おおたえみりが、初のミニアルバム『ルネッサンス』を完成させた。昨年のデビュー以来、息を呑むようなそのライブを一目観た人を中心に、波紋のように存在が知れ渡ってきた彼女。ピアノの前に座り、ひとたび歌いはじめると、その場の空気をまるごと塗り替えるような瞬間を生み出す。まるで音楽そのものと一体化したようなパフォーマンスを見せてきた彼女が、いよいよその規格外の才能を形にしたような一枚になっている。
セルフプロデュースの3曲に加え、赤い公園の津野米咲(Gt)と藤本ひかり(Ba)、女王蜂のルリちゃん(Dr)という同世代の女性ミュージシャンとのセッションによるレコーディングを敢行した“月のレヴェル”や、小西康陽のプロデュースによる“うでの毛”“舟の人”、池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)がアレンジを手がけた“カーテン”など、幅広いゲストやプロデューサー陣が彼女の世界観を支える今作。これまで以上にカラフルで、楽しく、危うい一枚になっている。ちなみに、アルバムのコンセプトはアートワークに至るまで本人の意志によるもので、そのキーワードとなるのが「三重構造」なのだとか。
今回が2度目のインタビュー。作品について、自分自身について、フランクに、とても饒舌に語ってくれた。その話しぶりから強く感じたのは、彼女自身の変化。前に会ったときに比べても格段に明るくなった! という印象だった。ピンと張り詰めたような空気をまとっていたデビュー作『セカイの皆さんへ』の頃とはずいぶん変わったけれど、きっと、緊張が解けたこちらのほうが、本来の姿なのだろう。「三重構造」というのは、単なるアルバムのコンセプトというより、彼女自身のアーティストとしてのあり方を示すキーワードで、それを見出したからこそ、彼女も自身の音楽世界を伸び伸びと形にするようになってきたのだと思う。
そのステージを目撃した沢山の人が「天才」と声を揃えるおおたえみり。僕もそう思うし、その音楽が持つ未知の面白さが、より広く伝わってほしいと願う。
CINRA.NET > 次元の違う場所に行くために おおたえみりインタビュー
私は自分が全部の責任を持つ音楽をやりたかった。
―まず、去年のデビューからDVD+CDの3作をリリースしてきて、ミニアルバムを作るにあたってはどういうところからスタートしたんでしょう。
おおた:これまではピアノ弾き語りが中心だったので、次はアクションのあるものを作ろうって思いました。そうではないと言う人もいるんですけれど、私としてはピアノの弾き語りって、けっこう地味だと思うので。それで、もっといろいろな音をつけたいと思って、今回のミニアルバムになりました。
―これまでは基本的にピアノ弾き語りというスタイルでやってきたわけですけれど、それだけでやっていくつもりではもともとなかった?
おおた:もともとひとりぼっちだったから、弾き語りしかできなかったんですよね。で、バンドするにしても戦いたくなかったから、やむを得ずひとりだった。そういう感じで私はやってきたから、それがいいって言われるのは昔からずっと意外だったんです。
―そうなんですね。やむを得ずだったんだ。
おおた:そうなんです。
―バンドをやると戦いになってしまうというのは? たとえば、どういう戦い?
おおた:遅刻したら罰金とか(笑)。
―ははは!
おおた:まあ、いろいろあるじゃないですか。バンドは人同士の関係で育ったり、枯れたりするものなので。でも、私は自分が全部の責任を持つ音楽をやりたかったんです。
―100パーセント自分の音楽をしたいけれど、鳴ってる音としてはピアノだけじゃなくて、いろんな音色が欲しかった。
おおた:そうですね。そういうことをやってみたかったんです。
―僕、今回のミニアルバムを聴かせてもらって、最初の第一印象はすごい楽しい音楽だなって思ったんです。ワクワクするような曲もあるし、でもゾクっとするような曲もある。全体的にすごくカラフルな作品になっていると思っていて。少なくとも最初に出たDVDの映像に入ってる、あの張り詰めた緊迫感からはだいぶ変わってきている。
おおた:うん。そうですね。
―そういうことも踏まえて、今回、『ルネッサンス』というミニアルバムを作るにあたって、こういう1枚にしようとか、コンセプトみたいなものを考えてました?
おおた:ブックレットの最後のページに「わたしと、ワタシと、それから私、みんなちがって、みんないい」という金子みすヾさんの詩のオマージュがあって、それが中心的なコンセプトになってるんです。ひらがなの「わたし」は歌っているわたしで、日常を暮らしている私が漢字の「私」。それからスタッフのみんなの力を合わせたのが、カタカナの「ワタシ」。その三重構造があって、それが「みんなちがって、みんないい」って私はほんとに思っていたので。そういうことが、聴いて楽しいっていう感触に繋がったのかもしれないですね。
- 次のページへ
女子校にいるみたいでした。
スイッチを切り替える感覚になる。
―ひらがなの「わたし」っていうのは、ステージに立っているおおたえみり、アーティストとしてのおおたえみりっていうこと?
