エリイ(Chim↑Pom)×ロジャーのサイケデリック対談

もしあなたがアートに興味があるなら、ぜひ紹介したい団体がある。その名はアーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]。現代アートと視覚文化を考える場作りを目的に2001年に設立されたこのNPO法人は、さまざまなアートイベントや企画展、アーティストインレジデンスなどを行い、ゼロ年代以降のアートシーンを力強く支えている。そして、そんなAITが設立と同時に始めた「MAD(Making Art Different―アートを変えよう、違った角度で見てみよう)」は、現代アートを学ぶための学校だ。これまでに約1,700人が受講し、多くの卒業生がギャラリーや美術館、メディアなどで働いている(手前味噌ながら、筆者もその1人)。

今回はその設立者の1人であるロジャー・マクドナルドが立ち上げた新しいリサーチセンター兼個人美術館「フェンバーガーハウス」に、先日Chim↑Pomのエリイが訪れたことをきっかけに、両者の対談をセッティング。美術館と言いつつも、きわめて特殊、きわめてオルタナティブなマインドを持った場所であるというフェンバーガーハウスを通じて、白熱した二人のトークをお届けする。

自分のエゴや主体性をいかに手放して、緩めることができるかが大切。本来アートが持っている役割の1つが、変性意識の活性化だと僕は思っているんです。(ロジャー)

―まず「フェンバーガーハウスとは?」というところからお伺いしてもよいでしょうか?

ロジャー:フェンバーガーハウスは、僕がずっと構想していた個人美術館です。長野県佐久市の森の中にある小さい山小屋を手に入れて、少しずつ手を加え、ようやく去年オープンしました。

フェンバーガーハウス内観
フェンバーガーハウス内観

エリイ:まだできたばかりだったんだ!

ロジャー:そう。父が生前に現代アートを集めたいと言って、僕と弟(画家のピーター・マクドナルド)でセレクトした20点くらいのささやかなコレクションを中心に展示しています。それから、音楽鑑賞や食事、ワークショップ、宿泊もできる。一言で言えば「理想のDIY美術館」です。

―美術館と言っても、個人の別荘を訪ねるような感覚でしょうか。

ロジャー:単に美術館に行って、1時間ばかり観て、ミュージアムショップを覗いて帰るだけでは体験として面白くないでしょ。フェンバーガーハウスは気軽に行けるシチュエーションではないから、僕がお客さんを軽く拉致して……、って車で駅まで迎えに行くんだけど(笑)。自分の車で来ない限りノーエスケープだから。5、6時間の滞在で、お昼を食べて、ティータイムして、それでだいたいの人は昼寝しちゃう。

エリイ:私も寝た!

ロジャー:とても嬉しいことですね。美術館で、そこまでマインドもボディーもリラックスして身を任せることってないでしょう。体験を通して、主体を揺るがしてほしいというか。

エリイ:変性意識を体験するんだよね。

エリイ
エリイ

―その「変性意識」って、聞き慣れない、何となく怪しいイメージの言葉ですね……。どういうものですか?

ロジャー:正しくは変性意識状態。英語だと「Altered State of Consciousness」。大きく言えば、日常的な状態以外の意識のこと。こうやって目が覚めている状態がノーマルだとすれば、眠って夢を見ている状態も変性意識だし、非常に幅広い定義ができるんです。

エリイ:みんなでお祭りに参加して、がーっとテンションが上がったりするのも変性意識だと思う。ランナーズハイもそうかな。

ロジャー:あと音楽を聴いて心地良くなっているときとかね。プチ変性意識状態と言ってもいい。

ロジャー・マクドナルド
ロジャー・マクドナルド

エリイ:でも、その状態に入り込めるかどうかは、個人差がすごくあると思う。べつにアートに詳しいから入り込める、ということではないよね。

ロジャー:それはまさにフェンバーガーハウスのコンセプトそのもの。べつに専門的な知識を求めていないし、美術史とか知らなくてもいい。僕はレクチャーで「Surrender(身を任せる)」という言葉をよく使うんだけど、自分のエゴや主体性をいかに手放して、緩めることができるかが大切。本来アートが持っている役割の1つが、変性意識の活性化だと僕は思っているんです。

