suzumoku×渡辺潤対談 逃げ出した過去さえもさらけ出して

街角に貼られた犯罪者の手配書をきっかけに、自身の存在意義を問い直す、シンガーソングライターsuzumokuの楽曲“モンタージュ”。三億円事件を題材に、「自分の父親が事件の真犯人だ」と知らされた青年の運命を描く、渡辺潤のミステリー漫画『モンタージュ』。「現実から目を逸らさず、生きることから逃げない」というテーマ、新しさとノスタルジーを兼ね備えた作風を持つ、このふたつの「モンタージュ」を手掛かりに、ミュージシャンと漫画家それぞれの視線を探っていく。それが、今回の対談の目的だった。

とはいえ、この日が初対面という両者だけに、果たして話がどんな方向に向かうのかは、対談が始まるまで正直見当もつかなかった。ジャンルも世代も異なるだけに、話がかみ合わない可能性も、ゼロとは言えない。しかし、それぞれの歩みを順を追って紐解いていくと、意外なほどに共通点が多いことに驚かされた。それぞれが似た悩みを持ち、つらい経験をし、今も試行錯誤を続けながら、自身の表現と本気で向き合っているのである。音楽でも漫画でも、もしくはそれ以外であっても、やはり根底にあるものを作る熱には変わりがない。そんなことを改めて再確認させられる対談となった。

自分のことで本気で泣いたのはその晩が初めてでしたね。自分が本気でやろうと思ったことから逃げ出しちゃったんだから。(渡辺)

―渡辺さん、普段音楽はよく聴かれますか?

渡辺:僕の場合、仕事的に同じ場所にずっといるんで、音楽を聴くことは多いです。昔バンドをやってたこともありますし。ただ、日本語の歌詞のものは仕事中に聴いちゃうと、耳が持って行かれちゃうんですよね。そういう意味で、suzumokuくんの曲は言葉が強いから、絶対聴けない(笑)。

―ちなみに、バンドではどのパートをやっていたんですか?

渡辺:僕はベースをやってました。趣味レベルのコピーバンドですけどね。

―suzumokuくんはやっぱりこれまでギター1本なんですよね?

suzumoku:そうですね、中学2年からずっとやってます。それまで音楽ってそこまで好きじゃなくて、小学校の授業の合唱とかすごく苦手だったんですよ。ただ、中学に上がって、思春期なんで何かしら女の子に注目されたいと思い始めた頃に、幼馴染の男友達が教室でギターの弾き語りをしてて、男子も女子も「すげー!」ってなって。僕はそれを遠巻きに見てたんですけど……。

suzumoku
suzumoku

渡辺:でも、「これだ!」と。こういう話を聞くとホッとしますね(笑)。

―渡辺さんも小さい頃から漫画を描いてらっしゃったんですか?

渡辺:描いていましたが、漫画でもてるとは思ってなかったですけどね(笑)。どちらかというと、描いてるのを隠してたぐらいで。僕が中学校ぐらいのときは、まだ「オタク」っていう言葉もなかったし、その言葉が出てきても、どっちかっていうと敬遠されるような、「恥ずかしい」っていうイメージだったから。ただ、小さい頃からとにかく漫画が好きで、中学時代から雑誌に投稿とかしてて、将来的にもこれ以外の職業は考えてなかったです。

suzumoku:その当時からですか?

渡辺:当時は自分のこと天才だと思ってたから(笑)。

suzumoku:ああ、僕も高校のときとか「絶対俺がこの高校で一番ギターが上手い」と思ってました(笑)。

渡辺:そういう勘違いも必要ですよね。ただ、今思うととんでもない勘違いで、実際にプロの現場に入って、ホントにショックを受けましたけどね。化けもんばっかりいらっしゃるんで(笑)。音楽業界もそうだと思うけど。

渡辺潤
渡辺潤

suzumoku:東京に来てビックリしましたね。ずっと名古屋で音楽活動をしてて、いざ東京に出て、知り合いが紹介してくれたライブハウスに行ったら、みんなすごいテクニックで、歌も上手いし、「こんなのが何十倍、何百倍いるんだよな」って思うと途方に暮れるというか……そんな感覚でした(笑)。

―渡辺さんは中学以降どのように漫画家の道に進んだのですか?

