死ぬまでにこんな仲間に出会えるか カフカ鼾インタビュー

ジム・オルーク、石橋英子、山本達久の三人が、即興演奏主体の新バンド「カフカ鼾」を結成。Bandcampなどで楽曲を発表してきたが、昨年6月に六本木SuperDeluxeで行われたジム主催のイベント『ジムO 六デイズ』で行われたライブを収録した、1曲37分のアルバム『okite』でCDデビューを果たす。近年はジムと石橋それぞれのバックバンドを同じメンバーが務めたり、ジムがプロデュースした前野健太や長谷川健一の作品に石橋と山本が参加するなど、不定形の音楽集団として活動しているような印象も強いこの三人。ジムはSONIC YOUTH、石橋はPANICSMILEと、かつてはバンドのメンバーとして活動していた時期もあったが、現在の枠に捉われない活動形態というのは、そのまま彼らの音楽の自由度の高さに繋がっているように思う。「家族みたい」という仲だけに、三人のやり取りは相変わらず軽妙で、インタビューは基本リラックスモード。しかし、その言葉の端々からは、それぞれ音楽家としての強い信念が感じられたことは言うまでもない。

カフカ鼾の音楽は、別のドラマーやピアニストだとできない、この三人だけの音楽です。その関係性が大事だと思うから、そういう人を見つけたら、守るほうがいい。(ジム)

―カフカ鼾としての活動はどのように始まったのでしょうか?

山本達久
山本達久

山本(Dr):3〜4年前から、ジムが誰かのプロデュースをしたり、いろんなシンガーのバックバンドをやったりするときに、この三人が関わることが多くて。それぞれ即興演奏をやっていたんですけど、この三人でやり始めたのが2012年かな。それから年を跨いで、いつもレコーディングに行く山小屋で日本酒を飲んでベロベロになりながら演奏したのが、Bandcampに上がってる曲なんです。


石橋(Piano):「録ってみる?」っていう自然な感じで始まったんだよね。重い腰を上げてやっているわけじゃなくて、日常と繋がってるものだから、ライブや録音に身構える必要もないし、この三人でチャレンジできることを実験してる感じです。

ジム(Gt):即興に関して、日本で初めて私と考え方が合ったのがこの二人だったんです。もちろん、即興は誰とやっても面白いんですけど、「このコンビネーションで続けたい」と思ったのは、タツ(山本)と(石橋)英子さんが初めて。あと、私にとって即興は音楽じゃなくて、手段です。つまり、即興は音楽の作り方の1つであって、目的じゃない。「あの人と即興をやると、新しい音楽が浮かんでくる」っていうのが成功で、即興のために即興をすることにはあまり興味がないです。

石橋:演奏する人が即興をどう使うかによって、音楽が変わってくる。それが面白いところですよね。

ジム:だから、私たちが作ったのは即興音楽じゃなくて、カフカ鼾の音楽。別のドラマーやピアニストだとできない、この三人だけの音楽です。その関係性が大事だと思うから、そういう人を見つけたら、守るほうがいい。

左奥:石橋英子、右:ジム・オルーク
左奥:石橋英子、右:ジム・オルーク

―カフカ鼾の三人はもちろん、須藤俊明さんや波多野敦子さんも含め、近年は不定形の音楽集団として動いているような印象があって、そのあり方自体がすごく面白いと思うのですが、みなさんはどのような関係性だと言えますか?

山本:すごく気が合って、いつも一緒に遊んで、それでもストレスがない人って、そんなに多くないでしょ? そういう感じですよ。例えて言うなら、長電話ができる関係というか、目的があって電話してるのに、だんだん違う話になって結局下ネタで終わるみたいな(笑)。

石橋:家族みたいなんですけど、もっと個人主義で、集団ではないというか。一人ひとりやることがありつつも、交わるときは交わるような、気が置けない人たちですね。

最初にカヒミ(・カリィ)さんのバンドに誘ってくれたんですけど、そのときはジムに「グレン(・コッツェ)Jr.」って呼ばれてました(笑)。(山本)

―ジムさんにとって、今一緒に活動しているメンバーはどんな存在だと言えますか?

