もしかしたら、LAMAというバンドを一時的なプロジェクトと捉えていた人も多かったのかもしれない。実際、デビュー作『New!』の発表以降は、メンバー個々の活動の方が目立っていたようにも思うし、LAMAというバンドが音楽を楽しむための「場」であることを強調していた昨年までは、メンバー自身にもどこかそういった気持ちがあったようにも思う。しかし、現在のLAMAは間違いなく「バンド」であると同時に、新作『Modanica』によって、「バンド」という概念の更新すら提示している。まだ手探り状態で制作された前作に対し、レコーディングとライブを通じてメンバー間の理解を深め、四人にとって最も適した形で曲作りが行われた新作は、バンドサウンドとエレクトロニックミュージックが高次元で融合しながらも、それをあくまでポップミュージックとして結実させるという離れ業を見事にやってのけた作品である。取材に臨んだメンバーは終始リラックスしていて、冗談の飛び交う和やかな雰囲気だったが、『New!』と『Modanica』という二作のアルバムタイトルが示すように、「絶対に新しいものを生み出す」という、ミュージシャンとしての意地が、LAMAを突き動かしているのではないかと感じた。
毎日レッドブルをプシュってやってたような気がします(笑)。(田渕)
―LAMAは、四人それぞれの活動があった上で成り立っているバンドだと思うので、まずは一人ずつ2012年を振り返っていただきたいと思います。ではミキさんから、今年はいかがでしたか?
フルカワミキ
フルカワ:あっという間でした。普段の自分の時間感覚がすごくゆっくりなので、他の人と会ってる時間が多くて余計あっという間に感じたのかも……。今年は、ボーカルで参加させていただいたり、立ち上げたファッションブランド「Gainan」の方もマイペースに活動していたのですが、それ以外はほぼLAMAでしたね。
―ナカコーさんはいかがでしたか?
ナカコー:忙しかったですね。上半期は『エウレカセブンAO』のサントラを2枚作って、LAMAを作って、他にもいろいろ……。何月に何をやってたかもうよくわからない状態です(笑)。
―では、ひさ子さんは?
田渕:春は磯部正文BANDのツアーがあって、夏からLAMAのレコーディング作業が始まったんですけど、その頃は大変で頭から煙が出そうでした(笑)。
―いろんなバンドの活動が並行してあったからですか?
田渕:バンドの活動ではLAMAとブッチャーズとtoddle、あとはレコーディングに参加したりとか、ライブでサポートをやることが多かったので、結構タイトでしたね。
田渕ひさ子
―ベーシックのバンド数が多いですもんね。その中でも印象的だった活動ってありますか?
田渕:やっぱりLAMAのアルバム制作ですかね……。毎日レッドブルをプシュってやってたような気がします(笑)。
―そのあたりの苦労については、追って聞かせてください(笑)。では、牛尾さんはいかがでしたか?
牛尾:人と一緒にやることがすごく多かったです。今年から電気グルーヴのステージに立つようになって、ナカコーさんと『エウレカセブンAO』をやって、LAMAをやって……。ミトさんとやってる2 ANIMEny DJ'sでも、まだ発表されてない作家仕事をたくさんやりましたし、怒涛な感じでしたね。
ずっと継続的にやってるつもりなのに「久しぶりに」とか言われると、「もっと僕を見て!」ってなります(笑)。(牛尾)
―みなさんそれぞれの活動がありながらも、前作から約1年で新作が届いたわけですが、頻繁にライブをするタイプのバンドではないので、1年を通しての動きが見えづらいと思うんですね。昨年のアルバム発表以降は、断続的に曲作りをしていたのか、それとも「アルバムを作ろう」と決めてから曲を作り始めたのか、どちらが近いですか?
