芸術なんてどうでもいい?THE★米騒動インタビュー

ここ数年、日本のロックシーンでは10代バンドの活躍が目立っているが、その中軸を担っているのが2008年からスタートし、ねごとやGalileo Galilei、The SALOVERSらを輩出した10代限定フェス『閃光ライオット』である。THE★米騒動は2010年の同フェスでグランプリを獲得した札幌出身の3ピースバンドで、全員が高校を卒業したばかりの18歳ながら、予測不能の展開をする異形のロックを、高い演奏能力を持って鳴らしている。今回のインタビューでは、10代のバンドならではの価値観を探るべく、6月15日にリリースされた彼らのデビュー作『どうでもいい芸術』のタイトルに合わせ、彼らにとってどうでもいいこと、よくないことを答えてもらい、それにまつわる話を聞かせてもらった。自由でストレートな物言いの一方で、冷静に現実を見つめ、時にはこちらがハッとさせられるような鋭い分析も飛び出す彼らの発言から、現代に生きる10代のリアルを感じ取ってほしい。

Fコードで挫折してる暇はなかった(笑)。

―高校の軽音部で結成されたそうですが、THE★米騒動の音楽性から想像すると、部の中でも尖った人たちが集まった感じなんでしょうか。

芸術なんてどうでもいい?THE★米騒動インタビュー
左から、坂本、沖田、石田

石田:沖田は部長で、石田は副部長でした。

―ちなみに、坂本君は?

坂本:俺は怒り役ですね。「怖い人」みたいな立ち位置。自分はできてないのに、後輩に怒るみたいな。

沖田:1番タチ悪い(笑)。

―じゃあむしろ部の中心にいた人たちなんだ…

(坂本、目の前のコーヒーに静々とガムシロップを入れ、さらにメイプルシロップを入れ始める)

沖田:え! なんで!

―ハハ、超甘党とか?

坂本:(飲んで)まだ入れれる。全然甘くないよ。

―自由だなあ(笑)。じゃあ、音楽的なバックグラウンドを教えてください。

石田:個人個人掘り下げるところが違いましたね。坂本がもうひとつ組んでたバンドはメタルとかハードロックな、「DEEP PURPLE超好き」みたいなバンドだったし。

―へえ、今の10代でもDEEP PURPLEとかの方向に行く人は行くんだ。

石田:本当に音楽が好きじゃないと残れないぐらいスパルタで、そういう子たちが集まる部活でもあったんです。普通の子はみんなやめちゃう。

―楽器はいつから始めたんですか?

石田:うちら2人(石田と沖田)は高校入ってから始めたんですけど、ドラムは小2から。

坂本:で、小5で公文を始めた時に(ドラムを)やめました。

―(笑)。でも、小2でいきなりドラムっていうのは親の勧めがあって?

坂本:いや、自分から。特別音楽が好きってわけじゃなかったけど、『ミュージックステーション』とか見てて、後ろで何か叩いて音出してる人いるなってぐらいの興味で、足下(バスドラム)があるのも知らないで、両手でできるもんだと思って習い始めたんです。何のやる気もなく週に1回通ってるみたいな感じでダラダラやってて、一旦やめたんだけど、中2ぐらいで再開してからは真面目に、昔を思い出しつつ我流な感じで、ちょっとずつ練習しましたね。

―石田さんと沖田さんは、楽器を始める前は今のTHE★米騒動の音楽性に通じるような音楽を聴いてたんですか?

石田:小学生の頃は普通にアジカン、バンプとかを聴いてました。中学に入ってネットとか、スペースシャワーTVを見るようになって、メディアにあんまり露出しないバンドも知るようになってからは、9mm(Parabellum Bullet)とか、凛として時雨がめっちゃ好きで聴いてて、高校に入ってこのバンドで最初にやったコピーが凛として時雨でした。

―へえ、でも最初にチャレンジしたのが凛として時雨って、テクニック的に難しくないですか?

石田:できなかった(笑)。

沖田:何やってるかわかんなかったよね(笑)。

―じゃあ、めっちゃ練習した?