ジム:昔自分のレコードを作ったときは、グレン・コッツェさんがドラマーでしたけど、彼がWilcoのメンバーになってから、忙しくなって。それから10年ぐらい、グレンさんほどの可能性を感じるドラマーに出会えなくて、ずっと自分だけでやってた。でも、タツと会ったときに、「この人!」って思った。そこからは一人でやらなくてよくなったんです。ありがとうございます。

山本:いえいえ、宣伝してくれて……。お金払いましょうか?

ジム:じゃあ、あとで……。

―(笑)。達久さんはジムさんと最初に会ったときのことって覚えていますか?

山本:そのときのことはすごく覚えていて、ジムは中原昌也さんとsuicidal 10ccっていう、すごく変なバンドでノイズをやってたんですよ。だから、ジムの名前はもちろん知ってたんですけど、ノイズの人だと思ってたんです。ポップスや即興音楽、エクスペリメンタルみたいな、いろんなことをやる人だとは思ってなくて。

石橋:それまでジムさんのレコード聴いたことなかったの?

山本:聴いたことなかった。

ジム:(山本をにらむ)

山本:待って、今からいい話になるから(笑)。

ジム:どうぞ、いい話を続けてください。

左:ジム・オルーク、右:山本達久

山本:suicidal 10ccが演奏したライブに僕も出てて、「ドラムよかったです。後で連絡します」ってジムに言われたんですけど、僕の連絡先を知らないだろうと思ったから、「知らないでしょ?」って言ったら、「インターネットで探します」って言われて。でも僕ホームページないから、割りばしの紙に連絡先を書いて渡したんです(笑)。

ジム:初めてタツを観たときに、「この人誰?」ってすごく驚いた。20年前に、グレン・コッツェさんのライブを初めて観たときのことが、フラッシュバックした。ホントに不思議で、タイムマシンみたいだった。

山本:それで、最初にカヒミ(・カリィ)さんのバンドに誘ってくれたんですけど、そのときはジムに「グレンJr.」って呼ばれてました(笑)。

ジム:その頃の私は失礼で、「タツを使わなければ、私もやらない」と言ってた。タツと会ってからは、他のドラマーとはやらなくなりました。

―達久さんにとって、グレン・コッツェはどういう存在ですか?

山本:最初は知らなかったんですけど、ジムに教えてもらって、「何この人!」って。“Monkey Chant”っていうソロの曲があるんですけど、それが半端ない。テンポが速いとか、スーパー上手っていう感じじゃないのに、よく見たらあんなこと誰もできないというか、脳みそが4つあるみたいなんですよ(笑)。なおかつ、音楽も顔もかっこよくて、ちょっと笑っちゃうぐらい、いい人。僕に会うと、「アイム・タツJr.」って言ってくれますからね(笑)。

お客さんが求めるものとか、「これをやると売れるから」とかで、自分の音楽を決めたくないっていう思いが強いんだと思います。(石橋)

―石橋さんにとって、今一緒に活動をしているメンバーとは、どんなことを共有していると言えますか?

石橋:音楽に関するいろいろな枠や制限を乗り越えることを共有していると思います。人間の個性とか楽器の特性の向こう側にある音楽の持つ大きな力に向かっていくこと。例えばドラムでいうと、一番体を使っている楽器だから、どうしても「ドラムを叩く」ことが重要視されがちなので、ドラマーはスポーツマンみたいなドラマーになりやすい。達久くんみたいにダイナミクスがあるドラマーがあんまりいないと思います。

ジム:グレンさんはドラムを叩いてない。彼はドラムで曲を演奏してる。それがホント大事で、タツにはそれがわかってる。

山本:他のことはわかんないんですけどね(笑)。だから、フレーズに関して、「あのときのあれやって!」って言われても、「え?」って感じになって、やってみても、「違う!」って言われる(笑)。ジムはドラムにホント厳しいんです。厳し過ぎて泣いたことありますよ。サディストになるもん。

ジム:サディストじゃないよ!