渡辺:それまでずっと投稿を続けてて、高3ぐらいからもっとちゃんと活動をした方がいいと思って、編集部に持ち込みに行くんですけど、最初は5分ぐらいで玉砕しちゃうわけです。ただ、それで道に迷うってことはなくて、受験勉強もしてなかったし、親には「3年間時間をください」って約束した覚えがあります。結局高校を卒業して、アシスタントについて、そこでプロの洗礼を浴びました。逃げ出しちゃったりとか、そういうこともありましたし。

suzumoku:プロの現場はそんなに厳しかったんですか?

渡辺:ホームシックもあったかもしれないし、彼女にふられたとかもあったと思うんですけど、今じゃ考えられないくらい厳しい仕事場だったんですよ。泊まり込みで、1か月に2日くらいしか休みがなくて、ずっと丁稚奉公のような感じで。特に僕は一番ペーペーだったから、その先生の奥さんの手伝いもしなきゃで、「渡辺くん、きゅうり買ってきて」とか、そういう世界で。

suzumoku:ただ漫画を描いていればいいわけじゃなかったんですね。

渡辺:それはそれで楽しくもあったんですけど、突然日常から切り離されたからだんだんつらくなっちゃって、先生に「悩みあるのか?」って聞かれて、つい「親が離婚しそうで……」なんて嘘をついちゃったんですよ。それで先生に「じゃあ、帰っていいぞ」って言われて、そのままホントに帰っちゃって、自分のことで本気で泣いたのはその晩が初めてでしたね。自分が本気でやろうと思ったことから逃げ出しちゃったんだから。

―その後はどうしたんですか?

渡辺:一晩寝て次の日に帰りましたけど、結局そこは1年もしないで辞めちゃって、その後はいろんな先生のところでアシスタントをしながら、自分の作品を描いてました。僕が20歳前後の頃って、『ヤングマガジン』がすごく勢いがあって、「どうしてもこの雑誌に載りたい」と思ってたんです。そうしたら運良くというか、そこで認めてもらえて、そこから仕事としてやれるようになったんです。

逃げてしまった自分に対する批判的なメッセージにちゃんと向かい合おうと思って、2ちゃんねるとかも全部見たんです。(suzumoku)

suzumoku:僕はデビューしてから、事務所の先輩のPE'Zとpe'zmokuっていうのをやらせてもらって、そこで初めて他の人が書いた楽曲に歌詞をつけるっていうことをやったんです。それまで詞先で進めて来た自分として、出来上がった音楽に歌詞を載せるという事が意外に難しく、しかも自分だけの言葉じゃないバンドの言葉はどうなのか? なんて考えて悩みに悩んで、納得できない部分がありつつも何とか書いてたんですけど、さらにライブをしていく中で、大先輩の前でフロントマンとして歌わなきゃいけないっていうことに、ものすごく責任を感じてしまって……。それこそ僕も1回逃げ出しちゃったんです。

―ああ、2009年ですよね。

suzumoku:決まってたツアーもダメにしちゃって、そこから1年空白の時期があって、「もうやめようかな」って思ったりもして。でも、有り難くも復活を望んでくれるファンの声に励まされて、気づいたらギターを持って、弾いてたんです。それで「やっぱりこれしかないな」って思ったときに、逃げてしまった自分に対する批判的なメッセージにちゃんと向かい合おうと思って、2ちゃんねるとかも全部見たんです。

渡辺:それすごいよ!(笑)

suzumoku:倒れそうになりながら全部見て(笑)。だけど、「これだけの反応が出るほどの活動をしてたのか」とも思えたんです。そこからは、自分のことを歌うというより、誰かにお返しするような感覚が自分の中に生まれてきて、作る曲も誰かに対してメッセージを届けるようなものにだんだん変わっていきました。

渡辺:僕は一番初めの連載が原作付きで(『代紋TAKE2』原作:木内一雅 / 作画:渡辺潤)、それがヒットしてすごく長く続いて(1990年10号〜2004年40号)。週刊連載だから忙しかったんだけど、その分お金も入ってきて、結婚して、子供も生まれて、意欲がないわけじゃないんだけど、「自分の作品」っていうことを考えなくなってた時期があったんです。それで、「これじゃいかん」と思って、自分の作品のことを考えるようになったら、今度はその時やってた目の前の仕事がつらくなっちゃって。そのジレンマというか、葛藤が10年くらい続いたかな。最終的には漫画をやめたくなっちゃって、机に向かうと吐いちゃうぐらいの時期もあったり。

