童謡をジャズアレンジでポップに聴かせるカバーアルバム『こどもじゃず』シリーズが大好評のROCOと、「天才ピアノマジシャン」ことH ZETT M率いるH ZETTRIOが新プロジェクト、chazzをスタートさせた。ROCOは一昨年に出産を経験し、子育てをしながら音楽活動を続け、一方のH ZETT Mも昨年子どものための音楽番組『BRICK & GLORY』を開始し、フェスの開催やCD制作を行うなど、「子ども」をキーワードに近年の活動がシンクロしていたこの両者。誰もが知っている名曲のカバーを集めたアルバム『chazz-smile music life-』は、子どもはもちろん、幅広い世代を笑顔にする、両者の想いが詰まった作品となっている。
国や世代のボーダーラインを超え、幅広くつながるということは、お互いを認め合うということである。chazzの四人だけを見ても、天真爛漫なROCOに、口数は少ないがボソッと面白いことを言うH ZETT M、真摯に音楽に取り組んでいるNIREに、豪快なKOUと、キャラクターは見事にバラバラ。まるで小学校の一クラスの縮図のようで、インタビューもときに真面目に、ときにふざけ合う、学級会のようだったこの四人が、文通のようなやり取りを経て、楽しみながら作った作品だからこそ、『smile music life』はさまざまなボーダーを超えて響く可能性を持っているのだ。
昼間からおじいちゃんやおばあちゃん、子どもも聴けるような、世代のボーダーラインがないものを作れたらいいなって。(ROCO)
―ROCOさんとH ZETTRIOは事務所も一緒ですし、もちろん以前から面識はあったと思うのですが、実際にはどの程度交流があったんですか?
ROCO(Vo):去年の秋に『まち道楽』っていう三軒茶屋のお祭りで一緒に演奏させていただいて、それが今回一緒にやるきっかけになりました。でもそうか、ヒイズミ(マサユ機 / PE'Z)くんとH ZETT Mさんは……いとこ(という設定)なんでしたっけ?(笑)
―H ZETT Mさんは、ヒイズミさんやH是都M(東京事変第一期の鍵盤担当)さんと同一人物という憶測がありつつも、そこは謎のままなんですよね(笑)。とにかく、ヒイズミさんとROCOさんは昔から交流があったと。
ROCO:はい、曲を書いていただいたこともあるし、PE'Zのライブを観に行ったり。あとH ZETTRIOとは去年の夏に千葉県のキャンプ場でやった『BRICK & GLORY』のフェスでも一緒にやらせていただきました。
―H ZETTRIOにはどんな印象を持っていましたか?
ROCO:私は本当に一ファンなんです。だから、今回一緒にやれてすごく嬉しかったし、演奏を聴いて、「ここに歌入れちゃっていいの?」みたいな気持ちで(笑)。
―ある種、演奏だけで完成されてた?
ROCO:そう、「私が汚しちゃっていいの?」って(笑)。でも、私も子どもが生まれてから、子どもを連れて歩いてると、おじいちゃんおばあちゃんが吸い寄せられるように寄って来てくれるんですね(笑)。ジャズって大人な音楽のイメージもあるけど、昼間からおじいちゃんやおばあちゃん、子どもも聴けるような、ボーダーラインがないものをこのメンバーとできたらいいなと思うようになりました。
童謡を歌って人が笑顔になるのを見て、自分が主役なんじゃなくて、聴いてくれる人が主役なんだなって感じたんです。(ROCO)
―H ZETTRIOは去年の11月に正式な初ライブが行われたわけですが、そもそもどうやってスタートしたのですか?
H ZETT M(Key):ピアノ、ベース、ドラムのトリオでやるとなったら、なぜかこのメンバーしかいないなと。
NIRE(Ba):ファーストライブから、今までもずっと一緒にやってきたような一体感がありました(笑)。
―……わかりました、そこはあまり突っ込まないことにします(笑)。H ZETT Mとしては、子どものための音楽番組『BRICK & GLORY』を始めたり、近年は幅広い世代に音楽を届けることを意識した活動をされていますが、何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?
