OGRE YOU ASSHOLEというバンドは、USインディーから影響を受けた音楽性によって、デビュー当時から日本のギターロックシーンの中で異彩を放つバンドだった。しかし、2010年春に名古屋から地元の長野に拠点を移して以降、その特異性はそれまでと比べものにならないぐらい、一層強まっているように感じられる。その背景にはあったのは、彼らが常に自らを批評し、変化を課し続けてきたという事実だった。「一度作った作品を聴き直すことはあまりない」という言葉を多くのアーティストが口にする中、オウガのボーカル・出戸学が、「自分の作品を聴きたいと思えるようになった」と言えるのは、変化の徹底によって導かれた作品性の高まりがゆえであることは間違いないだろう。
バンドが明確に新しい領域へと到達した『homely』から1年、新作『100年後』は前作の重めの作風から比較的軽めの作風へとはっきりシフトチェンジを果たしながら、「終わる流れに対しての抵抗がないアルバム」という独自の世界観を見事に音像化した、またしてもの傑作である。
前作『homely』で大きく変化した音楽性― 「恐怖はもちろんあったけど、次に進みたくて、作ることに夢中だったんだと思います」
―まず前作『homely』の話をさせてもらうと、あの作品はオウガが新たな一歩を記した、非常に素晴らしい作品だったと思うんですね。ただ、当時のインタビューで出戸さんは「今まで積み上げてきたところから、飛び降りた感じがする」ということをおっしゃっていた。どうしてそこまでやろうと思ったのか、まずそこをお聞きしたいのですが。
出戸:一般的にロックバンドって、ファンの人が思う「このバンドのこういうところが好き」っていうのにちゃんと応えていくか、もしくはロックの王道で「俺最高」みたいな感じで作っていくか、大きく分けて2つの進み方があると思うんですね。ただ、僕は自分の作品を批判的に見たり、ちゃんと批評もしつつ次に進みたいと思ってるから、そういった意味で毎回変わっていくし、そういう気分になっちゃうんです。
出戸学
―でも、ファンから求められている音楽性を変えるのって、怖いことですよね。下手をしたら、お客さんが離れていってしまうわけなので。
出戸:恐怖はもちろんあります。「飛び降りた」っていう表現を使ったぐらいですからね(笑)。ただ、それでも次に進みたくて、作ることに夢中だったんだと思います。
―新作の『100年後』にしても、やはり『homely』からまた更に変化した作品になっていますね。全体を通して、なだらかに消えていく、終わっていく感覚があって、でもそれが決してネガティブではないっていう、そういう印象を受けました。
出戸:「終末感」をテーマに作り始めたので、冷酷な感じ、冷たい感じはすると思うんです。でも冷たいだけじゃなくて、手応えとしてはポジティブに感じるけど、一皮剥くと怖い世界、冷たい世界があるみたいな、そういうアルバムにしようと思いました。
―確かに、パッと聴いた印象では『homely』の方が冷たい印象で、今回の『100年後』の方が比較的明るい印象でした。
出戸:『homely』は自分でも完成度が高いと思ってますし、すごいアルバムができたって思ったんですけど、やっぱりそこからまた別のベクトルで新しいものを作ろうと思った時に、『homely』の重さに対する反動なのか、もうちょっと軽いアルバムにしたいと思ったんです。
―自分でも完成度が高いと思えた作品の後で、それでもやっぱり別の方向を目指したんですね。ものすごく大変そう(笑)。
出戸:はい、大変です(笑)。作り上げたものに寄りかかりたくもなるんですけど、そこをグッとこらえて、また違うものを見つけたいと思ったんですよね。
『100年後』のテーマは「終末感」― 「どうでもよくなる感じの音楽が聴きたいと思ったんです」
―「終末感」というテーマは、どこから生まれたものなのでしょうか?
出戸:『homely』にも終末感は少し漂ってたんですけど、まだ終わりに対して抗ってるというか、生命力を感じられるアルバムだったと思うんですね。それを一回全く生命力のない感じで表現したら、面白い作品になるんじゃないかと思って。「終わる流れに対しての抵抗がないアルバム」というか、そういうのを作ったらどうかなって。
―それって出戸さんのパーソナリティーとして、終末感に惹かれる傾向があるのか、あくまで作品としての面白さを考えてのことなのかっていうと、どちらが近いですか?
