初めて対面した柴咲コウは、画面の中のクールビューティーというイメージとは異なる、自然体の、飾らない女性だった。自分の弱さ、至らなさを受け止めて、学び続け、進んでいこうとする信念の人であり、「何に対しても飽きっぽいんです」と屈託なく言えてしまう人でもある。2002年に歌手デビュー、翌年には役名のRUI名義で発表された“月のしずく”が大ヒットするも、「女優がやっている音楽」という見られ方に葛藤もあったという。しかし、着実に足場を固め、昨年には初の日本武道館公演を成功させることができたのは、常に自分を客観的に批評し続けてきたからだろう。そんなメモリアルなライブが収められたDVDと、まるで柴咲本人のように多面的な要素が自然と混在するニューシングル『Strength』の発表を機に、これまでの歩みをじっくりと振り返ってもらった。
どう思われるかっていうのを形作る上では抵抗した部分はあったし、でも抗えなくて、飲み込まざるを得なかったり、そういう葛藤はありました。
―今年で音楽活動10周年を迎えられたわけですが、この10年ってあっという間でしたか? それとも、長かったですか?
柴咲:あっという間の10年だったし、その中で音楽に携わってる時間はもうちょっと少ないわけで、もっともっとあっという間って感じです。まあ、それってすごく普通のことですよね。10代も20代も早く過ぎたし。
―個人的にも30歳を過ぎて、ますます早くなってるように感じます(笑)。
柴咲:やっぱり知識が増えて、生きることに慣れていくと、余裕が出てきてそう感じるのかなって。10代の頃は知らないことがたくさんあって、それに抵抗したりしてたけど、20代はもうちょっと柔らかくなって、30代になるといなせるようになってきたり(笑)。
―それを音楽に置き換えると、慣れない音楽活動に対して、抵抗してきた10年だったっていう言い方もできますか?
柴咲コウ
柴咲:音楽というより、「音楽を作る場」に対してですかね。どう思われるか、どう聴かれるかっていうのを形作るために抵抗した部分はあったし、でも抗えなくて、飲み込まざるを得なかったり、そういう葛藤はありました。そういう風にやってきたから、今は昔より自分の意見が通りやすくなってきてるし、やりたいと思ったことに対して、周りの人も気持ちよく動いてくれるようになりましたね。
何かを隠そうとする自分に気づいて、自分をほじくったりするのが楽しくもあったり(笑)。
―これは改めての質問になると思うんですけど、柴咲さんの中で女優と音楽活動がどのように位置づけられていて、音楽活動の位置づけはこの10年で変わってきたか、それとも変わってないのかをお伺いしたいのですが。
柴咲:根本的には変わってなくて、音楽に関わってる自分、歌詞を書いてる自分は、そのときの素の自分とか、自分を客観視した上でのそのときの答えとかを見つめてるんですけど、お芝居に関してはそうではない部分もあるんです。そういう意味で、対比になってるっていうのは前から変わってないですね。
―自分ではない誰かになり切ることと、素の自分をさらけ出すっていう対比があると。
柴咲:お芝居に関しては、「こんなにまっさらな状態でいいんだろうか?」っていうくらい、一度自分をリセットする感じなんです。3月からまた新しい映画の撮影に入るので、まさに今は「台詞ってどうやって覚えるんだっけ?」っていう感じです(笑)。でも撮影が近づくと、「自分がどうしたいか」っていうより、「みんながどう作り上げたいか」っていうのをすごく考えて、自分も物語を構成する一部になっていくんですよね。
―芝居が1回ごとにゼロになるのに対して、音楽は作品を作るごとに蓄積されていきますか?
柴咲:蓄積されている感じがします。さらに言えば、震災のような出来事があったりすると、ガラリと自分の状況とか心境が変わって、吐き出したい言葉をもっともっと掘り下げようとしたりしますね。
―この10年間で特に蓄積された部分、変化した部分というとどこだと思いますか?
柴咲:ちょっとかっこつけていた部分があったんですけど、それを引き剥がすみたいな、ピーリングしていって、超素肌みたいなものを出していきたいと思うようになりました(笑)。今でもかっこつけちゃうことはあるんですけど、それに対して気づきやすくなったと思う。
―お芝居をやってると、素の自分を出そうとしてもどうしても演技をしちゃう、みたいな部分もありますか?