石田:練習しないと怒られるんですよ(笑)。

沖田:週4回部活があって、ちっちゃいアンプでみんな個人練をして、さらにスタジオ入ってっていう。

石田:Fコードで挫折してる暇はなかった(笑)。

―なるほど(笑)。じゃあ、沖田さんの音楽歴は?

沖田:中学校を卒業する間際にギターやろうと思って、…なぜかベースを買ってきて(笑)。そこから部活に入って、先輩にいろいろ教えられながら練習して、時雨を泣きながらコピーして………部活辛かったです(笑)。

―体育会系のノリだったんですね。

沖田:ノリとかってレベルじゃないです。

―そっか、ホントに体育会系だったんだ(笑)。

2/4ページ:音楽で食って行けるなんてことは全くサラサラ頭になくて。

音楽で食って行けるなんてことは全くサラサラ頭になくて。

―その後は自然にオリジナルに発展して、『閃光ライオット』でグランプリを獲得したのをきっかけにデビューしたわけですよね。そもそも『閃光ライオット』には、「グランプリを取ってCD出したい!」みたいな野心があって出たのか、そこまで考えずだったのか、どっちに近いですか?

沖田:たまたま(笑)。

石田:元々、出る気もなくて。

―勝手に応募されたとか?

石田:地元の仲のいいPAさんに「出ない?」って締め切り3日前ぐらいに言われて、「タダなんですか?」、「タダだよ」、「じゃあ出ます」みたいなやりとりがあって。それからバーって(資料を)用意したよね。

沖田:「とりあえず、送っとこう。この間のライブ音源でいいよね?」って(笑)。

―それがあれよあれよとグランプリを獲得するまでに至るんですね。でも、いけるんじゃないかって自信みたいなものも、ちょっとはなかった?

石田:ゼロだったわけではないけど、うちらのこのジャンルで、Galileo Galileiが優勝した大会で、優勝は無理だろうって。

坂本:レコード会社とかが若手に求めてる音って、ポップでキャッチ―なものなのかなっていう、勝手な固定概念があったかもしれないですね。

―自分たちとしてはポップなものに対するある種のカウンターというか、違うことをやろうっていう意識はあったんですか?

坂本:自然とこうなっただけで、特にポップな風に行かないでおこうって意識したわけではないですね。実際ポップな曲(“ブラック・ダンス・ホール”)もアルバムの最後に入ってるし。

―なるほど。でも、ホントは『閃光ライオット』が終わったら解散しようと思ってたそうですね。

石田:ファイナルの前ぐらいに部活を引退してて、みんな東京の大学とかに行こうとしてたし、バラバラになっちゃうから、区切りとして、解散ライブをやって…

―解散ライブまでやってるんだ。

石田:その後にファイナル出場が決まったんですよ。それで「とりあえずファイナルだけ行きます」って出たら、優勝してしまって。それで「もうちょっと続けてみる意味もあるんじゃないか」って3人で話をして、続けることにしたんです。

―優勝する前はバンドを続けることにこだわりはなかったの?

坂本:音楽はずっとやっていこうと思ってたけど、このバンドに固執する意味はないかなと思ってた。

石田:音楽で食って行けるなんてことは全くサラサラ頭になくて。成功していくバンドってホントに一握りだし、続ける意味もないかなって…すごく醒めてるっていうか、何も考えてなかったんです。軽音部で楽しくやってたバンドだったし。

沖田:軽音部のほとんど全部のバンドが引退と同時に解散するんですよ。部活と一緒に終わるっていうのが通例で、だから終わろうって考えてた。私は看護学校に行って、片手間で音楽はやろうと思ってたんですけど、優勝して「どうしようか?」ってなった時に、やっぱり続けたいと思って。

―「続けよう」って決断できたのは、何が大きかったんでしょうか?