―それは相当なストレスだったんでしょうね……。

渡辺:でも、長い連載が終わって、「丸1年休む」と公言して1年経ってみたら、やっぱりいつのまにか漫画を描き始めてるんですよね(笑)。今は自分の作品を描いてて、それはそれでつらいこともありますけど、やっぱり気持ちいいですね。今は地道にしっかり毎週続けることで、なんとか自分の世界を描き切れたらなっていうのが目標です。

左から:suzumoku、渡辺潤

聴く人の人生観すら変えてしまうかもしれない。そういう感じをひさしぶりに受けました。(渡辺)

―suzumokuくんはpe’zmoku以降の転機というと、いつが思い浮かびますか?

suzumoku:“モダンタイムス”っていう曲ですね。あれはノリで書いて、なんとなく自分で録音はしてみたものの、「(社会性が強過ぎて)これをCDにするのはどうなんだろう?」と思って。でも一応自分から出てきたものだから、「こんなのできたんですけど(笑)」みたいな感じで事務所の方に送ったら、「面白いじゃん!」って言ってもらえて。それまで社会に対して疑問をぶつけるような歌詞って敬遠してきた部分があったんですね。


渡辺:わかる。怖いもんね。

suzumoku:はい。これを書いたら「じゃあ、歌ってる本人はどうなんだ」って言われるのがすごく怖くて、結構不安ではあったんですけど、リリースして、ライブでもやるようになったら、それまでの曲にはなかったぐらいレスポンスがたくさん来て。「いいぞ!」っていうのと、「何言ってるの?」っていう、どっちもあるんですけど(笑)。

渡辺:インパクトの強いものを作るといろんな意見が出てくるから、作り手側は恐れますよね。でも、強いメッセージを感じるアーティストって減ってきたと思うので、その中でsuzumokuくんは硬派だと思いますよ。もしかしたら、売れるためにはもっと頭のいい方法があるのかもしれないけど、そうじゃないやり方を貫くカッコよさ、だからこそ入ってくる歌詞みたいのがあって、そういうのは聴く人の人生観すら変えてしまうかもしれない。そういう感じをひさしぶりに受けました。

suzumoku:ありがとうございます。賛否両論ありましたけど、やっぱり多くの人が聴いてくれてるんだなって思ったし、“モダンタイムス”も自分の一個の素直な気持ちであって、嘘は書いてないから、自信を持ってやっていくべきだと思うようになりました。

渡辺:曲を1曲作るにあたって、ノート1冊分書いちゃうような人もいるって聞いたことがあるんですけど、suzumokuくんはどうなの?

suzumoku:ネタ帳みたいのは持ってなくて、気になったワードとかメロディーは頭の中でずっと反芻する癖があるんです。

渡辺:そうすると忘れないよね。俺も一緒。本当に面白いネタは忘れないから、メモを取る必要ないよね。

suzumoku:一時期気になったワードをメモしてた時期もあったんですけど、時間が経ってもう一回見直すと、「なんでこれがそんなに気になったのかな?」って思うことが多くて。やっぱり鮮度っていうか、そのときピッと感じてスッと書かないと違うんだなって思ったんです。

渡辺:まあ、音楽だと1曲の数分の中に込めるわけだけど、漫画はひとつのものをすごく長いスパンでどう伝えるかだから、同じもの作りでも随分違いますよね。3分とか5分の中に言いたいことを詰めるのって、俺だったら限界感じちゃうかも。そういう悩み方はしない? 入り切らないとか、入れても伝わりづらいとか。

suzumoku:逆に「詳しく書かない」っていうのはありますね。言いたいことを全部バーッて書きたくなることもあるんですけど、聴いた人に想像してほしいから、「何なんだろう?」って思わせるところで切って、あとはメロディーで膨らませたり。聴いてくれた人が、それぞれの意味合いをその曲に持ってくれるっていうのが一番いいと思うんです。

―漫画の中に自分の想いをどう乗せていくかということに関しては、渡辺さんはどのようにお考えですか?