―ところで、今日はその変性意識に入るためにフェンバーガーハウスで体験できるアイテムを持って来ていただいたとか。

ロジャー:「マインドマシン」ですね。怪しいアイテムじゃないです(笑)。アメリカでは広く普及していて、LEDを内側に仕込んだゴーグルを装着して、目を閉じた状態でさまざまな色や幾何学模様が見られるんです。心理学のセラピーに使う人もいるし、イラク戦争から帰ってきて、トラウマを抱えた兵士たちの心理治療の一部として使われていたりもします。15分くらい続けていると、次第に脳波がα波からβ波へと変わっていって、リラックスした状態になる。

フェンバーガーハウスでのマインドマシン体験風景
フェンバーガーハウスでのマインドマシン体験風景

―エリイさんも体験してみましたか?

エリイ:うん。けっこうテクニックがいるんだけど……私は意外とクラシックだった。マ○コマークみたいなのが見えた(笑)。

―あははは。

エリイ:太陽見ながら目をギュッとつぶると、紫色のイメージがふぁーっと見えたりするじゃん。それのもっと激しいやつっていうか。実際リラックスできるし、これも変性意識状態に入るための1つの手段だよね。

(フェンバーガーハウスの作品は)ディープなところまで潜って作った作品という感じがする。日常から派生して作っているんじゃなくて、たとえるなら違う星に行って作って帰ってきたみたい。(エリイ)

―エリイさんがフェンバーガーハウスに遊びに行かれたのも、ロジャーさんに拉致されて?

エリイ:それが違うんですよ。自分の意思で行ったの。ことの発端を説明すると、ロジャーさんとエリイ共通の友だちがいるんだよね。

ロジャー:そうそう。僕が武蔵野美術大学でゼミを持っていたときの学生。

エリイ:私の幼稚園から大学までの後輩なんですよ。ずっと同じ学校に通って、同じアパートに住んでいたこともある。彼女から、ロジャーというイギリス人が長野で面白いアートプログラムをやってると聞いて。なんだっけ。タイトルがすごい面白かったんだよ。

ロジャー:フリッカーアートリサーチ。今、AITとの共同プログラム「MADフェンバーガー」を開催していて、僕が研究している「フリッカーアート」と「スペースミュージック(宇宙音楽)」について、レクチャーやワークショップを企画してる。その1つに参加してくれたんだよね。

エリイ:「(フリッカーで)幻覚体験しよう!」っていう触れ込みで(笑)。常に変性意識状態に意欲的で、実験精神旺盛な私にとってみれば……!

ロジャー:これは行かなくっちゃと(笑)。

フェンバーガーハウス内観 Photo by Ben Davis / Thousands Tokyo
フェンバーガーハウス内観 Photo by Ben Davis / Thousands Tokyo

エリイ:「行く! 行く! 行く!」って。それで、他の友だちにも「幻覚体験しに行こう!」ってLINEで誘ったら「それはヘンなクスリを使ったりするやつじゃ……ないですよね?」っていう返事が返ってきて。

―警戒されてる(笑)。

エリイ:「ぜんぜんそんなことないよ!」と説得して、一緒に行った。最寄りのバス停までロジャーさんが車で迎えに来てくれて、そこから道なき獣道みたいなところをどんどん上がっていくんですよ。それでフェンバーガーハウスに着いて。で、展示作品がものすごく良かった!

