「ドリアンのデビュー作がやばい!」と言ってピンと来ない人も、「七尾旅人とやけのはらの“Rollin’ Rollin’”のアレンジを手がけた男のデビュー作」という紹介をすれば、俄然興味を持ってくれることと思う。そして、実際にこのデビュー作『Melodies Memories』を聴けば、そんな「第三の男」としての評価を超え、ドリアンというアーティストの虜になるかもしれない。80sディスコ風味たっぷりのきらびやかでロマンティックなトラックの数々は、それだけの可能性を秘めている。そんな素晴らしい作品を発表したドリアンだが、音楽を諦めかけた、苦しい時代もあった。そんなドリアンが赤裸々に語ってくれたのは、自らの個性である「Melodies」にたどり着くまでの物語と、今も音楽活動の根底に存在する「Memories」への複雑な思いだった。
(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)
―親は音楽に対する理解があったんですか?
ドリアン:お父さんが好きでしたね。趣味でバンドでギターを弾いてたんで。だから小室さんの前に親が車で聴いてたものとか、そういうのが染み付いてる感じはしますね。なんかちょっとダサいフュージョンみたいな。シャカタク(80年代から活躍するイギリスのフュージョン・バンド)とかですね。
―鍵盤を買ってもらってからはどんな方向性に進んだんですか?
ドリアン:結構いろいろ間違えた方に行きました(笑)。静岡の田舎で、周りに音楽を知ってる友達がいなかったので、自分で探すしかなくて。「小室さんの言ってることが正しいんだ」と思ってたから、ジュリアナ東京のコンピとかを買って、「これがテクノか!」みたいな(笑)。
―最初はどんな曲を作ってたんですか?
ドリアン:それこそジュリアナみたいな感じの曲を作ってました。それから、友達のお兄さんに『さんぴんCAMP』(1996年に日比谷野音で開催された伝説的ヒップホップイベント)のビデオを見せられたり、中学で隣の席になった女の子がテイ・トウワ好きのマセた子だったりして…。
―そうやって徐々に軌道修正されていったわけですね。
ドリアン:そうです、軌道修正して(笑)。それで高校生になってからは、新しいシンセやサンプラーも買って、部活にも入らずにずっと家で音楽を作ってましたね。
もう全てが嫌になって、誰とも関わりたくないと思っちゃったんです。
―作るのが中心で、ライブをやったりはしなかったんですか?
ドリアン:高校3年くらいからラップを始めて、東京に出てきてからもやってたんですけど、すごいガツガツしてる、「人生=ヒップホップ」みたいな、ああいうのに馴染めなくて。
―ヒップホップのそういう部分が苦手っていう話はよく聞きます。
ドリアン:みんな仲良くしてる中で、誰ともしゃべれない、しゃべりたくもないって感じ。一晩中ヒップホップが爆音でかかってるのが苦痛で仕方なかったです。一緒にヒップホップをやってる相方もいたんですけど、ヒップホップっぽくない4つ打ちのトラックを作ると、「こんなのねえよ」みたいな反応だったりして。そうやって段々と面白くなくなっていって、「やめるわ」って。
―ヒップホップ周りにいることをやめたんですか? それとも音楽自体をあきらめようと思った?
ドリアン:ヒップホップ周りにいるのをやめようと思ったんですけど、なかには「トラックいいね」って言ってくれる人もいて。それで、女の子2人組のエセ・ディーバみたいな、性格悪い言い方ですけど(笑)、そういうのに曲作ったりして、CDも出すことになったんです。でも、もらえるはずだったギャラも出ない。どうしたのか聞いてみたら、「私たちももらってなくてわかんない」って。でもネットで調べたらもうCD出てて、しかも何日かしたらその子達から電話がかかってきて、「新しいトラックまだ?」って…。それでもう全てが嫌になって、誰とも関わりたくないと思っちゃったんです。家で悶々としながら曲を作ってはいたんですけど。
―曲を作ること自体はやめなかったんですね。
ドリアン:やりたいなって気持ちはずっとあったんですけど、どう再開したらいいかもわかんないし、曲を作っても誰に聴かせたらいいかもわかんない。そういう時期が2〜3年ありましたね。
音楽をやらなくなっちゃって、それなのに本当はやりたいと思ってることも彼女に読まれてて。
―それは苦しい時期だったでしょうね…。そこからどうやって活動を再開して行ったんですか?
