照れ屋の勝負師たち TOKYO No.1 SOUL SETインタビュー

2010年にデビュー20周年を迎え、その後もカバーコラボアルバム『全て光』や、オリジナルアルバム『Grinding Sound』と、コンスタントにリリースを続けてきたTOKYO No.1 SOUL SETから、早くも新作『try∴angle』が到着した。砂原良徳がアレンジで参加した話題曲“One day”をはじめとした全11曲は、当然のようにジャンル分け不要な、ソウルセットならではのミクスチャー感覚に溢れたものばかり。大人の遊び心と余裕を、今回もまたこれでもかと見せつけてくれている。『try∴angle』というアルバムタイトルに加え、“Stand Up”や“この世界に、”といった曲タイトルからは、一見すると強いメッセージ性が感じられ、僕は肩肘張って取材現場へと赴いたのだが、そこにいたのはあくまで自然体の三人。しかし、「ここからが勝負なんじゃないかと思う」という渡辺俊美の発言が象徴するように、一人ひとりが内側に秘めた情熱も確かに感じられる取材となった。

僕らの“Stand Up”っていうのは、もうちょっと自分に対してというか、よりミニマムな、身近なもののような気がしますけどね。(渡辺)

―今回の『try∴angle』というアルバムタイトルは、とても象徴的なタイトルだと思いました。「トライアングル」という意味では、20周年イヤーの様々な活動を経て、改めて三人であることを見直したように受け取れるし、「トライ」と「アングル」に分けて考えると、「今こそ新しい視点が必要だ」というメッセージにも受け取れます。実際、このタイトルはどのような想いでつけたのでしょうか?

渡辺(Vo&Gt):これはBIKKEさんが……。

BIKKE(Vo):今おっしゃられた通りです!

渡辺:終わっちゃった(笑)。

BIKKE:まあ、改めて伝えたい強い想いとかはあんまりないんです。「耳に残るタイトルがいいな」っていうのがあったぐらいで。

BIKKE
BIKKE

―でも、すごく2013年の時代感を表していると思って、例えば、THEATRE BROOKの佐藤タイジさんはソウルセットのみなさんと同世代かと思うんですけど、「今こそ行動しなければいけない」という思いを持って、『THE SOLAR BUDOKAN』(太陽発電のみを利用した公演)というイベントをされていますよね。今回のソウルセットのアルバムも、1曲目が“Stand Up”だし、佐藤さんとどこか似たような想いがあるのではないかと思ったのですが。

渡辺:僕個人で言えば、確かに「もうそろそろ立ち上がってもいいんじゃねえの?」っていう気はしますね。一昨年あれ程のことがあったのに、ずっと停滞してるというか、むしろ「また戻っちゃったな」みたいなところもあるので。ただ、それを行動で示すか、内に秘めるかっていうスタンスの違いはあって、僕らの“Stand Up”っていうのは、もうちょっと自分に対してというか、よりミニマムな、身近なもののような気がしますけどね。

渡辺俊美
渡辺俊美

―旗を振って呼びかけるようなことではないと。BIKKEさんはなぜ「Stand Up」という言葉を使われたのですか?

BIKKE:わりと漠然としてるんですよね。基本的には音に合わせて言葉を持ってきてるので、“Stand Up”にしても、まずメロディーがあって、「ここにどんな言葉を入れたらいいのかな?」って考えたときに、「Stand Up」っていう言葉が出てきただけで。今までの人生の中でそんなに大きなことを考えたことはなくて、外に向けて書いてるというよりは、もっと個人的な、自分に向けてるような感じなんじゃないかな。

渡辺:だから、そこまでメッセージ的なものはないですね。三人ともそれぞれいろいろな想いがあると思うんですけど、ソウルセットとしてやる上では、ただ「いいアルバムを作ろう」とかしか考えてないんです。でも、そうやって何らかの意味を受け取ってくれるのは、それはそれで嬉しいですよ(笑)。

最初は何も見えてないんですけど、できることは限られてるので、今やれることをやっていくと自然と形ができていく。(川辺)

―では、実際にはアルバム制作に向けて、何かしらの青写真はあったのでしょうか?

渡辺:(川辺)ヒロシくんがトラックを作った時点で、「今回こういう感じか」ってわかるというか。あと今回BIKKEには、「暗い歌詞よろしく」って話しました(笑)。それも特別な意図があったわけじゃなくて、「いつものままでいいよ」って、念を押したっていうことなんですけど。

―BIKKEさんはその言葉を受けて、何か意識はされましたか?