出戸:パーソナリティーというよりは、作品としてそういうものを聴いてみたいと思って作った感じですね。
―例えば、その背景に震災以降の世の中の雰囲気もあると言えますか?
出戸:関係してないことはないと思うんですけど、今の時代どんなものを出してもそこと絡められるだろうから、そういう関係性で見られる時代に作品を作ってるんだ、ということは意識した上で作ってます。
―『100年後』というタイトルや終末感の漂う作風からして、どうしても「汚染された土地は100年経っても元通りにはならない」っていう話を思い出したりしました。そうしたイメージの発展も織り込み済みでこのタイトルをつけているわけですね。
出戸:今から100年後の未来がどうかっていう話ではなくて、100年という単位で物事が始まって終わる、そういうひとつのターンの終わりの方の部分っていう意味での「100年後」なんです。だから例えば「絶滅」でもよかったかもしれないけど、それだと直接的過ぎるし、恐怖感をあおる感じが今回のアルバムにフィットしないと思って。恐怖心をあおる音楽ではなくて、どうでもよくなる感じの音楽が聴きたいと思ったんです。
―今はどうしてもシリアスな表現、何かしら希望を感じさせる表現が多いですもんね。
出戸:「頑張れ」とか言われても、嫌な人いるじゃないですか? 大多数ではないけど、「頑張れ」って言われて、イラッとする人もいるっていう……僕もそうですけど(笑)。
他とは違うオウガらしさとは?― 「僕のパーソナリティーを掘ってもこの作品にはたどり着かない」
―『homely』のテーマは「居心地のいい悲惨な場所」でしたよね。そして今回の『100年後』というタイトルが始まりから終わりを表していたりする。どちらか一方ではなくて、境界線を描くことがオウガの表現の核にあるのかなと思うのですが、いかがですか?
出戸:歌詞とかもそうなんですけど、YESかNOかみたいに、物事を二極で話すのは簡単なんですよね。でも僕にとってそれはリアリティーがないっていうか、現実の世界ってそんなに単純ではないから、自分のリアリティーを追いかけると、二択じゃない何かになるんです。歌詞もそういうニュアンスを伝えたいので、着地点がないというか。
―そこは出戸さんのパーソナリティーが出てる部分ですか?
出戸:バンドで作っている音楽なので、僕の中にあるものだけで形作られているわけではないんです。僕も「へー、こういうアルバムになったんだ」って思ったりするんですよ(笑)。だから、僕のパーソナリティーを掘ってもこの作品にはたどり着かないというか、僕も手足でしかない気がして。それにもしこれが僕自身の塊だったら、自分じゃきっと聴けないですからね。僕が聴いてもこのアルバムは「いいな」って思えるんで。
―「一度作った作品を聴き直すことはあまりない」と言うアーティストも多いですけど、出戸さんが自分で自分の作品を「いいな」って思えるようになったのは、いつ頃からなんですか?
出戸:『浮かれている人』(2010年9月発表)ぐらいからですね。それまでの作品が悪いとは思ってないですけど、ふと聴きたくなることはなくて。
―いいと思えるようになったのは、自分の本質とバンドの表現が近づいたからなんでしょうか?
出戸:いや、むしろ離れてるんじゃないですかね? 自分でも想像つかない部分がたくさん含まれてるし、自分そのものっていう感じは全くしてないです。これは『100年後』っていうひとつの作品であって、自分のものではない感じがします。
どんどん強まる音楽の探求欲― 「ツアーで地方に行ったときは『暇さえあればレコ屋』みたいな(笑)」
―出戸さんが美大でアート作品を作っていた時代もあったわけですが、ジャケットのデザインを自分でやったのは今回が初めてなんですよね?
出戸:これまでのアルバムでも「やろうかな」とは思ってたんですけど、いつも自分が考えてるものよりフィットする絵だったりが見つかってたんですね。ただ、今回は1年探してもグッとくるものがなくて、元々自分の中でイメージもあったし、じゃあ自分でやろうと思って。
OGRE YOU ASSHOLE『100年後』ジャケット
―どういうイメージで作られたのですか?