山本:前にジムのバンドでベースを弾いてたダーリン・グレイは、レコーディングになると「Good Jim is perfect gone.(親切なジムはどこにもいなくなってしまった)」って言ってましたよ(笑)。

―(笑)。さっき石橋さんがおっしゃった「スポーツマンみたいなドラマー」っていうのは、ジムさんが言うところの「ドラムを叩くドラマー」ということでしょうね。

石橋英子

石橋:そうですね。音楽を作るというよりは、楽器を叩いてるだけというか。

ジム:その違いはホントに大事。私たちは、楽器にフォーカスすることに興味がない。

石橋:ドラムに限らず、どの楽器もそうですね。だから、ずっと抱えてた嫌悪感をやっと共有できる人たちに出会えたというか、二人とは嫌いなものが似てるのかも。特にジムさんは毒舌というか、私以上に嫌いなものが多い人は初めて(笑)。


―みなさんが共通して「嫌いなもの」っていうのは、どういったものなのでしょう?

山本:かっこ悪いものやみっともないのは嫌いです。

石橋:タツにとって、どういうことがかっこ悪いの?

山本:めちゃくちゃかっこつけてるとか。できないのにできるふりして叩いていたり。できないんだったら、できないことを認めてから始めるほうが面白くなるじゃないですか? カフカ鼾も、お互いにできることできないことが80%ぐらいわかって始めてるから、バンドのカラーも自然に生まれますし。

―「好き嫌いがはっきりしている人たちだからこそ、お互いを信用して一緒にいられる」っていう言い方もできそうですね。

ジム:私たちにとって、音楽は天職。宗教を信じてる人みたいな感覚が音楽に対してちょっとある。だから、好きじゃない音楽は、自分の仇になります。

石橋:人がやることと、自分がやることって、違うじゃないですか? 極端な言い方をすると、ポール・マッカートニーみたいな人がエンターテイナーとして、毎回同じ曲順で、同じMCをやっても、かっこ悪いとは思わないですよね。でもそれを自分でやるかというと、それはちょっと違う。でも、日本だと音楽はすべてそういうエンターテイメントであるべきだという局面に立たされることがあって、それはすごくつらいんです。だから、嫌いなものっていうのは、あくまで「これは自分が作る音楽とは関係ない」っていう定義のことだと思いますね。お客さんが求めるものとか、「これをやると売れるから」とかで、自分の音楽を決めたくないっていう思いが強いんだと思います。

演奏してるときは、今まで出したことのない音色を探そうと思ったり、やったことがあることはやらないようにしたり、自分の主観との戦争。(ジム)

―『okite』に収録されているのは、2013年の6月に行われた『ジムO 六デイズ』の中の1日で行われたライブレコーディングなんですよね。

山本:チャンスさえあれば毎回録音していて、うまく録れたときはBandcampやCD-Rにして売っているので、まだまだいっぱいストックはあるんです。即興演奏は日常的にできることなので、「酒飲もうぜ」「トランプしようぜ」「カフカ鼾やろうぜ」みたいな感じなんですよね(笑)。

石橋:ジムさんは「カフカ鼾でやった日が、六デイズの中で一番面白かった」って言ってましたね。

ジム:一番好きだった。私にフォーカスが当たらずに、三人でやっている感じがするし、緊張しない。

山本:そう、リラックスできるんですよ。僕は他の人ともよく即興演奏をしますけど、この三人だと、ゆっくり、じっくり演奏できるんです。他の人とやるとどうしても、相手がバーンと展開を変えてくると、「こっちも変わらなきゃ」みたいに合わせたりしちゃうんだけど、この三人だと落ち着いてできるから、焦ったりして間違いが生じることがあまりない。

石橋:三人で、工場でものを作ってるような感覚に近いかもしれない(笑)。それぞれの持ち場があって、そこでコツコツ何かを作ってるみたいな。

山本:だから、次に録音するときに、みんながディスコが好きだったら、BEE GEESのボーカルなしみたいになるかもしれない(笑)。

―あくまで即興は手段だっていうことですよね。ちなみに、演奏中はどんなことを考えているんですか?

山本:曲がゆっくり変わっていくので、考える時間が長く持てて、曲が早く変わる場合とは別のところに集中力を持って行くことができるんです。早く変わる音楽とは構造が自ずと変わってくるし、例えばまったく違うことを三人が同時にやってるときもいっぱいある。それがトゥーマッチにならないのは、この二人が曲も書けるし、それにジムはミックスで『グラミー賞』を獲ってますし(笑)。演奏しながらイコライザーをいじるなんて、普段はできないけど、このバンドだと演奏しながらミックスもできるんですよ。

―ジムはこのライブの日にどんなことを考えていましたか?