渡辺:非常に難しいんですよね。長い時間ひとつの作品を描いてると、ぶれることもたまにありますし、時代によって考えが変わったりもしますから。きっかけだけ与えて、あとは読んだ人がどう感じるか、描き切らない良さっていうのは僕も使うようにしてます。ただ、物語は完結させないといけないから、自分を見失わないことが毎週大変で、なおかつ毎週ちゃんと面白くないといけない。僕はそこまで気にしてませんけど、毎週人気も数値化されるわけで、毎週テストを受けてる感じというか(笑)。

―ミュージシャンで言ったら、毎週シングルを出すようなものかもしれませんね(笑)。

渡辺:まあ数字に左右されちゃうと、描きたいことがわけわかんなくなっちゃうから、そのバランスは作家さんそれぞれ違うでしょうし、もしかしたら僕はまだそのバランスを見つけられてないかもしれない。さっきも話しましたけど、長く原作付きでやってたので、自分一人で描くようになってからはまだ10年経ってないんですね。なので、キャリアは20年以上あるけど、まだ新人なんじゃないかって思うようにしてて、これまでの経験を持ったうえで、新人だって思えるのはもしかしたら自分の強み、武器なんじゃないかって。そうやってプラス思考でやってる感じがしますね。

新しい切り口って、自分に対する不安がそこにあるんだろうなって。(suzumoku)

―『モンタージュ』は三億円事件が題材となっているわけですが、渡辺さんがお生まれになったのがまさに事件の当日なんですよね。

渡辺:はい。なのでずっと引っかかってはいて、いずれ描きたいとは思ってたんですけど、「何が何でも描きたい」って思ってたわけではなくて。有名な事件だから、中途半端に手を出したらボコボコに叩かれて、二度と漫画描けなくなるんじゃないかって恐怖もあったし。でも……結局はノリだったんですよね。「次どんなの考えてるの?」って編集さんに訊かれて、「こういうの考えてるんです」って言ったら、「面白いじゃん」って。じゃあ、あんまり考え過ぎずにやってみるかと。「やってみてダメならダメでいいじゃん」っていうぐらいの気持ちで描き始めたんです。

―suzumokuくんの“モダンタイムス”の話とも通じる部分がありますね。最初は「どうかな?」って思う部分もあったけど、やってみたら上手く行ったっていう。

suzumoku:迷うときって、そこに今までなかった自分の何かが入ってきてるのかもしれないですよね。新しい切り口って、自分に対する不安がそこにあるんだろうなって。

渡辺:でも、“モダンタイムス”が生まれた瞬間は、悩まずに出てきたわけじゃん? 僕もそうだったけど、「どうしたら売れるだろう」とか、計算してたらそういうものって出てこなかったと思う。当然その後は計算しますよ。「どうしたら受けるだろう」って。でも、そもそもはポンって出てきた素の自分の考えなので、そういう意味ではブレはないかもしれないですね。漫画は一生のうちにそんなにたくさんの本数を描けるわけじゃないので、『モンタージュ』は貴重な作品なのかもしれない。

渡辺潤

「どうする? これやっちゃうと後戻りできないけど、でも面白いよね」なんてやりとりを編集さんとしたりしています。(渡辺)

suzumoku:ちょうど今のツアーで長崎に行ったときに、軍艦島に行ったんですよ(『モンタージュ』の中で、軍艦島は非常に重要な場所として描かれている)。

渡辺:行ったんですか! 羨ましい。

suzumoku:あれ? 取材で行かれてないんですか?

渡辺:2回行ったんだけど、風が強くて2回とも上陸できなくて(笑)。

suzumoku:そうなんですね(笑)。軍艦島に行った後に今回の対談の話をいただいて、『モンタージュ』を読んだら、ウワッて思って。「なんてタイムリーなんだ!」って。主人公が全国を駆け回るじゃないですか? 自分も今ツアーで全国を回ってるから、やたら世界観に入り込んじゃって、すごい楽しませていただいて。

渡辺:嬉しいです。でも、全国駆け回るつもりじゃなかったんですよ。煽りの文章で「日本を縦断する」みたいに書かれちゃって、「そうなんだ」って(笑)。

suzumoku:意外と行き当たりばったりなところもあるんですね?(笑) ストーリーの中でいろんな人物が絡んできて、「これって最初から構想が全部あるのかな?」って興味をもったんですけど。

