園子温×神楽坂恵×アラーキーが語る映画『恋の罪』

渋谷区円山町のラブホテル街で起こった実際の殺人事件をもとに、気鋭の映画監督・園子温が渾身の力を込めて制作したオリジナル作品『恋の罪』。11月12日の公開に先立ち行われたトークショーでは、園監督と女優・神楽坂恵が作品への思いを語った。同作で神楽坂は、流行作家の貞淑な妻でありながら、次第に女の欲望に目覚めていく菊池いずみ役に抜擢。事件を追う女刑事・吉田和子(水野美紀)、大学の助教授と売春婦の二つの顔を持つ尾沢美津子(冨樫真)と共に、「愛の地獄」に堕ちていく女の様を熱演した。園監督は近年、『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』などのヒット作を連発。最近では『ヒミズ』(2012年1月14日公開)が『第68回ヴェネチア国際映画祭』に出品され、主演の2人が日本初の『最優秀新人俳優賞』を受賞した。まさに今、世界で最も注目されている日本人監督と言っても過言ではない。イベント当日は神楽坂の30回目の誕生日でもあり、途中から「アラーキー」の愛称で知られる写真家の荒木経惟も登場。お祝いムードと公開を待ちわびるファンの熱気に包まれる中でのトークショーとなった。 なお、最近園監督と神楽坂恵の結婚も報道され、ますます今後の活躍に注目したいふたりとなっている。

「『恋の罪』は女性賛歌の映画」(園監督)

―(アートコーディネーター・内田真由美):私は昨日、試写会で全編を拝見したのですが、どのシーンも一瞬も見逃せないという感じの映画でした。女の性(さが)や業など、非常に深く刻まれる部分が多かったです。公開を間近に控え、皆様にメッセージを一言いただけますか?

:一見ダークでいつもの(私の作品の)ムードだなあと思われがちなのですが、実際は女性賛歌といいますか、女性を称えて「もっと女性は自由に生きるべきだ」という意外にポジティブなテーマで描いているつもりです。その辺を是非、見ていただければと思います。

―3人の女性の中に、強い意志や覚悟、生命力を感じました。神楽坂さんは脚本を見てから演じられるまで、さまざまな葛藤が合ったと思いますが、そのあたりをお聞かせ願えますか?

神楽坂:今まで自分がしてきた経験を振り返って、ちゃんと嘘をつかず「いずみ」という役になりきることを目指してやってきましたが、それでも監督には追い込まれました。

―撮影中はかなり大変な日々でしたか?

:現場ではコーチと選手みたいな関係なんです。完全に体育会系の特訓みたいな感じで。

―物語の構想をはじめてから脚本にされるまで、どれくらいの期間で仕上げましたか?

:風俗嬢などへの取材時間もありましたので、どこまでを期間にいれるかは分かりませんが、 『冷たい熱帯魚』を撮った後すぐに始めたので、2ヶ月くらいだったと思います。

―お2人の初めての顔合わせは『冷たい熱帯魚』ですよね?

:はい。『恋の罪』は彼女に出てもらうという前提で脚本を書いていました。『冷たい熱帯魚』の時には、三番か四番手くらいの役でしたが、今回は3人主役がいるうちの1人として、ガツンと向かいあって演技をやってもらいたいという考えがありました。

『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会
映画『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会

神楽坂は「男らしく脱ぐ」女優?

―神楽坂さんは、貞淑な主婦が、隠し持った女の業をまざまざと見せ付けていくようになる役を演じられました。

神楽坂:そうですね。私のことをしっかり理解して脚本を書いていただいているので、最後の方の「いずみ」は今の私みたいなんですが、前半部分は今までの私が反映されているという気がします。

:グラビアアイドルだった神楽坂さんの経歴も取材していたので、「こういう人生をたどっているんだな、だったらこういう風に脚本を変えてみようかな」っていう意識もありましたね。

神楽坂:私自身、自分の欲がたくさんあっても、なかなか言えないし、自信がない。でも、それを表現できるはずだっていう思いもあったりして、そういう気持ちが「いずみ」という女性に近いんです。監督と出会い、「もっと自分は自由になっていいんだ」ということが分かった気がします。

『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会
映画『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会

―まさしく女優・神楽坂恵の、覚悟を込めた勝負の映画だと拝見しました。監督は女優としての神楽坂さんについて、撮影を終えて改めて思ったことはありますか?

