これまで数回にわたり行ってきた過去のインタビューを読んでいただければわかる通り、ROVOというバンドは常に最新作が最高傑作であることを自らに課し、それを実行してきたバンドである。オリジナルアルバムとしては通算10作目となる『PHASE』も、やはり過去最高傑作と呼ぶべき素晴らしい仕上がりだが、本作のポイントはそこだけではない。今回のアルバムは『PHASE』というタイトルが示す通り、ROVOが明確に新しい段階、新しいステージへと歩みを進めた作品でもあるのだ。その背景には、2011年の震災はもちろん、尊敬するSYSTEM 7との合同ツアー、10年にわたってROVOのVJを担当してきた迫田悠との別離という、必然とも言うべき出会いと別れがあった。そして、そういった経験を経たからこそ、2012年のROVOはこの新たな一歩を踏み出すことができたのである。『RAVO』のインタビュー以来の組み合わせ、勝井祐二と山本精一の二人に話を聞いた。
SYSTEM 7の姿勢を見て、改めて「ちゃんとしなきゃいけないな」って思いました。「すげえ真面目に作ってるな」って、気合いが入りましたよ。(山本)
―前回の取材はSYSTEM 7とのツアー前で、勝井さんにスティーブ・ヒレッジ、ミケット・ジラウディとの対談をしていただきましたが、実際のツアーはいかがでしたか?
勝井:あのツアーは2011年の秋だったから、計画の途中で震災があって連絡が途絶えてたときもあって。でもそこからもう一度仕切り直して、ツアーをやるまで持って行ったわけで、すごくポジティブな、新しく踏み出していくっていう感じがありました。そもそもSYSTEM 7はすごく尊敬してる特別な人たちだし、その人たちと一緒に演奏させてもらえて、ひとつのバンドとしてツアーをするっていうのは、やっぱりすごく大きな経験でしたね。
勝井祐二
山本:僕もGONG(SYSTEM 7以前にスティーブとミケットが在籍したバンド)が大好きでね、僕が生涯惹かれてるような音楽性っていうのは、GONGなんかがお手本のひとつなんですよ。アメリカならサンフランシスコのTHE GRATEFUL DEAD、それに対して、イギリスのちょっとプログレッシブな、ああいう音の状態っていうのは、非常に参考にさせてもらったので、そのメンバーの人と一緒にいるっていうのは、あんまり現実感なかったですね。
―山本さんは昨年前半はライブ活動をお休みされていて、SYSTEM 7とのツアーあたりから活動を再開されていたかと思うのですが、その前後で何か変化はありましたか?
山本:活動を休んでたのは、要は充電期間だったんですけど、レコーディングはたくさんやっていたので、そこでの変化っていうのは特にないですね。むしろ、SYSTEM 7とやったことでの変化はあって、彼らの姿勢を見て改めて「ちゃんとしなきゃいけないな」って思いました。「すげえ真面目に作ってるな」って、気合いが入りましたよ。
山本精一
勝井:もちろんなめてたわけじゃないんだけど、とにかくストイックでした。「四つ打ちのテクノミュージックってああいうもの」ってわかってるつもりだったんですけど、そうじゃなかったんですよね。ものすごく突き詰めて作られていて、一緒にリハーサルをしてそれがはっきりわかりました。
山本:厳しかったよねえ。俺が一番感動したのはディレイのタイム。
勝井:あの人、あれ厳しいよね!
山本:ホントBPM1とか2の世界。普通わかんないですよ。
勝井:でも、彼にとってはそれが完全に違うんですよ。僕はROVOとの合体ユニットだけじゃなくて、SYSTEM 7に僕だけ入る形でのライブも何回かやってるんですけど、気をかけてるところの基準が予想と全然違って、曲の構成とかじゃないんですよね。「64小節で次に変わる」とか、そんなことは全然言わないんです。曲順とキーとBPMだけを書いたものを渡されて、特にBPMがすごく重要。例えば、90分のセットだったら90分の中で、ちょっとずつ上がって行くわけ。128、129、130、132、132、134、132、134とか、1回下げてもう1回上げたりとかして。
山本:それでグルーヴが出るんだって、ちゃんと意味があるわけですよ。あの人何歳ですか?