渡辺:よく訊かれるんですけど、一応考えてるんですよ。逆算してるっていうか、事件の全貌から考えて、1人の人物の年表みたいのを書いて、それをさかのぼってるだけだから、初めから決まってる部分はガッチリあるんです。ただ、細かな色付けは結構その場その場でつけてて、たまに面白いアイデアが浮かんじゃうわけですよ。そうすると「どうする? これやっちゃうと後戻りできないけど、でも面白いよね」なんてやりとりを編集さんとしたりしています。もちろん「面白いのはやらないとダメだよね」って話になるから、ストーリーの事実関係が壊れないように、全部をいじくり回したりしますね。自分でもたまにわけわかんなくなっちゃうんだけど(笑)。

左から:suzumoku、渡辺潤

―そこは編集さんも含めての共同作業だと。

渡辺:漫画家なんてそもそもは一人で仕事をしたいからやってるわけだけど、結局スタッフ、編集、多くの人と関わらないと作品って作れないし、すごく助けてもらってます。もしかしたら、ミュージシャンも同じかもしれないね。

suzumoku:そうですね。バンドアレンジをするときとか、アレンジャーさんがアイデアをくれるとすごく面白くて。“モンタージュ”の歌詞も、一番最初に書いた段階だと、メロとサビが逆だったんです。歌詞を一緒に考えてくれる方が、「一番言いたいところって、もしかしてここ?」って指したところが、今のサビの<最低まで転げ落ちたら 有名になるの?>ってところで。最初は曲の頭にあったんですけど。

渡辺:僕も似たようなことを毎週のようにやってますよ。自分だと凝り固まっちゃって俯瞰で見えなくなってるところを、編集さんが「これとこれ逆にしたらどうですか?」って指摘してくれる。そうすると、自分だけで作ったら絶対出てこないものになったりして、「こんなの俺作ったんだ?」って思ったり。それを覚えると、それが自分の引き出しにもなりますしね。

そもそも人を殺すことがなぜいけないのかとか、究極なところまで考えだしちゃって、「危ない、危ない」って思うんですけど。(suzumoku)

―“モンタージュ”の歌詞はどのように思い浮かんだのですか?


suzumoku:やっぱり手配書ですね。「見つけたら110番」みたいな貼り紙があるじゃないですか? 普段何でもないものが急に気になったりする瞬間があるんですけど、犯罪の動機で「ムシャクシャしたから」っていうのが多くて、なんでそうなっちゃうんだろうって考えたり。一方で、東京に出て、気づいたら今の生活を維持することに精一杯な自分がいて、メディアが急に持ち上げて有名になったような人を見ると、羨ましくも悔しくもなる。そうなると、犯罪をして有名になることは別に罪ではないとか、そもそも人を殺すことがなぜいけないのかとか、究極なところまで考えだしちゃって、「危ない、危ない」って思うんですけど。

渡辺:そういう曲をシングルにするってすごいよね(笑)。でも、共感する人はたくさんいると思います。自分の道をどう広げていったらいいのかって戦ってる人は、似たようなことをみんな感じてると思う。まったく同じではなくても、そういう危うさって人間必ず持ってると思うから、そういうのを突き付けるのが上手いよね。聴いてる方も苦しくなっちゃうぐらい。

―確かに、そういうパワーがありますよね。

渡辺:すごく感じるのは、諸刃の剣っていうか、一歩間違うと自分すら傷つけちゃう危うさがある。それって作ってて苦しいと思う。もうちょっとオシャレな言葉を乗っけて、そこそこ売れて、チヤホヤされれば気持ち良かったりするじゃない? でもsuzumokuくんはそうじゃないし、逃げない強さ、もしくは不器用さも含めて、もしかしたら今の時代、そういう表現を求めてる人は増えてるかもしれないなって。

―漫画でもそういう表現が求められていると言えますか?

