大阪・新世界をホームグラウンドにR&Bや歌謡曲を歌い続け、その歌ひとつで著名人からおっちゃん、おばはんまでを虜にしてきた大西ユカリ。「平成のゴッドねえちゃん」(byクレイジーケンバンド横山剣)の異名を持つ彼女が、韓国音楽(しかも、いわゆるK-POPではなく!)と真っ向勝負! 既に韓国でも先行発売されたニューアルバム『直撃!韓流婦人拳』は、昔ながらの韓国の大衆音楽を取り込んだ濃ゆ〜い楽曲から、これぞ日本歌謡とでも言うべき歌心あふれる楽曲まで、大西ユカリが持てる経験とエネルギーを注ぎ込んだ野心的な作品だ。
言語だけでなく収録内容も分けられた日本盤・韓国盤について、韓国レコーディングから見えてきた日韓の音楽の違いについて、そして、活動25年を超えた今もなお成長を欲する歌への姿勢について、たっぷりと語ってもらった。
「やりたいんや!」っていう情熱。ちょっと前の日本人みたいやなって。日本人はもう1回ここへ戻らなアカンと思った。
―改めて今回のアルバムをリリースすることになった経緯をお聞きせいただきたいのですが。
大西:前のアルバム(2010年5月発売『やたら綺麗な満月』)の制作で煮詰まったときに、たまたま『朱蒙(チュモン)』という韓国ドラマを見とったんですよ。それで、ちょっと落ち着いてから、「やっぱ韓国ドラマええなぁ」と思い始めたんですけど、よう考えたら私は1stアルバムが韓国でリイシューされてて。
―2001年発売の『大西ユカリと新世界』ですよね。
大西:そうです。2007年に韓国でもライセンス発売されて。それで、(所属レコード会社の)P-VINEに「まだそのレーベルあるやろか?」って聞いてみたら「ありますよ」って言うんで、「じゃあ、行ってみようか?」って韓国に行ったら、すぐ「やろう!」って話になって…それが去年の6月くらいかな。もう8月には韓国でライブやってましたからね(笑)。あれよあれよと言う間に。
―韓国自体はいつ頃から興味を持たれていたんですか?
大西:15年前とかになるのかなぁ。クレイジーケンバンドの横山剣さんが、ポンチャックっていう韓国の古い大衆音楽をカセットテープで作らはったりしてて。自分もそんなんすごい興味ありましたから、韓国行ってポンチャックを探したりしたんですよ。でも、「そんなもんいまは誰も聴かん!」みたいに言われて。高速のサービスエリアに行ったら売ってたんやけどね(笑)。
―日本の演歌みたいですね(笑)。アルバムでは韓国の歌謡曲やロックのカバーもされてますけど、歌ってみていかがでした?
大西:みんな喉から血ィ出しとんなって感じがしましたね。当時の韓国の歌手の映像とか見てたら、みんな必死で歌うてはるんですよ。でも、日本の昔の歌手が、プロデューサーの言うこと聞いて歌わされてるみたいな世界観とも似てると思ったんです。やっぱり曲を作った人が1番強いんですけど、それをちゃんと歌わなアカンから、歌手も必死で。そういうことを感じながら自分も表現をしないといけないと思いましたね。
―音楽性的な部分では、いかがでした?
大西:歌ってて思いましたけど、曲の構成も独特。私の感覚だったら次はここ行きたいのに、そっち行くの!? っていう作り方してある。ここで叫ぶの!? っていうところで叫んでたり(笑)。たぶん70年代とかに独自で開発されたんちゃうかな。
―確かに昔の韓国ロックって、変なオリジナリティがありますよね。間奏やアウトロが異常に長かったり。
大西:ほんっとにおもしろいですね。特に今回カバーした“コジンマリヤ”はシン・ジュンヒョン先生(韓国ロックの重鎮)の曲ですけど、オリジナルは23分あるから。
―23分(笑)。今回のアルバムには韓国のプレイヤーも参加していますが、そちらのほうはいかがでした?
大西:最初、録音は日本のアロージャズオーケストラが全部やる予定だったんやけど、「韓国のバンドと昔の韓国の歌謡曲もやってみないか?」という話をいただいて。長谷川陽平君(「チャン・ギハと顔たち」などもプロデュースする韓国在住の日本人ギタリスト)たちのバンドと、Funkafric & BoostDahってバンドに、それぞれ3曲ずつ演奏してもらったんです。
―日本のバンドとの違いは感じました?