おおた:はい。そうですね。
―で、漢字の「私」っていうのは、どっちかっていうと家で洗濯してたりご飯食べてたりするときの日常の自分。
おおた:はい。
―カタカナの「ワタシ」っていうのは、そのどちらでもない?
おおた:カタカナの「ワタシ」は、アレンジしてくれる方だったり、一緒に音楽を鳴らしてくれる人だったり、あとスタッフの人たちだったり、そういう人たちの力のことだと思っていて。そういう三重構造なのです。
―なるほど。そういう風に考えることによって、自分が音楽を作ったり、歌ったり、ピアノを弾いたりすること、そういう自分自身って何だろう? みたいなことがクリアになってきた感じってありました?
おおた:ありますね。スイッチを切り替える感覚になるんですよ。たとえばメールをしてるときは漢字の「私」であるとか、ピアノを弾いてるときはひらがなの「わたし」だな、とか。この人と喋ってるときはカタカナの「ワタシ」だな、とか。そんな風にして分別をつけるというか、自分のスイッチを切り替えてるんです。
―“踊り子”っていう曲にも<踊りながら踊らせてる 三重構造>という歌詞が出てきますよね。
おおた:この曲って、踊り子の人が「みんな踊れ!」って言って、踊りながらお客さんを踊らせながら、実はボスみたいな人に指示されて踊らされてるっていう三重構造なんです。説明するのは難しいんですけど(笑)。
―ステージの上では沢山のお客さんに「踊れ!」って言って踊らせているんだけど、実は踊り子自身も踊らされている。
おおた:そう。だから操り人形になってるんですね、踊り子は。
―今回はブックレットのデザインやアートワークも自分で案を出して作っていったということですけれど、やっぱりこの三重構造というコンセプトがキーになっているんですか?
おおた:そうですね。最初はカメラマンの人に考えてもらったんです。たとえば、カメラを持って写真に映ったらそれっぽいね、とか。あとは落書きをして持ってきて、それを後ろに貼ったり、破っていくっていうアイデアもあって。どんどん紙を破って、最後めちゃくちゃになって倒れて。で、それを撮った写真をまた破った感じにレイアウトするデザインを考えてもらって。
―今回は歌詞も手書きで書かれてますけれど。
おおた:そうそう、この文字も3種類のペンで書いてるんです。それも三重構造なんです。
―ちゃんと意味が通ってますよね。単なる思いつきじゃなくて。こうやってビジュアル面も自分で考えたことの手応えとか満足感は大きい?
おおた:うん。これだったら商品として、すごくいいものだと思います。凝ってるんで、これは買わなきゃって感じですよね(笑)。
女子校にいるみたいでした。
―それぞれの曲についてもお話を聞いていければと思うんですけど。まず“月のレヴェル”、これは赤い公園の津野米咲さんと藤本さんと、女王蜂のルリちゃんとやってみてどうでした?
おおた:楽しかったですよ。
―同年代の女性アーティストと一緒に一発録りのレコーディングをする機会はなかなかなかったんじゃないかと思うんですが、気が合うところとかありました?
おおた:うん、女の子同士なんで、女子校にいるみたいでした。喋ってるうちに、いろいろ変なバージョンを録ってみようっていう話になって。「セクシーバージョン」と「死ぬ気バージョン」っていうのを録りました(笑)。
―あはは、それはすごい。完成形はそれに比べると何バージョン?
おおた:これは当日にアレンジを変えたんですよ。だから、なんでしょうね……「その日暮らしバージョン」(笑)。
―はははは! じゃあ、いろんな思いつきとアイデアが広がったレコーディングだった、と。
おおた:そうなんですね。あの日はすごく余裕があったんですよね。だから良かった。
―“ぼっちはハイ”はすごくハイテンションだし、ハッピーだし、でもどこかゾクっとするような曲ですけれども。これはどういう風にして作っていったんでしょう?
おおた:この曲は、ある人とバンドがしたくて作った曲なんです。その夢は叶わなかったんですけど、それでもいい曲だから入れようってなって。この曲は最初、「大丈夫か? これ」みたいに思われてたんですけど、もっとサイケデリックでハイな感じにしたかったから、当日「変な音作ってください」ってお願いしまくって、そしたらすごく良くなったんですよ。だから奇跡ですね。あと、この曲、私が「ひゅー!」とか「かっとばせー!」って言ってるのが耳をこらすと聴こえるんですよ。それが聴き所です。
―この曲、プツっていきなり終わるじゃないですか。そこもすごくよかったです。
おおた:ほんとですか? 最初はフェードアウトにする予定だったんです。でも、位置がなかなか決められなかったんで、とりあえず切ったものを聴いたんですよね。それがすごい良かったから、こうなりました。これはフェチの世界ですね(笑)。
―“舟の人”は小西康陽さんのプロデュースですが、もともとの曲がどう変わった印象ですか?