柴咲:それは私生活でもそうで、お芝居してる人だけじゃなくて、OLさんとかでもそうだと思うんです。自分の心を偽るわけじゃないけど、考えたくないことに蓋をしちゃったり、麻痺させたりっていうのは普段の自分もそうだし。でも「気づく」っていうことを知ってしまったから、「あ、今隠そうとしてる」とか、そうやって自分をほじくったりするのが楽しくもあったりするんですよね(笑)。
自分を使って実験してるようなところもある。
―柴咲さんのようにお芝居をやられてる方が音楽をやると、どうしても「女優が音楽をやっている」っていう見られ方をされてしまうと思うんですね。それに対する葛藤はありましたか?
柴咲:ずっとありましたね。音楽だけをやってる人は音楽人と思われるけど、お芝居から入った人はそうは思われない。それにはすごくジレンマがあって、人の思い込みとか先入観は怖いと思いました。でもここ数年でやっと、「どう見られるかは関係ないじゃん」って思えるようになった。自分のやりたいことを突き詰めてやっていれば、ついてきてくれる人はちゃんとついてきてくれるから、そこの焦りっていうのはもうほとんどないです。
―発想の転換ができるようになったのはいつごろですか?
柴咲:2年前ぐらいがポイントで、自分の近いスタッフがみんな変わって、それで自由にできるようになりました。それまでが不自由だったわけではないんですけど、「女優・柴咲コウ」をどこか守っちゃうというか、どうしても芸能を切り捨てられないっていうのがスタッフの中でも共通の認識としてあって、それはちょっとネックだったというか。もちろん、それに対して感謝もしてるんですけどね。
―それこそ以前まではバラードのイメージが強かったですけど、昨年はダンスミュージック主体のgalaxias!も始められて、いい意味でイメージが変わってきましたよね。
柴咲:自分を使って実験してるようなところもあって、さっき言った人の先入観っていうのがどうやったら変わるのか、自分を通して感じていくのが楽しいんです。ただ、galaxias!をやるにしても、そこまでのオーディエンスの導き方、軌道作りは必要で、それはもちろんスタッフの力も借りて作っていきましたね。あと、やってることも自分の趣味の域なので、単純に楽しいです。
―もともと音楽の趣味としては、ダンスミュージックがお好きなんですよね?
柴咲:10代のときから結構ディープなトランスとかを聴いていて、そこから派生してエレクトロとかテクノを聴いたり、そういうイベントに行って踊り明かしたりしてました(笑)。
―去年出てたiTunesのプレイリスト(リンク)も、それまでの柴咲さんのイメージからするとすごく新鮮でした。あれ、結構大きな反響あったんじゃないですか?
柴咲:ありましたね、「意外過ぎる」みたいな(笑)。ああやって自分の趣味をバッと出せることってなかなかないし、しかもみんなが共有できる形で認知してもらえたのもよかったですね。もちろん、ずっとやってるミディアムバラードっていうのも、自分の声とか歌い方に合っていて、歌っててすごく気持ちいいんです。私、自分の性格が固定できない性格なんですよ。明るいとか、暗いとか、その日によって性格が変わるので、音楽に対してもそういう欲張りなところがあるんですよね。
―でも、1日どころか、1時間経ったらその前と真逆なことを言ってたりとか、それって普通のことですもんね。
柴咲:そうですよね。だからといって、そのときに言ってたことが嘘ってわけではなくて、そのときは全力で言ってるっていう(笑)。やっぱり自分を抑え込んだら、今度はバーっと出したくなるし、インプットとアウトプットの循環が心地いいんですよね。
どうしても打ち消せない、自信のなさみたいなものがあって。
―昨年の武道館のライブDVDが出るわけですが、ライブに対する意識という点では10年間で変化はありましたか?
柴咲:大幅に変わってます(笑)。ライブに対してはホントに超臆病で、最初は人前で歌うのがすごく怖くて、「カメラを通してほしい」って感じだったんですけど(笑)、1回やったらあまりの気持ちよさに驚きました。恐怖心はあったけど、そこに飛び込むのが楽しいというか、それが人生を楽しむ術かなとも思って、そこから一気にはまったような感じですね。
―今でもやっぱり緊張はします?
柴咲:しますけど、前とは全然違います。前は、とにかく失敗しないようにっていう、すごく悪いパターンだったんです。でも結構最初から失敗もしてたので、それがすごくよかったなと思って。
―どんな失敗をしたんですか?