フルカワ:前作を去年の年末に出した後、続ける気持ちでいるのに「続くんですか?」って何回も聞かれて、ちょっとイラッときたりとかはありましたね(笑)。
牛尾:僕もセカンド出すことになって、「LAMAまたやるんだ」ってよく言われたんですけど、ずっと活動してたんですよね。スタジオにも入ってたし、ライブもあったし、ナカコーさんの『エウレカセブンAO』も手伝ったりしてたので。ずっと継続的にやってるつもりなのに「久しぶりに」とか言われると、「もっと僕を見て!」ってなります(笑)。
牛尾憲輔
フルカワ:年明けすぐにCMの話をいただいたり、わりと早い段階で制作のきっかけもあったけど、アルバムとして本格的に考え始めたのは夏ぐらいからですね。前作はサーバーを設けて、そこにみんながネタを預けて、ある程度曲を構築してからレコーディングに入るやり方だったんですけど、「1枚目と違う作り方がいいよね」という話になって。今回はまずスタジオに入って、音を鳴らしながらアイデアを出していったんです。
―具体的には、どういった作業だったんですか?
フルカワ:まず、牛尾くんとナカコーが主軸となる音素材を作って、それをもとにみんなで一緒に考えていきました。だから、スタジオに入ってからはわりと短いタームでできたんです。
ナカコー:一枚目と同じように作っていってもよかったんだけど、サーバーを使ってビルドアップさせていくやり方は、かなり時間がかかるんですね。ライブだと牛尾くんの出すものに他の三人が乗っかって進んでいくスタイルが多いから、それを丸ごと制作に持ち込んだ方がスムーズに作れるだろうっていう。そういうスタイルで楽曲を作っていけば、四人が個別にやってる活動とはまた別のものとして存在するんじゃないかなと。
ナカコー
―すると、制作時は前作よりも牛尾さんのパワーバランスが強くなっているわけですか?
牛尾:どうですかね……。さっき言ったように、ナカコーさんと僕が隣に座って、「さて、こっから始めるべ」ってところから始まるので、「誰かの曲」というのが今回は全然ないんですよね。
ナカコー:前作はまずバンド的な構造の楽曲があって「牛尾くん、これどうしよっか?」ってオファーが多かったんだけど、今回は母体を僕と牛尾くんで先に作って、みんなで「これどうしよっか?」っていう作り方をしたので、その差は結構あるかもしれない。
―いわゆるバンド的な作り方ではないので、特にひさ子さんにとっては新鮮かつ大変だったんじゃないですか? だからこそ、レッドブルも必要だったのかなと(笑)。
田渕:そうですね。ある程度形が見えたデモを聴く段階になっても「ここにギターを」といった注文が一切ないので、まず自分が曲をどう理解して、どういう風に捉えるかっていうところをグルグルグルグル考えながら、レッドブルをプシュっと開けてました(笑)。
作品を構築するシステムを最初に作るっていうのが、わりと今っぽいなと。(ナカコー)
―ミキさんも主に「乗っかる側」だったかと思うのですが、前作との違いは特にどんな部分でしたか?
フルカワ:前作はある程度曲の骨格が見えた段階で、総括してメロディーを乗せていたけど、今回はループに対して断片的なメロディーを素材として録っていきました。それを全然違う部分に入れたり、抜き差ししながら構成していくやり方だったので、そこは前作とちょっと違いますね。
―かなりフレキシブルな作業だったんですね。
フルカワ:バンドらしくないアイデアを注入しながら、なおかつマニアックにはならないように心がけました。「ポップなんだけど、何だか他と違うよね」って思ってくれるようなものができたらいいなと思ってました。
―最終的にポップミュージックとして着地するっていうのは、ある種「LAMAらしさ」になってますよね。
フルカワ:みんなの持ち幅だったらもっとマニアックな方向に行くこともできると思うのですけどね。常々自分の田舎の方にも届いてくれたらいいなっていうのは、個人的にどこかで考えてますね。
―作品を作っていく中で、全体像はいつ頃見えてきましたか?
ナカコー:どんなアルバムでもそうだけど、作り方が作品の内容にリンクしますよね。だから、最初にシステムを構築して、その上に全員のアイデアを投げていけば、自ずと何か形ができていくアルバムだったし、それでいいと思ってます。
―作り方そのものが、作品自体のテーマになっていくと。
ナカコー:そうですね。作品を構築するシステムを最初に作るっていうのが、わりと今っぽいなと。
―その「今っぽい」っていうのは、今の音楽の流れを指してるのか、それとももっと大きな意味での時代性を指しているのでしょうか?