おおた:ほとんど変わらなかったんですよね。変わらないっていうか、たぶんニュアンスをすごく大事にされていたんだと思います。この曲、一発録りなんです。で、ブースが離れてるからお互いが見えなくて、なかなか合わないんですよ。でも、それがいい! っていう。またフェチな世界です(笑)。
―うんうん(笑)。
おおた:これは2テイク目で、3テイク目はちょっと合ったんですよ。でもさっきのほうが良かったって言って。私も気に入ってるんです。
「ルネッサンス」はいわく付きの曲。演奏してると体調がおかしくなるんです。
―そして、“踊り子”。この曲はアルバムのコンセプトの象徴的な曲でもあるわけですが、これはどういう風に録っていったんでしょう?
おおた:この曲はアレンジがすごい凝ってるんですよ。神戸のフラメンコスタジオに行って、フラメンコダンサーの人に足踏みやってもらって、掛け声も入れてもらったんです。あと、実はカタカナの「ワタシ」、つまりスタッフの「ワタシ」がコーラスしてるんです。曲の後半、3回し目に低い声で入ってるんですよね。
―“うでの毛”は“舟の人”と同じく小西さんがプロデュースですけれども。
おおた:この曲は私がドラムを叩いたんです。小西さんがベースで、トロンボーン以外は全部私と小西さんで作りました。私のドラムが下手すぎて大騒動だったんですけど(笑)。
―“ルネッサンス”はどうですか? 今回のミニアルバムの表題曲になっていますけれども。
おおた:この曲はすごく古い曲で、いわく付きの曲なんです。
―いわく付き?
おおた:この曲を演奏してると体調がおかしくなるんです。
―ええ!? それはまたどうして?
おおた:ふふふ、言えません。
―歌詞にも塗りつぶされてる箇所がありますよね。
おおた:それはこの『ルネッサンス』に入れるとなったときに消されたんです。
―この曲のアルバムにおける位置付けというか役割ってどういうものだと思いますか。
おおた:この曲は、私が一番やりたいことをやっていいっていう位置付けだったんです。だから、最初は、なんかもう「うわーっ!」てなってる感じだったのが、奇跡的に完成したみたいな感じ。宝物みたいな曲ですね。
―前の取材でも「次元の違うパワーを音楽にする」っていうことを言われていましたよね。この曲はそういうものの象徴として感じました。
おおた:そうなんですね……(と、突然外で雷が鳴り、ゲリラ豪雨に)。……ね? いわく付きの曲なんですよ、これ(笑)。
―なるほど、わかりました(笑)。で、最後の“カーテン”。この曲は、どういう風にしてできた曲でしょうか。
おおた:ええと、これはものすごい初期だったんで……いつだろう? 15歳ぐらいじゃないですかね。カーテンが明るいっていうイメージから、いろんな苦悩を集めてきて、歌にしたものです。
―この曲が7曲の中で最後に置かれているのは?
おおた:これはもう、最後しかなかったですね。
―ぴったりとそこに必然的に収まったっていう感じ。
おおた:うん。
―なるほど。お話を聞いていると、今回の作品はすごくセルフプロデュースの意識が強くなっているんだなということがわかった気がします。ミュージシャンとしての自分、クリエイターとしての自分という意識が強くなったというか。
おおた:そうですね。このアルバムを作るにあたっては、そういう意識はすごくありました。で、セルフプロデュースっていうのが、ひらがなの「わたし」と漢字の「私」の関係でもあるんですよ。で、アルバムにはカタカナの「ワタシ」も関わっていて。やっぱり三重構造なんです。
―で、そういうことがパッケージとしての面白さにもつながっているという。すごくこだわって作られたアルバムなんだなって。
おおた:そうですね。ブックレットも頑張ったし、音もすごいこだわって頑張ったし。ほんとに自信作です。買わなきゃね(笑)。
- リリース情報
-
- おおたえみり
『ルネッサンス』(CD -
2013年8月28日発売
価格:2,100円(税込)
cutting edge / CTCR-147481. 月のレヴェル
2. ぼっちはハイ
3. 舟の人
4. 踊り子
5. うでの毛
6. ルネッサンス
7. カーテン
- おおたえみり
-
- おおたえみり
『ルネッサンス』 -
2013年8月28日からiTunes Storeで配信リリース
価格:1,350円(税込)1. 月のレヴェル
2. ぼっちはハイ
3. 舟の人
4. 踊り子
5. うでの毛
6. ルネッサンス
7. カーテン
- プロフィール
-
- おおたえみり
-
幼少の頃からピアノに親しみ、小学4年生の頃から曲作りを始める。2007年、The1st Music Revolution JAPAN FINALにおいて、創作初期の楽曲「情の苗」にてグランプリを受賞。翌年から、地元のライブハウスにて弾語りのマンスリーライブをスタート、その後関西を中心に定期的にライブ活動を行う。併行して、オリジナル楽曲の制作・レコーディングを行い、ライブラリーは150曲を超え、現在も増え続けている。既存の概念や枠に捉われない、全く新しいタイプのアーティスト=音楽芸術家として、2012年8月1日、cutting edgeよりDVD&CD「セカイの皆さんへ/集合体」にてメジャーデビュー。2013年8月、初のミニアルバム『ルネッサンス』を発表。
- おおたえみり
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-
Special Feature
Crossing??
CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?