沖田:まずバンドが楽しかったし、ライブもすごく好きで、自分たちがやりたいことをやって、お客さんの反応が返ってくるのが嬉しかったんです。

―きっと『閃光ライオット』で多くのお客さんとのコミュニケーションを経験したのも大きかったんだろうね。

石田:きっとそうですね。

3/4ページ:何回も聴いて、何回も発見して、楽しみ尽くしてほしい。

基本的にドロドロしたものが好きで、ヒューマンドラマとか見てられないんです。

―じゃあ、ここからは『どうでもいい芸術』というアルバムのタイトルに合わせて、3人にとってのどうでもいいこと、よくないことを挙げていくことで、3人共に18歳というバンドの価値観を探りたいと思います。僕がテーマを挙げるので、それがどうでもいいか、どうでもよくないかを答えてください。ではまず、「高校」。

沖田:どうでもいい。

坂本:最高にどうでもよかった。

―(笑)。でも行ってなかったら、この3人は出会わなかったよね。

石田:軽音部だけはどうでもよくなかった。

沖田:そうだね、そのために学校行ってたみたいな。早く卒業したかったよね。

―何がそんなにつまんなかったんだろう? カリキュラム、校風、周りにいる人…

坂本:周りにいる人は楽しかったですね。先生が嫌でした。学校は嫌いだったけど、友達は好きです。

―先生はどんな人が多かった?

石田:みんな頭固かったよね?

坂本:「大人だね、素晴らしいですね」って感じ。つまんない人間の集まりに偉そうにされた時間、高校3年間。

―尾崎の歌詞みたいだね(笑)。じゃあ次のテーマ、「マンガ」もしくは「アニメ」。

3人:どうでもよくない。

―お、3人揃ったね。ちなみに、それはバンドの表現とは関係がある?

3人:何も関係ないです。

―そうなんだ(笑)。でも歌詞の世界観とかに影響はないんですか?

石田:うーん…読んでる小説とかの方が…

―どんな小説をよく読むの?

石田:普通にSFも読むし、あとホラーとスプラッターです。

―あ、その影響は感じますね。ホラーはどういうところが魅力?

石田:怖いところ(笑)。

坂本:そのままじゃん(笑)。

石田:面白いんですよね、普通のラブロマンスとかより。基本的にドロドロしたものが好きで、ヒューマンドラマとか見てられないんです。日常離れしたものが好きで。

―自分たちのバンドも、日常と地続きのものよりも、全然違う世界を見せるようなものでありたい?

石田:そうですね。普通の単調なことはやりたくないっていう意識はあります。

何回も聴いて、何回も発見して、楽しみ尽くしてほしい。

―じゃあ次は、「インターネット」。

3人:どうでもよくない。

―何をよく見る?

坂本:Twitter、ニコ動、YouTubeとか。

石田:特にTwitterはつながりますよね。バンドを知るきっかけになるし、次に対バンする人とも気軽に関わりを持てるんです。

―最初にそこで面識を作っておけば、会ってすぐ打ち解けられると。

石田:そういうツールになってますね。

―YouTubeでいろいろ見て発見したりもする?

石田:しますね。関連動画とか見て、かっこよかったらCD買ったりとか。

坂本:ただ、いろんな音楽を検索して簡単に聴けちゃう時代だから、ひとつの音楽を聴き込むっていうことをあんまりしなくなってるんじゃないかと思います。

―ああ、YouTubeで1回聴いただけで「わかった」みたいに思っちゃいがちかもしれない。

坂本:いっぱいいい音楽を簡単に聴けちゃうから、ひとつに固執して、「このCDは擦り切れるほど聴いた」とか、「このバンドのこのアルバムには影響を受けた」とかって1枚がない人が多いのかなって。そこまで聴き込む前に次から次へと聴いちゃって、ひとつの音楽と真剣に向き合える時間が少なくなってる気がする。

―自分たちの作品もアルバム単位で聴き通してほしい?