ロジャー:すごく深く観ていたよね。僕らがじっくり時間をかけて選んだピース(作品)だったからすごく嬉しくて。

エリイ:ディープなところまで潜って作った作品という感じがする。普段の日常から派生して作っているんじゃなくて、たとえるなら違う星に行って作って帰ってきたみたい。

ロジャー:デイヴィッド・ホックニー(イギリス出身のポップアートの画家)の絵画とか。第一印象はクラシックなんだけど、じっくり観ると相当なところまで絵画を突き詰めているのがわかる。

歴史を紐解いてみると、アーティストたちは変性意識的なものに興味を示している。ピカソも若い頃はいろんな薬物をとって実験していたりだとか。(ロジャー)

エリイ:東京に帰っても特に思い返すのが……ほら、どこかの民族が編んだ。

ロジャー:ペルーのシピポ族のテキスタイルだね。シピポ族の女性の仕事に、彼女たちが見た幻覚をテキスタイルのパターンに落とし込んでいくというものがあるんです。その幻覚を見るためのトレーニングとして、10~11歳になると目に目薬状の幻覚剤をドロップする習慣がある。とても珍しい視覚芸術文化で、みんなで見えないイメージを共有してすごく大切にしている。我々の近代文明とは真逆の価値観ですよ。

左から:ロジャー・マクドナルド、エリイ

エリイ:テキスタイルも丁寧に編んであって面白い。ジオメトリック(幾何学的)なパターンなんだけど、幻覚をかたちにするなんて難しいと思うでしょう。でも、それをかたちにするという行為が文化として続いているのがものすごく面白い。

ロジャー:近代の文化って不可視なものを排除してきたわけじゃない? 論理で説明のつかないものが、国家権力にとって危険なものだからなのかもしれないけど。

エリイ:あえて「変性意識状態」という言葉が定義されていることにもそれは表れていますよね。かつてはみんながこういう意識を体験していたはずなのに、現在はノーマル意識ではないと認識されている証拠だと思う。

ロジャー:心理学では変性意識についてよく研究されているんだけど、日常の場では「意識は論理的でちゃんとしたもの」みたいに定義にされてしまっている。僕がフェンバーガーハウスで研究したいと考えているのは、人間がやってきたアートという行為と、その変性意識の関係についてなんです。実際、歴史を紐解いてみると、アーティストたちは変性意識的なものに興味を示している。特に20世紀に入ってからは顕著で、シュルレアリストたちはほぼ全員が深層意識や脳の中に深く入ろうとしているし、ピカソも若い頃はいろんな薬物をとって実験していたりだとか。

エリイ:ピカソにも「薬物の時代」があるんだよね。「青の時代」ならぬ。

ロジャー:若い頃は実験的にアヘンを試していたみたいだね。だからキュビスムにも明らかな影響がある。でもよく考えてみると、ペインターって「新しい視覚の世界をいかにして見て、外に示すか?」という世界だから、そのヒントになるものがあれば当然手を出したと思うんだよ。ミロもパリ時代に餓死寸前になっていた時期があるんだけど、その状況下で幻覚を見ていたというのはよく知られている。だから薬物を肯定すると言いたいのではなくて、変性意識がアートに与えた影響というのは必然的なもの。でも、美術史の王道からは排除されてきた。ここ10~20年でようやく研究が進んできたんです。

メンバー6人でやっていると、集団ハイみたいなのが生まれるんです。それを利用してChim↑Pomが作品を生み出してきたということは往々にしてあって。(エリイ)

―ところでChim↑Pomって、デビュー何年目ですか?

エリイ:今9年目で、来年で10周年。

―今でこそChim↑Pomの活動を僕らはアートとして認知できるけれど、『スーパー☆ラット』などが登場したときは、明らかに異様なものが現れたと感じました。それまでのアート観からはみ出したものを扱おう、みたいな意識はエリイさんたちにもあったんでしょうか?

