国境をまたいだ楽しいバンド 4 bonjour's parties

9人組の(元)室内開放音楽集団、4 bonjour's partiesの新作『okapi horn』が素晴らしい。木管楽器とエレクトロニクスが溶け合ったまどろみの境地のようなサウンド、夢を見ているかのように切り替わる大胆な曲展開、男女ボーカルによる繊細なハーモニーと聴きどころは数あれど、なによりこの洋楽的な「質感」を出せるバンドは日本では稀である。洋楽的な文脈での「インディ・ロック」という言葉にシンパシーを感じる人で、このアルバムを嫌いな人はいないだろう。
本作の制作途中、バンドの中心人物である灰谷歩と、新メンバーの矢作美和はオーストラリアに留学し、日本に残る6人とオーストラリアの2人は現在も離れて活動を続けている。また、『okapi horn』には、2度にわたるオーストラリア・ツアーで親交を深めた多くのオーストラリア人のミュージシャンがゲストとして参加している。そこで今回のインタビューでは4bonとオーストラリアの関係を軸に、『okapi horn』へと至る近年の活動をじっくりと振り返ってもらった。灰谷と共にメインのソングライティングを担当する植野康二と、ボーカルとフルートを担当する鹿野友美に加え、リリースパーティーへの出演のため急きょ帰国した灰谷も加えた3人での貴重なインタビュー、ゆっくりお楽しみください。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

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(最初のオーストラリア・ツアーは)全部ノリで決めてたんです(笑)。

― 05年にオーストラリア・ツアーに行かれてますが、この頃はまだ正式な音源も出ていない頃ですよね。どういう経緯でオーストラリアに行くことになったのですか?

国境をまたいだ楽しいバンド 4 bonjour's parties
灰谷歩

灰谷:安斎(直宗)さんというキーボーディスト兼エンジニアの方がメルボルンに住んでいて、向こうのインディシーンの様子を『キーボード・マガジン』のコラムで書いてたんですね。それを読んでて、宿泊施設に安く泊まれたりとか、ギャラがもらえたりとか、面白そうだなと思って。安斎さんは知り合いの知り合いだったので連絡を取ってみたら、「もし来るときあればブッキングするんで連絡ください」と言っていただいたんで、「じゃあ行きます」ってメールして(笑)。


植野:その頃にCLUE TO KALOというバンドをたまたまタワレコで試聴して、「これすごい!」ってメンバーに紹介してたんですね。たまたま彼らもオーストラリアのバンドだったんで、行く前にダメもとで「一緒にライブがしたい」ってメールしたんです。そしたら返事が返ってきて、「別のライブが決まってて一緒にはできないけど、君らのライブをブッキングしてあげるよ」って。実際その日はライブ後に駆け付けてくれました。

灰谷:でも最初は彼らがどこで活動してるバンドかもわかってなくて(笑)。アデレードで活動してるって聞いて、地図見たらメルボルンのすぐ隣っぽかったから「じゃあ行こう」ってなったんですけど、実際は800kmあって。ようは全部ノリで決めてたんです(笑)。

―じゃあ最初からオーストラリアと接点があったわけではなくて、行ったことをきっかけに色々つながりができてきたんですね。アデレードでCLUE TO KALOとはどんな話をしたんですか?

植野:そのときは灰谷が…

灰谷:酔っ払ってたねえ(笑)。

植野:「日本絶対来てね」っていうのと、「日本来たら絶対一緒にやろうね」っていうのを30回以上言ってました(笑)。

灰谷:それしか言えなかった(笑)。

―でもその翌年には実際にCLUE TO KALOが来日して、ツアーをサポートしたんですよね。

鹿野:つきっきりで、ずっと一緒にいたよね?

灰谷:過保護だったね(笑)。マーク(・ミッチェル/CLUE TO KALOは彼のソロ・プロジェクト) がすごい風邪ひいちゃって、でもうちら嬉しいから連れまわして(笑)。

植野:いろんなとこ連れて行ったけど、結局一番テンション上がったのゲームセンターだったよね(笑)。

灰谷:急に元気になったよね(笑)。

国境をまたいだ楽しいバンド 4 bonjour's parties
写真中央:植野康二、写真右:鹿野友美

―楽しそうだなあ(笑)。そこからはちょっと空いて、09年が2度目のオーストラリア・ツアーでしたね。一度行ってるし、その間にリリースもあったし、状況が変わってより本格的なツアーになったかと思うのですが?