BIKKE:1回聞いちゃったから、脳裏にはあったと思うけど、それを強く意識したりはしなかったですね。「これ明るくしちゃったから修正しなきゃ」とか、そういうことはなかったです(笑)。それよりも、まずはやっぱりトラックありきだったので。

―川辺さんは今作のトラックを作っていくにあたって、何か方向性はありましたか?

川辺(DJ):いつもそうなんですけど、特に目指す方向みたいなものはなくて。最初は何も見えてないんですけど、できることは限られてるので、今やれることをやっていくと自然と形ができていくというか。

川辺ヒロシ
川辺ヒロシ

―例えば、「この1曲ができて、アルバムの全体像が見えた」みたいな曲はあったりしますか?

川辺:そういうのも特にないかなあ……。全曲わりと同時進行で進んでいって、最後にガラッと変わったりもするんですよ。例えば、“あの日の蜃気楼”は、あんなにロックな曲になるとは思ってなくて。もともとサントラみたいな曲を作ってたはずなんですけど、気づいたらすごくでかい曲になってて、びっくりしました(笑)。

―そういうときって、何をきっかけに変化していくのでしょう?

川辺:(渡辺)俊美くんじゃないですか? コミュニケーションを密に取ってないと、こういうことになるっていう(笑)。

渡辺:俺が勝手に暴走しちゃいました(笑)。

川辺:でも、「こんなことになるんだ!」っていうのがすごく面白いと思って。確か、これは結構早い時点でトラックもラップもあったんですけど、1年ぐらい経ってから、ガラッと変わったんです。

渡辺:もうちょっとパンチが欲しいかなって(笑)。さっきも言ったように、同時進行で曲を作っていって、アルバムの全体像が見えてくると、「ここが足りないな」っていうのが見えてくるので、それを埋めていく感じなんですよね。トラックとラップだけでも十分成り立っていたんですけど、僕は生楽器を入れられるから、やってみたら面白くなったっていう。「普通はここにディストーションのギター入れねえだろう」みたいな、そういう発想です。

左から:BIKKE、川辺ヒロシ、渡辺俊美

―そのミックス感は、ソウルセットの真骨頂ですもんね。

渡辺:そうですね、そこは楽しくやってます。まあ、三人揃ってやる作業ってそんなにないから、「そういえば、あれやってくれって言われてた」って思い出して、バーッとやることもありますけどね(笑)。

―“Slope up”も独特な音色の楽器が使われていて、面白い曲ですよね。

川辺:あれはハンマーダルシマーっていう楽器なんですけど、ゲストの人にフリーで弾いてもらったので、曲にするのが結構大変で(笑)。でも、俊美くんのコーラスが入り、BIKKEのラップが入り、どんどん形になっていきましたね。

渡辺:たまたま僕が『風とロック』のイベントで広島に行ったときに、ストリートミュージシャンの子がその楽器を演奏してて、それが面白かったから、「一緒にやらない?」って声をかけて、そのイベントでリハーサルもなしのぶっつけ本番で一緒にやったんです。普通何百人もの前でいきなりやるのって怖いと思うんですけど、彼は『BLUE MAN』とかでもやってた子で、度胸があったんですよね。それで福島にも一緒に行って、広島に帰る途中でレコーディングをしました。この曲にしても、もともとは音色とビートだけで楽曲的には十分だったんですけど、「メロディーも入れてみようかな?」ってやってるうちに、「あ、フジロック見えてきたぞ」みたいな感じになっていったんです(笑)。

「音楽に乗る言葉はもっと原始的なものなんじゃないか」と感じた瞬間があったんですよね。(BIKKE)

―BIKKEさんの歌詞について、「そのままでいい」という意味で、「暗い歌詞」というリクエストが俊美さんからあったそうですが、一般的なヒップホップのリリックとは異なる、自分を前面に押し出すタイプではないBIKKEさんの作風がどのように形成されていったのか、改めてお伺いしたいのですが。

BIKKE:僕はあんまり周りと自分を比較したりはしないんですけど、スチャダラパーと仲がよかったので、「スチャとは違うの」っていうのだけは思ってましたね。でも、ホントにそれだけでやり続けてたら、こんなになっちゃった(笑)。あとは……昔は若干詩人気取りだったんですかね(笑)。「俺はミュージシャンじゃない、詩を書く人間だ」って思ってたような気がします。

―実際、BIKKEさんの書く言葉は徐々にストレートになってきた印象がありますが、どこかで転機があったのでしょうか?