エリイ:既存のアートがどうこうというのはなかったけど、あらためて考えてみると変性意識状態は重要だったと思いますね。メンバー6人でやっていると、集団ハイみたいなのが生まれるんです。それを利用してChim↑Pomが作品を生み出してきたということは往々にしてあって。

エリイ

ロジャー:グループマインドだね。

エリイ:6人いれば、それは社会になるから。社会としての作品が出来上がるんですよね。『スーパー☆ラット』も渋谷のセンター街でネズミを捕獲して、殺して、黄色く染めて剥製にするっていう……もしも1人だったら単に猟奇的であぶない人だけど、6人で騒ぎながらネズミを捕まえていると、それってポップになる。

―Chim↑Pomは映像作品が多いですが、作品が出来上がるまでに盛り上がっていく様子を収めることが多いです。その過程を提示することが重要?

エリイ:そのプロセス自体も作品ですね。でも、ノリを重要視しています。と言えども、現代アートはコンセプトが重要です。毎回サイゼリヤとかで50時間くらい会議をしてから、ようやく作品を作っているし。まあ、ファミレスで延々会議していると、それはそれで変性意識に陥りますが(笑)。

―現代アートにおいて、コンセプトの重要性は明らかとされています。でも、おそらくロジャーさんがフェンバーガーハウスを作ったのは、そういった既成概念に対するカウンターたらんとする意識があったのではないでしょうか?

ロジャー:そうですね。コンセプチュアルアートは好きだけれど、様式化されて、つまらないものも多くあるのが事実です。「A+B=C」みたいなロジックはしっかり組み立てられているけれど、そこに個人の想像力が入り込む隙間がない。それはアートの持っている可能性を狭めているかもしれない。

エリイ:頭を殴られるような爆発力がないよね。作る側も、計算式があれば安心できるんでしょうけど。

ロジャー:もちろんアートの世界で生きている以上、美術史や美学理論も無視できない。けれども、変性意識の研究というのは、ひと昔前は「スピリチュアル」という言葉で括られて遠ざけられすぎていた。それで、僕はスピリチュアルではなくて「サイケデリック」という言葉を使っています。この言葉は僕の中で新鮮でもあるんですよ。スピリチュアルよりも世俗的な要素もあって、デザインや音楽などの装飾的な要素もありつつ、文化的な要素も含むことができるから。

ロジャー・マクドナルド

エリイ:スピリチュアルに「文化」はあまり感じないけど、サイケデリックには「文化」を感じるよね。

ロジャー:サイケデリックって、1950年代の終わりに精神科医のハンフリー・オズモンドが考えた言葉で、1960年代後半に登場するヒッピー文化の前に生まれていたんです。ギリシャ語の「精神(psyche)」と「出現(delos)」を組み合わせた言葉とも言われている。心理学を研究する人たちが、ある種の幻覚体験を言語化しようとする中でサイケデリックは生まれた。その原点のマインドにもう一度目を向けたい。ヒッピー文化登場以降は音楽とかファッションにも「サイケ」なものが出てきたけれど、もともとは変性意識というところから出てきたものなんだよね。

サイケデリックって、ミステリアスでオカルティックなイメージがある一方、じつは最先端の物理学や量子力学に繋がる部分がたくさんあるんです。(ロジャー)

―サイケデリックについてエリイさんはどう思いますか? 自らフェンバーガーハウスに行ったくらいですから、共感できるところもあったんでしょうか。

エリイ:さっきも言ったけれど、変性意識状態は人間の当たり前の姿でもあると思うんです。元来、人はそういう意識の中からふと考えていたのが、進化するにつれ、今は「考えること」が先行している。

ロジャー:テレンス・マッケナっていうアメリカの思想家も面白いことを言っていましたよ。彼は「アルカイック・リバイバル」という概念を提唱していて、時間というものは、過去から未来へ一方向に流れているのではなくて、過去が現在の中に織り込まれていると提唱していた。サイケデリック的な考え方では、タイムトラベルやパラレルワールドも理論的にはありうる。