H ZETT M:基本的には「音楽を楽しくやりたい」っていうのが元からありまして、それが徐々に具体的な形になってきたということですね。さっきROCOさんもおっしゃってたように、ボーダーラインを超えたほうが楽しいなっていうのは常々考えてるので。
NIRE:『BRICK & GLORY』のフェスに出させてもらったときも、すごくいい雰囲気だったんですよ。キャンプ場みたいなところで、お父さんもお母さんもお子さんも、みんな鼻にペイントしてて。今まで自分がやってきたのはもっとイケイケな音楽だったんですけど(笑)、そうじゃないのもいいなって。
ROCO:私も『こどもじゃずライブ』というワンマンライブを初めてやらせていただいたときに、今までにない感触があったんです。自分が書いた曲だと、「私はこう思ってます」って言ってるような気がするんですけど、童謡や自分のじゃない作品を歌うと、ホントに「曲を伝える」ことだけを考えるので、すごくニュートラルになれて。それで人が笑顔になってくれるのを見て、自分が主役なんじゃなくて、聴いてくれる人が主役なんだなって感じたんです。
ただカバーするんじゃなくて、いかにアレンジをするかも大事だし、生まれ変わってるんだけど、「あ、聴いたことある」って思わせたい。(KOU)
―H ZETTRIOの三人から見たROCOさんの印象を教えてください。
KOU(Dr):ROCOちゃんといっしょにやると、癒しというより……ハッピーを人間にしたらこんな感じなんじゃないかっていう(笑)。
ROCO:ハッピー感の塊?(笑)
―ROCOさんがハッピーの塊だとすると、H ZETT Mさんは何の塊なんでしょう?(笑)
ROCO:不思議の塊(笑)。あったかい不思議っていうか……妖怪けむりみたい!
H ZETT M:妖怪けむりって何ですか?(笑)
ROCO:妖怪けむり知りません? 小学校のときとかに駄菓子屋にあった、指でこすると煙が出るやつ。
―あー、ありましたね!
H ZETT M:そんなにけむいですか?(笑)
―(笑)。以前ROCOさんに東京ハイジのワカバさんと対談していただいたときに、「子どもに音楽で光を届ける魔法使いになりたい」っていうことをおっしゃっていて、それってH ZETT Mさんに当てはまるかなって思ったんですよね。
ROCO:うん、魔法使い! だから妖怪けむりだと思ったんだ。煙の中から出てきてほしい!
―H ZETT Mさんは「天才ピアノマジシャン」ですしね。確かに、煙は似合いそう(笑)。今回のアルバムは、様々なタイプの過去の名曲をカバーしているのがポイントですね。
KOU:全然リアルタイムじゃない曲をやってるんですけど、メロディーの力が強いので、それを僕たちがアレンジして、さらに下の世代にも「ステキな曲があるんだよ」っていうことを伝えられれば、素晴らしいことだなって。
NIRE:昔に作られた曲なのに、どれもどこかで聴いたことがあるのってすごいなと思うんですよね。それを掘り起こして、しかも新しい日本語の歌詞をつけて、ハッピーの塊に歌ってもらうっていう(笑)。
KOU:そして、魔術師に色々アレンジしてもらって(笑)。だから、ただカバーするんじゃなくて、いかにアレンジをするかも大事だし、生まれ変わってるんだけど、「あ、聴いたことある」って思わせる、それが今回の聴かせどころですね。
ROCO:こういうアレンジで歌うことは自分にとっても挑戦で、「あ、ここで歌が入るのね」とか「歌ってるときにそれ来る?」みたいな、ホントに1曲ごとにびっくり箱を開けるみたいでした(笑)。
「ちょっと暴れても大丈夫かな?」って即興でやってるうちに楽しくなってきちゃって、後から歌を入れることを一瞬忘れたぐらい(笑)。(NIRE)
―広い世代に届けるという意味で、アレンジではどんなことを意識されましたか?
H ZETT M:名曲ばかりなので、そのイメージというか、いいところは壊さずに、ちょっと遊びましたね。アナログテープで録ったりしてるので、わりとあったかい感じになってると思います。
―トリオで演奏する上でのポイントみたいなものもありましたか?
KOU:例えば、10人編成だったら他の9人のことを考えないといけないけど、3人だとあと2人のことを考えればいいので、より即興性が高くて楽しいですね。
―確かに、どの曲も間奏のパートがすごいことになってますもんね(笑)。
NIRE:スペースが広かったので、「ちょっと暴れても大丈夫かな?」って思ってやってるうちに楽しくなってきちゃって、後から歌入れることを一瞬忘れて、ROCOちゃんは大変だったかもしれない(笑)。あのスキャット(意味のない音をメロディーに合わせて即興的に歌うジャズの歌唱法)のやつとか。
―“JOURNEY”ですね。
NIRE:そう、「スキャットやってもらおう」って、こっちで勝手に決めて、とりあえず間を空けて送って、ROCOちゃんから返ってきたのを聴いたら「すごい!」って思いました。
ROCO:歌は基本的に全部家で録ったので、“JOURNEY”も「ここ私のパートなのかな?」って、何回も聴いて、「コード感よくわかんないけど、歌っちゃう?」みたいな(笑)。
―そっか、家でお子さんの面倒を見つつ歌入れしてたわけですよね。
ROCO:そうなんです。昼間は子どもが昼寝のときに録って、あとは一時保育にして、録れるだけ録って、迎えに行って、夜にどんな歌が録れたかを確かめて、それを送るっていうのをずっと繰り返していたんです。
H ZETT Mの音楽に対する態度は常に参考にさせてもらっていて、真剣な態度で、ちゃんと楽しんでる。(NIRE)
―H ZETT Mさんは常に「面白いもの」や「インパクトのあるもの」を追求されていて、それってある意味で子どもっぽいというか、すごく音楽の原理的な部分を追い求めてるような印象があるんです。そういう人の作る音楽だからこそ、子どもにも響くのかなって。
H ZETT M:そうかもしれないですね。僕も高校生の息子がいるので……。
ROCO:えー! 衝撃!(笑)
―まぁそれはさすがに冗談だと思いますが……(笑)。
H ZETT M:とにかく「楽しい」っていうのが基本的に好きなんです。
―KOUさんやNIREさんから見て、H ZETT Mさんの子どもらしさというか、無邪気な部分って感じますか?