坂本:そうですね、何回も聴いてほしいです。聴くごとにかっこいいと思うところが変わってくると思うんです。何回も聴いて、何回も発見して、楽しみ尽くしてほしい。

―でも、そういう作品になっていると思います。THE★米騒動の曲の展開とかって、とても1度聴いただけでは覚えられないもん。ギターソロを歌えるみたいな、曲の展開を歌えるぐらい聴き込んでほしいよね。

坂本:僕もZAZEN BOYSの面白い展開とかめっちゃ歌うんですよ。完璧に歌えると妙な達成感が自分の中にあったりして(笑)。

沖田:そのときによって聴こえ方とかニュアンスって違う風に聴こえると思うんです。いつもはリードギター聴いてたけど、バッキングの方聴いたら聴こえ方が変わったりとか、そういう発見がたくさんあるっていうのは、すごく大事だなって。

4/4ページ:オーディエンスがいなきゃ、やってる意味がない。

オーディエンスがいなきゃ、やってる意味がない。

―じゃあ、次は「才能」。10代でデビューすると、「才能あるね」とか言われたりすると思うんだけど。

石田:才能って音楽の場合センスと直結すると思うんですね。努力してもセンスがなければそれまでだし、センスがあっても努力しなければそこまでだと思うし、どっちもあってのものだと思うんで、だからどうでもよくないと思います。

坂本:僕は、音楽の才能って、音楽のいいところに気付ける才能だと思うんですよ。そもそも音楽なんてものがこの世になかったら、みんな音楽の才能なんてないじゃないですか? 結局音楽を聴いて、その影響でセンスって磨かれると思うんです。その聴いてる音楽のいいところを自分の中に取り入れて、それが自分の作る音楽に反映されるわけだから、その音楽をいいと思えることが才能なんじゃないかって。だから、音楽に関しては、元から備わってる才能みたいなものはないと思います。

―なるほど、面白いね。じゃあ最後に、途中沖田さんの話にもちょこっと出てきたけど、「オーディエンス」。

沖田:どうでもよくない。

―やっぱり最初はそんなに考えてなかったけど、徐々に考えるようになっていきました?

沖田:そうですね。聴いてもらって初めて作った意味があるというか、返ってくるものがあるから作った甲斐がある。ちゃんと自分のやってることを受け取ってくれる人がいるっていうのは、ありがたいことだなって。

石田:バンドを始めてから、札幌のライブハウスに週2~3回通うようになって、最初は完全に私が札幌のバンドのオーディエンスだったんです。そういう中で「このバンドかっこいいな」って思うのって、お客さんに向かって音楽を提供してるバンドなんですよね。でも高校のときはうちらの音楽なんて誰も聴いてくれないだろうと思ってたから、完全にシャッターを下ろしてたんですよ。「お客さんなんか関係ない」って。

―そこから変わったきっかけとかってあったのかな?

石田:『閃光ライオット』の3次審査でサークルモッシュが起こったのは衝撃でしたね。「うちらの音楽聴いてくれてる」と思って、そうやってちょっとずつ意識が改革されていった感じがしてます。最近は、内に入るんじゃなくお客さんに対して音楽をやらなきゃいけないと思うし、それに意味があると思う。オーディエンスがいなきゃ、やってる意味がない。

―高校を卒業して、いろいろ変化の時期で迷いもあると思うけど、その考えをしっかり持って活動していけば、また次の道が開けてくると思う。

石田:今はまずリリースに向けてステップアップしていきたいですね。目の前のことをできる限りやるだけです。

坂本:それもそうですけど、いっぱい曲作りたいなって…作るの俺じゃないんですけど(笑)。

―(笑)。作ってみたら? 坂本君なら面白い曲作りそう。

坂本:案は持っていこうと思うんですけど…ギターとか弾けないし、本格的な曲作りは石田さんにお願いしたいと思います(笑)。

リリース情報
THE★米騒動
『どうでもいい芸術』

2011年6月15日発売
価格:1,890円(税込)
WRT-001

1. Border
2. 俗物美術展覧
3. Hys
4. 祝女
5. 群青
6. ファンタジック柵の前
7. ブラック・ダンス・ホール

プロフィール
THE★米騒動

石田愛実(Gt,Vo)、坂本タイキ(Dr)、沖田笙子(Ba,Vo)。北海道札幌市平岸高等学校軽音部にて結成。全員18歳の3ピースバンド。現在、札幌を中心に活動中。2010年8月、10代限定オーディション「閃光ライオット」にてグランプリを獲得。注目を浴びる。2011年1月、SCHOOL OF LOCK! presents「くるりと対バンライオット」にて、くるりと共演を果たす。2011年6月、1stミニアルバム「どうでもいい芸術」をリリース。



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