ナカコー:プレイ内容ももちろん大事だけど、たくさんバンドがいる中で個性を作っていくときに、どう楽曲を作っていくかという部分に特化して考えてるバンドが数年前から増えてたから、そういうのをやってみたい思いはありました。
―具体的に、イメージしたバンドはあったんですか?
ナカコー:音楽性は違うけど、例えばACTRESSとかONEOHTRIX POINT NEVERとか。新しいシステムをまず作って、その上で自分なりのルールを決めて、構築していくから、独特のサウンドになっていくんですよね。ただ、あれをそのままやりたくはなくて、ポップスとして消化したいし、この四人の中でそういうアイデアを出していきたいんです。
―この四人でやりさえすれば、ちゃんとこの四人らしいものになるっていう、そのあたりはバンドっぽいところなのかなと。
ナカコー:まあ、こういう話は制作中にはしてないんですけどね。今話したようなことを、音楽用語を使わないでどうしゃべるかっていう(笑)。なるべく音楽用語は排除して作りたかったので。
物語を作るというか、その作業自体がかなりロマンティックというか……。まあ、みんな愉快な人たちですよ(笑)。(田渕)
―シングル『Parallel Sign』のカップリングに収録されていた“Seven Swell -based on“Niji”-”は、電気グルーヴの“虹”を再構築した楽曲で、『エウレカセブンAO』の最終回の挿入曲としても話題になりましたよね。原曲を生かしつつも、まったく違う曲になっているのが非常にユニークですが、あの曲はどうやって作っていったのですか?
ナカコー:まず、牛尾くんが電気の制作やライブのサポートをやってるから、「電気に参加してる人間としてどう思う?」っていうところからスタートして(笑)。
牛尾:僕、元のデータ持ってますからね(笑)。去年もミトさんと僕のユニットで “虹”のカバーをやったので、また今回もカバーするとなると、それとがっぷり四つになっちゃうと思ったんです。だからちょっと考え方を変えて、原曲をサンプリングして、何か新しいものを作りたいなと。まあ、有り体に言ってしまえば、マドンナが“Hung Up”でABBAの“Gimme! Gimme! Gimme!”をサンプリングしているような作り方が面白いと思って。
―“虹”ってものすごくロマンティックな曲じゃないですか? LAMAの音楽自体もすごくロマンティックだと思うので、ぴったりはまってるなって。
牛尾:そう言われて、「そうですね、僕たちロマンティックなんで」とは言わないですよね(笑)。
―まあ、そうですよね(笑)。
田渕:歌詞を書いたり、音を作る仕事をしてる人はみんなそうなんじゃないですかね。何か物語を作るというか、その作業自体がかなりロマンティックというか……。まあ、みんな愉快な人たちですよ(笑)。
―改めて、『エウレカセブンAO』のサントラのこともお聞きすると、ナカコーさんが内包している幅広い音楽性からすれば、アニメの劇伴の仕事っていうのは非常にやりがいのある仕事だったのではないかと思うのですが。
ナカコー:すごく面白かったんで、「いろんな人を巻き込んでしまえ!」と思って(レコーディングには田渕と牛尾をはじめ、勝井祐二や益子樹らも参加)。「俺の大変さをみんなで味わおう」っていう(笑)。劇伴はバーッと描いた絵がそのまますんなりと採用されるようなことが許されるときもあるし、結構楽しいですよ。
―もちろんシーンごとの制約はあるけど、アイデアだったり、音楽的な制約はないわけですもんね。
ナカコー:でも、毎週チェックしたくなる、テレビのスピード感はすごいなって思いましたね。
―ネットのスピード感とはまた違う、テレビならではのスピード感があるということですか?