―SF的な世界ですね。

ロジャー:そう。サイケデリックってすごくミステリアスでオカルティックなイメージがある一方、じつは最先端の物理学や量子力学に繋がる部分がたくさんある。たとえば「シュレディンガーの猫」という、同じ場所に2つのものが同時に存在できる可能性を示した有名な思考実験がありますが、これ以上サイケデリックな世界ってないでしょう。もしも現実世界や物理法則がもっと複雑で多元的なものだとしたら、サイケデリックの可能性を見出したアーティストやデザイナー、ミュージシャンたちは、直感的にそれを感じていたのかもしれないね。

今の大学生を見ていると、すごく大人しくて、それがいいんだと思っているように見える。楽しい人には楽しい時代かもしれないけど、つらい人には本当につらい世の中だと思う。(エリイ)

エリイ:だからエリイが常日頃思っているのは、美術館も本当はもっと違う役割があるんじゃないかってこと。たとえば美術館でものすごくいい作品を観ると、もうふらふらになるじゃん。スーパーマリオのスターを獲った後みたいなテンションっていうか。

―無敵になるアイテムですね。

エリイ:そんな感じ。いいアートを観ると私はそうなる。なんか自分にまとわる感じがすごくする。入り込んじゃうよね。

ロジャー:美術館は本来そういう場所であると思います。僕らはついつい歴史や批評行為の確認のために美術館を利用しがちだけど、本当は観に来た人たちの意識をいろんなかたちで揺るがすための場所。

フェンバーガーハウスでのティータイム
フェンバーガーハウスでのティータイム

エリイ:なにかを確認しに行く場所みたいになっているよね。でも、確認じゃないんだよなー、揺らぎなんだよね。

ロジャー:まさに「Surrender」だよね。音楽家のブライアン・イーノの言葉をよくレクチャーで話すんだけど、イーノって面白いことを言ってる。「歴史上、人間は自分の身を他に委ねる行為を4つやっている。『セックス』『ドラッグ』『ミュージック(芸術)』、そして『宗教』。何万年も前から、人間はその4つの方法を使って、Surrenderしようとしてきた」と。Surrenderしたいという欲望に対して「やってみてもいいんだよ」っていう場所が今の社会の中では少なくなってきているし、本来美術館はそういう欲望を受け入れてくれる場所であるべきだと思う。学校もそう。大学もそう。でも今はどんどん規制されている時代でしょう。だから多くの若者が、クラブだったりレイヴだったり、フェスや祭りにSurrenderを求めて集まっている。

―今はあまり良い時代とは思わないですが、一方でテクノロジーや娯楽は無数にあって、それを選択する自由は可能性としてありますよね。それってある種のニルヴァーナ(涅槃)でもあって、ネガティブなものとハッピーなものが同居しあって混沌とした状態でもある気がします。その混沌から、今とは別の生き方や思考法を発見できるかもしれないとは思いませんか?

エリイ:でも私は手遅れ感があるんだよなー。なんでかって言うと、今の大学生を見ていると、ものすごく大人しいでしょ。やる気はあるかもしれないけど、ものすごく静かじゃない? それでいいんだと思っているように見える。楽しい人には楽しい時代かもしれないけど、つらい人には本当につらい世の中だと思う。

今はマスメディアも政治家も労働も、時間自体が支配されている社会だと思う。その時間を取り戻すことから、すべて始まる気がするんだよね。(ロジャー)

―ロジャーさんも運営に関わっているMADやAITが、NPOというかたちで教育の場を作ろうとしているのも、やっぱり時代に対するカウンターなのかなと思います。

ロジャー:僕がいつも思うのは、時間からすべて始まる気がするんだよね。まず時間を取り戻すことから発見が始まるから。だけど、今は時間が支配されている社会じゃない?

―労働とかでしょうか?

