SEEDAやPSGを筆頭に、現在の日本語ラップ・シーンは何度目かの隆盛期を迎え、様々な才能がシーンに登場してきている。中でも、前述の両者のフックアップもあって、デビュー作『ESCALATE』を発表したハタチの新人・RAU DEF(ラウデフ)は、その存在が異彩を放つ要注目のラッパーである。彼の特徴は、何と言ってもそのラップのスキル。日本語ヒップホップにおいて、多くの場合で重要視されるリリックの内容を度外視してまで、ひたすらに「音としてのラップでいかに上がれるか?」を追求しているのである。それはまだ決して長くはないキャリアの中で感じてきた日本のシーンへの違和感と、海外のシーンに対する愛情を背景に選び取った、彼の唯一にして最大の武器。上がってんの? 下がってんの? もちろん、上がりまくってるぜ。
(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)
生きがいを感じられるものが見つかってよかったっす。
―まずはラップに興味を持ったきっかけから教えてください。
RAU DEF:DJを目指してたいとこがいて、レコードとかいっぱい持ってたんですけど、その頃まだ小学校6年とかだったんで、最初はジャケットのB-BOYのルックスに惹かれたんですよ。LL・クール・Jとかかっこいいじゃないですか? もちろんこれかっこいい音楽だなっていうのもあったんですけど、言っちゃえば一番は外見っすよね(笑)。
―じゃあ中学ぐらいからB-BOYファッション?
RAU DEF:そうっすね。周りに誰もいなかったですけど(笑)。
―ちなみにヒップホップに出会うまではどんな少年だったんですか?
RAU DEF:ヒップホップに出会った後もそうですけど、超運動オンチで、勉強もできなくて、習い事も部活さえも続かなくて。
―続かないっていうのは、興味が湧かなかった?
RAU DEF:何にもなかったですね、魅力が(笑)。勉強できなくてもスポーツできたり、その逆もあったりするけど、どっちもできないから「オレってホントどうなんだろう?」って思ってて。
RAU DEF
―じゃあヒップホップに出会って「これしかねえ」と。
RAU DEF:そうっすね。生きがいを感じられるものが見つかってよかったっす。
―実際にラップをやり始めたのはいつごろから?
RAU DEF:とりあえず中学でヒップホップをしっちゃかめっちゃか聴きまくって、日に日にやりたくなっていったんですけど、中学生だからクラブとか行けないし、結局できなくて。千葉の市川の出身なんですけど、周りにやってるやつもいないし、大体B-BOY俺一人だけだし。
―(笑)。
RAU DEF:それで「俺どうやったらラッパーになれるんだよ」って思いながら中学卒業したんですけど、高1のときの彼女の兄貴がDJをやってて、イベントとか出てるって言うから、「俺ラッパーになりたいんです」って頼み込んで。そうしたら「じゃあラップ書いてきてよ」って言われて、それが始まりですね。
「ラップってどうやってやるんだ?」って壁にぶつかっちゃったんですよ。
―最初からすんなりできたの?
RAU DEF:いや、やりたいと思うのが早かっただけで、やり始めるまで結構長かったから、その間リリックとかも書いてなかったし、練習とかもしてなかったんですよ。そうしたら、自分が今まで聴いてたヒップホップと、自分が初めて書いたリリックが違い過ぎて。
―ああ、なるほど。
RAU DEF:ただ好きだっていうのが先行してただけで、「ラップってどうやってやるんだ?」って壁にぶつかっちゃったんですよ。やり始めてから、やり方がわかってないことに気づいて(笑)。それで地元の駅前でサイファ(※フリースタイル・ラップでのセッション)とかやって知り合った人に、それまで作った音源を聴かせたらダメ出しされて、「昔の曲を聴いた方がいい」って言われて。昔のラップってベーシックでフロウが単調だから、基本がわかりやすくて。
―そのあたりが本格的なラッパーとしての目覚め?
RAU DEF:そうっすね。ラッパーになりたい、一番かっこよくなりたいっていう気持ちはずっとあったんですけど、それまではただ思ってるだけだったんですよね。
現場が失望させてくれたから、その分音楽をいっぱい聴いて、今の自分のフロウがあると思いますね。
―そこからは順調?