渡辺:今って読者も目が肥えてて、中途半端な「こうしたら受けるだろう」っていうのは見抜かれてると思う。かっこ悪かろうが何だろうが、本気じゃないと響かないっていうかね。「渡辺潤、この歳でこんなことぐらいしか考えられないのか」とかって言われたりしても、本気で思ってるなら伝えていくしかない。そうすれば、伝わる人にはきっと伝わると思ってやってます。

suzumoku:自分が考えてることの中で、人に知られたくないと思ってるものが、みんなの知りたがってることなのかなって思うんです。友達に1人そういうところをすぐについてくるやつがいて、他の人に自分のつかれたくないところを言いふらされるのって嫌なんですけど、でもどこか楽になるんですよね。だから、自分が迷ってることとかも、ホントは人に言いたいんだろうなって。同情してほしいわけじゃないけど、知ってもらいたい。冗談っぽくでも痛いところつかれると、「やめろよ」って思うんだけど、気づいたら笑えるようになってたりして。

suzumoku

―わかります。コンプレックスとかも隠せば隠すほど、傷口が広がりますもんね。

suzumoku:そういうおおっぴらにはしゃべりたくないんだけど、でも知ってほしいことっていうのを、僕は人に話すんじゃなくて、歌にぶつけることで区切りがつけられるっていうのはありますね。歌う度にフラッシュバックしてつらくなるときもあるけど、その度に糧にもなるし。

渡辺:僕らのもの作りはその強さがあるんですよね。普通の人だったらただの失敗やトラウマでも、それをネタにできる、「ただじゃ転ばないぞ」みたいなね。その代わり、自分の恥ずかしいものを人に見せないといけないわけだから、どっかMじゃないとできないかもしれない(笑)。

―もの作りする人はMが多いかもしれないと(笑)。

渡辺:やっぱり恥ずかしいですよ、真剣に描いたものを人に見せるっていうのは。自分が見透かされちゃう気がして。大人になればもっと上手な生き方をすると思ってたんですけど、どんどん不器用になって、でもハードルは上がって、全然そこにたどり着いてない自分がいて、「俺20代のときと変わってないな」って思ったりもするんです。でも、そんな俺も嘘じゃないから、カッコつけてもしょうがないなっていうのが、作品を作るっていうことなのかな。

ギターが1本あって、自分に対して素直な言葉で歌う、そういう一番コアな部分は、支柱にしてやっていきたいと思います。(suzumoku)

―suzumokuくんが40代になった頃にどんなことを歌ってるのかも気になりますね。

suzumoku:なんだかんだでギターが常にある生活をしてるとは思いますけどね。

渡辺:かっこいいね、そう言えるっていうのは。僕ずっと描き続けるってあんまり言いたくない(笑)。

suzumoku:そうなんですか?

渡辺:やっぱり苦しいからね。生活とか仕事としての焦りも当然あるし、せっかく漫画を描いて載っけてもらえる立場にあるんだから、ホントに自分が描きたいことって何だろうって常に考えるし。しかも、描ける本数は限られてるから、どうチョイスしていくのかとかね。「今これが描きたい」と思っても、数年後にどう思ってるかはわからないから、決めつけないようにはしつつ、ホントに描きたいと思ったもの、描くべきだと思ったものを描くようにしていきたいとは思ってます。

―それは苦しい作業でもあり、同時にとてもやりがいのあることですよね。

渡辺:逆に、描きたいものがはっきりしてるときは、「今何が受けてるのか」とか、フワフワしたものを取り入れるようにしてるんです。ただ真面目なだけでも、みんな読んでくれなきゃしょうがないので、なるべくかわいい女の子を描けるように努力したり、「萌えって何だ?」って調べてみたりね。ホントはそういうの苦手なんだけど(笑)。でも、そういうことのすべてが、ホントに描きたいことを多くの人に見せるためのいろんな手法のひとつなんだって思うようになりました。そうやって熱く思えてるうちは、漫画を描き続けてるでしょうね。

suzumoku:僕も「こうでなくちゃいけない」っていう決めつけはせずに、でも自分の持ってる最小限の部分っていうか、ギターが1本あって、自分に対して素直な言葉で歌う、そういう一番コアな部分は、支柱にしてやっていきたいと思います。

―やっぱり、「自分が本当にやりたいことは何か」っていう、そこが一番重要ですよね。

渡辺:でもね、それを見失うときもあるんですよ(笑)。そのときにどうするのかっていうのもかなり重要で、そういうときは友人だったり、周りの人が支えになってくれたりしますね。

suzumoku:それこそ地元にいたときから一緒にストリートでやってた友達のライブにたまに行ったりすると、ホントに刺激になって、今でも一番のライバルです。「悩んだら、あいつのライブを見に行こう」って、そう思えるのはすごくありがたいですね。

イベント情報
『「生声弾語りSolo Live」 aim into the sun 〜day to day〜』

2013年5月15日(水)
会場:岩手県 盛岡 Bar Cafe the S

2013年5月17日(金)
会場:宮城県 仙台 SENDAI KOFFEE CO.