勝井:61歳。
山本:あの感覚の若さにはホントビックリしますよ。創作意欲や厳しさが全く衰えてない。わりと60とか過ぎると、若いとき厳しかったような人でも、そうじゃない世界に突入することが多いですけど、彼の場合はそれをずっと継続してる。素晴らしいですね。
何から何まで揃って、過去の名曲メドレーみたいなのをやっちゃうと、今年で終わってたと思うんですよ。(勝井)
―昨年末には長年ROVOのVJを担当されていた迫田悠さんが、活動の拠点を海外に移すために現場を離れて、今年からはVJなし、照明も色味のないものに変更と、ライブの演出が大きく変わりましたよね。
勝井:実は彼女から「現場を去ろうと思う」っていう相談を受けたのは、去年の頭だったんです。だから、その後の演出を考える時間はあるにはあったんですけど、はっきり言って彼女はメンバー同然の人だったので、「じゃあ、次のVJの人を探そう」っていうわけにはやっぱりいかなくて。それで、迫田悠と一緒に照明チームを組んでいた高田政義に1回任せようということになったんです。その結果、あの電球だけみたいな、色味を使わない、光の点滅だけで表現することになって。
―最初は戸惑いもありました?
勝井:正直に言うと、最初は「これ大丈夫なのか?」と思いましたね。高田に「演出を頼む」っていう話をしたときに、「バンドが今までよりかっこいいと思える曲を作って、先に進んで行こうっていう気持ちさえ持っていれば、裸電球1個でもライブはできると思うけどね」っていう話はしたんですよ。でも、ホントに電球持ってくると思わなかったから、ちょっとびっくりして(笑)。
―(笑)。
勝井:山本さんも「祭りの夜店みたいやな」って言ってたし(笑)。
山本:ステージから見える風景がすごくって、ホント縁日の夜店みたいやったんですよ(笑)。
勝井:6月のツアーの京都のアンコールだったかなあ、10数分かけて段々盛り上がっていく曲をやってるときに、フッと電球を見ると、最初はほとんど何もついてないわけ。それが僕らが曲を盛り上げていくのに合わせて、ジワーッと明るくなっていったんだよね。ものすごく微妙に変わっていって、「これすごいことしてるな」って思って。
―スティーブ・ヒレッジのBPMの話と通じる部分がありますね(笑)。そして、そのツアーファイナルとして、野音で10周年の『MDT Festival』(毎年春に開催されているROVO主催のフェスティバル)も行われましたね。
勝井:今年は天気にも恵まれて、素晴らしい結果になったと思ってます。一緒にやってくれたNabowaやGOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTIONもホントに素晴らしい演奏で、めちゃくちゃ盛り上がって、これ以上はないなってくらいの10周年になって。ただ、10周年でどう考えても区切り感はみんな持ってたんだけど、迫田悠が去って、高田が新しいチャレンジをして、僕らもその日新しいアルバムの曲ばっかりやってたから、つまりは演出も演奏も新しいことをやって10周年を迎えられた、それが何よりよかったなって。何から何まで揃って、過去の名曲メドレーみたいなのをやっちゃうと、今年で終わってたと思うんですよ。そうじゃなかったので、ちゃんと次につながるなって。
―一番最新の形で、過去最高を迎えられたと。
勝井:そうですね。さっきも話した通り、迫田悠が現場を去るっていう話は去年の頭に聞いてたんで、去年の野音で彼女が最後だっていうのを僕らはわかってたんですよ。だから、ホントは今年やるような集大成っていうのを、すごい駆け足で去年やっちゃったような感じがあるんですね。彼女がいる形での「これ以上ない」っていうのは、去年できた実感がはっきりあったから、今年はその上で臨んでたんです。
山本:10周年で彼女がいないっていうのは、ある種「必然だったのかな」なんて思いましたけどね。新しいところに踏み入るのは、彼女と一緒じゃないんだって。あんまり言いたくないけど……運命みたいな感じ。「これ以降はまた違うんだ」って、単純にそう思いました。
メンバーみんな30年くらいは即興演奏やってきてるからね。経験値が普通のバンドとはちょっと違うんでね。(山本)
―そして、オリジナルアルバムとしては10枚目にあたる新作『PHASE』が完成しました。確か、このアルバムに向けた新曲を初披露する予定だった横浜のライブの日が、まさに震災の日だったんですよね?