植野:本格的でしたね。メルボルンとアデレード、あとパースとシドニーを飛行機で回って。パースではすごくいいホテルに泊めていただきました。アデレードはものすごい所でしたけど(笑)。

灰谷:アデレードはCLUE TO KALOのメンバーの家に泊ったんですけど…

鹿野:汚すぎて(笑)。毒グモがいたりとか。

植野:それはそれで本格的だったよね(笑)。

―(笑)。でもCLUE TO KALOはこのときもサポートしてくれたんですね。『okapi horn』に参加してるミュージシャンともこの頃に仲良くなったんですか?

灰谷:05年に行って帰ってきてからいろんなメルボルンのアーティストと知り合うようになったんです。特にthe motifsっていうユニットとは仲良くなって、遊びに行ったり来たり、彼女もワーホリで9カ月ぐらい日本に滞在したりしてて、そこを軸に向こうのバンドとたくさん知りあって。だから09年に行く頃には知り合いも増えてて、初対面なのにそんな感じはしなかったんです。

今はメルボルン版の4bonがいるんです。

―このツアーの後から灰谷さんがオーストラリアに留学に行かれるんですよね。中核メンバーがいなくなるのって、バンドにとっては一つの大きな転機だったと思いますが。

灰谷:ずっと前からただ単に留学してみたいと思ってたんですけど、やっぱりバンドをやってたのでタイミングが難しくて。それでずっと見計らってたんですけど、「ここしかない」と思ったのが、バンドにとっては意外と一番重要なときだったっていう(笑)。

―「重要なとき」っていうのは?

灰谷:リリースもあったし、少しずつ回りからも評価してもらえるようになってきて、バンドが盛り上がってる時期だったんです。結果的に上手く転がったとは思ってるんですけど、自分の中での決断は難しかったですね。

鹿野:ホントは全員で行きたかったんだよね?

灰谷:そう。05年に行ったときからずっと思ってて。たとえば日本人のパンクバンドが、3人一緒にワーホリで行ってたりするんですよね。そうやって3人同じ気持ちになれば行けるんだから、うちらも全員同じ気持ちになれば行けるじゃんって思ったんですけど…人それぞれですから。最終的には、とりあえずオレ一人で行きました(笑)。

―植野さんは灰谷さんの話を聞いてどう思ったんですか?

植野:言い出したら止めても無駄なんで、「行ってきなさい」って感じで(笑)。「セカンドを作ってからにしたら?」とは言ったんですけど、それも聞かなかったんで。

灰谷:「(向こうにいても)できるできる」って言って(笑)。

植野:「じゃあ、まあいいか」って。

灰谷:できたね(笑)。

―(笑)。

国境をまたいだ楽しいバンド 4 bonjour's parties

植野:もちろん、ライブで灰谷が抜けちゃう部分をどう補おうか考えたりしてたんですけど、それよりもプラスになることに目を向けた方がいいかなって切り替えて、自分を納得させることにしたんです。そこまで深刻に考えたわけじゃないけど。

鹿野:各々やりたいことやった方がいいよって。

灰谷:でも思ったよりすぐに再始動ライブが始まって、「こんなに早く始めちゃって大丈夫なの?」って思ったんですけど、映像もらって見たら「あ、できてる」みたいな(笑)。

―サポートを入れずに6人でもできちゃうっていうのは強みですよね。

植野:でもバンドの中心人物が抜けることってあんまりないと思うんですよ(笑)。もちろん代わりとか考えたんですけど、中心人物のカラーを変えることはできないんで、今までのメンバーでやれるだけのことをやる方がいいのかなって。

灰谷:吉と出たね(笑)。

―(笑)。灰谷さんは向こうでどんな生活をしてるんですか?

灰谷:最初の3カ月は農業やってました。セカンド・ワーキング・ホリデイ・ビザを取るために、季節労働をやらなくちゃいけなくて。インターネット環境もなかったんで、音を作っても送る手段がない。「隣の家に行けばインターネットあるよ」っていう隣の家が歩いて20分ぐらいかかったり(笑)。

―(笑)。今はメルボルンで、音楽もやってるんですよね?

灰谷:1回日本に帰ってきて、2〜3カ月滞在して、今年の2月くらいからメンバーの矢作と一緒に行って、向こうでライブを始めて。最初は2人でやろうと思ったんですけど、あれよあれよと膨れ上がって、今気づいたら8人なんですよ。編成もほとんど4bonと同じで、4bonの曲もやってて、だから今はメルボルン版の4bonがいるんです。

―それ、すごいですね。

植野:そのうち世界各地にね。

―アメリカの4bon、イギリスの4bon(笑)。

植野:それで元祖4bonがお金を取るっていう(笑)。

「宮殿で映画観てる感じの音」とか、そういう感覚的なことばっかり言って(笑)。

―ではそんな元祖4bonの新作『okapi horn』ですが、灰谷さんが途中からオーストラリアに行ってしまう中、制作はどのように進められたんですか?