RAU DEF:うーん。その時点で日本語のヒップホップ・シーンに絶望感があったんですよ。悪くて、誰かのコネがないと上にいけないんじゃないの? とか思って。それに千葉のイベントなんて実際客入ってないのにノルマがあって、それでライブはもういいやってなって。でも結局曲ばっか作ってもNO NAMEだから誰も聴いてくれないし、いい加減ダメだなって思い始めて。見切りつけて一回就職したんですよ。
―そういう時期もあったんだ。
RAU DEF:でもやっぱりラップをやりたいっていうモヤモヤが残ったままだったから、全然(仕事を)やる気にならなくて。じゃあ最後もう一回賭けてみようと思ったのが、去年の『B BOY PARK』(※毎年夏に代々木公園の野外ステージで行われるヒップホップのパーティー)で。そこでPUNPEE(※PSGのトラックメーカーであり、『ESCALATE』のメイン・プロデューサー)くんに会って、その後にリリースされたPSGの『David』に入ってた“M.O.S.I”のリミックスに呼んでもらって、「よっしゃチャンス来た!」みたいな(笑)。それで、そのリミックスを今のレーベルの人が聴いて連絡をくれて。
―ホント、最後の勝負で一発逆転したわけだ。
RAU DEF:なんか…変に上手くいっちゃったっす(笑)。
―でもてっきりライブ叩き上げでスキルを磨いてきたのかなって思ってたから、一時期ライブから離れてたっていうのは意外だったなあ。
RAU DEF:クラブがあんまり好きじゃないっていうのもあるし、俺のこと誰も知らないし、「セイ・ホーじゃねえよ、誰も手上げねえよ」みたいな。
―クラブのノリ自体が苦手? それとも、反応がないのが嫌だった?
RAU DEF:スキルがなくてもそいつのことを知ってれば(手が)上がるのを見てて、「だったらかっこいいラップ研究する必要ねえじゃん」って。そう思ってから音源重視になって、自己満でいいから自分がやばいと思うラップを研究しようと思って。だから現場叩き上げでこういうフロウになったわけではなくて、逆に現場が失望させてくれたから、その分音楽をいっぱい聴いて、今の自分のフロウがあると思いますね。
いろんな音楽の上がる要素があると思うんですけど、俺にはヒップホップしか当てはまらなくて。
―そもそも、そういうラップへのこだわりっていうのはどんな部分から来てるのかな?
RAU DEF:他のジャンルとかって、「どこで上がってんの?」って感じなんですよ。ロックとかいろいろ音楽のジャンルがあるけど、ヒップホップは上がり具合が違って、マイク1本で、オケはずっと同じ1ループのブレイクビーツだけなのに、何発も客が上がるんですよ。いろんな音楽の上がる要素があると思うんですけど、俺にはヒップホップしか当てはまらなくて。だってマイク1本ですよ。すごくないすか? それって他にないと思うし。
―確かに、身ひとつで勝負してる感じするよね。
RAU DEF:日本のシーンにはそういうとこあんまり感じられなくて、アメリカのシーンっすね。向こうのラッパーは「俺誰にも負けねえぜ」ってスタンスでやってると思うんですけど、日本は縦社会っていうか、「ヤンキーの延長線上なんじゃねえの?」っていう。その逆はアンダーグラウンド過ぎて、おたくっぽい。腕っ節で勝負とか、病んだふりとか、「そんなんヒップホップじゃなくてもできんじゃん」みたいな。
―(笑)。
RAU DEF:俺が好きなのは真っ向スタイルっすよね。USのラップは内容わかんないけど、ただ上がってることは確かじゃないですか? 悪く言っちゃえばかぶれてるやつなんですけど(笑)。
探究心が強いやつが評価されてるっていうのが今の共通項だと思うんですよ。
―このところまた日本のヒップホップ・シーンから面白い才能がたくさん出てきているけど、その中でRAUくんは王道に近い位置にいるよね。
RAU DEF:結局新しいことを見せようだったり、自分が一番かっこよくなりてえとか、探究心が強いやつが評価されてるっていうのが今の共通項だと思うんですよ。だから、王道で勝負してるっていうのも俺が好きなだけであって、そうじゃない人もいるじゃないですか? どこのジャンルにいるやつでも、探究心がやばいやつは上がって行けると思うんですね。
―自分の年齢に関してはどう? “THAT'S WAKAZO!!”って曲もあるけど。
RAU DEF:ハタチでアルバム出したから、「ハタチ、ハタチ」って言われるだろうと思って、「だったらお望みどおり言ってやるよ、THAT'S WAKAZOだぜ!」みたいな感じっすね(笑)。
―いいねえ(笑)。
RAU DEF:この曲でフィーチャリングしてるPOCKYにも去年の『B BOY PARK』で会って。1コ下なのに、もうアルバム出してて、福岡からこっちまで出て来て、すげえなあっていう。俺19のとき絶対できなかったなって。でも、そのときは話はしなかったんですけど、あとでmixiで探してメッセージ送って(笑)。
―ラップに対する強気な部分と、そういう現代っ子らしさのバランスがいいよね(笑)。
RAU DEF:でも手段とか関係ないと思うんですよ。かっこいいやつとは繋がりたいし、年上でもかっこいいやつがいない中、1コ下でアルバム出して、「こいつやばいだろ!」っていう。俺もSEEDAくんにフックアップしてもらったし、1年前の自分と重ねた部分もありましたね。
リリックよりラップが大事なんですよ。かっこいいラップをすることが大前提なんです。
―以前はヒップホップに対する愛情っていうのが何より大事だったけど、今の世代にとってヒップホップはあくまで自分を表現する手段のひとつになってきてる感じがするんだけど、どうかな?