大西ユカリ
大西:とにかくすごい努力するね。それと「やりたいんや!」っていう情熱。ちょっと前の日本人みたいやなって。日本人はもう1回ここへ戻らなアカンと思った。「なんでもやります!」みたいな子たちが、バッてスタジオに来るんですよ。例えば今日、「明日の夜10時にレコーディングな」って言うてても、10時に来たらもう終わっとる。それで何時に来たか聞いたら、8時に来たって言うんですよ。「昨日10時って言うたやん!」「いや、早くやりたかったから」って。
―待てなかったんだ(笑)。
大西:待てないし、待たない(笑)。やっぱり演奏の熱さが音にもシンクロしてて、先に日本で録ったサウンドは、音を足さないと負けてまうくらいすごかった。韓国のバンドを見て、もう1回ミックスやり直したもんね。韓国の人たちって、気に入らんかったらみんなやり直すんです。だから自分もやり直したくなっちゃって。結局日本語の歌も日本で8割入れてたのに、もう1回韓国に行って歌入れしましたから。
2/3ページ:横山さん(クレイジーケンバンド)に「これ韓国語でやるべきやと思うんやけど、あたしやっていいかな?」って言うたら、「やってやって!」って(笑)。
横山さん(クレイジーケンバンド)に「これ韓国語でやるべきやと思うんやけど、あたしやっていいかな?」って言うたら、「やってやって!」って(笑)。
―今回は韓国の曲のカバーだけでなく、クレイジーケンバンドの曲をハングルでカバーされたりもしてますよね?(韓国盤のみ収録)
大西:“黒いオートバイ”とか“けむり”は、韓国語でやったらええのにってずっと思ってて。それで横山さん(クレイジーケンバンド)に「これ韓国語でやるべきやと思うんやけど、あたしやっていいかな?」って言うたら、「やってやって!」って(笑)。
―それはどういう意図で?
大西:“けむり”なんかモロでしょ。あんな顔したおっちゃん(曲の主人公)が韓国におると私は思うたの。労働者の感じもあるし、普通におっちゃんの哀愁もあるし。(「茶碗のにごり酒 飲み干してはまた吐いて」という歌詞で)横山さんが「にごり酒」と書いたところも、私は普通に「マッコリ」と思ったし。
―日本の音楽を韓国に紹介したいとかではなく、自然に韓国の曲でもおかしくない、みたいな感覚で?
大西:そう。これ、韓国語でやらなきゃどうするのよくらいのつもりでね。
―逆に日本盤のみ収録の曲としては、“恋の十字路”がビートたけしさんからのリクエストということで。
大西:以前番組でご一緒させていただいたんですけど、CM待ちみたいなときに、「アンタ、あれがいいよ、欧陽菲菲のさ」って、サビを歌われたんですけど、「タイトルが出てこねえ」とか言って(笑)。そのときは私もタイトルが出てけえへんかって、番組が終わってからずっと探してね。本人はそんなん言うたことも忘れられてるかもしれないけど、事務所に送りつけようかなと思うてます(笑)。
―曲も歌も素晴らしかったです!
大西:当時、中ヒットした曲なんですけど、いい曲ですよね。スタッフのみんなからも「そんな名曲があったのか!」みたいな。たけしさんに「あんときの曲、まだ歌ってます」って、会うて言えるようにがんばらなアカンな思いますけど。そういうちょっとしたきっかけを拾うて、いつか出そうかな? みたいな曲は、他にもたくさんあるんですよね。
―日本盤と韓国盤は中身がだいぶ違いますけど、何を基準に分けたんですか?
大西:入れたいと思った曲、入れるべき曲。あと、なるべく新しく見えるように、両方売れるように(笑)。韓国盤に入ってる曲は全部日本語で歌えたんやけど、やっぱり韓国盤も日本盤も楽しめるようなもののほうがいいかなぁって。だいぶ勝手に選びましたけどね。自分がもし買う立場やったら、ただ日本語と韓国語に分けてただけじゃ、めんどくさくて買わへんなと思って。両方買わすにはどうしたらいいかみたいなね、邪な考えで(笑)。
―同じタイトルなのに、全然中身違いますからね(笑)。
大西:ほんまはね、2枚組にして1枚にする予定やったんです。でも、どうもそうはいかんようになってしまいまして。韓国サイドもせっかくやったら日本語はナシにしましょうって。だいぶ迷ったんですけど、思い切って分けて良かったかもしれないですね。結局いまの時代はハコもん(CD)が売れへんから、いかに自分が納得するもんを作るか、私もこの年になったらだんだんそう思うてきましたわ。最終的に「残るもん」を作らなね。
物悲しかったりとか、楽しそうやったりとか、「いいよな、この人、健康そうで」とか、それさえ伝わればええかなと思うんですよね。
―アルバムを通して、リスナーにはどんなことを感じてほしいですか?