柴咲:一番最初の招待制のライブで、歌い出しを間違えて、1回止めてやり直したんです。そこから、その空間に来てよかったってホントに思ってもらえるようなものを作っていこうと、いろいろ考えるようになりました。武道館のライブに関しては、特に舞台監督の力も大きくて、映像とのリンクもそうだし、構成全体の起承転結もすごく大事にしました。
―終盤のお客さんが手をつなぐシーンはすごく印象的でした。
柴咲:あれはどうしてもやりたかったんです。あの日は、MCとかも事前に考えていないくらいぶっつけで、その場で出てくるものを発していたから、どう終わりにつながっていくか不安もあったんです。でも、頭で考えるんじゃなくて、そのときのテンションでつなげていけたかなって。
―楽曲の幅もすごく広かったですよね。galaxias!があり、アンプラグドコーナーがあり、もちろんバラードもありっていう。
柴咲:どうしても打ち消せない自分の自信のなさみたいなものがあって、一部分の自分だけで2時間以上のライブができないっていうのもあるんです。気分屋っていうのもあるから、ちゃんと起承転結が必要で、ずっと同じテンションだと自分が飽きちゃうんじゃないかっていう恐れもあるんですよね。
―その自信のなさっていうのはどこから来るものなんでしょう?
柴咲:何なんでしょうね…後天的なものだとは思います。小さい頃の環境とか、対人関係とかで形成された部分だと思うんですけど、「どう見られるか」とか「こうされたら悲しいな」とか、そういうのがずっと残ってる気がするんです。だから、100%人の目を気にしないってことはできないし、人の目を気にすること自体が、自信のなさの表れだと思うんですよ。
―そこはどう克服する、もしくは付き合っていこうとお考えですか?
柴咲:それと対峙するのも楽しかったりするんですけど、それを埋めるためには自分に自信がつくようなものをどんどん取り入れていくしかないと思います。でも、確実によくなっていて、浮き沈みはありますけど、昔とは違うなって思いますね。
生きるってことに対しての思いを、わかりやすいけど奥深く書けるのがいいと思う。
―ニューシングルの“Strength”は大胆に展開する曲構成がまず印象的だし、<I wanna sing a song>っていう歌詞も耳に残りました。音楽活動10周年を迎えて、改めて音楽、歌に向き合おうっていう意欲の表れなのかなって。
柴咲:私の歌詞の書き方って、俯瞰というか客観的な感じなので、主観になれないところが課題だったりするんです。だからこの曲に関しても、私自身がそう思っているわけではないんですけど、そういう風に捉えてもらうのは全然構わないです。人に対してメッセージ的なことを書いても、結局自分に帰ってきて、後々自分が励まされたり、癒されたりするんで、それは得だなって思います(笑)。
―では、実際この曲の歌詞についてはどんなことを考えて書かれたのですか?
柴咲:最初に曲を聴いたときはすごくポジティブな曲だと思ったんですけど、ネアカな感じじゃなくて、少しずつ積み重ねて、やっと微笑めるような人っていうのが浮かんだんです。震災で傷ついた人もたくさんいて、そこからどう自分の人生を切り開いていくかっていうのは世間全体のテーマになっていたとも思うので、それも反映できればと思って書きました。
―この曲に限らず、柴咲さんの歌詞は陰影を含んだものが多いように思います。それを前提として、そこからどうするかっていう。
柴咲:それは性格ですね(笑)。ネアカな感じで書きたいんですけど、どうしてもその反対の面を考えちゃうんです。
―でも、それはさっきの「固定できない性格」っていうのと同じで、両方の側面があって普通だと思います。
柴咲:私にとってもそれがすごく自然ですね。明るく振舞ってる人がホントにそういうキャラクターだったとしたら、尊敬するし、憧れもするんですけど、人には見せない、1人で悶々と考えてる時間があったりするんじゃないかと思うと、それもさらに魅力的だし。そういう風に人のことを捉えてるところはありますね。
―カップリングの“もう、いないよ”では作曲もされていますが、作曲は今後さらにチャレンジしていきたいことのひとつですか?