勝井:そうです。『RAVO DUB』を出して、新しい曲を作り始めて、そのうちの2、3曲をやろうと思ってたんですけど、震災が起きてもちろんライブはできなくて。そこからは、以前とは違う段階に入ってるんだなっていう気持ちがすごくあって、ライブをやりながら、曲がどんどん変わっていったんです。今年に入って、アルバムの最後の曲以外の曲が大体ライブのラインナップに入って、特に6月のツアーから野音でアレンジを絞り込みましたね。それから、『RAVO』のときと同じように、ファイナルの翌週にはレコーディングに入りました。
―ツアーの勢いそのままにレコーディングに入ろうと。
勝井:もちろんそれもあるし、僕らの曲って長くてややこしいでしょ? それは必然性があってそうなってるんだけど、ちょっと時間が空くと、曖昧になっちゃうんですよ。「なんでここ4回繰り返しじゃなくて3回なんだっけ?」とかね。でも、そこに至るまでは、スタジオで4回繰り返し、3回繰り返し、2回繰り返しを何度もやってるわけ。その必然性の意味合いが一番共有されてるときに録りたくて。
―だからこそ、ツアーの直後のレコーディングがいいと。
勝井:1週間前まで演奏してるわけだから、比較対象があって、いいテイクだったかどうかの判断もはっきりするんですよ。2曲目の“COMPASS”とかテイク1が今までやったどのライブよりもいいテイクだったから、「これ一発で大丈夫だな」って。
―一曲一曲のキャラクターがはっきりしてるのも本作の特徴だと思いました。アシッドな“BATIS”、サイケデリックな“MIR”とか。
山本:俺の場合、特に“D.D.E.”は「こういうのをやろう」っていうのがあったかも。今までにはなかったような、疾走感があって、前フリがない。いきなりマックスから始まるみたいな。“BATIS”は最初に練習してたときと、ツアーが終わってからが相当違うものになってますね。
―どう変わったんですか?
勝井:どんどん強くなっていった印象がある。ライブで演奏することで強くなって、必然性を見つけていったっていうか。しかるべき姿を、みんなで見つけていったっていうのかな。
山本:そう、それが一番強い感じがする。
―ラストの“REZO”は20分以上の大作ですね。
勝井:この曲のアイデアは3.11で頓挫したライブに向けての曲作りをしているときにすでにあって、他の曲と一緒に試してはいたんだけど、曲調からしてなかなかライブメニューに組み込めなくて、結局ライブでやらずにアルバムに直結した曲なんです。
山本:こういう曲は好きだなあ……演奏しながら寝ちゃうんですけど(笑)。通常のライブに入れたらみんな絶対寝ちゃうから、こういうやつだけのライブとかやりたいね。
―尺も含めて、最初から曲のイメージは固まっていたんですか?
勝井:これはライブでやってない分、作曲した自分のイメージ通りになってますね。この先ライブでやっていくとすると、もっとバンドの表現が入って変わっていくと思うんですけど、今は真空パックみたいな状態っていうか。
山本:何テイクかやったっけ?
勝井:これは2テイクですね。で、結局1テイク目。
山本:この曲即興の要素が強いでしょ? それなのに2テイクやって、分数がほとんど一緒だったんですよ。5分とかね、そのぐらいの曲なら合うこともありますけど、20分を超える即興曲なんてなかなか合わないですよ。
勝井:気持ちとしては、ホントは15分ぐらいに収まったらいいなって思ってたんだけど、そういうことじゃないみたい。
山本:適正な時間があるんですよね。音楽って不思議なことが多いなって思いますよ。
―それだけメンバーの共通理解があるっていうことでもありますよね。
勝井:まあ、長くやってますからね。お互いのことを尊敬して、その上で成り立ってますから。でも、「こういうことをやりたい」っていうのははっきり言わないと伝わらないし、「そうじゃないんです」っていうのもはっきり言いますからね。それの繰り返しですよ。
山本:メンバーみんな30年くらいは即興演奏やってきてるからね。“REZO”みたいな曲に関しては、特にそれはでっかい。経験値が普通のバンドとはちょっと違うんでね。
『RAVO』のときは原点回帰みたいなことを話したけど、今回は完全に新基軸だと思います。(勝井)
―『PHASE』は震災以降の最初のオリジナルアルバムでもあるので、そこに対する想い、昨年以降の社会の空気感みたいなものも作品の裏側にはあるかと思うのですが、そこに関してはどんな考えをお持ちですか?