ドリアン:その頃一緒に住んでた彼女がいたんですけど、僕が音楽でどうにかしたい人なんだろうなっていうのはわかってたと思うんですね。でもやらなくなっちゃってて、それなのに本当はやりたいと思ってることも読まれてて。それで誕生日にターンテーブルを1台プレゼントしてくれて。そしたら次の日に友達から電話がかかってきて、「ターンテーブル買い換えるから1台1万円でどう?」って。「ミキサーも買い換えるからあげる」って言われて、DJできる環境が整っちゃったんですよ。
―へえ、すごい偶然ですね。
ドリアン:それでDJの練習して、近くのDJバーでやらせてもらい始めて。そこからですね、どんどんと人脈が広がっていって。
―じゃあ彼女と友達から1台ずつターンテーブルを貰ったのはすごく大きなきっかけになったわけですね。
ドリアン:そうですね。その彼女とは別れちゃったんですけど。今よくよく考えるとデカイ転機というか。どういう意味でプレゼントしてくれたのかはわかんないですけど、今考えると意味があったのかなって。
―そうやって活動を再会して、昨年初めての作品『Slow Motion Love』をCD-Rで発表しましたよね。あの作品をリリースすることになったきっかけは?
ドリアン:DJをやりながら、曲を作ってることを友達に話してたんですね。そうしたら「今度DJじゃなくてライブやってよ」って言われて、ライブをやり始めるようになって。それで、ライブで作った曲をMySpaceにアップしたら、やけさん(やけのはら)が聴いてくれて、ブログで紹介してくれて。僕もそれをたまたま見て、お礼のメールを送ったら、次の週にパーティーに遊びに来てくれたんですよ。そこから仲がよくなっていって。
―それって『Slow Motion Love』を出す前?
ドリアン:前ですね。それもやけさんが提案してきたんですよ、「出したらいいのに」って。「どうやって出したらいいのかわかんなくて」って言ったら、やけさんはミックスCDをCD-Rで出してるから、「CD-Rでいいじゃん」って。置いてくれるお店とかもやけさんが紹介してくれて、俺何にもやんないで(笑)。
空手を休んだ金曜日に、俺は音楽でやって行きたいって思ったんですよね。それ以来楽しいことが音楽しかなくなっちゃったんです。
―ドリアンさんとしては、出したい気持ちは強かったんですか? それともわりと言われるがままに、みたいな?
ドリアン:どうにかしたいとは思ってたんですけど、どうしていいかよくわかんなかったんです。それを誰に話すわけでもなく、「とりあえず頑張ってれば」ぐらいのことを思ってましたね。
―それをやけのはらさんが引っ張ってくれたわけですね。『Slow Motion Love』は『Melodies Memories』の原型とも呼べる作品で、この作品で、踊れるけどメロディーも美しいというドリアンさんの音楽性が固まったのかと思いますが、いかがですか?
ドリアン:そうですね。ラップをやってたときからヒップホップはそんなに好きじゃなかったし、クラブが面白いとかもあんまり思わなくて、それこそ遊びに行くのを再開してからは4つ打ちっぽいのが面白いなってなってきて。原点をたどればジュリアナとかだったし、こういうサウンドの方が自分にとって普通なんだなって思って。
―なるほど。
ドリアン:でもキャッチーなものとかメロディが強いものはそんなに好きじゃなかったんですよ。だけど、たまたま作ってみたんですね。メロディが強くて、変にキラキラしてる曲を。そうしたら結構評判がよくて、個人的にも作りやすかったし、こういうのを作っていこうかなって。
―ドリアンさんの曲はもちろんフロアで聴いてもいいと思うし、メロディがいいからホーム・リスニングにもばっちりなんですよね。
ドリアン:確かに、いわゆるクラブ・トラックみたいのを作ってもなあっていう感じはしてたんです。そういうのはみんな作ってるし、自分は得意なのをやった方がいいのかなと思って。
―流行の音に対する違和感があるとか?
