものを愛おしく表現できればそれが一番かっこいいなって思っちゃうんです。音楽にしろ映画にしろ、そういうものが好きなんですね。“40”に<結局、逃げ場所は ここにしかなかった>って歌詞があるように、僕も結局表現者で、映画を撮ることと家に帰ること以外ないんですよ。その中で「行けよ!」って叩かれるんじゃなくて、ポンっと押してくれる感じが好きですね。非常にそばにいる感じがします。

マエカワ:そう感じてくれるとありがたいですね。たぶん、そういう風にわざと作ってるわけじゃなくて、自分のことしか歌ってないわけだし。

:誰しもに合うパーツがいっぱいあるんですよ、フラカンの曲には。

鈴木:地球規模の歌とかエコとか、そういう歌も必要でしょうけど、あまりにも自分が歌うことって視野が狭いんですよ。半径15センチぐらいの中でずっとやってて、「これで果たしていいのかな?」って思ってた時期もあったけど、最近はより狭い視野のことを歌った方が伝わることが多いというか、伝わってるなって感じることが多い。不思議なもんで、個人的なことを歌えば歌うほど、個人的なものじゃなくなってくるというか。

2/4ページ:四畳半に住む地味な人の話でも、『アバター』並の映画が撮れるんじゃないかと思って撮りますよ。

四畳半に住む地味な人の話でも、『アバター』並の映画が撮れるんじゃないかと思って撮りますよ。

 

―今回にしても映画のことは全く考えずに、個人的なことを歌っていたのが、たまたま映画とも繋がって、監督とも繋がったわけですもんね。

:価値観とかやり方は自由だけど、僕も半径何メートルの中の愛とか人間模様を撮って、それが世界に繋がっていくもんだと思う。四畳半に住む地味な人の話でも、『アバター』並の映画が撮れるんじゃないかと思って撮りますよ。

―フラカンのお二人は実際に自分たちの曲が映画で流れたときはどんな印象でしたか?

鈴木:やっぱり大画面で、大音量で聴くから、嬉しかったですね。

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グレートマエカワ

マエカワ:自分たちの曲が映画に使われることは全然いいと思ったんで、映画の内容のチェックはせずに「いいですよ。任せます」って言ったんです。でも、どんな映画かっていうのは気になるじゃないですか?

:ポルノだったりね。「大人だって」って(笑)。

マエカワ:(笑)。でも映画自体すごく良かったから、めちゃくちゃ感動してるときに曲が流れて、こういうのに使ってくれてめちゃくちゃ嬉しいなって。

 

出会いはいっぱいあるはずなのに、自分の感覚だけで逃してるんだなって。

 

―初めてお会いしたのはいつだったんですか?

マエカワ:下北沢QUEのライブの時かな。

:楽屋でご挨拶したのが初めてですね。

―フラカンのライブの印象はどうでしたか?

:家族で行ったんですけど、僕も嫁(シンガーソングライターの榊いずみ/旧芸名は橘いずみ)も嘘偽りなくジーンときて泣いてしまったんですよ。僕は飾りっ気のないどストレートなものが大好きですし、それが非常にダイレクトに伝わったんですよね。やっぱりライブで聴かないとわからないなって。イメージだけで聴かないんじゃなくて、できる限り聴くべきだし、芝居も見るべきだなって。出会いはいっぱいあるはずなのに、自分の感覚だけで逃してるんだなって思って、できるだけフラットにいようと思いましたね。

―ではフラカンから見ての榊監督の最初の印象は?

鈴木:とにかく眼力が凄い。眼力がある人って人間力が強いから。特に監督は役者もされてるし、目が命じゃないけど、そういうのもあるのかなって。楽屋に入ってきたときの一瞥した感じがね。

:あれ結構意識したんすよ(笑)。お互い表現者同士、目を見て挨拶しないとダメだと思って。でも圭介さんも目力強いですよね。

鈴木:いやいや、俺は歌ってる時は力入れてるけど、ステージ降りた瞬間目力ゼロになるから(笑)。

 

3/4ページ:やっぱ街中でマグナムとかぶっ放してくれないと(笑)。

やっぱ街中でマグナムとかぶっ放してくれないと(笑)。

 

―榊監督は奥様がミュージシャンですし、元々音楽はお好きでいろいろ聴かれてたんですか?

:そうですね。すごい詳しい音楽ファンではないですけど、環境としては聴いてる方だったかもしれないですね。RCサクセションのLP買ったりとか、ビリー・ジョエルの『イノセント・マン』が大好きだったり。初めて親父からもらったLPがウェザー・リポート(名ベーシスト、ジャコ・パストリアスの参加していたバンド)で、だから僕はベーシストになりたかったんですよ。

マエカワ:監督は音楽大好きですよ。音楽の話をするときの話し方でわかるじゃないですか?