KOU:ステージで特に感じますね。「入っちゃう感じ」が子どもそのものですね、「無我夢中」というか。
NIRE:H ZETT Mの音楽に対する態度は常に参考にさせてもらっていて、真剣な態度で、ちゃんと楽しんでる。自分の場合はつい眉間にしわを寄せて「こうじゃないといけない」って考えがちで、そうするとだんだん楽しくなくなってきちゃうから、そういうときはH ZETT Mのライブに行くんです。
―ついつい頭で考えてしまうと。
NIRE:そうなんですよね。さっきも言ったみたいに、「ここは歌が入るから、ベースは避けよう」とか、どんどん凝り固まったほうに行っちゃうんですけど、そういうときに“MY PACE”みたいな疾走感のあるアレンジが来ると、「よし! 行っちゃえ!」ってなるので(笑)。僕がライブのMCで難しいことを言ったりするときも、KOUさんが「ま、楽しけりゃいいじゃん!」って言ってくれて、「そうだよな」って思ったり。
ROCO:私も家でパソコンに向かって歌を録ってると、頭で考えちゃう部分が多くなってきて、「あー!」ってなるんですけど(笑)、間奏の三人の自由さを聴くと「しまった、私どうかしてた」って思ったりして、なんか文通みたいなんですよね(笑)。
―まさに小学生が文通をするようなドキドキ感とかワクワク感っていうのが、このアルバムには入ってると言えそうですよね。
H ZETT M:まあ、深く考えてるわけではなくて、ただ根が不真面目っていうだけの気もしますけどね(笑)。
KOU:音楽の楽しみ方は人それぞれだと思うから、あんまり理屈を持ち込みたくないっていうのはあるかもしれないですね。
みんなでいろんな色を持ち寄って、また新しい色ができる。それって、このプロジェクトだけじゃなくて、人と関わって生きて行く上で、すごく大事なことだと思うんです。(ROCO)
―歌詞はmicciさんという方が担当されていて、H ZETT Mさんのこれまでの作品でも歌詞を手掛けられていますが、micciさんはどんな方なんですか?
H ZETT M:謎の時空詩人です。
―謎な方が多いですよね(笑)。それって今までも話していただいた「謎にしておいたほうが楽しい」っていう考えに繋がることだと思うのですが、歌詞にしても、あまり説明し過ぎないほうがいいという考えがあるんですか?
ROCO:でも、このアルバムはどの世代が聴いても「楽しいな」って思ってもらえるものにしたいと思ってて、歌詞もなんとなく聴き流すこともできるんだけど、大人になってふと口ずさんだときに、意味を感じたりとか、何か気づきを与えられるようなものであればいいなって思ったんです。
―歌詞の中で特に印象的なものを挙げれるとすればどれですか?