2013年5月18日(土)
会場:栃木県 宇都宮 マツガミネコーヒービルヂング

2013年5月19日(日)
会場:福島県 矢吹町 ヤブキヤサカエ

2013年5月23日(木)
会場:千葉県 千葉 cafe STAND

2013年5月26日(日)
会場:神奈川県 鎌倉 COBAKABA

2013年6月1日(土)、6月2日(日)
会場:沖縄県 那覇 さんご座キッチン

料金:全公演 前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)

『SHIMOKITAZAWA SOUND CRUISING Vol.2』

[DAYTIME]2013年5月25日(土)OPEN 16:00 / START 17:00
[NIGHT TIME]2013年5月25日(土)OPEN / START 23:00
会場:東京都 下北沢周辺(以下同)
GARDEN、SHELTER、DAISY BAR、ReG、
BASEMENT BAR、THREE、ERA、FEVER、ReG Café、MOSAiC、富士見丘教会、風知空知、altoto、MOREほか
料金:DAYTIME前売3,800円 NIGHTTIME前売3,500円 DAY/NIGHT通し券6,000円(全てドリンク別)

『WA WORLD APART MOVEMENT -EXTRA STAGE-』

2013年6月19日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 下北沢CLUB Que
出演:
suzumoku
MONSTER大陸
Nemotroubolter
料金:前売2,800円 当日3,300円(共にドリンク別)

2013年6月22日(土)
会場:大阪府 シャングリラ梅田
出演:
suzumoku
MONSTER大陸
Nemotroubolter
料金:前売3,500円 当日4,000円(共にドリンク別)

『僕らのささやかフェスvol.4』

2013年7月7日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:静岡県 富士吉原 cafe sofarii
出演:
ノグチサトシ
安部たかのり
ゲスト:suzumoku
料金:2,500円(2ドリンク付、限定50枚)

『JOIN ALIVE』

2013年7月20日(土)OPEN 9:00 / START 11:00
2013年7月21日(日)OPEN 9:00 / START 11:00
2013年7月27日(土)OPEN 9:00 / START 11:00
2013年7月28日(日)OPEN 9:00 / START 11:00
会場:北海道 岩見沢 いわみざわ公園
※suzumokuの出演日は7月27日

リリース情報
『モンタージュ(11)』

2013年4月5日発売
著者:渡辺潤
価格:580円(税込)
発行:講談社

suzumoku
『キュビスム』初回限定盤(CD+DVD)

2013年3月27日発売
価格:3,000円(税込)
APPR-3007/3008

1. モンタージュ
2. 蛹―サナギ―
3. ノイズ
4. 鴉が鳴くから
5. メンドクセーナ
6. 平々−ヘイヘイ−
7. ブルーブルー
8. どうした日本
9. 真面目な人
10. 真夜中の駐車場
11. 僕らは人間だ
12. リエラ
[DVD収録内容]
・モンタージュ
・リエラ
・真夜中の駐車場
・蛹―サナギ―
・真面目な人

プロフィール
suzumoku

静岡県出身のシンガーソングライター。楽器製作の専門学校で、ギターやベースの制作を行いつつ、自身もさまざまなジャンルの音楽に影響を受けた音楽を制作。2007年10月にアルバム「コンセント」でデビュー。音楽と文章における感性、一貫したメッセージ性には定評がある。2013年3月に自身初のフルアルバム「キュビスム」をリリースし、2度目となる全国47都道府県生声弾き語りツアーを慣行するなど、精力的に活動中。

渡辺潤

漫画家。三億円事件が起きた日、1968年12月10日生まれ。そのことから三億円事件に興味を持ち、事件を題材にしたクライムサスペンス『モンタージュ』を2010年からヤングマガジンにて執筆。常時ヤングマガジン本誌にてTOP5の人気を誇る。他にも、単行本累計2400万部突破したヤクザ漫画の金字塔『代紋(エンブレム)TAKE2』(原作/木内一雅、全62巻)、リアルボクシング漫画『RRR(ロックンロールリッキー)』(全10巻)を執筆。



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