勝井:一人一人違うとは思うんですけど、俺にははっきり関係してる。裏側ではなくて、表中の表ですよ。2011年の震災以降に出てきた必然的な音楽だと思ってるから、全員がスローガンを掲げて認識を共有しなくても、それははっきり出てると思います。特に僕が思ったのは、バンドをちゃんとやってると、今世の中に起きてることとか、今やらなきゃいけないこと、そういうこととちゃんとリンクするなって。具体的な例は出さなくても、いろんなことがまだ収束してないし、いろんなことに気づくようになったし、そういうこととリンクしてると思うんですよね。
―山本さんはいかがですか? 震災以降の社会の空気と、音楽のリンクについて。
山本:僕は正直言ってあんまりない。自分がやってる音楽とか絵とかそういうものと、社会の動きは関係ないかな。僕の場合は神戸の震災が先やったんですよ。あそこである種の諦念、無常感を感じてしまって……で、今回も横浜で被災してるわけですよ。そうなると運命論者的な諦念が出てきてしまって、よくないとは思うんですけど、人間性がそうなんで、しょうがないかなと。それよりも、俺は世界全体の動きが気になりますね。
―というと?
山本:今の中国とのいざこざとか、何万年生きてても人間って同じことばっかりしてんなって。絶対いさかいがあって、平穏が訪れることはないのかなって思うんですよね。“MIR”って「平穏」っていう意味なんですけど、この曲は珍しくそういう意識が働いたんです。音楽の中で穏やかな気持ちになりたいなって。ただ、メッセージじゃないんですよ。そこは音楽とは分けてて、激烈なことを言うときは音楽じゃなくて文章で直接言うかも。
勝井:俺にしても曲自体は無意識に出てくるんですよ。最初から「こういうテーマで、こういうことを表現しよう」とは思わなくて、無意識に出てきたものを、羊水を枯らさないように意識的に汲み上げるというか、その状態のまま作品化する。安直につかみ出しちゃうと、さっき言った必然性がすぐ枯れちゃうんですよ。曲に元々ある湿り気を枯らさないように作品化するときの意識と、社会の動きがちゃんとリンクしたなって。
―そういう意味でも、本作は紛れもなく2012年のROVOの作品だと。
勝井:もうちょっと細かく言うと、今までの僕らの曲って、ピークがあって終わるまで、大体15分なんですよ。それがひとつの単位だったんだけど、今回結構15分じゃなくて、もっとシェイプされてるんですよ。
―確かに、“COMPASS”とか10分切ってますもんね。
勝井:今までの「15分かけて物語を作って言い切る」っていうのが結構鉄板だと思ってたんだけど、それが今変化してると思う。全員がそう思うかはわからないけど、2010年にこの曲をやってたら、15分の曲だったかもしれない。今やってるから、こういうサイズの、こういう曲になってるんだと思うんですよ。
―となると、アルバムタイトルの『PHASE』というのは文字通り……。
勝井:もう、そのものですよ。新しい段階、新しい局面、それしかないなって。『RAVO』のときは原点回帰みたいなことを話したけど、今回は完全に新基軸だと思います。面白いものができたと思いますね。
山本:世界全体も新しい段階に入ってきつつあると思うんですよ。不安がすごくでかくなってきてて、どうすればいいんやろう……すいません、俺セカイ系なんで、どうしてもこういうこと考えちゃうんですよ(笑)。
- リリース情報
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- ROVO
『PHASE』(CD) -
2012年11月14日発売
価格:2,940円(税込)
WRCD-631. BATIS
2. COMPASS
3. D.D.E.
4. MIR
5. REZO
- ROVO
- イベント情報
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- 『ROVO 10th Album 「PHASE」 Release TOUR 2012』
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2012年11月30日(金)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET2012年12月1日(土)
会場:大阪府 梅田シャングリラ2012年12月2日(日)
会場:京都府 京都 磔磔2012年12月7日(金)
会場:福岡県 福岡 the voodoo lounge2012年12月8日(土)
会場:熊本県 熊本 NAVARO2012年12月9日(日)
会場:鹿児島県 奄美大島 ASIVI2012年12月14日(金)
会場:東京都 代官山 UNIT
- プロフィール
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- ROVO
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勝井祐二(Vln)、山本精一(G)、芳垣安洋(Dr/Per)、岡部洋一(Dr/Per)、原田仁(B)、益子樹(Syn)。「何か宇宙っぽい、でっかい音楽をやろう」と、勝井祐二と山本精一を中心に結成。バンドサウンドによるダンスミュージックシーンの先駆者として、シーンを牽引してきた。『フジロック・フェスティバル』『ライジングサン・ロックフェスティバル』『メタモルフォーゼ』『朝霧JAM』など、大型フェス/野外パーティーにヘッドライナーとして連続出演。国内外で幅広い音楽ファンから絶大な信頼と熱狂的な人気を集める、唯一無二のダンスミュージックバンド。
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