ロジャー:労働も、マスメディアも、政治家も、普段生活しているぶんには感じないこともあるけれど、ちょっと座ってよくよく考えてみると、じつは社会システムによって時間自体が支配されていることがわかる。僕らがAITをやっている単純な理由の1つというのもそれで、アートに興味のある人がこの部屋に集まってみる。少なくとも2時間集まってみることで、自分たちの時間を自分たちで作ることができる。そういう些細な行為から何かが始まっていくのかなって感じがします。僕はやっぱり教育っていうものには関心があるし、期待もある。まあ「教育」っていう言葉も良くないかもしれないけれど……。

左から:ロジャー・マクドナルド、エリイ

―英語の「Education」は、「人の持つ能力を引き出す」という意味ですから、外在的ではありますね。

ロジャー:最近は「Education」から「Learning」になっているよね。なにかを一緒に学ぶ、共有する。一方的に授かるものではなくて、主体的に学ぶのが教育。うん、AITやMADが目指しているのはそれですね。

エリイ:みんなが頭の中で繋がる感じ?

ロジャー:そう。MADに来る人の中で、必ず1年に2、3人は「仕事辞めます!」っていう人がいて。「ちょっと大丈夫か? 困るぞ?」って言うんだけど、「大丈夫です、アートに生きます」って言うんだよ(笑)。

エリイ:あははは!

ロジャー:すごく嬉しい一方、心配もするよ。

エリイ:でも義務教育じゃないし、主体的に自分の選択をできるのはいいことだよ。最近、私たちも高円寺に「KANE-ZANMAI」ってショップと「スーパーラットスタジオ」っていうChim↑Pomスタジオを作ったんですよ。ショップはアートとお金の関係を考えるための実践の場で、それ自体が作品でもあるんだけど、スタジオは国内外のキュレーターやお客さんにChim↑Pomの活動を伝えるための場所で。まあ、和室三畳しかないんだけど(笑)。

―スタジオなのに三畳しかない(笑)。

エリイ:だから千利休の茶室みたいなものなの! まあ、真夏は室温が38℃くらいになって超汗ダラダラだから侘びも寂びもないけどね。

―杉本博司さんがニューヨークのスタジオにゲストを招くための茶室を持ってますけど、だいぶ逆ですね(笑)。荒っぽい茶室。

エリイ:そうやって主体的に動いたり、意識的に場所を作ることってすごく大切。ロジャーさんがAITやフェンバーガーハウスでやっているのもそういうことですね!

イベント情報
『MADフェンバーガー』

日帰りコース
2014年11月9日(日)まで開催中
宿泊コース
2014年10月25日(土)~10月26日(日)
※宿泊コースのみMAD受講生対象

AIT | MAD » MADフェンバーガー

3コマから学べる現代アートの学校「MAD」2014年度9月開講のご案内
AIT | MAD » MADとは?

『MAD2014相談会』

2014年9月5日(金)、10月10日(金)
会場:東京都 代官山 AITルーム
時間:19:00~20:30(要予約、定員30名、詳細はウェブサイトを参照)
料金:参加無料

プロフィール
エリイ

現代美術作家。2005年に結成したアートティスト集団「Chim↑Pom」のミューズ。Chim↑Pomは、時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品で知られ、世界中の展覧会に参加。海外でもさまざなまプロジェクトを展開している。ソロとしても雑誌での連載、テレビやラジオでレギュラー出演するなど、アート業界のみならず、テレビやファッション誌など多くのメディアで活躍している。また、6月に初の写真集『エリイはいつも気持ち悪い』を発売し、7月にはChim↑Pomの新プロジェクトとして、ショップ兼オフィス「KANE-ZANMAI」をオープンさせた。

ロジャー・マクドナルド

1971年生まれ。NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT / エイト]副ディレクター。ケント大学にて宗教学修士課程修了後、美術理論にて博士号を取得。1998年より、インディペンデントキュレーターとして、日本国内外で数々の小規模な展覧会を企画。2006年の第1回『シンガポール・ビエンナーレ2006』では、キュレーターを務めた。『アートスケープ・インターナショナル』に展覧会評を寄稿。MADプログラムディレクターをつとめる他、女子美術大学非常勤講師、東京造形大学非常勤講師。2013年夏、長野にてフェンバーガー・ハウスミュージアムを開設した。



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