ナカコー:ネットは「繋がらない」不安定さがありますよね。テレビって何だかんだみんな持ってるものだから、安心感があるし、この共有感はこれからも消えないだろうなって。
あえて言葉にして、『Modanica』として使うことで、LAMAから見た今に対する提示をしてるんです。(フルカワ)
―最後に、『Modanica』というタイトルについて聞かせてください。LAMAというバンドは、ブッチャーズとagraphをつないでしまうぐらいの風通しの良さがあるということを前回の取材で話したと思うのですが、今回のアルバムやサントラのことを考えると、音楽とアニメをもつないでいるように思うんですね。そういう、異なるものが風通し良く共存している状態っていうのが、『Modanica』っていう言葉に集約されているように感じました。
ナカコー:このタイトルは、最初に構造を作って、その上に乗っけていく制作スタイルのことでもあるし、あるいは、生音の人たちとコンピューターベースの人たちが融合した結果、ダンスミュージックでもエレクトロニカでもないものとして、今っぽく存在しているっていう意味でもあるし。そこに、アニメと音楽の融合に何かしらの意味を見出してもらえるなら、ありがたいですね。。
―ではもう少し話を広げて、ネット以降では新しい・古いという価値観は存在しないというようなことが言われる中で、今「モダン」とははたして何を指す言葉だと思いますか?
牛尾:そういうのはすごく細かいいろんな要素の総体だったりするから、言葉として「何かこれ」っていうのはなかなか難しいと思いますね。
ナカコー:まあ「モダン」っていう言葉自体がもう古いんだけどね。
フルカワ:たとえば建物の構造にしても、基本となる作り方を踏まえた上で、空気感だったり、作り手のモードだったり、その都市における使い勝手だったりで、その構造は変わっていって、そのときどきの「モダン」が定義されるわけですよね。それをあえて言葉にして『Modanica』として使うことで、LAMAから見た今に対する提示をしてるんです。「壁に何使う?」とか「ドアの形どうする?」ということの答えが音に変換されているので、『Modanica』を聴いて、「これって何?」とか「これどうなってるの?」とか、そういう風に思ってもらえたら嬉しいですね。
- リリース情報
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- LAMA
『Modanica』初回生産限定盤(CD+DVD) -
2012年12月12日発売
価格:3,360円(税込)
KSCL-2166-71. For You,For Me
2. White out
3. Parallel Sign
4. D.B.A.
5. Domino
6. Know Your Rights
7. Strawberry Burn
8. Dear
9. In The Darkness
10. So
11. Life
12. Namida no Umi
13. And All
[DVD収録内容]
『2012.04.21 LAMA 「Ki/oon 20 Years & Days」 LIVE at LIQUIDROOM ebisu』
1. Warning
2. Spell
3. Blind Mind
4. Fantasy
5. Dreamin
- LAMA
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- LAMA
『Modanica』初回仕様限定盤(CD) -
2012年12月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-21681. For You,For Me
2. White out
3. Parallel Sign
4. D.B.A.
5. Domino
6. Know Your Rights
7. Strawberry Burn
8. Dear
9. In The Darkness
10. So
11. Life
12. Namida no Umi
13. And All
- LAMA
- プロフィール
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- LAMA
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ナカコー(iLL/ex.supercar)、フルカワミキ(ex.supercar)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers/toddle)、牛尾憲輔(agraph)による新バンド。メンバーそれぞれがソロ、他バンドで活躍する中で結成。4月27日にUstreamライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」で生配信された初ライブは約8万が視聴。8月3日にフジテレビ“ノイタミナ”アニメ「NO.6」オープニング・テーマに起用されたファーストシングル「Spell」をリリース。11月30日にファーストアルバム「New!」を発売。現在もロングセールスを続けている。2012年は年明けからキユーピーハーフ「新製法コラージュ」篇のTVCMソングに新曲「White out」が起用される。夏は「TAICOCLUB'12」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2012 in EZO」「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012」と各地のフェスを熱狂させ、11月28日にTVアニメ「エウレカセブン AO」挿入歌に起用されたシングル「Parallel Sign」、12月12日には待望のセカンドアルバム「Modanica」を発売する。
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