BIKKE:「俺そんなに文学とか好きじゃねえや」って、どこかで思ったんでしょうね。なんていうか、言葉の人には言葉のルールがあるような気がしたんですよ。結局どんな文章にしても、「こうでこうだからこうなる」っていうふうに論理的に組み立てられているというか、例え最後でガラッと展開するような驚きのある文章でさえも、「こういう振りがあるからこうなる」みたいなロジックを踏まえた上で書いてるというか。一応僕も昔はそういうのを考えてた気がするんですけど、ある日「音楽に乗る言葉はもっと原始的なものなんじゃないか」と感じた瞬間があったんですよね。

―ただの言葉ではなく、「音楽に乗る言葉」として考えたときに、発想の転換があったと。

BIKKE:もっと細かく書きたかったら、小説のようなもので言葉だけを書けばいいと思うんだけど、僕が興味あるのは音楽に乗る言葉であって、言葉だけのものには興味がなかったんですよね。「長くて読むの嫌だな」って思っちゃう(笑)。

BIKKE

渡辺:三人ともそうなんですけど、すごく照れ屋なので、そういうところも歌詞に出てたのかなって思いますね。でも、僕もソロで歌詞を書くからわかるんですけど、ストレートな、わかりやすい言葉のほうが書きやすいんですよね。だから、さっきの「暗く」っていうのも、「そのまま出していいんだよ」っていうことを念押ししたというか。

―その「みんな照れ屋」っていう共通の温度感というか、そういうところがこの三人で長くやって来れた秘訣だったりもするのでしょうか?

渡辺:そうだと思いますね。そこが合ったから、長くやって来れたんじゃないかな。これで、ずる剥けの人がいたら大変なことになりますよね。まあ、昔ずる剥けなのが一人いて辞めちゃいましたけど(笑)。

川辺:ライブが終わった後につかみ合いの喧嘩をしたこととかはないよね(笑)。打ち上げで「あそこはこうだった」みたいな反省会をしたこともないし、ライブの前に手を合わせて、「やるぞ!」ってやったことも1回もないですね(笑)。

―そこは性格的な部分もあるでしょうし、ライブの前に手を合わせるっていうのは、バンドカルチャーとクラブカルチャーの差かもしれませんよね。

川辺:でも、今ってラップとかレゲエの人もやってるんじゃないかな? まあ、僕らは最初からこういう温度感だったんですよね。頑張る気持ちがないわけじゃないんですけど(笑)。

意外とここからが勝負なんじゃないかと思うんですよね。(渡辺)

―ラストに収録されている“One day”についてですが、ドラマとのタイアップに合わせて歌詞を書いた部分もあるそうですが、結果的にはメンバー三人の歴史を歌っているようにも聴こえます。ただ、今日お話を聞いてきた限り、おそらくそれを特別意識したわけではないですよね?

BIKKE:意識してはなかったですね。

川辺:自分たちの歴史なんて考えたことないですね(笑)。20周年っていうのも、自分たちから言ってたわけじゃないし、昔を懐かしむこともめったにないですからね。

渡辺:インタビューとかで聞かれたら答えますけど、三人でいてそういう話をすることはないですね。こういった場じゃないと話さないかなあ。

―聴き手が思い入れを持って聴くと、そう聴こえるっていうことですよね。

川辺:そう、だからそう聴いてもらえること自体は嬉しくて、こういうインタビューで「特に意識してないです」とか言っちゃうと、逆効果なんじゃないかって思うよね(笑)。

BIKKE:例えば、洋服を作る人にもいろいろいて、きっちりデザインして、型紙を作って縫っていく人もいれば、ハンドフリーで縫っていって、最終的に洋服の形にする人もいますよね。それで言えばうちらは後者で、最初から何かを意識してるわけじゃなくて、「ここまでできたけど、次どうする?」って作っていく感じなんですよね。

川辺:設計図なんて描けないですし、設計図に寄せていく力もないですから(笑)。それに俺が設計図を作ったとしても、面白くないですよ。それよりも、何もわからず進んで行って、だんだんすごい形のものができていくみたいなほうが、やりやすいし、モチベーションも保てるんです。

川辺ヒロシ

渡辺:きっと僕らにだけわかる絵コンテがあるんですよ(笑)。

―「常に新しいものを作っていきたい」とか「同じところにはとどまっていられない」みたいな感覚もあるのかなって思うのですが、いかがですか?