柴咲:やりたいですけどね。でも飽き性だから、何をやっても、ちょっといいとこまでいくと止めちゃうんです(笑)。テニスとかもそうなんですけど、ちょっと手をつけて途中になってるものがたくさんあるので、それを30代でどう突き詰めていけるかっていうのは楽しめたらいいなって思ってます。
―でも、芝居と音楽は10年以上続いてるわけですよね。
柴咲:技術がいらなかったから(笑)。
―いやいや、誰でもできることではないですよ(笑)。
柴咲:言葉が好きっていうのはあるから、詞は考えなくても出てくるんですよね。だから、作詞でスランプになったことはなくて、いっぱい出てくる分、それをどう組み合わせるかっていう面ではもちろん考えるんですけど。でも、技術を持ってる人にはすごく憧れます。テニスで言ったら、サーブの打ち方とか、突き詰めればもっといいフォームがある。でも、それが嫌なんです。「自由にやらせてくれ」ってなっちゃって、そこから伸び悩んで止めるみたいな(笑)。
―でも、頭に浮かんだ言葉を歌詞にするっていうのは、技術も必要なんじゃないですか?
柴咲:前に他のアーティストさんに言われて嬉しかったのが、「未完成のよさがある」ってことなんですよね。例えば、五七五調の整ったものを作るのが全てじゃないし、むしろそれにははまらない、でもこの曲にははまるっていう、そういうニュアンスとか感覚はなくしたくないなって思いますね。
―柴咲さんにとっての、理想の歌詞ってどんな歌詞ですか?
柴咲:ちょっとスピリチュアルになっちゃうんですけど、生きるってことに対しての思い、生き方みたいなものを、小難しくなく、わかりやすいけど奥が深いっていう形で書けるのがいいと思うので、それはテーマとして根底にありますね。言葉ってすごく曖昧だし、その人の感覚でしかないから、無限に広がってるものだと思うんですけど、それでもそのときの自分なりの答えみたいなものは、ポイントとして作っていきたいと思ってるんです。
- リリース情報
-
-
2012年3月14日発売
価格:1,575円(税込)
Universal / UPCH-891111. Strength
2. もう、いないよ
3. Strength -Instrumental-
[DVD収録内容]
・Strength -Music Video
-
-
- 柴咲コウ
『Strength』通常盤(CD) -
2012年3月14日発売
価格:1,260円(税込)
Universal / UPCH-80261
- 柴咲コウ
-
- 柴咲コウ
『Kou Shibasaki Live Tour 2011 "CIRCLE & CYCLE" 2011.11.28 Tour Final @ NIPPON BUDOKAN』(DVD) -
2012年3月14日発売
価格:4,980円(税込)
POBD-21006
- 柴咲コウ
-
- 柴咲コウ
『Kou Shibasaki Live Tour 2011 "CIRCLE & CYCLE" 2011.11.28 Tour Final @ NIPPON BUDOKAN』(Blu-ray) -
2012年3月14日発売
価格:5,980円(税込)
POXD-21006[収録内容]
・パラレルワールド・リーディング
・愛の輪
・Graspin' all of it
・となり
・影
・EUPHORIA
・ゲノミクロニクル
・無形スピリット
・galaxias! / galaxias!
・CONNECTION / galaxias!
・Boys & Girls / galaxias!
・無形スピリット -Mugen Loop Remix- <DJ/TeddyLoid>
・JOY(by Jazzin'park)<DJ/栗原暁>
・ルージュの伝言(Unplugged)
・最愛(Unplugged)
・ミラーボール(Unplugged)(by 渡辺シュンスケ)
・月のしずく(Unplugged)
・泪月-oboro-
・アイネクライネ
・wish
・invitation
・よくある話 〜喪服の女編〜
・ラバソー 〜lover soul〜
・Focus
・フィロソフィア
-ENCORE-
・KISSして
・サヨナラブ
[特典映像]
・音楽談話 柴咲コウmeets高橋幸宏
[副音声]
・コメンタリー by 柴咲コウ×山口寛雄×ひぐちしょうこ
- 柴咲コウ
- プロフィール
-
- 柴咲コウ
-
日本屈指の女優として数多くの作品に出演し、年末公開の映画『47Ronin』でハリウッド進出を果たす中、アーティストとしてもミリオンヒットを出すなど、精力的に活動を行っている。昨年9〜11月にかけて行われた全国ツアーでは初の日本武道館公演を敢行、11月にはDECO*27、TeddyLoidとの新ユニットgalaxias!として作品をリリースするなど、近年音楽活動が更に活発化。今年でデビュー10周年を迎え、5月には「Premium Live Tour 2012」の開催が決定。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-