植野:09年のオーストラリアに行く前に、ツアーEP用に4曲ぐらいはレコーディングしてたんです。それで灰谷が戻ってきた今年のアタマにベーシックなトラックを録って、その後のやり取りはメールで。でも灰谷が行く前に10曲の原形はできてたんです。

―アルバム全体としてのイメージはありましたか?

灰谷:ファーストよりはわりと意識して作ったんじゃないかな? まとまったコンセプトというか…

―コンセプトというと?

灰谷:ツアー用のEPを作ったときは、歌詞の世界観とか、いきなり展開がバーンと変わるとか、そういう感じが夢っぽいと思って。夢っていきなり場面が変わったり、つながってないんだけどつながってるみたいな、そういうのを夢から覚めて思い出すと面白いじゃないですか。別に実際に見た夢を音楽にしているわけではないんですけど、そういう感覚を大切にしてます。 あともう一曲新曲を作ったときに、CLUE TO KALOのPVでだまし絵っぽい感じの曲(“The Infinite Orphan”)があって。そういうだまし絵っぽい感じを曲にできないかと思って植野君に話をしたら、植野君はもともと絵からヒントを得て作ったりしてるって言うから、「あ、合ってるな」って。

植野:他の音楽から影響を受けるより、のんびり絵を見てたり、小説を読んでたりするとアイデアが湧いてくるんです。そこから音を出していって、絵や小説のストーリーを曲の構成にしたり、雰囲気を音色にしたりとか、そういう作り方をしてて。灰谷のだまし絵とか夢っていうのも視覚的なものだと思うし、そういうのがコンセプトかなって。

―なるほど。大胆な展開の面白さはそういう視覚的なイメージから来てるんですね。

灰谷:でも植野君の“valzer di onesti”とか何年ぐらい寝かせてたんだろう? それこそ3年ぐらい作ってて、今回のアルバムの形になるまでに、4つぐらい曲ができてて。いつ終わらせてもいい状態だったのに、全部ナシにするっていう(笑)。

―部分的に変えるんじゃなくて、バッサリ?

灰谷:「これいいじゃん」って言っても、次の週に「ちょっと変えてみた」って聴いたら、全然違うんですよ(笑)。結果的にはその4つを組み合わせてできたんですけど。

植野:それも絵から発想が来てるんですけど、ボッティチェリの絵で、4コマ漫画みたいな絵画があるんです(『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語/Novella di Nastagio degli Onesti』)。それにインスパイアされて、4つの部分部分を組み合わせていったら上手くまとまって。振り回しましたね、バンドを(笑)。

―その4曲で一つのアルバムにしてみるのもいいかもしれませんね。『valzer di onesti EP』みたいな(笑)。鹿野さんは今回の作品のポイントを挙げるとするとどんな部分ですか?

国境をまたいだ楽しいバンド 4 bonjour's parties

鹿野:ミックス作業にずっと関われたことですね。ファーストのときは岐阜に住んでいたので、参加することができなかったんですけど、今はもうこっちに住んでるから今作はちゃんと立ち会えて。4bonの音楽はミックスが作曲みたいになっちゃってて、それがすごく面白いんです。ミックスとかマスタリングをやってくれた庄司(広光)さんもすごい尽くしてくれて(笑)。すごい無理難題を…。


―どんな無理難題をお願いしたんですか?

植野:注文が抽象的過ぎるんです。「ここはもっと地獄みたいな音にしてください」とか(笑)。

鹿野:「そよ風な声なんですよ」とか(笑)。

植野:「外にいるけどリバーブ感」みたいな(笑)。

―難しい(笑)。

植野:「ギターの音をもっとでかくしてください」とかももちろんあるんですけど、「宮殿で映画観てる感じの音」とか、そういう感覚的なことばっかり言って(笑)。

―じゃあアルバム・タイトルの『okapi horn』も感覚的につけたタイトルだったり?