―確かに。逆にフラカンは映画への興味は?

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鈴木圭介

鈴木:僕は年間200(本)がノルマですから。ここ10年ぐらいずっと、最初の3年は400とか。多分TSUTAYA三軒茶屋店で上位5位以内には入ってる(笑)。

―すごい! どんな映画がお好きなんですか?

鈴木:僕は基本的に70年代の、ニューシネマ以降。ちっちゃいころテレビで見てた『ダーティ・ハリー』とかああゆうのですね。やっぱ街中でマグナムとかぶっ放してくれないと(笑)。

:70年代って言いましたけど、今回参考資料映像としてスタッフに回したのは『スケアクロウ』でしたよ。

鈴木:出た! ジーン・ハックマンが最高なんですよ。地味な映画だから、小学校の時見た印象は全然なくて、『ダーティ・ハリー』とかの方が印象的だけど、今見るとぐっと来る。

:あと『ガントレット』でしたっけ?

鈴木:クリント・イーストウッドね。

:あと僕は(スティーヴ・)マックイーンですね。『ブリット』、あと『大脱走』ね。

鈴木:『ゲッタウェイ』は?

:いいじゃないですか。アリ・マッグローがいいケツしてるんですよ(笑)。

 

人前に出るのは中毒的なところがあるんです。

 

―ええと、映画の話は止まらないようなので、この続きは飲みにでも行っていただいて(笑)。今回は“元少年の歌”のPVも榊さんが監督されてるんですよね。

:PVは何本か撮ってるんですけど、80年代のテイストが好きですね。昨今のPVってCGを使ったものが多いじゃないですか? それはそれでいつでも撮れる気がするんで、アナログで最高なものを撮るっていう発想がどうしても好きですね。

―監督されてる時の榊さんの印象はどうでしたか?

マエカワ:厳しいですよ。当たり前ですけど。

鈴木:子役の子に対してもすげえ厳しいんだよね。「やる気あるの? 帰っていいよ」とか。

マエカワ:一緒だもんね、プロだからね。

:そうそう、プロなんですよ。ギャラ払ってるんだからっていうことではなくて、「君は役者やっていきたいの?」「やっていきたいです」っていう認識なので。

鈴木:で、すごいのはカメラ回ると全然顔変わるんだよね。すごいって思った。

―そういう役者さんの切り替えって、バンドがステージに立つ時にも通じますよね。

マエカワ:意識はしてないかな。すっごい変わってるんだろうけど。

鈴木:年もとってきたから、ぬるっと入ってもいいかなと思ってるんですよ。昔はSE鳴った瞬間に戦争に行くような意識でやってた時もあったけど、今は「どうもどうも」って入って、ステージ出て鼻かんでから、「やりますか!」って言って、曲が始まってからぐっと入っていくみたいな。その方がかっこいいかなって。

:その落差はいいですよね。でも何百人、何千人と、お客さんが見てる目ん玉がいっぱいあるわけでしょ? それにさらされるのって、楽しみでもあり恐怖でもあるんじゃないですか? 僕は映像の人間なんで、カメラを通じて奥に何万人もいるかもしれないけど、それは架空なんですよね。

マエカワ:人がいればいるほどこっちもノッてくる。カメラとか録音だけだとなかなかね。20年やってても、お客さんの前でやる時と比べると落ちるなって。

鈴木:絶対舞台に帰って行く役者さんっているじゃないですか? テレビや映画もやってて、それだけで全然食っていけるのに、何カ月もかかったりする過酷な舞台に帰って行くのは、ある意味中毒ですよ。俺らも一緒で、人前でやるのはそういう中毒的なところがあるんです。

 

4/4ページ:やりたいこともはっきりしてるから、また別のものができるんじゃないかと思うんですよね。

やりたいこともはっきりしてるから、また別のものができるんじゃないかと思うんですよね。

 

―監督は役者もやられているわけですが、そもそも監督をやるようになったのはどういうきっかけだったんですか?