出戸:これ、雲なんですよ。雲って、色味が暗めだと破壊の象徴に見えるし、明るくすると天国感が強調されますよね。これぐらいの色味だと、破壊と天国感の両方に触れる感じがいいかなって。
―確かに、これが灰色とかだと雷雲って感じで、破壊のイメージが強まりますもんね。でもどちらかと言えば明るくて、途中でおっしゃってた恐怖をあおらない感じっていうのがしっかり表現されてると思います。こういう作品表現ができるバンドがメジャーシーンにいるっていうのは、改めてすごく頼もしいなって思うんですけど、今メジャーにいるっていうことをどの程度意識されていますか?
出戸:メジャーにいるからって使命みたいなものは感じてなくて、メジャーにいるいないよりも、『homely』に恥じない新しい作品をどう作るか、自分たちが前に作ったアルバムからのプレッシャーの方が大きいです。メジャーにいることがプレッシャーには全然なってないし、こだわりも特にないです。
―もう本当に、自分たちの表現を修練していくことに邁進してる感じですね。でも作品ごとに異なったベクトルに行くっていうのは、枚数を重ねるごとに大変になっていきますよね。
出戸:どんどん手がなくなっていきますからね(笑)。
―そのうち音楽以外に飛躍して行ったり?
出戸:いや、やっぱり音楽をたくさん聴いて、いろいろ勉強しなきゃいけないと思います。
―最近はみなさんレコードにはまってるそうですね。
出戸:ここ何年かで、ロックに留まらずあらゆるものをみんなが聴き始めてて、ツアーで地方に行ったときは「暇さえあればレコ屋」みたいな(笑)。ライブのリハが終わったらすぐ出ていきますから(笑)。
―ロック以外で今どういうものにはまってますか?
出戸:発掘盤のソウルとかを出してるNUMEROっていうレーベルがあるんですけど、普通のソウルって、エンターテイメント要素があってかっこいいけど、自分とはまるで違う世界にある音楽って感じがするじゃないですか? でもエンターテイメント要素のない、埋もれてた宅録みたいなソウルですごいカッコいいのがあって、それが自分にフィットしたんです。地に足がついてるっていうか、自分と同じようなところで作ってる、リアリティーのあるソウルっていう感じがして。
―他のメンバーはどうですか?
出戸:ドラムの勝浦さんはブラジル音楽にはまってて、曲のアレンジをするときにすぐブラジル音楽の要素を入れようとして来ます(笑)。VIVA BRASILっていうブラジルのバンドがいて、ロックと言えばロックなんですけど、やっぱりブラジルっぽさがあって、それが特にお気に入りみたいです。
―ちなみに、ネットで聴いたり買ったりは?
出戸:ネットも使いますけど、レコ屋で体を動かして見つけたときの「オッ!」っていう感じと比べると、ネットで見つけたときの嬉しさは半減しますよね。感動がちょっと弱いっていう。
―フィジカルを手にしたときの良さっていうのはやっぱりありますよね。最近はオウガもコンスタントにアナログ出してますもんね。
出戸:単純にレコードは音もいいですしね。CDよりもレコードの方が信用できる感じはあります。
―古いものも新しいものも同時に追いかけることで、時代に捉われないオリジナリティーみたいなものがより出てきてる感じもします。
出戸:昔の音楽もすごい聴きますけど、僕らはやっぱり今のバンドなんで、古いとは思われたくないし、今のバンドとして表現できるといいなっていうのは思いますね。
100年後の音楽って?― 「100年前の人が今の音楽聴いたら謎すぎますよね、きっと」
―では最後に、ちょっと雑談っぽい感じで、「100年後」の音楽について話をしてみたいと思うんですけど、まず単刀直入に聞いて、100年後ってどうなってると思います?
出戸:全然わかんないです(笑)。100年前の音楽ってどんなんですか? ロックはまだないですよね?
―100年前っていうと1912年だから、ロックはまだないですね。ロックンロールの誕生が1950年代だから。
スタッフ:(スマートフォンで調べて)1912年はタイタニックが沈没した年みたいです。
―めっちゃ終末感あるじゃないですか(笑)。
出戸:でも、100年前の人が今の音楽聴いたら謎すぎますよね、きっと。
―100年後は、僕らにとっても謎の音楽が溢れてるんですかね?