大西:ないない、そんなの(笑)。それはもう好きに聴けばいいですね。この年になってこんな歌を歌うとったら、物悲しかったりとか、楽しそうやったりとか、「いいよな、この人、健康そうで」とか、それさえ伝わればええかなと思うんですよね。
―僕、大西さんの歌から、ものすごいエネルギーを感じるんですよ。
大西:ほんまですか。まぁ、この人がこんだけ歌てるんやから、私もいけるかしら? って若い子が思うてくれたらええわね。やっぱり歌手はいかに歌いこめるかみたいなところがあるんで、昔の歌手の良さってそういうところにあると思うんです。プロデューサーの言うことを聞いて必死で歌うてる歌手の想いとか、それがやがてはその人のヒット曲になってとか、そのプロセスが好きでね。
―大西さんはもう25年歌手をやられているわけですけど、どういうときに歌がうまくなっていく実感がありますか?
大西:練習はね、だいたい週2回くらいスタジオに入ってしてますから。個人練習だったら1時間500〜600円でできるんですね。この頃は特に、個人練習すればするほど、ステージに反映されてる実感がありますね。私はステージで水飲むん嫌いなんで、喉がクッっとなったときにどう対処すれば2番にいけるかとか、どうやって咳払いするかとか、そんな練習ばっかり。せっかく作っていただいた衣装の美観を損ねるのが嫌なんですね。ドレス姿で水飲んでる人とか大っ嫌いですから。私も飲んでたときもあったんですけどね。ちゃんと台置いてかっこよくして。どうせやるんやったら、倖田なんとかみたいにデコレーションしてさ、水もマイクもみんなキラキラにして、キレイくして飲みたいですよね。なかなかそこまでやるタイミングがなくて、それやったらまぁ飲まんとこみたいな。20曲くらいやったら飲まなくても大丈夫。
―意外っていうと失礼かもしれないですけど、これだけキャリアを積んできた方が、そういう練習をされてるっていうのはビックリしました。
大西:わりと普通にね、近所のスタジオに自転車で通ってますよ。
―1人でスタジオに入って、オケを流しながら歌うんですか?
大西:そうですね。オケとか、自分のアルバムをそのまま流して、自分でなぞりながらやっていくと、録音したときより良くなっていくんですよ。だから録音し直したくなる(笑)。「うわっ、ヘタクソ!」「ここをこうやればいいのに」みたいな感じでね。歌を重ねるって、こういうことやなって思いますよね。今回のアルバムもね、ライブのたびに稽古するじゃないですか。もうやり直したくてしょうがない。まぁ、しゃーないなと思いながらやってますけどね。
―僕、大西さんの歌はいろんな経験がにじみ出ていて、それがすごくグッとくるんです。やっぱり人生経験的なものも、歌には反映されますか?
大西:あると思いますよ。20代のときだったら思えへんかったようなこととか、いまは思いますよね。歌てるときに、普通に泣きそうになったりとか、歌の主人公のことを気の毒やなって思えるっていうのは、たぶん落ち着いている自分が別にいて、歌詞に出てくるその人のことをちゃんと思うことができるような器が、ちょっとはできてるのかなって。そういう瞬間はたまにありますけどね。まだそこまでなかなかいけてないですけど。
歌謡曲は歌手が歌手として存在できる音楽やと思いますよ。
―傍から見てると、大西さんは歌謡曲にこだわって活動されてると思うんですけど、ご自身ではいかがですか?
大西:あんまり自分で意識はしてないですけど、こんなふうにやってると、そう取られるんやろな。歌謡曲の世界がすごく好きなのかもしれないですね。小学校くらいのときから歌うてますから、たぶん刷り込まれてるんですよね、ひとりの歌手が佇んでる感じっていうのが。9歳くらいのときからあんまり変わってない(笑)。
―でも、歌ひとつで勝負する、1番度胸のいる音楽だと思います。
大西:そうですよね、ほんまに。器用にギターとかいろいろやれたらね、なんか武器みたいになるし、ひとりでもっといろんなところに行って、弾き語ったりできるんやろけど。あんまり興味ないんですよね。歌手としてやることではないと勝手に思ってるのかな。歌謡曲の世界みたいなのがすごい好きで。
―大西さんが考える歌謡曲とは?