フラワーカンパニーズ×榊英雄監督 対談

:役者でデビューしてから鳴かず飛ばずで、食えないから365日中363日バイトして、残り2日も1シーンだけの出番だったり、エキストラやったりしていました。それでも役者をやりたいと思って、不衛生な力の発散でしのいでたわけですよ。でもある時期にある人が、「自分で本を書いて自分で撮れば、自分が主役やんか」と。だから僕は逃げ道の作業としてたまたま映画監督業に出会ったんですけど、一本撮ったら面白くて、もう一本撮りたいと。最初はやましい気持ちだったのが、純粋な表現として撮りたいっていう風に10何年かけてなってきたんですよ。そこで改めて自分に問うたんです。「おまえは監督と役者をやりたいのか」と、それで「イエス」だと。

―フラカンにしても20年で紆余曲折がありましたよね。

マエカワ:インディのときも気持ち的にはダウンしてなくて、むしろアップしとったし、やめたいって気持ちは毛頭なかった。勝ち負けじゃないんだけど、ここでやめたら負けだなって思う体質なんで、そういうのも力になったとは思うかな。休んじゃったりするとお客さん減るなっていうのはまざまざわかったし。

:そういう強烈な体験があったんですか?

マエカワ:やっぱりメジャーからインディになって、1年位ツアー行かなかったときに、お客さんが10分の1ぐらいに減ったところも多かったから。「まだやってます」って全国周らないとダメだなっていうのが、今も続いてるってだけのことなんだけどね。

:『フラカン入門』にはその時期の曲が入ってるわけじゃないですか。 それが凄いなと思うんですよ。メジャーでやってるときの曲じゃなくて、インディの時代に作った曲がナンバー1っていうのもすごいと思うんですよね。

フラワーカンパニーズ×榊英雄監督 対談

―確かにそうですよね。そして今またメジャーに戻ってきて、今後の展望は?

鈴木:まあでも、もう一波、もう一嵐くらい起こしたいな。

:おお、今すごい決意を感じましたね。そういう風におっしゃると思わなかったんで。

マエカワ:若いのですごいバンドがどんどん出てきてるわけですよね。そういうのを見ると、僕らもこれじゃダメだ、まだまだだなって思いますね。そういうやつらはこれから一波起こすわけじゃないですか? 俺らの世代でそういうことがあっても面白いなって。そのために何やらなきゃいけないかってなると、バンド・メンバーそれぞれのスキル・アップとか、そういうことになってくると思う。

鈴木:僕らも嵐の「ア」ぐらいまで行ってた時期があったからわかるんですけど、あの頃は自分たちが気付かないうちに広がって、スタッフもどんどん増えて、気付いたらその渦中にいて、わけわかんないとこに行っちゃってたんですよ。今だったらああはならないなって。地道にやってきて、これからも地道にやるんだけど、今だったら足場を見失うこともないし、やりたいこともはっきりしてるから、また別のものができるんじゃないかと思うんですよね。楽しみにしててほしいです。

作品情報
『誘拐ラプソディー』

劇場公開日 2010年4月3日
監督: 榊英雄
原作: 荻原浩
脚本: 黒沢久子
音楽: 榊いずみ
製作国: 2009年日本映画
上映時間: 1時間51分
配給: 角川映画
キャスト:高橋克典、林遼威、船越英一郎、YOU、哀川翔、菅田俊、榊英雄、木下ほうか、笹野高史、品川徹、角替和枝、寺島進、ベンガル、美保純、山本浩司

リリース情報
フラワーカンパニーズ
『元少年の歌』(初回限定盤)

2010年3月31日発売
価格:1,470円(税込)
Sony Music Associated Records

1. 元少年の歌
2. 40
3. 深夜高速(Acoustic)
[DVD収録内容]
「元少年の歌」Full ver.
「深夜高速(Acoustic)」レコーディング風景

フラワーカンパニーズ
『元少年の歌』

2010年3月31日発売
価格:1,223円
Sony Music Associated Recordsv
1. 元少年の歌
2. 40
3. 深夜高速(Acoustic)

プロフィール
フラワーカンパニーズ

89年、名古屋にて鈴木圭介 (Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一 (G)、ミスター小西 (Dr)の4人で結成。95年にアンティノスレコードよりメジャーデビュー。01年、アンティノスレコードを離れ、自らのレーベルTrash Recordsの立ち上げに参加。熱く地道な活動が、アーティスト達から絶大な支持を集め、再び注目を集める。08年夏、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズと契約し、メジャー復帰。10年1月には、オールタイムベストアルバムとなる「フラカン入門」をリリース。男40歳!結成20周年にして快進撃を続ける、スーパーライブバンド!

榊英雄(さかきひでお)

1970年6月4日生まれ 長崎県出身。95年、『この窓は君のもの』主演で俳優デビュー。その後も『VERSUS ヴァーサス』(00)『ALIVE アライヴ』(02)に主演、『突入せよ!あさま山荘事件』(02)『あずみ』(03)『北の零年』(04)などに出演し、俳優としてのキャリアを重ねる中、志願して助監督を務め現場経験を積み、07年『GROW −愚郎−』で長編監督デビュー。『誘拐ラプソディー』(10)は、『ぼくのおばあちゃん』(08)に続き長編3作目となる。



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