:ものすごく器の大きな女優です。現場で女優さんに「脱いで」って言うと、だいたいは間ができてしまって現場にムダな緊張感を与えるんですよ。でも彼女は、ぽんぽんぽーんって脱ぐので(笑)。それがすごく爽やかで、現場に良い空気を与えてくれるんです。

神楽坂:私のせいで流れを止めたくないですし、みんなの気持ちが途切れたら嫌ですからね。

:本当に男らしくていいですよ。潔くて。これからも一緒に映画をやっていきたいと思いました。

2/3ページ:発情する女優・神楽坂恵の誕生の日

発情する女優・神楽坂恵の誕生の日

また、当日は写真家の荒木経惟による『月刊NEOムービー 神楽坂恵アラキネマバージョンDVD』の発売を記念し、同氏も登壇した。かねてから荒木の大ファンで撮影されるのを熱望していたという神楽坂。園監督も「ちょっと悔しいです。さすが荒木さんだなって。写真を見ながら、こういう面があるんだって気づかされて、次の映画でこんな感じで撮ろうかなって思いました」と多くの着想を得たようだ。荒木の登場により、トークショーはさらにヒートアップしていく。

―ここで写真家・荒木経惟さんにご登場いただきたいと思います。

荒木:今日は、神楽坂さんのお誕生日だということで。

―おめでとうございます。

神楽坂:ありがとうございます!

荒木:いやさ、誕生日だって言ってたけどね、今日が誕生の日みたいだね、女優の。

神楽坂:そうですか。

荒木:まあ、座ろう。だいたいアタシが撮っててもさ、素人っぽい感じからダーッと変わってくじゃない。『恋の罪』にしろそうだし。ちょうど、今が一番いいときかもね。

―『アラキネマ』を拝見していて、神楽坂さんの表情がワンカットごとに違っていて、すごく印象深かったです。

荒木:だんだん綺麗になっていったでしょ。そういう変わっていける要素を持っているんだから、かなりいい線いくよ。ねえ、そうでしょ監督?

:はい、そうです。

荒木:私も『恋の罪』を見ましたけどね、神楽坂さんもこんな可愛い顔して、発狂してんですよ。女3人の中で一番発狂してた。言葉を換えると発情だね。

『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会
映画『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会

―女の狂気みたいな…。

荒木:うん、中にあるのものが外に出て行っちゃってるような時期だね、今は。だからいいんですよ。でも、監督自身が一番発情してた。そこが良かったね。

3/3ページ:アラーキーも絶賛した「ソーセージ」のシーンとは?

「『恋の罪』なんていう悪い作品を撮ってるから、健在だなって」(荒木)

―神楽坂さんに、今後の意欲についてお聞かせ願いたいのですが。

神楽坂:私はスクリーンの中でちゃんと生きている人になりたいと思います。とても大雑把かもしれないですけど。

―今の言葉を受けて、監督はどのように感じますか?

:そうですね…いや、荒木さんとお会いするのが久しぶりで…。

荒木:前よりずいぶん品が良くなっちゃったんじゃない?(笑)。いつもアタシはね、写真を撮るとき、女性を「景色」にしたいんだよ。被写体本人に捧げたいっていうかさ。でも、園子温監督の場合は自分に捧げてんだよね。

『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会
映画『恋の罪』より ©2011「恋の罪」製作委員会

―という荒木さんの解説がありましたが、『恋の罪』では田村隆一さんの『帰途』という詩が引用されていますよね。実は田村さんと荒木さんは共著を出されている間柄でもあります。

荒木:そういえば監督と知り合ったのも、まだ詩人の時だったよな(※園監督は17歳で詩人デビューし、『ユリイカ』『現代詩手帖』などに作品を発表。「ジーパンをはいた朔太郎」と称された)

:ええ。一番最初にお会いしたのは、1994年、『部屋 THE ROOM』っていう映画を観ていただいた時だと思います。滅茶苦茶な時代だったんで、いろいろご迷惑をかけた記憶が…。

荒木:ところでなんだっけ、お父さんが亡くなったっていう映画…。

:『ちゃんと伝える』(2009年)ですか。

荒木:ああ、そうそう、あれは良かったね! あれから園監督は変わりつつあるんじゃない? ちゃんとした人間になったっていうか、深まったっていうかさ。単純に発情してるんじゃなくて、ちゃんと発情してるっていう感じがするよ(笑)。

―監督が可愛い少年みたいになってきましたね(笑)。5 年前に園監督のポートレートも荒木さんが撮影されたと聞きましたが。

荒木:そうそう、その時に「ちゃんとした男になっちゃったなぁ」って思ってさ、がっかりしてたんだけど。そのあと、また、『恋の罪』なんていう悪い作品を撮ってるから、健在だなって(笑)

アラーキーも絶賛した「ソーセージ」のシーンとは?