出戸:そうなんじゃないですかね……10年後ですらわかんないですけど。
スタッフ:“春の小川”が1912年ですね。その翌年に“海”とか“こいのぼり”、童謡ですね。
出戸:ああ、今聴いても全然いいと思いますね。
―オウガの曲は100年後に聴かれてると思いますか?
出戸:いやあ、そうだったらすごいですよ。“春の小川”並ってことですよね(笑)。100年の間に淘汰されていっちゃうんじゃないかな……。
―でも、例えばこの10年でネットによっていろんな年代の曲が聴けるようになったわけじゃないですか?
出戸:いくらでもあるから、その分埋もれていくんじゃないですか?(笑) いくらでも音楽があるからこそ、その中で100年後にオウガにたどり着くのはどういう人なんだろうって、逆に気になりますけどね。
―今からは全く思いもよらないような角度から評価をされてるかもしれないですしね。
出戸:僕が今発掘盤のソウルを楽しんでるような、「お前に評価されたくないよ」って感じになってるかもしれないですよね(笑)。まあ、普通10年単位で物事を語りますけど、100年単位では語らないですよね。
―だからこそ、アルバムタイトルになり得る言葉だったとも言えるかもしれないですね。ちなみに、10年前の出戸くんは今を想像できていました?
出戸:10年前は……ちょうど美術浪人をしてて、毎日石膏像を描いてたんで、まったく想像できてなかったですね(笑)。
―じゃあ、今から10年後を想像できます?
出戸:無理っすね、1年後も無理です(笑)。
―でも、次の作品のイメージとかはあるんじゃないですか?(笑)
出戸:妄想みたいなのはみんなにしゃべってますけど、まずは今回の楽曲のライブアレンジが目の前にある感じですね。
―作品を作って、ライブアレンジをして、ツアーをしてってやっていたら1年ぐらいあっという間で、その積み重ねで10年が過ぎていくのかもしれないですね。今日はありがとうございました。ツアーも楽しみにしてます。
- イベント情報
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- 『「100年後」リリースツアー』
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2012年10月13日(土)
会場:長野県 松本 ALECX
出演:OGRE YOU ASSHOLE2012年10月19日(金)
会場:東京都 新代田 FEVER
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年10月21日(日)
会場:神奈川県 横浜 F.A.D
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年10月27日(土)
会場:北海道 札幌 cube garden
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月3日(土・祝)
会場:新潟県 新潟 CLUB RIVERST
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月4日(日)
会場:宮城県 仙台 MA.CA.NA
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月9日(金)
会場:福岡県 福岡 DRUM Be-1
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月10日(土)
会場:広島県 広島 ナミキジャンクション
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月17日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more2012年11月18日(日)
会場:大阪府 大阪BIGCAT
出演:
OGRE YOU ASSHOLE
and more
- リリース情報
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- OGRE YOU ASSHOLE
『100年後』(CD) -
2012年9月19日発売
価格:2,500円(税込)
VPCC-817471. これから
2. 夜の船
3. 素敵な予感
4. 100年後
5. すべて大丈夫
6. 黒い窓
7. 記憶に残らない
8. 泡になって
- OGRE YOU ASSHOLE
- プロフィール
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- OGRE YOU ASSHOLE
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2001年に結成。メンバーは、出戸学(vo&g)、馬渕啓(g)、勝浦隆嗣(ds)。バンド名は、モデスト・マウスのメンバー、エリック・ジュディがOGRE YOU ASSHOLEの元メンバーである西の腕へ「OGRE YOU ASSHOLE」といたずら書きをしたことに由来。2011年、ベースの平出の規人が脱退し現在の編成に。2009年3月シングル『ピンホール』よりVAPに移籍。これまでに4枚のオリジナル・アルバムをリリース。今作が、5枚目のアルバムとなる。2008年にリリースした『しらないあいずしらせる子』から現在に至るまで、プロデューサーの石原洋とエンジニアの中村宗一郎がレコーディングを手がけている。
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