川辺:僕個人ではそういう部分もありますけど、ソウルセットをそういうふうにしたいとは全然思ってなくて。と言うか、そう思ってもその通りにはならないですし、参考になるバンドももういないですしね(笑)。

渡辺:これはずっと言ってますけど、BIKKEの歌詞の世界観と、ヒロシくんのトラックの世界観があれば、それでいいんじゃねえかってホントに思ってるんですよ。自分はそこにプラスアルファを入れる立ち位置というか、あんまり出しゃばり過ぎるとダメなのもわかってるし(笑)。BIKKEが一番かっこよく見えるのがソウルセットの一番いい形で、それが新しいか古いかっていうジャッジは、僕の周りで誰よりも音楽を聴いてるヒロシくんのことを信じてます。仮に僕が「歌詞書きたい」とか「トラック作りたい」って思っても、それはソウルセットではあり得ないってわかってるので、自分のソロでやればいいだけですからね。

―自分の音楽欲求をソウルセットですべて満たそうとすると、ある種のフラストレーションが生まれてしまうかもしれないけど、ソウルセットはソウルセットでしかやれないことを、個人的にやりたいことはソロやそれ以外の活動でっていうふうに分けられているからこそ、いいバランスでの活動ができているのかもしれないですね。

渡辺:そうですね。だから、今ソウルセットとして考えているのは、「どうやったら長く続けて行けるかな?」っていうことぐらいです。意外とここからが勝負なんじゃないかと思うんですよね。いいライブをすればお客さんが来てくれるし、いいアルバムを作ればついてきてくれる、そういう感じがしますね。

川辺ヒロシ

―20年以上キャリアを続けられていることは、もちろん常に相当の努力あってのことだとは思うのですが、傍目から見ていると、もはや安定しているようにも見えるので、「ここからが勝負」という言葉には重みを感じます。

渡辺:僕らだけの問題じゃなくて、音楽シーン全体の問題もあると思うんです。フェスはしこたまあるし、CDは高いし、全体を見ると、ホントにここからだなって思いますよ。

―川辺さん、BIKKEさん、その辺りいかがですか?

川辺:かっこいい音楽を作り続ければいいんじゃないかと思いますね。自分がグッと来るような、お金を出して買いたいと思う音楽をね。

BIKKE:工夫して表現ができる場っていうのは、昔より多様化してると思いますし、そういう中で楽しいと思うことをやればいいんじゃないかと思います。

左から:渡辺俊美、BIKKE、川辺ヒロシ

―最初のほうで、「思ってることを表に出すか、内に秘めるか」という話もありましたが、ソウルセットはやはり内に秘めるかっこよさがありますよね。

渡辺:……出しましょうか?(笑)

―出していただけるなら、ぜひ(笑)。

渡辺:まあ、すげえベロベロに酔ったときは、「やっぱ俺たちかっこいいよな」って自分で思ったりしますよ(笑)。そういうのは持ってないとダメだなって思いますしね。

川辺:でも、この人今酒飲んじゃいけないから、やっぱりそれが表に出ることはないですけどね(笑)。

イベント情報
『try∴angle』

2013年12月29日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
出演:
TOKYO No.1 SOUL SET
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料金:4,500円(ドリンク別)

リリース情報
TOKYO No.1 SOUL SET
『try∴angle』(CD+DVD)}

2013年12月4日発売
価格:3,675円(税込)
AVCD-38862/B

1. Stand Up
2. 砂漠に降る粉雪
4. この世界に、
5. 眠れる街よ
6. 夏の面影
7. あの日の蜃気楼
8. BLENDA
9. Slope up
10. I'm So Crazy!
11. One day
※DVD収録内容は後日発表

TOKYO No.1 SOUL SET
『try∴angle』(CD)

2013年12月4日発売
価格:2,940円(税込)
AVCD-38863

1. Stand Up
2. 砂漠に降る粉雪
4. この世界に、
5. 眠れる街よ
6. 夏の面影
7. あの日の蜃気楼
8. BLENDA
9. Slope up
10. I'm So Crazy!
11. One day

プロフィール
TOKYO No.1 SOUL SET(とうきょうなんばーわんそうるせっと)

BIKKE(Vo)、渡辺俊美(Vo&Gt)、川辺ヒロシ(DJ)の三人によるトライアングル・ユニット。1990年にコンピレーション・アルバム『TOKYOディスクジョッキーズ・オンリー』収録の「アンモラル」でシーンに登場して以来、既成概念に捕われない独創的なサウンドで幅広い層から支持を集める。2000年から約4年間の活動休止を経て、2005年にはアルバム『OUTSET』で本格的な活動を再開。以降ライブを始め、精力的な活動を展開。2010年にはデビュー20周年記念ベストアルバムとして『BEST SET』リリース。2013年12月に前作より約1年半ぶりとなる待望のニューアルバム「try∴angle」をリリース。



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