荒木:あと、『恋の罪』では、あれが面白かったね、ソーセージ! 神楽坂さんがスーパーのアルバイトでソーセージを売ってんだけど、だんだん(試食の)ソーセージが大きくなってくんですよ。これが一番良かった。

―神楽坂さんが演じられている主婦がですね、女として開花していく、その流れとともに売ってるソーセージが大きくなっていくっていう。

荒木:大きさが変わっていくと、表情も変わっていく、あれがいいよな。

―荒木さんにもっとお話をお伺いしたいところなんですけれども、そろそろお時間となってしまいました。最後に一言ずつお願いします。

:『恋の罪』も『アラキネマ』に負けない感じで、神楽坂恵の魅力が満載です。11月にテアトル新宿ほかで上映されますので、是非、観にきてください。宜しくお願いします。

神楽坂:こんなに素晴らしい日を過ごすことができ、とても嬉しく思っています。出会いが大切だと本当に思いました。これからも自分の気持ちに素直に頑張っていきます。ありがとうございました。

ヴェネチアからの吉報が届き、新作への期待が最高潮に達していた中でのトークショー。途中、アラーキーからの鋭い突っ込みに園監督がたじろぐ場面もあり、鬼才と呼ばれる監督の新たな一面を見ることもできた。しかし、作品に対する自信は、まったく揺らぐことはない。監督自ら「『恋の罪』は本当に気に入っている作品。早く公開したいと、ずっと思っていました」と語ったところからみると、今回も観る者をスクリーンの中に引き込む強烈な印象を、日本そして世界の映画ファンに与えてくれるだろう。女優・神楽坂恵の成長も含め、見逃せない作品だ。

作品情報
『恋の罪』

2011年11月12日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:園子温
出演:
水野美紀
冨樫真
神楽坂恵
児嶋一哉(アンジャッシュ)
二階堂智
小林竜樹
五辻真吾
深水元基
内田慈
町田マリー
岩松了(友情出演)
大方斐紗子
津田寛治
配給・宣伝:日活

プロフィール
園子温

1987年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。ぴあスカラシップ作品として制作された『自転車吐息』(90)は、ベルリン映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映。以後、『自殺サークル』(02)、『奇妙なサーカス』(05)、『紀子の食卓』(06)、『ちゃんと伝える』(09)など衝撃作を続々と誕生させ、各国での受賞作多数。09年『愛のむきだし』で、第59回ベルリン映画祭「カリガリ賞」「国際批評家連盟賞」、第9回東京フィルメックス「アニエスベー・アワード」を受賞した。ヴェネチア国際映画祭に出品した『ヒミズ』で主演の2人が、最優秀新人俳優賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞したのも記憶に新しい。

1981年、岡山県生まれ。04年グラビアアイドルデビューし、07年に自身の著書を通してアイドル活動を卒業。本格的に女優としての活動を始める。『遠くの空へ消えた』(07/行定勳監督)、『プライド』(09/金子修介監督)、『13人の刺客』(10/三池崇史監督)などに出演後、園監督作『冷たい熱帯魚』(11)での熱演に注目が集まった。荒木経惟撮影の写真集『月刊NEO 神楽坂恵 THE LAST』が発売中。

1940年東京都生まれ。千葉大学工学部写真印刷工学科卒業。「さっちん」で第1回太陽賞受賞。400冊以上の写真集を出版し、「天才アラーキー」の名で親しまれる。写真の他、「映画でもなくスライドでもない,全く新しい写真表現」とする「アラキネマ」にも取り組む。その最新作『月間NEOムービー 神楽坂恵 緊縛恋愛/アラキネマバージョン』は9月29日よりイーネットフロンティアより発売中。



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