RAU DEF:それはリリック(詞)の問題ですよね…。正直言うと俺はリリック重視じゃなくて、とりあえずリズムっすよね。タイミングが合ってればくだらないライムでもカッコいいから、リリックなんてどうでもいいっちゃどうでもいい感じではあるんですよね。USのラップ聴いて、リリックわかんないのに上がったってことは、俺はそっちが好きだってことだから。リリックよりラップが大事なんですよ。かっこいいラップをすることが大前提なんです。
―『ESCALATE』っていうタイトルはまさにそのラップで上がっていく感じからつけたの?
RAU DEF:全部にはまった感じですね。嫌なこともあったし、いいこともあって、その両方がエスカレートしちゃってることに対する心境を書いたアルバムなんですけど、でもタイトルに込めたのはいい方向にエスカレートして行きたいって感じっすね。
―自分をエスカレートさせるのはもちろん、日本のシーン全体をいい方向にエスカレートさせていきたい?
RAU DEF:失望感と五分五分っすね。喝を入れてやろうぐらいの気持ちもあるし、裏を返せば、みんなにベーシックなヒップホップを知ってもらいたいんです。
―なるほどね。じゃあ最後にRAUくんの今後の野望を聞かせてください。
RAU DEF:野望………あ、わかったっす! やっぱ女の子が必要だと思うんすよ、ギャルズが。どこのヒップホップ系のクラブ行っても8割男みたいな、これ日本のきつい現状なんで。渋谷系のギャルもガールズ・コレクションの女も全員ヒップホップ好きみたいな。
―でもあえて言うけど、ラップのスキルを大事にすることとギャルズを両立させるのはなかなか難しいよね。
RAU DEF:両立させるためには、まずスキルをただただ磨くこと、自分がかっこいいと思うことをただただやること。あとダサい格好はNGですね。格好もスキルも揃えること。でも1人じゃ無理なんすよ。今のJ-POPでいけてる歌姫達の力を貸してもらって、フィーチャリングすれば、倖田來未聴きたいやつが聴いてくれたときに、「お、ラップリアルじゃん」みたいな。それで徐々にラップの方にリスナーが移ってきて、ギャルズもそのまま移行っすよね。
- リリース情報
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- RAU DEF
『ESCALATE』 -
2010年9月10日発売
価格:2,300円(税込)
FILE RECORDS FRCD-2021. -FIANCE- Produced by PUNPEE
2. DREAM SKY Produced by PUNPEE
3. ESCALATE Produced by PuB KEN
4. RAC BANG feat. HISTORIC Produced by PUNPEE
5. STUPID DECISION Produced by NAKKID
6. -MUSEUM- Produced by ZAKK
7. とりまえず Produced by PUNPEE
8. NAMIDA feat. S.L.A.C.K. Produced by S.L.A.C.K.
9. THAT'S WAKAZO!! feat. POCKY Produced by PuB KEN
10. I'M Produced by ZAKK
11. STINGA Produced by STUTS
12. -KOSAME- Produced by PuB KEN
13. DOGGG RACE Produced by JASHWON
- RAU DEF
- プロフィール
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- RAU DEF
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ヤバいヤツがまた現れた。一体今までどれだけのラッパーが新世代と呼ばれて来ただろう。小難しい理屈はどうでもいい、これぞ超感覚的HIPHOP。RAU DEFがフロウすると誰もがその気持ち良さに身を任せる。09年に発表されたSEEDA & DJ ISSO『CONCRETE GREEN 9』や、PSGの特典音源『M.O.S.I Remix』等でその才能を遺憾なく発揮し、遂にデビューアルバム『ESCALATE』が完成。iTunes「今週のシングル」やスペースシャワーTV「Black File」 が選ぶ2010年注目のアーティスト「LEADER OF NEW SCHOOL 2010」にも選ばれるなど注目を集めている。
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