ROCO:“colors”の歌詞には自分が励まされながら歌ってました(笑)。<だれかが つかっても キミはキミのいろ おれても おわりじゃないでしょ>ってところがすごくいいなって思って、H ZETTRIOの三人もキャラクターがみんな違うし、私やmicciさん、PVを作ってくれたカナダのSing Along Picturesもいて、みんなでいろんな色を持ち寄って、また新しい色ができる。それって、このプロジェクトだけじゃなくて、人と関わって生きて行く上で、すごく大事なことだと思うんです。<だれでも わがまま ぶつかりにごっても みたこと ないいろ みえるよ!>ってあるように、みんなが主張し合いながら、新しいものが生まれていくのはすごくいいなって。
―国や職業も超えて、それぞれの生き方を認め合って1つのものを作るっていうのは、素晴らしいことですよね。
ROCO:きっとこういうことって、社会に出たばかりの人や思春期の息子を持つ親にも響くと思うし、その人のシチュエーションによっていろんな読み取り方ができて、そういうのがいっぱい散りばめられてると思うから、それを探してもらうのも楽しいかもしれないです。スヌーピーやムーミンもそうですけど、楽しくて、ちょっとためになるような、そういうふうにこの曲たちも聴いてもらえたら嬉しいですね。
―PVを見てても、僕はこのまま教育テレビとかで放送していいんじゃないかって思って、ある意味『できるかな』みたいだなって思ったんですよね。あの番組はノッポさんを通じて工作の楽しさを伝えてたけど、chazzでいうノッポさんはH ZETT Mさんで(笑)、音楽の楽しさを伝えてくれるっていう。
ROCO:確かに、ノッポさんも謎で、すごく注目しちゃいましたもんね。いずれH ZETT Mさんも饒舌に喋り出すかもしれないですよね(笑)。
H ZETT M:可能性はありますね(笑)。
音楽を作ったりやったりしてる身としては、「音楽っていいな」と思ってもらえるのが一番嬉しいし、そう思ってくれるのが小さな子どもだったら、それはすごくやりがいがある。(H ZETT M)
―chazzは音楽だけじゃなくて、いろんなことができる可能性を持ったプロジェクトだと思うのですが、「こんなこともやってみたい」っていうアイデアは何かありますか?
KOU:まあ、まずはこのアルバムに旅に出てほしいと思いますね。それこそ、世界にも。
ROCO:PVのアニメーションはこのまま映画にしたら面白そうだと思います。あとは……「H ZETT KEMURI」みたいなの作りたいです(笑)。
NIRE:ライブ会場で売るの?
ROCO:そう、みんなでやって、その煙の中から登場する(笑)。
―子どもは間違いなく喜びそう(笑)。
H ZETT M:みんな換気扇を回したくなるような……。
ROCO:そこまではちょっと!(笑)
―(笑)。ROCOさんもH ZETT Mさんも、子どもやその次の世代にもつなげていけるような活動を、今後も続けていくわけですよね?
ROCO:そうですね。私は単純に、子どもが好きなので。やっぱり子どもからはたくさんのパワーをもらってますし、子どもに接してると、親や上の世代のことも「こういうカラクリになってたのね、人生って面白い」ってわかってくるから、すごく感謝してます。
―自分がどう育ってきたのか、自分の子どもを通じて知ることができると。
ROCO:そうなんです。もちろん、その子たちが単純に笑顔になってくれたら嬉しいし、親も楽しく子育てできたらいいなと思います。あとは、自分が挑戦する姿を見てほしいですね。何かに夢中になってる大人がいっぱいいるほうが世の中が楽しくなると思うので、私も歌を歌っていたいし、マイペースに挑戦していきたいです。
H ZETT M:音楽を作ったりやったりしてる身としては、「音楽っていいな」と思ってもらえるのが一番嬉しいですし、そう思ってくれるのが小さな子どもだったら、それはすごくやりがいのあることなので、これからも幅広く伝えていければいいなって思います。
―ある意味、子どもこそが最大の謎というか、その子どもをどうやって喜ばせようって考えることは、やりがいがあるし、ワクワクすることですよね。
ROCO:でも案外子どもって、「こうしたら楽しいでしょ?」ってことは食いつかないで、ふとしたことで大笑いしてたり、その場の雰囲気を敏感に察知するんです。だから、大人は自然体でいたほうが、子どもも居心地がいいんだろうなって思いますね。
- リリース情報
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- chazz
『chazz-smile music life-』(CD) -
2014年5月21日(水)発売
価格:2,700円(税込)
日本コロムビア / COCX-385611. colors(原曲:おもちゃの兵隊の行進)
2. BORDERLINE(原曲:いとしのクレメンタイン)
3. tomodachi(原曲:オクラホマ・ミキサー)
4. MY PACE(原曲:Heigh-Ho)
5. JOURNEY(原曲:マフィン売り)
6. door(原曲:狼なんかこわくない)
7. green tea ice cream(原曲:剣闘士の入場)
8. SEASON(原曲:ゆかいなまきば)
9. favorite(原曲:浜辺の歌)
10. secret(原曲:小人がひとり森の中で)
11. ETERNAL(原曲:交響曲第9番)
- chazz
- プロフィール
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- chazz(ちゃず)
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“こどもジャズ”シリーズでおなじみのROCOとH ZETT M率いるH ZETTRIOによる新プロジェクト。次世代に向けて親子で楽しめて、さらに音楽的なことを発信したいという想いから結成。ベートーベンの「交響曲第9番」の「ETERNAL」やディズニーの名曲など、世代を超えて親しまれている名曲に新歌詞をつけてJAZZ調にアレンジ。2014年5月に『chazz-smile music life-』をリリース。
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