大西:どういう要素でしょうね。でも、歌手が歌手として存在できる音楽やと思いますよ。他のジャンルが違うとかじゃないんだけど、歌謡曲って、歌手が曲に負けるときが往々にしてあるので。楽曲がすごすぎてさ。
―歌手が曲に負ける?
大西:たまに若い子から「歌謡曲やってるんです」とか言われて、観に行ったりするけど、「アカンわ」と思うんですよね。どっかに老婆心みたいなのが働くのかな? 歌手が背負うてるものとか、表現するチカラを楽曲が上回ってるので、誰が歌っても一緒でしょ? っていう。歌の中で泣いてる人はなんで泣いてるかとか、その男は貯金通帳盗んだでとか、そこまで思うてるか? みたいな(笑)。歌詞にはなくても、行間の美しさってあるでしょ。その行間の美しさがわからないと、歌謡曲は歌えないと私は思うてるので。
―深いですね…! お話を聞いていると、大西さんってすごくストイックだと思うんですけど、何がその意欲を湧かせるんですか?
大西:いや、もう歌えるからですよ。歌のためのことしか考えてないですから。歌のトレーニングもして、ちゃんと運動もやって、しっかり家で自炊して、全部歌うためです。それがまっとうできるんやから、こんなありがたいことはない。だから私はちゃんと歌わないといけないんです。それで何をせなアカンかっていうと練習ですよね。だから練習のスタジオを予約するとき、いつも思うんです。「ここからやねんな」って。
―好きなことのためにがんばるってことですよね。
大西:やらなバチ当たりますよね。こんな好きなことやらしてもらって、努力も何もせんかったら、バチが当たる。その代わり好きなことさしてもうてる分、今日は運動する日とか、今日は歯医者行く日とか、自分で決めてさ。ちゃんとおかず買いに行って、ちゃんとご飯作るっていう。ちゃんと日々をまっとうして。
―やめようと思ったことはないんですか?
大西:ないですないです。やめなしゃーないときは、やめる覚悟はできてるんです。いつでも働くもん。だってお金なくなったらできへんからな。時間とかお金とかなくなってね、もう生活できへんなったら、たぶん無理ですから。ステージの上に立ったときは、夢を売る商売の人でないといけないからね。グデグデの感じでやるのは絶対に嫌ですから。そうなったときがやめるときかな。やめるというより、やれんようになったときの覚悟はできてますね。
- リリース情報
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- 大西ユカリ
『直撃!韓流婦人拳』国内盤 -
2012年3月7日発売
価格:2,800円(税込)
PCD-186731. 韓流婦人
2. 嘘をつく貴方(コジンマリヤ)
3. 夜汽車(パムチャ)
4. 済州エアポート
5. まぼろしのブルース
6. 想い(センガッケ)
7. 雨の日のあやまち
8. 悲しい恋のお話
9. 恋の十字路
10. 叱らないで
11. ウエブロ(なぜ呼ぶの)
12. なんでこんなに(モラヨモラ)
13. 身も心も
14. ハンリュウプイン(韓流婦人〜ハングル・ヴァージョン)
- 大西ユカリ
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- 大西ユカリ
『直撃!韓流婦人拳』韓国盤 -
2012年2月2日発売
価格:2,625円(税込)
PCD-175191. 韓流(ハンリュウ)
2. コジンマリア(ウソつきな貴方)
3. チャンス(チャンス到来)
4. キイハント
5. けむり
6. センガッケ(想い)
7. ピオヌン・ナレ・チャルモッ(雨の日のあやまち)
8. まぼろしのブルース
9. パムッチャ(夜汽車)
10. サランエ・マッ(恋の味)
11. チョビ・チョロム(ツバメみたい)
12. スルプン・サラン・イヤギ(悲しい恋のお話)
13. カンダゴ・ハジマオ(離れて行かないで)
14. コムン・オートバイ(黒いオートバイ)
15. スマートゥポル(恋のスマートボール)
16. モラヨモラ(何がなんだかわからない)
17. セサイ・ナル・オラハハネ(世界が私を呼んでいる)
18. モンド・マウンド(身も心も)
- 大西ユカリ
- プロフィール
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- 大西ユカリ
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1986年より音楽活動を開始。2000年に「大西ユカリと新世界」を結成。翌年にデビューアルバムを発売し、同時に昭和歌謡ブーム火付け役として注目を浴びる。2009年に「大西ユカリと新世界」の休止を発表し、ソロ活動開始。2010年に宇崎竜童プロデュースのアルバム『やたら綺麗な満月』発売。2012年、『直撃!韓流婦人拳』韓国盤と日本盤で各国で2タイトル発売。
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