ジム:その日によって考えることは違うから、もう思い出せない(笑)。ただ、演奏してるときは、今まで出したことのない音色を探そうと思ったり、やったことがあることはやらないようにしたり、自分の主観との戦争。

石橋:そうそう、特に私の場合は、鍵盤っていう楽器の性質上、「このキーを押したらこの音が出る」ってわかってしまうんだけど、でもわかってることはやりたくないから、その考えを追い出そうとするんです。その感覚と思考の間を行き来するというか、考えてるんだけど、考えないようにしてる部分があるというか。

―それがまさに「主観との戦争」なんでしょうね。

石橋:「無心でやってる」とか、「真っ白になって演奏してる」って言う人もいるけど、それは私には全然わかりません。

今の世界でなぜレコードを出す必要があるのかまだわからないけど、頑張ります。2014年には自分のアルバムを出したいです!(ジム)

―即興演奏やジャズの側面として、今回の資料には「ECM(ジャズを中心としたドイツのレーベル)」というワードも出てきていますが、そこは意識していたのでしょうか?

山本:ECMにカフカ鼾みたいのはあまりないと思うけど(笑)、三人ともECMは大好きです。1969年から82年ぐらいまでのECMの中で、共通して好きなものがあって、それがかかると「イェー!」って盛り上がります(笑)。ECMって今まで1,000タイトル以上出ているけど、80%ぐらいはダメだから、いいのを探すのが難しいんですけど、ジムがピンポイントでいいのを知ってるんですよ。それでレコードハントのモチベーションが上がりました。

ジム:私はリアルタイムだったから、恵まれてた。

山本:ECMのいい時期が82年までだって言いましたけど、僕はその年に生まれたから、全然リアルタイムじゃないんです。

石橋:タツが生まれたから、音楽が死に始めた(笑)。

山本:おいおい!

ジム:タツは悪くない(笑)。でも、確かに82年くらいからいい音楽がなくなった。私は今でも当時にリアルタイムで聴いてた音楽が一番好き。即興、ポップス、ジャズなんでもそう。ポップスだと、今でも10ccとGENESISが大好き。

山本:でも、懐古主義ではないよね。ジムも英子さんも、今の若い人のレコードも買ってるじゃん?

ジム:でも、電子音楽だけしか買わない。今のポップスには興味ゼロ。

石橋:10ccみたいに昔の素晴らしいポップスを超える作品って、あんまりないのかなあ。

ジム:今の録音の音色は好きじゃない。プロフェッショナル過ぎて空気がない。

石橋:あと、もし今10ccみたいなバンドが出てきても、ポップスだと思われないでしょうね。あんなに展開や転調がいっぱいあって、一緒に歌えないような音楽でも、昔は人気になったんですよね。あれからだんだん曲が簡単な構造になって、聴きやすくなったかもしれないけど、つまらなくなっていったとは思います。

山本:2014年に英子さんの新しいアルバムも出るんですけど、次はポップスですよ。

石橋:演奏は前のより難しい。でも、前作よりもポップです。

山本:聴いた感じは難しく聴こえなくて、前のアルバムのほうが難しく聴こえると思うんですけどね。ただ、次は一緒に歌える曲もありますよ。

―それは楽しみです。ジムさんの新しい作品に対しても、かなり期待が高まっているように思うのですが、進行状況はいかがですか?

ジム:完璧主義というわけではないんですけど、今の世界でなぜレコードを出す必要があるのかということがまだわからなくて……。でも、頑張ります(笑)。2014年には出したいです!

リリース情報
カフカ鼾
『okite』(CD)

2014年1月22日(水)発売
価格:2,310円(税込)
felicity cap-189 / PECF-1086

1. okite

プロフィール
カフカ鼾(かふかいびき)

2013年元日に目覚めたばかりのニューカマー。ジム・オルーク (Synth, Guitar) 、石橋英子(Key, Piano)、山本達久(Drums)という説明無用のトリオ編成。まだ指で数えられるライブ本数ながら全てのライブでオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んでいる噂のバンド。100枚限定で即完売したCD-RとBandcampで音源を発表。Bandcampで発売を始めた途端、日本のみならず、海外の音楽サイトで取り上げられるなどすでに世界規模で注目を集めている。



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