ドリアン:いや、違和感はないです。そういうのも好きですし。クラブミュージックのトラックメーカーって、ビートとか質感が決め手なところがあるけど、僕の場合はメロディだったりコードだったり、普通の音楽的な部分っていうか、そういうのを作るのが得意なんですよね。
―アルバムタイトルにも「Melodies」って入っていますね。
ドリアン:色々考えたんですけど、このタイトルが一番しっくり来るなって。大事にしてる部分を考えると、これかなって。
―「Melodies」に関しては話してもらいましたが、「Memories」は?
ドリアン:思い出とかを曲にするんですよ。気持ち悪いですけど(笑)。シンガーソングライターみたいな感じですよね。トラックメーカーとかDJより、精神的にはそっちの方が近いと思うんです。
―なるほど。今日お話を聞いて色々な苦悩や出会いがあってここまで来たという事がよくわかりましたが、その根本にあるドリアンさんの音楽に対するモチベーションがどこから来ているのかを教えてください。
ドリアン:難しい話ですね…空手を休んだ金曜日に、俺は音楽でやって行きたいって思ったんですよね。それ以来楽しいことが音楽しかなくなっちゃったんです。ファミコンとか楽しかったんですけど、急に全部いらなくなっちゃって。
―ものすごい衝撃だったんでしょうね。
ドリアン:そうですね。まだ楽器を触ってすらいなかったんですけどね(笑)。
―シンガーソングライター的な側面があるというお話がありましたが、自分の思いを表現したいというのがひとつのモチベーションだとは言えますか?
ドリアン:昔はそういうのなかったんですけど、ライブをやるようになってからやたらそういう…ホント気持ち悪い言い方なんですけど、心が敏感になってきたっていうか(笑)。
―自分の作った音楽が自分だけではなくて、周りの人にも向けられるようになってきたということかもしれないですね。
ドリアン:そういうのもありつつ…自分としては、音楽でどうにかならなきゃまずいと思ってますね。それこそターンテーブルの話の女の子とは、色々嘘もつきつつ、適当なことを言って別れたんですね。そういう人に対して合わせる顔もないというか。煮え切らないまま会えなくなった友達とかも結構いるので、どうにかしないと合わせる顔がないというか、やっていることの筋が通らないというか、わりとそういうところで音楽をやってる部分が多いです。「あれかっこいい」「こういうのやりたい」とかっていう、あんまりそういう感覚じゃないんですよね。
「小室哲哉の言ってることが正しいんだ」と思ってたから、ジュリアナ東京のコンピとかを買って、「これがテクノか!」みたいな(笑)。
―まずは音楽との出会いから教えてください。
Dorian
ドリアン:最初は小室哲哉ですね。きっかけは多分TM(NETWORK)なんですけど、そこまで聴き込んだわけではないです。小学校4、5年のときに、親に無理やり空手を習わせられてたんですけど、それが嫌でサボったときたまたま『ミュージックステーション』を見たらTMが出てたんです。それを見て「あ、なんかすごいな」と思ったんですよね。シンセサイザーの見た目とか。これはちょっとやりたいなと思って、小学校6年生のときに、カシオトーンみたいな簡単シンセを親に買ってもらいました。
- リリース情報
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- Dorian
『Melodies Memories』 -
2010年9月15日発売
価格:2,100円(税込)
FCT-1004 / cap-1101. Dorian's Openning Theme
2. Nasty Ice Cream feat. LUVRAW&BTB
3. Melodies Memories
4. Flash
5. Natsu No Owari feat. G.RINA
6. Magic Fly Love Affair
7. Free
8. Morning Calling
9. Disco4.5(ASYK MIX)
10. Shooting Star feat. TAVITO NANAO&YAKENOHARA
11. Crystal Girl
- Dorian
- プロフィール
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- Dorian
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RolandのオールインワングルーヴマシンMC-909を使ったライヴで都内を中心に活動中。ドリーミーでロマンティックなアーバン・ダンス・ミュージックで各方面から支持を集めている。2009年、初の自主制作盤CD-R『Slow Motion Love』を発表。トラックメイカーとして七尾旅人×やけのはら“Rollin' Rollin'”のアレンジを担当、リミックスも手がける。ZEN-LA-ROCK〜DEDE MOUSE等の作品への参加VMCへの楽曲提供等々。2010年9月、自身初のフルアルバム『Melodies Memories』をリリース。
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