植野:曲の構成が変わってるのと、オカピって動物がシマウマとキリンの組み合わせだったりするのが通じるなっていうところから来てて。あと、アルバムがすごいデータ量だったので、さらに角までつけて『okapi horn』にしたら、なんとオカピにはホントに角があったっていう(笑)。

俺がオーストラリアに行くって決断したときも、それでダメになっちゃうようだったら、そういうバンドだったってことだと思うんです。

―それと今回のアルバムは、すごくライブ感がありますよね。

灰谷:ファーストのときはゆったりした曲が多かったんですけど、うちらってホントは「ワー!」って盛り上がりやすいタイプの人たちなので、もっと素直にそういう部分を出せる曲をやった方がいいかなって。だからライブを意識して作った部分は結構ありますね。

―4bonって「宅録の閉鎖的なイメージを開放する室内開放音楽集団」っていうキャッチ・コピーがあるじゃないですか? でもコンピューターの進歩で宅録の意味合いってかなり変わってきてるし、バンド自体の方向性も変わってきてると思うんですね。今このキャッチ・コピーについてはどうお考えですか?

灰谷:特にもう考えてないですね(笑)。

植野:コンセプト変えなきゃいけないですね(笑)。

―新しいコンセプトは何にしましょうか?

灰谷:…楽しい系だよね?

―(笑)。

灰谷:曲が楽しいのもあるし、楽しく活動する、楽しく生活するとか、超広い範囲で…

植野:ざっくりしてるなあ(笑)。

灰谷:かっこはつかないけど、一番素直なのはホントそんな感じ。

―じゃあ今後はそれで行きましょう(笑)。今日お話を伺って改めて思ったんですけど、4bonってやっぱりいわゆる運命共同体的なバンドではなくて、メンバーそれぞれのスタンスがあって、それぞれにとっての4bonがあるんだと思うんですね。なので、3人それぞれ「自分にとっての4bonとは?」っていうのを最後に話していただけないかなと思うのですが。

植野:いい意味でボヤッとしてて、決定できないようなスタンスを持ち続けながらやっていけるバンドっていうか、もちろん音に対してはストイックでいいと思うんですけど、活動に関してはボヤッとしてても、いいところを出せるんじゃないかっていう。バンドって「結束感」みたいのあるじゃないですか? でももっとユルくても全然楽しいし、メンバーが離れてても活動できるっていう、そういうバンドの在り方もいいんじゃないかと思うんです。

―鹿野さんはどうですか?

鹿野:そうだな…デザートではない(笑)。ただ甘くて美味しいだけの関係ではなくて、でも食べ物ではある…水とか空気とか、命に関わるようなものではないですけど、でもないと生きていけないっていうようなものですね。

―なるほど。では最後に灰谷さんお願いします。

灰谷:高校を卒業して、ミューズ音楽院に行ったぐらいのときから常々言い聞かせてるのは、辛い時期とか、バンドの活動が厳しい時期は絶対あると思うけど、細くても何でもいいからとにかく長く続けようと。売れても売れなくても、どんな形になってもとりあえず続けて、50年やってても売れないバンドだったら逆にめっちゃかっこいいじゃないですか? だから、続けるためにあるものだし…。えっと、うーん、惜しいなあ。いいところまで来てるんだけどなあ(笑)。

鹿野:惜しい、惜しい(笑)。

灰谷:うちらもわりといい年になってきて、いろんなことが起こってくるから、柔軟性がないと続けることが難しくなってきてるんですよね。だから俺がオーストラリアに行くって決断したときも、それでダメになっちゃうようだったら、そういうバンドだったってことだと思うんです。でもその結果ね、いいアルバムできたね。

鹿野:うん、大成功でした。

イベント情報
viBirth × CINRA presents
『exPoP!!!!! volume47』

2011年2月24日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷O-nest

出演:
Caroline
4 bonjour's parties
and more

料金:無料(2ドリンク別)
※ご予約の無い方は入場できない場合があります。ご了承下さい。

リリース情報
4 bonjour's parties
『okapi horn』

2010年12月8日発売
価格:2,400円(税込)
YOUTH-107

1. skipping birds & stones
2. pins and needles
3. optical song
4. yottie
5. o-micron 6. ventilation
7. hypnosis
8. valzer di onesti
9. tap tap
10. oma

プロフィール
4 bonjour’s parties

01年より自由で良質な音楽を追求する大所帯室内開放音楽集団。男女混声のハーモニーが、ヴィブラフォンや、フルート、トランペット、クラリネットなど、オーガニックでエレクトロなサウンドに優しく包まれる。USでのリリース、Her Space Holidayのバック・バンド、フランスのTake Away Show出演、オーストラリアでのツアーや台湾の大型フェス出演など、国際的に活躍。音楽への愛情、好奇心、探究心、喜びが溢れまくった、まばゆいばかりの傑作2ndアルバム『okapi horn』を10年12月にリリース。



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